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◇キサリティア編【4_12】十一歳の私は義妹に読み書きを習うらしい


 それからの月日は、レンカリオの独壇場だった。


 レンカリオが九歳。私が十一歳の時。

 玄関ホールの掃除もままならなかった私は、レンカリオの部屋の掃除を命じられた。

 その範囲は狭く、玄関ホールに比べれば労は少なかった。

 ただ、私が掃除をしていると決まってレンカリオがそばにいて、ちょっかいをかけてきた。


「ねえ、キサ義姉さま。その本はベッドサイドテーブルに置いておいてくださる? 〝魔術について〟と書かれた本よ」


 本棚に戻そうと腕に抱えていた本は三冊あった。

 字の読めない私には、どれがレンカリオの示した本かわからなかった。


「あぁ、いやだわ。わたしったら、うっかり。キサ義姉さまは字が読めないのでしたわね」

「……はい。申し訳ございません」


 二人きりではあったけれど、その時の私は、レンカリオのこと〝レンカ〟と呼べばいいのか、それとも〝レンカリオ様〟と呼べばいいのかわからなくなり、名前を呼ぶことを避けていた。


「お可哀相に。字も読めないなんて。ふふっ。あんまりみじめでお可哀相だから、わたしが教えてさしあげましょうかぁ?」

「……ぇ?」

「きっとキサ義姉さまには無理でしょうけれどね」


 掃除の最中に、レンカリオが字の読み書きを教えてくれるようになった。

 嘲りながらではあるものの、レンカリオの教え方は上手だった。

 一月ひとつきが経つ頃、私は字の読み書きに加えて、簡単な計算もできるようになっていた。


「えっ! も、もう読み書きと計算が……?」

「はい。あの、ありがとうございます……!」

「そ、その程度で喜ぶなんて、無教養なキサ義姉さまらしいですわ。やっと人並み……いえ、そうね。……これは簡単なおとぎ話がまとめられた本ですが、これがスラスラと読めるくらいでなければまだまだ人並みとは言えませんわ」


 そう言って、レンカリオは本を私の胸に押しつけた。


「果たして、キサ義姉さまに読み終えることができるかしらぁ?」


 ほどなくしてその本を読み終え、レンカリオに返した。

 すると、レンカリオはあからさまに狼狽えて、もう少し難易度の高い本を渡してきた。

 義妹いもうとは、私が音をあげることを期待していたのかもしれない。

 だから字の読み書きを、計算を、読書を、私に課してきた。

 それなのに、一向に私が音をあげないものだから、引っ込みがつかなくなっていた。

 お陰で十一歳の私は教養を身につけることができた。



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