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43 ちょっと集まり過ぎ

あらすじ


擦れ違う山田とベルトッシュは、決定的な決別を迎えた

ベルトッシュは山田を追い詰める為、周りのか弱い雑種達へ牙を剝く

何も知らない彼女達を狙う、血に飢えた男達

今、血の惨劇が待ったなし

「じゃーそのケモール商会の雑種を一匹殺す毎に、銀貨一枚って事だな」


 薄暗い路地裏に響いた男の言葉に、ベル商会番頭、オルスタイナーは眉間へ皺を寄せ顔を顰める。


「何度も言わせないでくれ、お前達が商売の邪魔だから、どこか他所へ行ってくれと言ってるんだ。そのさい雑種に襲われた場合の見舞金として、銀貨一枚を出してもいい。私が言ってるのそれだけだ」


「へいへい、その他所ってのはケモール商会の近辺で、雑種もそこの関係者限定ってんだろ。理解してるよ」


 話を聞くゴロツキ、ジェイクスは面倒だと思いながらも言葉の意図を汲んでやる。


「くれぐれも派手な動きはしない事だ、良くある金品の強請りと、雑種の死骸が転がる以上の騒ぎにしないでくれ」


 オルスタイナーは最後にそう言い残すと、傍らの木箱の上に、小さな革袋を置いて立ち去って行く。



 ジェイクスが革袋を手に取り中身を確認していると、周囲の物陰からゾロゾロとゴロツキ達が沸いてくる。


「前金は幾ら入ってんだよ」


「15万ってとこだな」


「普通こんなもんか?」


「しらねーよ、こんな事したことねーし」


 口々に声を出す彼等はこの辺りでグループを組んでいる、ゴロツキ仲間だった。


「でもまぁ運が向いて来たじゃないか、これが上手く行きゃあ、今後の付き合いも期待できるだろ」


「ソレもコレも最近、路地裏の同業者が減ってるからだな」


「アレクサンダーの奴が喚いていたあれか」


 少々不安げな様子で顔を見合わせるゴロツキ達。


「なんでも酔っぱらて寝てる間に、仲間がやられてたってよ」


「あのアル中の言う事信じてんのかよ」


「でもあいつのグループが潰されたのは確かだろ」


「あぁ、なんでも奴以外の全員が、無残な姿で見つかったらしい」


 うへぇと何人ものゴロツキが嫌な顔を見せる。


「どうせスラム同士の抗争だろ、見せしめって奴だな」


「最近ドーベルンファミリーとこでも、放火やら襲撃があったとか噂になってたな」


「怖いねー、スラムって地獄じゃんよ」


「やっぱスキマ産業よ、市民街とスラムの間にいる俺等は賢いわ」


「じゃーサクサク殺して目指せ100万エンドルだな」


 こうして仕事熱心なゴロツキ達は、一匹1万エンドルの金のなる雑種を求めて、意気揚々とケモール商会へ向け歩き出た。





「どーなってんだこりゃ」


 ケモール商会周辺の路地裏に足を踏み入れたジェイクスは、ひしめくゴロツキの群れに困惑したような声を出した。


 何時なら閑散としている筈の暗所が、百人は居そうな人込みで表通りの様な賑わいを見せている。


 彼等はしきりに言葉を交わし、怒鳴り合い、一様に不機嫌な様子を見せていた。


 呆然とそんな集会を眺めるジェイクスの下へ、一人の顔見知りの男が近づいて来る。


「よぉジェイクス、お前もベル商会の話に乗ったんだろ」


「オーザイン、なんでお前らがここに居るんだよ。つかこの大人数はなんなんだ」


 苦虫を嚙み潰したような表情で尋ねると、オーザインも同じ表情で顔を顰めた。


「それがなぁ、あの番頭から俺らも声かけられたんだよ。で、ここでカチ合って、皆して話し合いって訳だ」


「なんだよ、明らかに他所の地域の奴らまで居るじゃないか」


「それ言ったら俺らもだろ、元から居た奴らが消えちまって、今ココは色んな奴が手ぇ伸ばしてるんだぜ」


 自分達の事は棚に上げて、よそ者にまで話を持ち掛けた番頭に、ジェイクスは歯噛みした。


「ち、あのクソが。節操のない真似しやがって」


「所詮俺らの関係ってその程度なんだよな」


 怒るジェイクスを達観した視線でオーザイン見返していると、集まったゴロツキ達に動きがあった。





「もういい!俺達は好きにやらせて貰うぜ!」


 突然、熊族の獣人が叫びを上げるとその巨体を揺らし、十数人の男達と連れ立って裏路地を進んでいった。


「まー結局はこうなるんだよな」


 それを見た大剣を担いだ隻眼の男が諦めた様な声を出すと、一人路地裏へ立ち去って行く。


 その後も話し合いを止めたゴロツキ達は、次々と裏路地へと散ってしまい、話し合いが物別れに終わった彼等は、それぞれのグループが思い思いに行動を始めた。


 その様子を見ていたオーザインも、ジェイクスへ向き直ると肩を竦めて見せる。


