◆レンカリオ編【8_15】十一歳のワタシは義姉から勉学の機会を奪うらしいわ
はい。というわけで十一歳よ。
外道に狙われたこともあって、キサリティアのことはワタシの専属メイドにしたわ。
四六時中そばに置いておく方が守りやすいと判断したのよ。
それがちょっと裏目に出たのが今回。
……なんだけど、十歳と似たような流れなのよね。
ようするに、新しい家庭教師が来て、ソイツが美しいキサリティアに目をつけて、どうにかして性的な個人授業をやれないか虎視眈々としているってことよ。
外道よろしく、呪いを双肩にのっけてね。
まったく、一難去ってまた一難とはこのことだわ。勘弁しなさいよね。
ついでに愚痴らせてもらうと、法学の授業がキッツイわ……。
なにが法学よ。無法もいいとこじゃない。
王国の法に則った裁判とか言っておきながら、結局は王や領主といった権力者が沙汰を下すんだから公正もクソもないわ。事実、メリケオ領じゃゴスメズのやりたい放題よ。
大体、判決がまとまらなかったら神明裁判で判決ってなによ? 焼けた鉄を握る? 決闘をさせる? 正しい方に神が加護を与えるですって? キッツイわ……。
ワタシのついでに授業を受けられればと、わざと部屋に控えさせているキサリティアの方が、よっぽど熱心にドブ品性先生の話を聞いている始末だわ。
ああ。ドブ品性先生っていうのは、件の新しい家庭教師のことよ。どうせすぐにいなくなるけど、さらっと紹介するわ。覚えなくていいわよ?
正式名称はドブルド。年齢は三十代。王都の大学で法学を学んだ経験から、家庭教師として各領地の跡取り達を教えて回っているそうよ。
授業の評判はいいけど、女性関係の評判はすこぶる悪いわ。訪れた屋敷の使用人やメイドに対し、個人授業を持ちかけては手籠めにしてきたわ。
純粋な勉強意欲を悪用する、まさにドブみたいな品性の持ち主ね。
キサリティアは、ワタシの専属メイドって立場だから、ワタシの家庭教師であるドブ品性先生のお見送りをするのも仕事のうちなのよ。
その際に、法制度の出題に躓いているワタシの助けになればと、ドブ品性先生に話しかけたら、個人授業を持ちかけられたんですって。
中々戻って来なかったキサリティアを問い詰めたら、そう白状したわ。
「……まったく、油断も隙もあったものじゃないんだから……」
でも、その場で断ってくれたってことは、外道の時に釘をさした効果が出てるってことよね。よかったわ。キツイ態度を取った甲斐があったってものよ。
「ええっと、あの……?」
おっと、独り言が口に出ちゃってたみたいね。
「なんでもありませんわぁ、キサ義姉さま。今回は英断でしたわねぇ」
褒めると、キサリティアは嬉しそうな顔をした。
「……ありがとうございます」
一方で、心底落胆しているようにも見えたわ。
優秀で学習意欲のあるキサリティアだもの、個人授業を受けたかったに違いないわよね……。
次に来る家庭教師がまともだったら、専属メイドに教養をつけさせるってお題目で、ゴスメズにかけ合ってみようかしら?
……いえ。それだと人の好いキサリティアがワタシに恩を感じてしまうかもしれない。ダメダメ。嫌悪度を上げておかないと、ちょっとしたことでもすーぐ好感度アップしちゃうんだからね、キサリティアって。
恋愛シミュレーションゲームの攻略対象だったら、とんだチョロインよ。まったく……。
――さて、そんなチョロインも十三歳。
もうそろそろでゴスメズの性欲対象範囲内に入ってしまうわ。
ノロイに憑りついてもらうことで引き起こす体調不良も、年々効果が薄れてきている。それはようするに、ワタシが呪いを慣らしたように、ゴスメズもまた呪いに慣れてきたということ。
憑りつくノロイの数を増やすことで効果を増したり、何度となくクオキシャ(ヒスマ)をけしかけたりすることで、ベニニ以降、どうにか今日まで村娘達に手を出すことも防げてきていたけど、限界は近い。
だって、あの性欲魔人クズ(ゴスメズの奴)、村娘に手を出したくて仕方がなくなってるもの。体調不良もなんのそのって勢いよ。
二言目には「それと村娘」が口癖という禁断症状まで出ているわ。もうドン引き中のドン引きよ。早くなんとかしたいわ。
かといって、村娘に手を出させるわけにはいかない。でも、ここで手を打っておかなければ、来年どころか今年のキサリティアも危ない。
ていうか、実の娘のワタシすらもしや……って感じがして怖ーわよ。
いっそのこと「もう殺るか……?」って真剣に考えないこともなかったんだけどね。
忘れちゃってるかもしれないけど、この屋敷って百を超える呪いが漂っているのよ。
それにロックオンされてるゴスメズを死なせた場合、捌け口を失った呪いがどう爆発するのか想像もつかないわ。
恨みつらみが晴れて無事霧散――ってことにはならないと思うのよね。大概別の、しかも無関係のところにしわ寄せがくるものよ。呪いとか禍ってそういう理不尽なもンだもの。
だからまあ、殺るのはナシよ。……ぶっちゃけその覚悟もナイし?
とういわけで、穏便かつ合法的な手段でゴスメズの性欲を制欲する方法を、手駒(協力者)達に募ったわ。
テルトとミルダはお通夜みたいな顔して、「処置なし」って首を横に振っていたわね。叔父とトゥマも手紙に「処置なし」って書いて寄こしたわ。たぶん、テルトとミルダと同じく、お通夜みたいな顔をして書いたに違いないわね。
そんな中、ポーリーだけが案を出してくれたわ。
「…………あの。いえ……うぅ……あ~、その。ぐっ……しかし、……旦那様がご執心しておられる方が、高級娼婦がいらっしゃいます……」
という、壮絶に迷いに迷った苦渋の選択という様子でね。
……こーきゅーしょうふ? ああ。そうか高級娼婦ね……!
すっかり忘れてたわ。ゴスメズってジャンルで言うと素人ものばっかりを好む感じだったから失念していたわよ。本当に。……へぇ、村娘以外にも興味あったのね……。
でも、ポーリーが言い出したがらなかったのもわかるわ。
たとえ高級娼婦とはいえ、あの性欲魔人クズ(ゴスメズ)の相手をしてもらうなんて、心苦しいわよね。
第一、引き受けてくれるかもわからないわ。
高級娼婦は、権威を振りかざしたり、お金を積んだりすれば相手をしてもらえるというわけではないもの。その人気は国民的アイドルのごとくで、強引な手を使うのは無粋中の無粋。ご法度とされている。
安易に飛びつくのは得策とは言えない。とはいえ他に代案が思い当たらないことも事実。
よって、
「お願いしてみましょう。高級娼婦に……!」
……ああ。言い忘れてたけど、ドブ品性先生のことはフツーに、専属メイドに色目を使っているのが気持ち悪いから追い出してって、ゴスメズに頼んでおいたわよ?
アイツも外道同様、次に女性に手を出したが最期よ。ふふふ。