他人の頭の上に努力した数字が見え始めた話
突然だが俺は人の頭の上に数字が見える異能がある。小さい頃からの異能というわけでなく高校入学した時に突然目覚めた。何の数字かと数か月調査したらこの数字はその人が努力をした数だということがわかった。
クラスの陽キャが何かをするたびに数字が上がっているため彼に近づき調査したところ判明。授業だろうが試験だろうが何かに努力すれば翌日には数字が上がっている。その数字は他の誰よりも圧倒的な1億を超えていた。
ある日家でテレビを見ていると総理大臣の記者会見のニュースが流れた。ふだんテレビはあまり見ないから気が付かなかったが映像でも頭の数字が見えるらしい。総理大臣の数字は…1兆を超えている。無能大臣だの身内びいきだのいろいろ言われているが政治家となり総理大臣にまでなる人は努力してるんだな。その証拠に歴代の総理大臣の映像を動画サイトで見あさったら大体数字が高い。何人かは1億もないような人もいたが。
逆にこの数字が0の奴がいる。そいつは授業は真面目に受けているが休み時間中は自習か読書をしておりクラスの誰かと話しているのを見たことがなかった。他のクラスに友達はいるようで昼食はそいつらと食べているらしい。
少し前の事だが学校で俺は数字0のやつに声をかけた。
「なあ、真面目に授業は受けているようだけど努力とかしてるのか?」
純粋な疑問だった。クラスメイトの数字は1000前後と言ったところなのにこいつは0のまま変動しない。成績は悪くないようだし何か別の要因があるのだろうと考えている。
「努力?いや、僕は努力はしたことないよ。ただやれることをやるだけだから。」
努力はしたことない?なるほど。やっぱりこの数字は努力をした回数で間違ってなかったな。こいつは地頭はそこまで悪くないから授業を聞いただけで覚えられているってことか。
才能ってのはあるよな。でもその才能に溺れてしまえば結局は努力をしたことがない人間になってしまう。どんなに才能があっても人生は壁にぶつかるし、その壁を乗り越えるには努力しかないと俺は思っている。
その日以来そいつに話しかけることは無く、俺は陽キャと親友ともいえる間柄となり楽しい学校生活を送った。
それから10年が経過した。俺は社会人となりとある会社に勤めている。毎日怒鳴られる日々だが、それを乗り越えれば自分が成長しているのを感じる。先輩方にもお前は努力家だなと褒められることも有った。
その日は珍しく日付がかわる前に仕事が終わり駅前を歩いていた時だ。突然呼び止められて振り向けば親友がそこにいた。しかし記憶にある親友とは思えないほどボロボロになり誰かに殴られている。怖かったが俺は親友を助けに入った。話しを聞けば財布を忘れて飲食してしまいそれを店員に行ったらこうなったとのこと。店員に話をつけて3万円を相手に渡す。正直薄給だからこの3万は痛いが親友からあとで返してもらえるだろう。
親友と近くの酒屋に入り酒を飲みかわす。話すのは学生時代の話。大学も親友と共に過ごし、努力家の先輩の事業の手伝いをしたり、ボランティアをしたりと忙しいながらも楽しい日々だった。
「そう言えば今何の仕事をしているんだ?」
俺は親友に尋ねた。親友は一瞬バツの悪そうな表情になる。
「俺な…今無職なんだ…ちょっと責任を押し付けられてしまってよ…ああ、もちろん金はあるから後日になっちまうがちゃんと返すから心配するな。」
話を聞けばなんてことは無い。会社の先輩と一緒にやっていたプロジェクトの失敗を親友の努力不足を理由に押し付けられたらしい。しかもその損害額が大きすぎて上司もかばいきれずにクビになったとか。
ふと親友の頭の数字を見る。最近はこの数字が目に入っても気にならなくなっていたが親友が努力とか頑張ると言った言葉を言うたびに数字が上がっていく。なんでだ?…そうか…こういう話をするのも勇気がいるよな。頑張って話そうとしてくれてたんだ。その店の支払いは俺が持つことにした。
それから2か月ほどしたある休日。久しぶりの休日で何をしていいのかわからない俺は親友のところに向かった。あれから親友とは会えず、貸した金を返してもらおうと連絡を取り聞いた彼の家に向かう。聞いていた住所に足を運べば築50年は経っていそうなボロアパート。部屋の扉を叩いても返事がない?何度叩いても返事がないため再び連絡する。今度は繋がらず親友からブロックされていた。
親友に何かあったんじゃないかと心配になり警察に相談に行ったが相手にしてくれず途方に暮れて帰路に着く。駅前を歩いていると声をかけられた。振り返れば親友…ではなく数字0の元クラスメイトがそこにいた。
「久しぶりって言っても僕のこと覚えてないかな。高校で一緒のクラスだった…」
俺は覚えていると答えてそいつと共に近くの喫茶店に入る。