「見ての通り、早いもん勝ちだなこりゃ」


 そう言うと仲間を伴い、彼もまた裏路地へと消えた。




 残されたジェイクス達は、困った様に互いの顔を見渡す。


「どうする、あんなに居たんじゃ、獲物に有り付けねぇんじゃないか」


「いや、この一角と言っても結構広いんだ、可能性は十分あるだろ」


「広さは兎も角、得物の数に限りがあるからなぁ」


「さっきの見たろ、熊族のガエンが居やがった、揉めたらやべぇぞ」


「隻眼のカルシュタットもな、アイツ等と獲物の取り合いとか嫌だぜ」


「・・・大きめの路地は諦めて、小さな小道を攻めたよさそうだな」


「なら、見かけた住民から金を巻き上げながら、雑種探しでもするか」


「はぁ、なんか何時もとあんま変わんねーな・・・」



 こうしてジェイクス達は、先程と打って変わってやる気の抜けた足取りで歩き出したのだった





 この地域の方々へ散って行ったゴロツキ達は、好き勝手に仕事を始めた。


 雑種を探して歩き回る者や、表通りへ繋がる路地を見張る者、裏を付いて小道を探す者。


 そして何時もの様に通行人を脅して、小遣い稼ぎに励む者達も当然現れる。



「よう、おっさん。どこい行こーてんだ」


「な、なんだお前らは」


 ケモール商会へ向かって一人で道を歩く大工の男が、突然ん周りをゴロツキ達に取り囲まれた。


「もしかしてこれかお買い物?なら金もってるよな」


「くそ、物取りの類か」


「分かってんなら話がはえぇ」


「むぅ最近は見かけないから油断したか」


 以前までは団体での行動が基本だったが、何故か最近ガラの悪い連中が居なくなったので、ここが治安の悪い地域である事を失念していた。


「大丈夫だって、市民様に手荒な事はしねーよ。だから大人しく有り金置いて行きな」


「どーせ大して持って無いんだろ、勿体ぶるなよ」


 好きにほざく男共に怒りが沸いてくるが、実際大して持って無いので、大人しく金を差し出そうとした大工に耳に、年若い女の声が届いた。



「あーあんたらアウトだわ」


 その頭上から響く緊張感の無い声に大工が視線を上げると、路地に面した古びた建物の屋上に数匹の雑種の姿を見つけた。


「あ、あんたはヤマダの所の」


「ちっす、何時もお世話になってます」


 大工から声を掛けられた豹の雑種、ヒョウミルが呑気に世間話でもする感じで応じ、背後の猫科の雑種達からも、ちわっすと挨拶される。


「一応確認だけど、そいつらやっちゃっていいよね?もしかして息子さんだったりする」


「こんなのが息子だった、恥ずかしくて表を歩けんわい。・・・って、いかん、こいつ等は傭兵崩れだ!逃げて衛兵を呼んで来てくれ!」


「あーパス、あたしら市民じゃ無いから、ややこしくなっちゃうよ。それに、強ーい応援も着いたみたいだしね」


 そう言って路地の一つに視線を向けると、そこから二メートル近い巨体が姿を現した。



「あ、いたいた。この人達がヤマダに迷惑かけてる人達でいいの?」


 路地から出てきた獅子の雑種、イオンはドスドスと筋肉質の身体を弾ませ、男達の下へ気軽な様子で歩いてくる。


 応援とやらに期待を込めていた大工だが、やって来たのが結局雑種と分かると慌てて声を張り上げた。



「来るんじゃない、雑種の中じゃ強いかもしれんが、コイツ等には勝てん! 俺の事はもういいから逃げろ!」


「バカかおっさん、逃がす訳ないだろ」


「よせ、金は出す!だからその子に手を出さんでくれ!」


「残念だけど、おっさんのはした金じゃ止まれんのだわ。先ずは銀貨一枚だぜ」



 自分から姿を見せた獲物を逃がすまいと、急いで駆け寄った男の顔が次第に曇る。


「で、でかいな・・・」


 近づいて見ると、獲物は雑種に有るまじき長身で、男の視線が自然と見上げるものとなった。


 絶望的に栄養の足りなかった以前と違い、有り余る栄養を得て立派な体に成長したイオンへ、恐る恐る男は近寄っていく。


「いいか、動くなよ、動くなよー」


 りじりじ距離を詰めるゴロツキは、剣の間合いへ後一歩と言った所で、己の身が宙を舞って居る事に気が付いた。


「え?」


 後ろ向きに吹き飛ばされる感覚の中で、此方に拳を突き付ける雑種の姿が目に映り、続いて大きくへこんだ自分の胸元が見えてくる。


 やけにゆっくりと時間は流れ、次第に意識が薄れていくと、男は何も理解できないままに死んでいった。


 拳を突き出した態勢を解いたイオンは、ニンマリと嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「ふっふー、か弱い女の子と思って油断したでしょ。残念でした、私は師匠から恐ろしい暗殺拳を伝授されてるのだ」


