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17 求婚者

 今夜のためにと用意していたドレスでデュークと踊れて、私の気分は最高と言えるほどにとても良かった。


 そして、本日勢いに任せてお願いをしただけではあるものの、最高権力者であるお父様からデュークへ縁談を申し込んで貰える。


 今までにまったくと言って良いくらいに可能性のなかったところに『もしかしたら彼と結婚出来るかも』という希望の光が差した。


 夜会も終わりに近付き、デュークは仕事上の何か忙しく立て込んでいる様子で、大広間の向こう側で他の騎士団長と共に集まっているようだ。


 責任あるお仕事に就いているから仕方ないけど……出来たら、もっと一緒に居たかった。


 なんとなく遠くに居るデュークの姿を目で追い掛けていた私に、とある男性が近付いて来た。


 周囲にそれとなく控えて居る、私の護衛騎士の警戒が強まったと感じた。


 彼は一見して背が高く王都のある地方では珍しい銀髪は肩に掛かるくらいの長さ、そして整った顔の中には青い瞳を持ち際立って見目が良い。


 そして、一分の隙もないような夜会服は豪華で上等だ。


 私の父や兄が着ているもののように、豪奢で華美の粋を集めたかのような意匠だった。


 こういった夜会では、主役級とも言えるこのような豪華な服装を着用出来るのは、地位の高い王族に限られる。


 そして……彼は私と同じ、ユンカナン王国の王族ではない。


「……私に何か御用でしょうか?」


 私は無邪気を装って微笑み、首を傾げた。


 『彼』は私のことを、知っているはずだ。だって、このユンカナン王国には、私に結婚を申し込みに来たはずだもの。


「ええ。お初に、お目にかかります。ユンカナン王国の秘蔵の姫君、アリエル様。私はダムギュア王太子ルイ・ヴェルメリオと申します。良ければ、今後ともお見知りおきを……」


 ルイ王太子のご身分では隣国の王族とは言え、私に対してこうして名乗ることも普通ならあり得ないことだ。


 けど、ルイ様はお互いに傍付きを通さずに、直接私と話すことを望んでいるようだった。


「あら……これは、失礼致しました。私はアリエル・ノイエンキルヘン。こちらこそこうしてお会い出来て光栄です。ルイ様」


 ルイ様へどのような態度を取るべきか悩んだ私は、身近な目上の人に対するように腰を屈めてお辞儀をした。


「どうか……僕の前ではかしこまらないでください。私はアリエル様に結婚を申し込みに来たのですが『お前に娘はやれぬ』と陛下により断られてしまいました。ご本人にも会えずに、このまま帰国するしかないかと思っていたのですが、こうして、お顔を拝見する機会を頂けて光栄です」


 片手を軽く上げ堅苦しい姿勢を解くようにと指示したルイ様は、彼へ視線を向けた私に苦笑した。


 やはりサミュエル様の言っていたことは、本当だったのだ。


 この前に、とても広い領土を持つ皇帝の縁談すらも私の家族は断ったくらいなのだから、目の前の人が何か欠点を持っているという訳でもないと思う。


 ただ、私の保護者が過保護なだけなので、彼にはそれは誤解して欲しくない。


「大変失礼いたしました。ルイ様ご自身が悪いとかダムギュアが私の嫁ぎ先として条件に相応しくない合わないという訳ではないのです。父は亡くなってしまった母の分まで、娘の私に思い入れを感じてしまっているようなので」


「そうだったのですか……」


「私自身も、たまに過保護に感じることもあるのですが、亡くなった人には……もう二度と会うことは叶いませんから。叱る人も居ずに、延々とそれはエスカレートするばかりなのですわ」


 父のことを困ったものだと私は苦笑して肩を竦めると、ルイ様は意図を察してくださったのか空気を緩めて微笑んだ。


「……陛下は、それはそれはアリエル様のお母さまを愛していらっしゃったようだ。それに、遺されたのがこのように愛らしい姫君であれば無理はない。私も大人しく国へとこのまま帰ろうかと思っていたのですが……こうしてお会いすると、なかなか諦めづらくなるものですね」


「まあ……」


 現在、私の頭の中には『どうしよう』が、口から零れてしまいそうなほどに溢れている。


 私が父にデュークとの縁談を願った本日昼前に、これを言われたのであれば一考の価値はあったかもしれない。


 以前は仲の悪かった隣国へと、友好的な関係を強化するために王族の姫が嫁ぐのなら当然のように国益にもなり、お互いに血縁者となることで未来起こり得る争いを防ぐことが出来る。


 けれど、今ここに居る私はデュークと結婚できるかもしれないという、大それた希望を持ってしまっていた。


「……困った顔をされている。すみません。僕は困らせるつもりはなかったのですが」


 私は彼の言葉に対し、一瞬慌てた。


 こうした貴族が集まる夜会で、本心がわかってしまうような明け透けな態度は、無作法だと取られてしまうものだ。


 けれど、この状況はどうしても誤魔化しきれない。


 それに、私が彼の元に嫁ぐことは出来ないから余計にだ。


 ルイ様は私が想定していたよりも、引き際を心得た紳士のようだ。私は言い難いながらも、そんな彼に対し理由を説明しなければと思った。


「本当に……ごめんなさい。私の結婚相手にルイ様に何か足りないという訳ではなくて……私には、今好きな人が居ます。その人以外とは、結婚を考えられなくて」


 王族には政略結婚ではない恋愛結婚は珍しい。彼もそう、思ったようだ。目を大きく見開き、興味深そうに頷いた。


「それは、とても素晴らしいです。恋をしている女性は、より魅力的に思えると聞きます。姫がこんなにお綺麗なのは、恋をしているからなんですね……失礼ですが、それは誰かお聞きしても?」


 ルイ様はこの会場中に居るのかと、言外に言っているんだと思う。


 けれど、彼の国のダムギュアでは、あまり獣人たちの地位は高くないと聞く。


 私はどうしても愛すべき国民にも数多い獣人を差別的に見る常識には、眉を顰めてしまう。けれど、誰しも居住している場所の常識で、考えが違ってしまうのは仕方のないことだ。


「それは、内緒です。素晴らしい方で……とっても、素敵なの。ルイ様にも、素敵な方が現れますように私も願っています」


「秘密ですか。それはそれは……とても、素敵な男性なのでしょうね」


 ルイ様は重ねて本人からも縁談を断られたことを悟りはしたものの、苦笑をしてそれを受け入れることを選んだようだった。


 そして、気持ちを切り替えたルイ様は私としばらくの間、当たり障りのない社交的な歓談をすることを選んだようだった。


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