6話 最近ハマっていること
6話 最近ハマっていること
12歳になった。
特に思うことは無い。
村のまとめ役の子供なんかは領都にある学校に行った。
俺も誘われたけど受験用の勉強内容を見せてもらって辞めた。
だって小学生でも解ける様な四則演算程度の算術と文章読解とかその程度の内容なんだもん。
行く意味ないね。
そのほかの子供達は家業を継ぐ為に毎日あくせく働いている。
妹のララは最近母の真似事で針仕事を始めている。
うまくいかなくて癇癪を起こしているのをよく聞くのであまり上手ではない様だ。
弟のレグはいっとき俺の狩猟についてこようとしたけど相談しに行った相手がロブ爺だったみたいで無碍にされたみたいだ。
最近ではおとなしく父の職場の近くで小さな畑を作って耕している。
俺の代わりに父の畑を継いでほしいもんだ。
俺は最近魔法というものに興味をしっかり持つ様になった。
幼い頃から狩猟に行った時には血抜きの時などに魔法を使っていた。
しかしそれ以外にも活用したいなぁと漠然とした考えがあった。
ただ俺にはこの世界での魔法の知識が殆ど無かったのでどうにか出来ないかと父に相談したら冒険者ジャビ村支部の支部長に相談に行ってくれた。
その結果、ある銀級冒険者パーティーが週に1度程度授業に来てくれる様になった。
父、ありがとう
そんな俺は最近森にほぼ毎日行く行動をやめた。
それは魔法の授業をしているということも勿論関係あるのだが、それ以外にもやりたいことが増えてきたことが原因だ。
それはスキルの習得だ。
この世界にはスキルというゲームのステータスの様な存在がある。
数値化されたステータスは無いのだがスキルを取得できるとその名前が頭の中に刻まれるような変な感覚になる。
これは昔からのことなのでその感覚に違和感を持つ時期は終わっている。
ただ俺はスキルを習得するのにハマっているのだ。
この世界に転生する時、神様とやらに特殊なスキル取得を断った経緯のある俺が何を言ってんだと思われるかもしれないが、俺が習得するスキルは基本スキルと呼ばれる大体の人種が習得可能なスキルだ。
例えば森に行く時に使用するもので言えば、狩人には必須の【気配感知】や【追跡】というものがある。
どのスキルにおいても習熟度合いにより力の使い方が人によって違う。
以前、銅級の冒険者に獲物を掠め取られた時に【気配感知】を使用した時は最大でも周囲150mが感知範囲だった。
ただあの冒険者達の1人は聞いた話だと300mだと言っていた。
当時は「冒険者の半分くらいか」とナーバスにもなったが、今では気配を掴むだけなら500mはイケる身となってはやはり使い続けることで習熟するのだとわかると身が入る。
【気配感知】の他にも、【剣術】や【棒術】などの武器系統スキルや親の手伝いをしていたら【解体】や【農業】といったスキルを習得することができた。
俺はその事に快感を得た。
スキルの中身ではなくガワに興味を持ったのだ。
そこで父におねだりをしてスキル本なる物を買ってもらってから習得する事に生き甲斐を感じ、今に至る。
「今日も瞑想するか」
1日に同じことをやり続けるのはしんどいので、数種類のスキル習得に必要な行動を行う事にしている。
最近では【瞑想】スキルの習得をする為に母が庭で育てているりんごの木の下で坐禅を組んで日中ボーッとしている。
「にーに!とーちゃが呼んでるー」
そうやってただ無心でボーッとしていたら弟のレグの声が遠くから聞こえた。
目を開けると家の勝手口で鍬を担いだレグがこちらに手を振っていた。
レグは父さんの畑の近くで個人菜園を営んでいる。
最初が土をいじるだけだったことを考えるとすっかり農具姿が板についていた。
「わかった、今行く」
坐禅を解き、凝り固まった体を解しながら立ち上がりズボンについた土埃を叩いてから父の職場である村の外にある黄金畑へと向かう。
家から村の中央広場を通り門を出て少し歩けば父の畑だ。
俺が生まれた時はまだそこまでの規模ではなかったが、この村も徐々に活発化してきたなと思う。
8歳当時にはまだ出張所規模だった冒険者ギルドも去年くらいには支部に認められたそうだ。
まあこの村は国の西の果てに位置していて自然豊かだから冒険者にとっては良い稼ぎ所なのかもしれない。