 そう言って、どこかムカつくドヤ顔を作るイオンへ、ヒョウミルは冷たい視線を送る。


「いや、どう見ても強そうだし、おっさんも警戒してたっしょ」


 しかもイオンに胸を殴られ、吹き飛んでいった男を見るに、死因は明らかに胸部への激し過ぎる打撲だった。



 しかし仲間の死体を見たゴロツキは、熱い視線をイオンに向けると、激情に駆られ武器を抜いて走り出した。


「良くもコールギスを!」


 剣を構え切りかかて来る男を、即座に構えと取ったイオンの暗殺拳が迎え撃つ。


「男の人に力では勝てないけど・・・」


 イオンはポツリと呟くと、剣を振り上げた男に一瞬で肉薄し、その心臓目掛けて拳を振るう。


 圧倒的破壊力を持った拳で、肉を潰しながら骨を砕きその心臓すら衝撃で破壊すると、スキル魔力付与を発動しチョロっと魔力をズタズタになった心臓へ流し込む。




 最後に殴られ吹き飛んだ男は壁に激突し、口から血を垂らしながら動かなくなった。


 イオンはその姿を確認すると、構えと解いて静かに息を吐き出した。


「どう、これが私が授かった力、獅子浸透勁。師匠の武術と私のスキルのコラボ技よ」


「多分、武術とかスキルとか関係無いって」


 壁にもたれ掛かり息絶えた男の陥没した胸を見て、呆れた声でヒョウミルが呟く。


「もーこれだから素人はダメなんだよね、獅子浸透勁の真髄が全然わかって無いんだから」


 イオンはヤレヤレとでも言う様に、首を横に振りながら溜息を零した。



 これは、魔力と言う言葉に惹かれ貰ったスキルが、生産系だと知り膝を突いていたイオンを見た山田が。


 魔力を製品では無く、敵に送り込む事で内部から相手を破壊する恐ろしい暗殺拳。に、なればいいなと教えたロマン武術だった。


 山田がふんわりした表現で色々漫画の知識を伝えると、イオンもふんわりした感覚でそれを受けて居り、自分の中で何となくそれに形にして行った。


 それ以降彼女はスキル魔力付与を戦闘に活用出来て居ると信じ、笑顔で拳を振るう様になったのである。


 もっとも、実際の効果は不明だが、呆れる人は居ても、困る人は何処にも居なかったので問題はなかった。





「結局、俺様の出番じゃねーか」


 そこへ大きな銅鑼声が響くと、ゴロツキ達が背後の路地を振り返る。


「アニキ!コールギスとフェンライトの奴が」


 声に応えるように、ぬぅっと路地の陰から巨大な獣、熊族の男がガエンが姿を見せた。


「まったく情けねー野郎共だ、こんなの俺の手下とは嫌になるぜ」


 ズシンズシンと眼前まで歩いて来た二足歩行の熊男は、頭一つ上からイオンを見下ろした。


「だが強い女は嫌いじゃねぇ、名前は」


「私はイオン、でもアンタの名前は要らないよ。どうせ直ぐ忘れちゃうから」


「がははは!聞いとけよ、後々不便だからな。俺はガエン、熊族最強の男だ」


 ガエンはその場で、値踏みする様な視線でイオンの身体を舐め回すと、ニヤリとその熊の口が歪んだ。


「良し気に入った。負けたらお前は俺のもんだ、いいな」


「勝っても負けても私は師匠のもんだし、あんた死んじゃうから、この会話って無駄なんだよね」


「ますます気に入ったぜ、まずは立場ってもんから教えてガハッ!」


 会話の途中で叩き込まれたイオンの正拳突きで、ガエンの口から空気が漏れる。


 しかしその体は一歩下がっただけで、その両足はシッカリと地を捉えていた。


「くうぅ、行き成りだな、思わず声が出来たったじゃねーか」


 殴られた胸をパンパン叩き、ガエンは殊更堪えた様子も無く薄ら笑いを浮かべている。


「ぬぅ」


 逆に浮かない表情で、イオンは赤くなった拳を見ると、ガエンの胸元へ視線を投じた。


「熊さん、なんか着込んでるでしょ」


 拗ねた様なイオンの声に、ガエンの笑みはますます深くなっていく。


「当然だろ、男ってのは外へ出るときは戦支度してるもんだせ」


 そう言って自分の胸元を叩くと、ゴツンと言う硬質な音を放って見せた。


「ずるいって言うなよな」


「別に言わないよ、逆に獅子浸透勁の餌食なんだよね」


 言葉と共に拳を構えて見せると、ガエンも拳を握り、獰猛な領域にまで至った笑みを浮かべる。


