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『指令T.A.K.I.』〜猫たちの時間12〜  作者: segakiyui


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5.指令書 K (Killng)(2)

「何をした!」

 抑えようと思う間もなかった。頭に血が上り、立ち上がりかけて、この部屋に不似合いなパイプ椅子に縛り付けられているのに気づく。これだけ高そうで豪勢な家具があるのに、俺だけパイプ椅子。余計に血が上った。

「言ってみろ! セイヤに何をしたんだ!」

「ずいぶんひどい言われ方だね。セイヤは僕の『もの』でね、ちょっと主人を忘れたようだから、お仕置きをしただけだよ。軽い薬を1本と、後は…」

 ふふ、と相手は含み笑いをした。

(こいつが島田か!)

「あんな子どもに!」

「子ども? 冗談じゃない、セイヤは大人だよ、立派にね」

「このっ……ええい、てめえら、人間じゃねえだろ!」

 続く島田の含み笑いに、俺の口が勝手に反応した。

「ぶん殴ってやるっ!」

「やれるものなら」

 相手は冷然、たじろぐ様子もない。確かに、椅子に縛り付けられている人間には、多少不似合いなセリフだとは思うが。

「だが、まず、自分の命が問題だろう? こちらの質問に答えれば良し、答えなければ……そうだな、君は自分より他人が痛めつけられるのが嫌いらしい。おい」

 パチン、と島田が男にしては細い指を鳴らす。はっ、と低く応じて、大男の一人がセイヤに近寄り、棒切れでも摘むように無造作に腕を掴んだ。

「あ…嫌…」

 弱々しくセイヤがもがいたが、眉をひそめて、すぐにぐったりと力を抜く。

「セイヤに薬をもう一本。そろそろ効いてくるだろう」

「この…変態! すけべ! すっとこどっこい!」

「ひどいボキャブラリーだな」

 島田は眉を顰めて見せた。

「安心したまえ。君がきちんと答えてくれれば、何もしない」

 へんっ。何もしないって言うのは、薬を打っておくことかよっ。

 思わず言いかけたが、島田の目が底光りしたのに止めにした。そうとも、いつもいつもこの一言が命取り、注意一秒怪我一生、君子危うきには近寄らず、昔の人はよく言った………だが、『危うき』に既に飛び込んじまった時には、どうしたらいいもんなんだろう。

「君は朝倉周一郎の片腕だそうだな」

 島田はじっと俺を見た。

「朝倉周一郎が、朝倉財閥の裏にいることぐらいわかっている。だが、あんな子ども一人に業界のトップを走り続ける実力があるとは思えない。『誰か』がいるはずだ、と我々は考えていた。間違っていなくて嬉しいよ」

「ま、間違ってる」

 つい、突っ込んだ。情けなくどもる声に励まして、

「俺は何もしていない」

「ほう……では、指令、タキ、とは何だ?」

「は?」

 俺はぽかんと口を開けた。

「俺?」

「そう、君だ」

 島田は頷いて笑った。蛇がにっこり笑うのとどちらがマシかと問われて悩むような笑みだった。

「朝倉財閥の前当主、朝倉大悟が周一郎に命じた指令の一つ、情報に拠れば、それこそが朝倉家を独走させる鍵だと言う。指令タキ。即ち、君こそが朝倉財閥の鍵と言うことになりはしないかね?」

「へ?」

「我々は君を優遇するよ。その気になってくれれば、我々の組織で、その素晴らしい手腕を奮って貰いたい。周一郎を相手にしてきた君のことだ、並みの子では駄目だろうと考えてセイヤを送ったが、君はあの子に見向きもしなかったようだね。……まあ、周一郎より多少は落ちるかも知れないが、セイヤは君に惚れている……我々を裏切るほどね。彼で我慢してくれないかな」

「へ……?」

「勿論、セイヤに飽きたなら、幾らでも替えを差し出そう。君が女に興味がないのもよく知っているし、遠慮することはない」

「……へ……?」

「たぶん、君の好みはセイヤのようなあどけないタイプじゃないのだろう。僕はあの程度が扱いやすくていいんだが……まあ、好みの子を探そう」

 ちょ、ちょっと待ってくれ。何か、非常に、大きな、誤解があるよーな。

「いや…あの…」

「ん? 金か? 金なら、そうだね、基本ベースは年間2000万でどうだろう。君が我々の所にきてくれれば、すぐに取り返せる。仕事の出来次第で上乗せも考えよう。次の年に数倍にしてもいい。どうかね、滝君」

「あの…」

「ん?」

「何か、微妙に違ってるよーな」

「え……あ…そうか!」

 島田は唐突に頷いた。

「これは悪かった。こちらの情報が間違っていたらしい」

 そうだ、そうとも、そーですよ、と笑いかけた俺は、次の島田のセリフにこけた。

「君は『バイ』なのだな」

「…は?」

「無論、そうとわかれば女の方も用意しよう。そうだ、毎月、いや毎週女を取り替えてくれても構わない」

「あ、そーですか、それは嬉し……くないっ!」

 島田の楽しそうな物言いにつられて、ついついにっこりしかけた俺は我に返った、

 そうだ。楽しげに俺を雇う話に乗っている場合じゃない。こうしている間にもセイヤはどんどん青い顔になってきているし、俺は俺でますますややこしい状況になっている。

「嬉しくない?」

 ぴくっと島田の目元が引きつった。

「何が不満かね?」

「不満とゆーより、あんた、致命的な間違いしてるぜ」

「うむ?」

「そのタキ、っての、俺じゃない」

「君の名は?」

「滝志郎」

「じゃあ」

「そーじゃなくて!」

 俺は喚いた。ええい、くそ、どうやったら、この誤解が解けるのだろう。

「そのタキって、本当に『滝』だったのか? さんずいに竜巻の竜、の?」

「いや」

 島田は自信を持って首を振った。

「アルファベットだ、T・A・K・I、タキ」

「だっ、だからっ! それはタキ、じゃなくて、そのまま読むのかも知れないだろ!」

「T、A、K、I、か?」

「そうだ!」

「じゃあ、どんな意味だ?」

 ジロリと島田は俺を睨めつけた。

「お前がわからないはずがない。わからないと惚けるなら、セイヤに」

「わ、わーった、わーった!」

 俺は慌てて考えた。

「まず、Tは……とっても」

「とっても?」

「A…で……あ、明るい」

「明るい?」

「K……君達の…」

「君達の」

「Iで一生! なんつったりして! ははは……は…は」

「滝君」

 島田はぐっと眉根を寄せた。

「僕は気が短い。セイヤを」

「や、やめろって!」

「じゃあ、話すかね?」

「話すよ、話せばいいんだろ」

 えい、くそ。何もわからんものをどーやってしゃべれっつーんだ。だが、しゃべらなければ、セイヤは完全薬物中毒、俺はぽっかりドブ川に浮く大型ゴミ……考えたくない。

「わかった。君も『そのまま』と言うのは話しにくいだろう。少しことばを変えて話そう」

 島田は顎で合図して、高そうなカットグラスのコップにブランデーを注がせ、それを一口含んだ後、ゆっくりと真剣な表情で尋ねた。

「猫に鰹節は似合いだろうか」

 今、なんつった、この男?


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