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◇キサリティア編【2_12】十六歳で私の人生の行く末は決まったらしい



 ゴブラ大陸。

 山地と森林が大半を占めるこの大陸は、四季の変化に加え、降雨の多さもあり、植物の種類が豊富で多様性に富んでいる。

 また、そうした自然に恵まれた環境から、様々な種類の動物と魔物が生息している。

 豊かな土地に生まれ、育まれた人々は、自然に根差した暮らしをしてきたけれど、文明が発達するにつれ、各地で諍いが起こるようになった。

 それが、およそ三〇〇年から二〇〇年前まで一〇〇年間続いた百年戦争の幕開け。

 十一もの国が血で血を洗う争いを繰り広げてきた。

 そんな戦乱の世を平定させたのが、小国だったボメリッゾ国。

 大陸全土が統一され、現在のボメリッゾ王国が誕生した。

 他の十の国はボメリッゾ王の支配下に置かれ、国は領土に、国王は領主となり、侯爵位を与えられた。

 侯爵の中でも階級が存在し、領土位りょうどいと呼ばれている。これは戦時中だった頃の国力階級の名残で、現在も変わっていない。


 ――私が暮らしているのは、領土位第八位のメリケオ領。


 メリケオ領は大陸の南部にあり、海に面している。

 北東部に平野があるのみで、全体的には山地が占めていた。

 平野より南に広がる山地は、王国の中でも有数の険しい山岳地帯と言われている。

 山間部からは、二つの水量の豊富な河川が流れており、豊かな水源となっているものの、治水にも悩まされていた。

 領民の多くは農民で、平野部で畑を耕して暮らしている。

 領主様と貴族、騎士や一部の裕福な商人達は、山の斜面に築かれた階段状の都市で暮らしている。

 斜面の一番高いところにあるのが領主様のお屋敷で、私が住まわせてもらっている場所でもある。

 私は下級貴族の生まれだった。

 しかし、生まれてすぐ父母は亡くなった。

 詳しくは知らない。事故だったと、のちに聞かされた。

 遅くにできた子で祖父母はおらず、他の親類もいなかったという。

 孤児となった私を引き取り、養女としてくださったのが、メリケオ領の御領主――ゴスメズ・ヘルブン様でした。

 大変なご温情ではありますけれど、ゴスメズ様――旦那様が私を養女に迎えてくださったのは、私を育てたいためではありませんでした。

 当時、旦那様と奥様――クオキシャ・ヘルブン様は子宝に恵まれず、悩んでおられました。

 そこへ、王都で出会った一人の貴族が助言をしました。

 冗談交じりに。


「養子を迎えなさればよいのです。さすれば、その子が呼び水となって子宝にも恵まれましょう」


 所謂、ゲン担ぎの一種でした。効果など期待できません。

 しかし、効果はあってしまいました。

 一年後、奥様は男の子を出産なされました。(一つ下の義弟で、名前はトゥマ様。生家を厭い、王都におられる叔父様の元に身を寄せています。)

 その一年後には女の子――二つ下の義妹、レンカリオを。

 不妊などまるで悪い夢だったかのように次々と。

 二人はすくすくと育ちあがりました。

 私はもう用済み。お払い箱となるはずでした。

 そうならなかったのは、執事長のポーリー様が、旦那様に心添えをしてくださったからでした。


「キサリティア様は、トゥマ様とレンカリオ様を授からせてくださった、いわば縁起物でございます。無下に追い出したりして、お二人によからぬことが起こってしまってはいけません。それに、誉れ高きヘルブンの姓を与えられた者です。他の貴族達の手前もあります。きちんとこの家から嫁がせるのが筋というものでしょう」


 ポーリー様の言葉は、裏を返せば、嫁ぐことのできる年齢になるまでは私を養うべきであるというものでした。

 そうして十六になるまでの十三年間、私は、使用人としてこの家に置いていただきました。

 身寄りのない孤児が生きてゆけるほど、世間は甘くありません。

 衣食住が約束されているだけで、どれほど幸せなことか。

 だから、仕方のないことなのです……。


「キサリティアもこの春でもう十六だったな。遅くなったが良い縁談がきている。お相手がお前を見初めてね。もうじき六十を迎えるご隠居だが、なぁに心配することはない。未だ衰えを知らぬ、矍鑠かくしゃくとした方だよ。がーっはっはっはっ!」


 そう、仕方のないこと。


「嫌ですよ、あなた。あの方の気位の高さは語り草ではありませんか。いくら年の若さや外見を見初められても、卑しいキサリティアのことです、すぐに愛想を尽かされてしまいます。追い返されたらどうするおつもりですか?」

「嫁いだあとのことなど知らんよ。その時はキサリティア、お前一人でなんとかできるだろう。ん?」

「あなた! ポーリーも言っていたじゃありませんか! 仮にも、ヘルブン家の子女なのですよ。その辺で野垂れ死にされては、領民に示しがつきませんでしょう!」

「そうは言うが、クオキシャ。ではいったいどうしろと言うんだ? ん?」


 いても、いなくてもお邪魔虫な存在。

 それが、私……。


「――なら、こういうのはどうかしら。お父さま」


 ……レンカリオ? いったいなにを?


「キサ義姉さまはお嫁にはいかないの。そしてずっと、ずぅ~~っとわたしに仕えるの。キサ義姉さまが、お父さまとお母さまから受けた恩を考えれば、それが妥当じゃぁないかしら?」

「おおっ! たしかに! 相変わらず、我が娘の言うことは尤もだ!」

「そうね! キサリティアは一生、ヘルブン家に仕えるべきだわ。そして生かすも殺すもレンカリオ、あなた次第。ええっ、ええっ。それしかないわっ!」


 ……これもまた、そう。


「よかったわね、キサ義姉さまぁ。あら、顔色が悪いわ。どうなさったの? んふふふ、安心なさって。わたしがもういいと思ったら、お嫁にくらい行かせてあげますわよ」


 これもまた、仕方のないこと。

 十六歳にして、私の人生は決まった。

 ……いいえ。本当はもっと前から決まっていたのかもしれない。


 思い返せば、レンカリオに翻弄された人生だった。


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