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1話 転生した奴の一日

1話 転生した奴の一日


異世界転生系の小説でよくあるパターンこと、「神様に請われて〜」的なアレソレで俺は地球とは別の世界に転生した。


転生者特典という普通の人間が生涯獲得出来ない様な凄まじい特典の数々を貰える権利を獲得したけど俺はソレらを断り普通のスキルだけでやっていく事にした。


なんで断ったのか。


それは大抵の主人公が厄介な出来事に巻き込まれてしまうからだ。

俺はそんなものに巻き込まれて主人公したいわけじゃない。

誰かの物語のモブキャラで十分だと思ったからだ。


幸い、神様とやらも「異世界に行ってくれるだけでありがたい」系の神様だったおかげで俺の要望はすんなり通った。


これが「勇者になって魔王を倒せ」系だったら詰んでいたかもしれない。


俺はそんな経緯を経て、ランダムに転生先を選び、ある地方下級貴族の治める村々の一つであるジャビ村の新婚男女の子として転生したのだった。



⬛︎



「とーちゃん、もり、いってくる」


「気をつけてな」


「うい」


今日も今日とて、俺は森へ散策に行く。


これは俺がこの世界に転生し、3歳になった頃からの日課だ。


最初の頃は母親と一緒に来ては食べ物にできる木の実や野草なんかを採取していたのだが、俺に妹や弟が出来るようになってからは専ら俺1人で森へと来ている。


(今日はどうするかなぁ)


俺が1人で森に行くのは自分が異端児だと知っているからだ。


母親と2人で来ている頃はまだ大人しく地べたを這いずって木の実を探していた。


それも教会で魔法を習得できる7歳になった時から変わった。


魔法という超常の現象を7歳で起こすことが出来るというのは当時こそ「頭おかしいんじゃねえの?」と思っていたがようは使い様だと使い続けて思う様になった。


魔法は「誰かに師事した方が上手く使える」と思う。

両親もそうだが、村のみんなも火種を作るためやちょっとした水を作る程度でしか魔法を使えない。


俺は前世で生きてきた経験で魔法使用自体に馴染みがなくともイメージとしての魔法に馴染みがありすぎる為村のみんなよりも魔法適性が高いようだ。


そのため1人で森に来る様になってからは魔法を使って野鳥なんかを狩猟することも多くなった。


父は寡黙な人で俺が野鳥を持って帰ってもとやかく言わないが、母はものすごく心配性なので膝を擦りむいただけでも数日森に入ることを禁じてくる。

妹と弟はよくわからないけど兄が凄いと漠然と思ってくれるのか喜んでくれるのはありがたい。


森へと入ると村で狩人として生計を立てている猟師のロブ爺を見つける。


向こうもこちらに気づいている様でハンドサインを使って「大物がいる、帰れ」と伝えてきた。


ロブ爺はこの村がまだ開拓村だった頃から森に入り続け、幾度となく森の警報装置としての役目を全うしてきた人らしい。


そのロブ爺が「大物がいる」というなら確実に居るのだろう。


俺は首肯して音を立てない様にその場から立ち去った。


(むぅ、ロブ爺と狩場が被るんじゃ、この場所も変えないとなぁ)


勿論俺は大物が怖くて立ち去ったわけではない。


この辺りの狩場には本来ロブ爺は居ないはずなのに何故か居たから立ち去っただけだ。


まだ森に入って1時間も経過していないが別の狩場に行くにも時間が掛かるので俺は帰る事にした。


道すがら食べられそうな野草を摘んだり、木に生っている方の木の実を獲ったりして帰る。


(おっ!カエル発見)


そうしてしばらく歩いていると正式名称は不明だが、中型犬程もある大きさのカエルを見つけた俺は茂みに潜む。


背負っている背嚢から隣の家の家長であるテネットさんから貰ったナタを取り出して静かに構える。


(おさらい、弱点は腹の下の色が違うところと目)


地球のカエルとは明らかに大きさが違うので本当にカエルなのかは不明だが姿形が似通っているので俺の中ではカエルとなっている存在の弱点は全身が茶色の癖に腹の部分だけ白くなっている箇所と常に見開かれている目だ。


過去に何度も狩猟に成功している相手とはいえ、怪我をすると数日森に入れなくなるので油断は禁物だ。


なので、俺は狩猟をする時は直前に敵の情報をおさらいすることにしている。


(あいつは視野が広いからな、気を逸らしたい所)


何か良いものはないかと周囲に視線を向けると足元に手頃な大きさの石を見つけた。


(【投擲】)


カエルは俺の事に勘付いているのか正対している状態なのでスキル【投擲】を使用して木に隠れる様にして上空目掛けて石を投げた。


その石は放物線を描きながらカエルの後方の茂みにに入っていく。


茂みに入った衝撃で草むらががさりと音を奏でる。


するとカエルはこちらから視線を切り、体ごと後ろの茂みに向きを変えた。


(隙あり)