「ホント久しぶりだね。大学は別々だったから今どうしてるのか正直心配だったんだよ。」
何でただのクラスメイトが俺の事を心配するんだ。
「ほら君とよく一緒にいた奴、名前なんだっけ?あいつのレベルに合わせていわゆるF欄大学に行っただろ?あそこで僕の知り合いが働いていて君たちの悪い噂を聞いたんだ。」
悪い噂ってそんなもの無いぞ。
「君たちの先輩に手伝わされて詐欺まがいの事をしたとかボランティアと称して女性に無理やり性交渉を迫ったとか色々ね。」
そんなことを言われたとかで先輩は大学をやめてボランティアサークルも解散したんだっけか。
「何人かは最終的に逮捕までいったみたいだけど、警察に事情聴取とかされなかったの?」
そういや何度か警察署に行って話しをした記憶があるな。俺も親友も下っ端も下っ端だから詳しいことはよくわからなかったし。
「まあ、今は普通に働いているならあまり深くは関わっていなかったみたいだね。あいつと付き合うようになって君がおかしくなっていったのをクラスのみんなが心配してたから。」
「あ、どういう意味だ!?」
思わず声が粗ぶってしまう。こいつの言うあいつとは親友の事だろう。何でおれが親友と付き合っておかしくなっていくんだ。俺はあいつに引っ張られて努力家になったんだぞ。
「あいつと同じ中学出身のやつから聞いたんだ。あいつは口先だけ努力だの頑張るだの言うけど実際は他人任せの奴だって。」
「そんなことは無い!あいつは努力家だ!」
俺は思わず叫ぶ。
「思い出してみなよ。もし本当に努力家なら少なくとも成績は良かったはず。だけど実際は下から数えたほうが早いくらいの成績だったでしょ。」
高校時代の記憶を探った。確かに親友は成績は良くない方だ。俺もよく勉強を教えていた。でもあいつは努力した。努力した結果及ばなかったならそれで…それで…いい…のか…?
「ホント、あれで退学にならないのが不思議なくらいだよ。お人好しな先生がいたからかなりの恩情だったんだろうね。」
俺の耳には入ってこなかった。ちがう!親友は努力していた!努力した結果がさんざんでも努力した!…俺は努力すればその結果がついてきた…じゃああいつは…
俺はわけがわからなくなり立ち上がる。しかし心に引っかかるものがあり聞く。
「なあ、お前は努力をしたことがないって言ってたよな。」
「君が初めて話しかけてくれた時の事だね。そうだね、僕は努力をしたことがないよ。」
「なんでだ?何で努力をしたことがないのにあいつの事をそこまで悪く言えるんだ!?どう考えても努力している方が偉いだろ!!」
「努力って何なんだろうね。」
「ああ?そりゃ目標のために頑張ることじゃないのか?」
「感覚的にはそうだよね。でもね、僕の考えでは自分がやりたいことに裂く労力は努力とは言わないと思うんだ。」
「どういう事だよ。」
「例えばさ、格闘ゲームとかして難易度の高いCPUとかに勝ちたいと思うじゃん。その時にする練習は努力かな?」
「そりゃ努力だろ。自分が強くなりたいんだから。」
「でも、別にやらなくてもいいよね?自分がそいつに勝ちたいってだけで別にやろうがやらまいがこの世には何の関係もない。」
「なんだよそれ…」
「僕はさ、そんなに頭がいい方じゃないんだ。君にまじめに授業を受けていると言われても結局成績は中間ぐらいだし、大学もF欄じゃないってだけで授業態度で推薦とってぎりぎりいいところに入っただけ。
でも、僕は色々なものを勉強するのは面白いし知識が増えるのは楽しい。だから授業は真面目に受けたんだ。僕はそれを努力とは思わない。今は会社に勤めて面倒な仕事もあるけど、知らないことを知れるのはとても楽しいから。僕は自分のしたいことをしているだけ。だから努力なんかしたことがないんだよ。」
心の持ちようとかそういうものじゃない…本当に努力している人間は…表に出ないんだ…強要されればそれは努力となり表に出るのかもしれない。でもこいつは…それすらも面白がっている…
俺は店を出て駅前を歩いた。行きかう人の頭上には数字が表示されて大人であれば5000前後の数字が表示されている。この数字は努力した回数ではないのか…まさか…努力や頑張ると言って何もしなかった回数じゃないのか…
それから数日後、通勤中にニュースの確認をする。親友が強盗と立てこもりで逮捕されていた。動機は高校の同級生に現金をゆすられていたと供述。さらに大学時代に詐欺や強姦を告白か…
駅を出て会社に行けば建物の前で警察官に話を聞きたいと止められた。どうやら親友は俺がゆすったと供述したようだ。
なあ、努力って何なんだろうな?
努力とはどんなものかと考えた時この話が浮かびました。
実際努力とは何なのかは自分にもわかりませんが、少なくとも自分がしたいことに対して裂く労力は努力ではないと思っています。
よろしければ皆様の努力の考えを教えてください。