5話 新しい背嚢 後編
5話 新しい背嚢 後編
「いやだ!」
「……」
柄にもなく俺は父の頼みを断った。
前世含めれば恐らく父よりも年上なのだが、今世での年齢に結構精神が引っ張られている事もあり偶にこうなってしまう。
ただ今回のことは結構頭に来てるので父からの頼み事でも突っぱねているのだ。
父は村にある冒険者ギルド出張所のとある冒険者から俺との仲を取りなしてくれと頼まれたそうだ。
そもそも冒険者ギルドの出張所がこの村にあったのかと驚いたがその事は今はいい。
俺が村に興味なかったのが駄目だったのだから。
だがあいつらの頼みを聞くのは我慢ならない。
「俺のえものとりにがした!」
「そうか…」
「ぜったい、いや!」
俺は父を尊敬しているので、父の真似をする様な喋り方をしている。
それはもう随分昔からこの喋り方なので人によっては喋るのが苦手とか無口と捉えられるが決してそういうわけではない。
喋ろうと思えば普通に喋れるけど慣れた今となってはこの話し方が楽なのだ。
取りつく島もない俺の態度に父は諦めた様子で俺の前から去っていった。
「にぃちゃ、おこってる?」
「おこってる!」
「にぃちゃ、こわい!」
「……」
ララが怖々と聞いてくるので感情のままに返すと、ぴえーんと泣きながら部屋から出て行った。
レグは俺の頭を「いいこいいこ」と言いながら撫でた後にララの後を追いかけて行った。
(これじゃ俺が子供みたいじゃないか…)
怒りが一周回ってなんか無性に恥ずかしくなってきた俺は床に寝転がった。
視界の端に何か映ったのでそちらに視線を向けると母・ララ・レグが扉の隙間から顔を覗かせていた。
「もうおこってない」
「「にぃちゃ!!」」
ブスッとした表情でそういうと泣き笑いのララと楽しそうに笑顔を浮かべたレグが駆け寄ってきた。
ララが腹の上にドーンと乗っかってきて甚大なダメージを与えてきたがまあそれも良いかと思えるくらいにどうでも良くなってきた。
「テグス、詫びだそうだ」
ララとレグの相手をしていると出ていった父が小包を持って戻ってきた。
そしてそれを俺に手渡してくる。
「なにこれ?」
「冒険者からの謝罪だそうだ」
冒険者からの謝罪と聞いて頭に浮かんだのはあの無能達だ。
「要らない!」
俺は突き返す様に小包を父に渡そうとするが父は苦笑を浮かべるだけだった。
「まぁ見てみろ」
受け取るつもりが全く無さそうなので俺は仕方なく小包の包装を破り中身を取り出す。
「何このちっちゃい袋」
「マジックバックの類だそうだ」
中から取り出したのは父が財布代わりにしている腰袋程度の大きさの袋だった。
だが父の言った名称に衝撃が走った。
「これが無限にものが入るマジックバック…」
「それの劣化版だな」
劣化版だとしてもすごいものが手に入ったもんだ。
マジックバックというのは異世界小説王道アイテムで、別の言い方をするとアイテムボックスやインベントリの様なものだ。
「どれくらい入るか聞いてる?」
「この家くらいは入るそうだ」
(やっば…意図せず大きな背嚢の代わりが手に入ったぞ…)
この家は別に小さくない。
むしろ前世住んでいたアパートより広いし、実家よりも大きいと思う。
快適さは前世だけどな。
でもそこそこ広いこの家くらいの容量のマジックバックがあれば俺の生活は劇的に変わるぞ!
今までは背嚢の容量不足で諦めざるを得なかった獲物も持ち帰ることができる様になる。
そうなったらもっと快適に過ごすことができるだろう。
「許してやれ…」
「わかった」
流石に俺もマジックバックまで貰って「許さん!」とは言えんて。
ただ流石に会おうとは思わないので父にはその旨伝えて謝罪の物だけ受け取った。
今まで使っていた背嚢からいつもの冒険セットを取り出して中身を移し替える。
「ララ、おいで」
「なにぃ?」
背嚢をララに渡す。
「あげる」
「うわー!にいちゃのかばんだー!」
要らなくなった物を妹にあげると喜んでくれるので兄冥利に尽きるね。
ララは小躍りをしながら背嚢を振り回す。
レグが物欲しそうに見ているがまた今度なと頭を撫でてやる。
それだけで気持ちを持ち直してくれた。
俺も早く明日にならないかなぁと楽しみな気持ちになった。
◼️(別視点)
「ギルドの倉庫に使っていた型落ちのマジックバックが役に立って良かったです」
「費用は今後の依頼費から天引きでお願いします」
「当たり前です。向こう3年は引退できないと思ってくださいね」
ジャビ村出張所の倉庫として使っていた時間停止機能未搭載の旧型マジックバックが先日完成した倉庫の完成に伴い不要になったので処分をどうしようかと悩んでいた所だったのが幸いした。
ただ腐ってもマジックバック。
倉庫にできるだけの容量を持っていたので購入する費用でも金貨10枚はくだらない。
それを今後を見据えた受付嬢が謝罪の品として村長の息子である無愛想で口下手な少年に渡すと判断をした。
もちろんその費用は俺ら持ち。
そこに不満はない。
俺たちのミスからこの村での冒険者の活動が出来なくなる可能性を考えれば安いもんだろう。
3年も銅級をやるつもりはないし、銀級に早いとこ昇格して資源豊富なジャビ村周辺の村で荒稼ぎすれば効率よくやって1年くらいで返納可能だろう。
「では次は同じ様なミスをしない事を願っています」
「あぁ、もちろんだ」
受付嬢はそう言って話を終えると書類の山が積まれた机の方に戻っていった。
「みんな、すまん」
とテリーが頭を下げる。
「もう良いよそれは」
とミリーが不満たらたらで返事を返す。
「私会いたかったです」
とミナも不満そうだ。
「何はともあれ無事終わったんだ。暫くはほぼタダ働きだろうし進級ポイントの高い地元依頼をこなして銀級に上がる事を優先にしよう。
そうすれば報酬も上がって天引きされた後の報酬でも多少は良くなるだろう」
俺がそう締めて話を終わらせる。
今回の教訓を糧に俺は、俺たちはもっと強くそして賢い冒険者になるんだ。
その為にももっと俺がリーダーとしてこのパーティーを引っ張っていかない行けない。
明日からがんばるぞ!
◼️
次回:4年後に時間が飛びます。