俺は向きが変わった瞬間にカエルへと走り寄り持っていたナタをカエルの目へと振り下ろす。


グギィィーと妙な鳴き声をあげ、その短い前足で目元を触ろうとするカエルのもう一つの目にナタをもう一度振り下ろす。


後ろ足で立つ様な姿勢になった所で大きな弱点である腹部を晒したカエルはもう俺にとっては脅威にならない。


ナタを幾度か腹部に刻めばコロンと後ろに転がり足がピクピクと震える死体の出来上がりだ。


背嚢からロープを取り出しカエルの足にくくりつける。

カエルの首にナタで深い傷をつけてから足につけたロープとは逆のロープを魔法で浮かべる。


ズルズルと体が上がっていき頭と地面が離れたのを確認してから地面に穴を開ける。

すると首元から血が噴出した。


(カエルは5分くらいか)


血抜きの大体の時間は分かっているので周辺の警戒の為にカエルから少し離れた木に登る。


経験則だが、森の中での血抜きが1番やばい。

このカエルですら肉食なのだ、俺がなんの武器も持たず武術の心得や魔法も使えなかったら普通に喰われる様な相手でもある。


という事はだ。

今日俺が森から立ち去らなければならなくなった原因の大物然り、この森には地球では考えられないほどの肉食生物が多いのだ。


血の匂いに釣られて何が来るか分かったもんじゃないこの時間が1番危険な時間帯なのだ。


息を潜めて周囲の警戒をしたが今日は無事何事も無く終わった。


引き上げる時は魔法を使ったので重さを感じなかったがいざ持ち帰る時には流石に長時間使用がまだ出来ないので背嚢に詰め込んで持ち帰る事になる。


血が抜けてだるんだるんになったカエルを背嚢に詰め込んでいくがどうしても骨格が邪魔をするので適宜折りながら詰めていくと背嚢の入り口から頭だけが覗くなんともスプラッタな光景になってしまう。


(母さんに言ってもっと大きいの買ってもらおうかな)


家は別に貧乏ではない。

父親は村で田畑を耕し、母親は妹達を育てつつ領主主導で行われる施策の内職で収入があり、尚且つ俺が偶に狩ってくる獲物を売りに出せばそこそこの収益になるので多少の贅沢を言える位の家だ。


なので今より大きめの背嚢位頼めば買ってくれそうではあるが、そうすると「危険だ」云々と反対してくる可能性を考えると怠いのだ。


カエルを背負い帰路につく。


その後の帰り道では特に生物と出会うこともなく森の外苑部に到着した。

草原を歩いたら村に着く。


「おおーい、テグ〜」


村が見える頃には道の左右に父親が耕す畑が広がっている。


小麦色の穂を垂らす麦畑を通っていると父の畑で働く下働きの青年「メンチ」が手を振っていた。


俺はソレに振り返し、村への道を歩き続ける。


途中途中で下働きの何人かに会うも皆気のいい奴らばかりなので挨拶を交わしながら歩いていくと家に着いた。


「帰った」


「「にいちゃ、おかえりぃ」」


帰ったことを知らせる為に挨拶をすると家の奥からドタドタと妹達が可愛い笑みを浮かべながらやってきた。


2人は俺の手を取り家の中へと連れていく。


「こえ!こえ何?!」


弟の方が背嚢にパンパンに詰め込まれて頭だけ出てるカエルを指差す。


「カエル」


「「かえうーー」」


2人は何が面白いのか俺の周りをキャッキャと笑っいる。


すると奥から声につられて母が出てきた。


「あらあら今日も楽しそうね」


2人を見て目を輝かせた後、俺の背に背負われている背嚢のカエルとばっちり目があった母さんは視線を彷徨わせた。


「帰ったよ」


「おかえり、怪我は無い?」


若干声が震えている。

いつになっても俺が狩ってくる獲物になれない母さんだ。


「無い」


「じゃあお父さんを呼んできてくれる?ご飯にしましょ」


「分かった」


俺は背嚢をその場に下ろして妹達を連れて家を出る。


出る直前に見た母さんは背嚢を嫌そうに持っていた。


2人と今日一日の話をしながら父の働く畑に赴くと丁度こちらを見ていた様で手を振ってきた。


俺が手を振り返そうとした時には妹達がばーっと父に駆け寄っていた。


苦笑しつつ俺も父に駆け寄った。


「とーちゃ、帰ろ?」


「「かえろ、かえろ!きゃはは」」


「そうだな」


俺が父にそう言うと妹達も父の周りをぐるぐる回りながら繰り返し楽しそうに言う。

父も苦笑を堪える様な仕草をした後に下働きの青年達に指示をして鍬を担ぎ家へと歩き出した。


そのあと家に帰ると母さんが涙目でカエルの下拵えをしているのを見て可哀想な気分になり、手伝って一緒に料理をやり、みんなでカエル肉のシチューを食べて1日を終えた。






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