村も拡張を進めている様で、役場や俺の提案で小規模の学校の様なものから図書館とはとても言えない蔵書数の建物まである。
異世界チート主人公をしたいわけではなかったが、流石になんかしたくなったので説き伏せた結果それっぽいものが出来上がったのだった。
テクテクと歩いていれば父さんの部下の人達が畑で作業中ではあるが俺へと手を振ってくるのでそれに返していく。
「父さん、何か用?」
村の東側にある畑の8割は父のもので、その畑には点々と休憩所が建っている。
そのうちの一つに足を踏み入れ、声をかける。
すると奥の作業場から首に手拭いを巻いた父が出てきた。
「テグス、学校に興味は無いか?」
「学校?ランス達の行った?」
父が言いづらい事があるときの仕草である「首筋をポリポリと掻く動作」をしていたので嫌な予感がしていたのだが予感が当たりそうで怖い。
ランスというのは村のガキ大将の事だ。
以前、ララ達が虐められそうな現場に遭遇した際にぶちのめしたら舎弟チックな存在になってしまった哀れな子供がランスだ。
ランスはこの村の所属するウルフォード伯爵領の領土に存在する学校に通っていたはずで、俺も誘われたことはあるが今更学ぶものもないしスキル取得を優先したかったので断ったのだ。
「……」
「父さん、他に用は?」
この話を早く終わらせたかったので話を打ち切る意味も込めて他の用を聞くが父は明後日の方角、というか梁をキョロキョロと見てこちらを見ない。
「お前、明日から学校に通え」
何か言葉を探していたのか梁を見ながら「あー」だの「うーん」だの言っていたが意を決した様子でこちらを真剣に見ながらそう言ってきた。
「えっ、嫌なんだけど」
「わかってる。ただ伯爵からの命令だから」
俺は心底嫌だったので即断した。
父も頷きながら肯定してくれたのだが、一枚の紙を懐から取り出して渡してきた。
【ジャビ村 村長殿
貴殿の子息に領都学校への入学を推薦する。
その類稀な才能を遺憾なく発揮してほしい。
ウルフォード・フォン・ロックマン】
「え〜」
「お前の優秀さがどこかから伯爵に伝わったそうだ」
「嫌だなぁ」
俺が優秀?
まあ優秀だよ。
父が畑仕事に精を出すから内政手伝ってるし、村の改革進めてるのも俺だし、書類仕事は前世で慣れてるからそれもやっているし、森での狩猟で獲物を冒険者ギルドに卸しているからもうそろそろ銀級に上がるらしいし、スキルも12歳にしては多いと思うし、ランス達に勉強教えたの俺だもん。
優秀だけど、じゃあ学校行かなくて良くない?
ここまでできる人間がいまさら学校で何を学ぶんだよ。
学校行って四則演算勉強しろって?
出来るんだよそれ。
とかツラツラと文句を心の中で愚痴るが答えは決まっている。
「しょうがない…」
「すまん…」
「父さんのせいじゃないでしょ…」
「……だが、すまん」
前世でも良く合ったけど、直属の上司の頼み事なら断ることも出来た。
だけどその上からの命令は断れないって。
「この資料作っておいてくれない?」
「あー今忙しいんでちょっと無理っす」
「りょ」
という事が出来たのだ。
だが社長から上司宛に
「彼明日から出向ね」
「お前明日から××に出向だって」
「えっ?辞めたい」
と言いながら地方に出向したのは今では良い思い出だ。
そこで前世の妻と出会い往生した様な気がする。
まあそれとこれとは似て非なるものだと思うけど。
「レミーには荷物の用意を頼んでいるから」
「分かった」
「じゃあ後で」
「うん」
レミーとは母のことである。
それだけいうと父は作業場の方へと戻っていった。
「はぁ」
ため息をつきながら家に帰る。
憂鬱だ。
この世界で12歳。
学校に通う様な人間にしては遅い方だ。
ランスは2歳年上だが、13の時に行った。
たまに手紙を寄越してくるので呼んだ限りだと「自分より小さい子が多いのでやりづらい」とか書かれている事がある。
大変そうだ。
そのことを思うと12歳ならまだ若いのかもしれない。
いや、若いと思おう。
前世含めるとこの世界の長者番付に登録されるほど生きているが、今世12歳だ。
行くとなったら覚悟決めるぞ!
スキルの取得にもっと専念したかったが、領都の学校でも多分出来るだろ。
俺は学校へのモチベーションを無理矢理作ることで行きたくない気持ちを心の奥底にしまった。