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09 別問題

 最近はお忍びをすることもなく、久しぶりに見たユンカナン王国王都は、とても賑わっていた。


 大通りの人波のせいで、とても広い道が見えないほど。


 私はまだ王族として課せられた義務を、成し遂げれてはいないけど……ユンカナン王国国民すべてが飢えることなく、自分の生活が豊かで日々笑顔であれば良いと願う。


 我が国ユンカナン王国は、建国当初は貧しくてとても大変だったらしい。


 王都がここまでに多くの人を集め栄え、今この目に見える国民が普通の生活を送られているのも、すべて長年この国を守り支えてくれた先人たちの努力の賜物だ。


 彼らの子孫である私はそんな彼らに愛され生かされていることを、決して忘れてはならない。王都で生き生きとした人たちを見るたびに、私はそう感じていた。


 国民たちが笑顔のまま誰にも脅かされることがないように、先祖と同じようにこの国を守りたいって。


 そして、本日のお忍びは、特例中の特例だった。


 これまではお忍びとは言え、王族の一人の私の行く先は何度も慎重に検討されて調査されていた。


 そして、決められたルートに沿って動き、気まぐれや例外などは許されなかった。


 何故かと言うと、二年前悪戯心を出して護衛から逃げ出した私が危ない目に遭いそうだったことが今になっても尾を引いているからだ。


 ええ。そうなの。不便な処遇は、すべては、私の自業自得なんです。


 けど、今回は王族の警備責任者になれるぐらい地位も高く強さも折り紙付きのデュークがすぐ傍に居た。


 警備責任者だから当たり前なのだけど、彼さえ良いと頷けば、私は行きたい場所へと行かせて貰えた。


 しかも、私の正体を知らせてしまう訳にはいかないので、わかりにくく周囲を固める部下に小声で指示を出すデュークが格好良くて仕方ない。


「……姫。俺のこと、本当に好きっすね」


「あら。それは、確かにその通りだけど。どうして、今それを言うの」


 確かにそう。でなければ、彼を守ろうと動いたりしないもの。


「さっきから姫の視線で顔に穴が開きそうなくらい、ずっと見られてるんで。なんだか、怖いっす」


 私は普通にしていたつもりだったんだけど、彼から見ればそうだったかと、慌ててデュークから目を逸らした。


 せっかくのお忍びの日だと言うのに、私はデュークしか見ていなかったことに、その時ようやく気がついた。


 視線を向けた目に入る王都の大通りは、所狭しと人で溢れていた。人が集まり、街が栄える。


 それは、お父様である現王の政り事が、上手く機能しているという非常に喜ばしい証拠っだった。


 けど、こうして久々に街に遊びに来ているのに、珍しい私服のデュークばかり見ていた。


 本当に……もう私はデュークが好き過ぎて、彼が言っていたようにどこかがおかしくなっているのかもしれない。


「不快にさせて、ごめんなさい……だって、デュークと長時間一緒に居られることって、私にはあまりないから」


 怖いと言われて流石に落ち込みしゅんとして肩を落としたら、これは言い過ぎたと彼は思ったのかもしれない。


 デュークは私の右肩へと大きな手を置いた。


「……いや、俺が少し言い過ぎました。すみません。けど、俺の顔を見るんなら、城でも出来るんで……せっかく来たんで、街歩きを楽しんでくださいよ」


「ええ。そうだったわ。デュークの言う通りよね……えっ!」


 私は彼の言葉に答えつつ目の前の光景を見てから、すぐに走り出した。


 だって、その瞬間にはもう既に一刻の猶予も許されず、すぐ隣に居たデュークと相談しようという気も起こらないくらいに、状況は逼迫して差し迫っていたからだ。


 小さな男の子が走っている馬車の前に飛び出し、跳ねられる直前だった。


 私は男の子の身体に向けて、懸命に手を伸ばした。なんとか、彼の小さな手をぎゅっと握った。


 そんな私のお腹の辺りに背後から力強い太い腕が周り、背後に引き寄せられ、そのお陰で男の子はすんでのところで車輪に巻き込まれることは避けられた。


—————轢かれそうだった男の子を、私ごとデュークが助けてくれたのだ。


 助かってからようやく、自分がさっき死の危険にあったことを遅れて理解したらしい。


 男の子は大泣きして叫び出し、すぐに近くに居た母親が慌てて迎えに来た。


 彼女は泣きながら、私とデュークに何度も何度もお礼を言ってくれた。


 けど、力のない私が無理に手を引いたせいか……男の子の膝には、大きな擦り傷が出来ていたことに気がついた。


 母親は痛い痛いと泣いている男の子を抱きしめて、頭を下げながら去って行った。


「……周囲の人は、あの子が危険だとわかっても、誰も動くことが出来ませんでした。姫は立派なことをしたと思いますよ」


 デュークは怪我に気がつき目に見えて落ち込んだ私を見て、気をつかってくれたようだった。


 彼の役目や立場を考えれば、自分に言わずに勝手なことをしてと叱ってもおかしくないと思うんだけど……本当に優しいんだから。


 デュークは警護対象の私があの子を助けようと動いたことを、一切責めたりはしなかった。


 こうして落ち込んだ時に優しくされてしまうと、以前に言われたように、もっと彼を好きになってしまうと思うんだけど……それは、良いのかしら。


「けど、怪我もなく、救えなかったわ。私は国民を守るために存在する王族なのよ。あんなに小さな子だって、無傷で救うことも出来ないの」


「……あの状況では、神様でもないと無理ですよ。姫が咄嗟に動けたから、あの子の命は助かりました。それだけで十分過ぎるほどですよ。お釣りだって出て来るっす」


 デュークはあの子が救えたというのに、私が何故ここまで落ち込んでいるのか理解に苦しむのかもしれない。


 けれど、王族としての教育を幼い頃から受けてきた私には、こうして落ち込んで自分の行いを反省することも大事なことだった。


「皆が無理だから出来ないと諦めていることを、王族は平然としてやり遂げなければならないの。だから、国民はそんな王族を支持し敬い従うのだと思うわ。あんな……簡単なことも上手く出来ないなんて、私はきっと失格ね」


 デュークは私の言葉を聞いて、ふうんと大きく頷いてニヤッと笑った。


「姫って、可愛いだけのお姫様じゃないっすね。なんだか、見直しました」


 恋する乙女は好きな人に可愛いと言われれば、落ち込んでいても即機嫌を直してしまう習性を持つ、単純明快な生き物である。


 見るからに女泣かせなワルっぽい風情を漂わせるデュークは、そのことをちゃんと理解しているようだった。


「えっ……かっ、可愛い? そうしたら、私と結婚してくれる?」


 思わず顔を熱くしていつもの求婚をすると、片手を上げてにっこりと笑った。


「いやー、それと結婚とは全然別問題なんで」


「もうっ。何よ。意地悪」


 そうしてデュークに揶揄われている間に、落ち込んでいた話を変えられたと気がついた。


 好かれたら困るくせに、本当に優しいんだから。


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