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 不安は的中した。

 列車で三駅先のシネマで観たのは、今若者のあいだで爆発的人気のラブストーリーらしいんだ! 女性誌を舐めるようにサーチするのは多少プライドが咎めたけれどね、とリカルドが声高に言っていた映画には、冒頭から濃厚なベッドルームでのラブシーンにあわあわすることとなる。



「こ、こんなつもりでは! すまない、不快になっていないかい? すぐ出よう」

 舐めるようにマイナーな雑誌にまで目を通して調べたという知る人ぞ知る穴場レストランは店主骨折のため休業だった。

「そうなのか……。こういう店が、平日も休業日を設けることは、珍しくないんだね。一つ、賢くなれた。だが。……すまない」

 この時期雨に濡れた花々が美しいというダイヤエナ地方への豪華列車に乗ろうと駅に戻れば、旅行店の手違いで予約できていないと告げられる。

 平身低頭で謝られ、別日指定のフリーチケットをもらったものの、忙しい公務に負われるリカルドにとってその日は今日でなければ意味がない。

「うう、すまない……」



 これは間違いなく自分のせいではないのに律儀に頭を下げるリカルドには、さすがに怒る気になれないパエリエである。

 ついでにうな垂れる様子が叱られた犬のようで。

「こういうことごとく空回りする体質は実は生まれつきでね」

 なるほど。

 なんとなくわからなくもない。

「たまに心配になるくらいなんだ。将来僕が一国の主になどなったら、この体質ゆえ民に戦争や貧困で苦労を背負わせることになるのではと……」

「うーん。っていうより」

 浮かんできたことを、パエリエはそのまま口にする。

 劇的な不幸や大災害というよりも。

 誠実で一途で実直。だがなぜか報われない。

 この手のタイプが被るものと言えば。

「大国のやらかした失敗政策の後始末をせっせとやらされたり、強国の恨みを買った国がちょうどお隣で、流れ弾が飛んできたり? そういう残念小国になりそうな予感ね」

「どっちにしろ崩壊の危機じゃないか! うわぁぁぁどうしたらいいんだ‼ お先真っ暗闇に真っ逆さま‼」



 ショックのあまり頭をかきむしりよくわからないことを口走る彼に、ふぅと息をつき、パエリエは身を翻す。

「予想外の出来事を向かい風に転じてこそ主の器じゃなくて?」

「え?」

 頭をかきむしるリカルドの手が、ぴたりと止まる。

 しかたない、か。

 咳払いし、そっぽを向いて。

 ぼつぼつと、パエリエは告げた。



「……けっこう楽しかったわよ。映画館から逃げるように出てくついでに買ったポップコーンはおいしかったし。穴場店の庭に咲いてるサンフラワーにはうっとりした」

「……。ほ」

 一歩、また一歩と、乱れた髪と救いのない表情で体勢を崩しながら歩み寄ってくる姿は、トロルみたいだからやめてほしいが。

「ほんとかい⁉」

 見開き、まっすぐに見つめてくる輝きに満ちた瞳は子どものようで。

 きらいじゃない、と思う。

「パエリエ、やっぱりきみは僕の女神だ!」

 いちいち大げさに、両手を握りしめるその仕草も。

「感動だ、感涙だ……!」

「わかったから」

 ぷっと、なぜか、吹き出してしまうほどに、楽しくもある。

 もうこうなったら、乗りかかった船である。

 ――おんぼろな残念小舟ではあってもね。



 ぱちりと、パエリエは彼にウインクを投げた。

「いいわ。ついてきて」


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