「ねじ伏せてやるぜ!」


「ムリだってば!」


 叫びと共に放たれた両者の拳は、互いに噛み合い、その力と質量でイオンの腕が弾かれた。


「ぐぬぬぬ」


「がははは、軽い拳だぜ!」


 悔しそうに歯を食いしばるイオンと、威力の半分は相殺されたくせに、偉そうに笑うガエン。


 二人は足を止め、リング中央で殴り合うボクサーの様に、拳を交え合う。



 手数はイオンが上だがリーチの差で真面に顔を狙えない、当たるボディは鎧によってその全てを無効かされていく。


 そして自慢の暗殺拳は、その効果を発揮してはくれなかった。


「この!私の獅子浸透勁をガードするなんて、まさか魔法の鎧!」



 対するガエンの拳は重かった。イオンの攻撃など無視するように只管振り下ろされる続ける。


 防ぐ都度に殴られる腕や、時折入る頭部への攻撃は、確実にイオンの耐久力を消費させていった。


「がははは!このまま足腰が立たなく成るまで殴りつけてやるわ!」



 こうしてイオンは、一方的に身を削られ続ける殴り合いを繰り広げるのだった。





「あれー、あの熊、結構強いんだけど」


 その様子を見ていたヒョウミルは、困った様に頬を掻いていた。


「いいの助けなくて、アレってヤバいよね?」


「イオンちゃんて、ちょっと頭弱いから、自分が不利だって気付いて無いのかも」


 他の子も心配そうにオロオロしているが、ヒョウミルにはどうにも腑に落ちなかった。


 ああ見えてイオンは結構根性が無い、ヤバくなれが簡単に助けを求める筈なのに、全然その気配が見えない。


 何か狙いがあるのかと見ていると、戦局に動きが現れた。





 ズドン!


 ガエンの拳を腕を交差させて防ぐと、イオンの足が地面を滑りその体が後方へずれる。


 防御に追いやられたイオンを見て、ガエンは大声で笑いだす。


「がははは!どぅよ、少しは力の差を実感出来たか!、俺を倒したきゃ、今の三倍の力は出して貰わないとな!」


 ガエンの言葉でイオンの顔が不愉快そうに歪むと、溜め息を一つ吐き、諦めた様に両手から力が抜けた。


「はぁ、あんたの言う通りだよね・・・」


「そうだ、お前の力じゃ俺様は倒せねぇ。諦めて俺の前に膝を突きな」


 そう様子に、ガエン勝ち誇った笑みを浮かべ、イオンと手を伸ばす。


「先ずは、手古摺らせてくれた罰をくれて―ちっ!」


 会話の途中でガエンの腕が、強烈な力で弾き飛ばされた。


 咄嗟に一歩下がり、腕を弾いた力、イオンの足から距離を取ると苦々しい表情を浮かべる。


「しつこく足掻きやがって、往生際がわりーんだよ」


「んー足掻きってゆーか、本来の戦い方に戻るってゆーか。スキル貰う前は、こっちが本職なんだよねぇ」


 そう言うとイオンの足が再び繰り出されると、強烈な蹴りがガエンの腹部へぶち込まれた。


「ぐうっ!」


 幾ら分厚い鎧でも衝撃までは防げずに、呻きと共にガエンの体が後ろへずれる。


 蹴りは次々に打ち出され、防御する腕を蹴散らし、ドカドカ鎧を叩きのめしていく。


「くそ! 重い、しかも数が!ぐぬぅぅぅ!ずるいぞ拳で勝負しろ!」


「あんたのその鎧って相当重いでしょ、だから攻撃を躱せない。出せば全て当たっちゃうんだよね」


 低い位置から放たれる筈の蹴りが、ガエンの腕や胸、更には頭部へすら届いてしまった。


「がはっ!」


 頭部を蹴られ頭が揺れたガエンは、一緒に体の姿勢にもブレが生じる。


「しかも重心が高いから、こんなに簡単に体勢を崩されちゃう。ちょっと改善しなきゃ」


 イオンの言葉が終わらない内に、傾いた姿勢を戻す事が出来なかったガエンは、背中から地面へ倒れ込んでしまった。



 ガエンの鎧は死角を補う為に、背中も相当な厚みで覆われていた。


 それは不意打ちで正拳突きを受けても、衝撃の殆どを受け止めてしまう程の質量を持っている。


 それによって生み出される防御力は強力だが、同時に同量の安定性と機動性を失っていた。


 その結果身を振って攻撃を躱す事も、崩れたバランスを立て直すことも、このクマには出来なかったのである。


 そして最大の欠点は重さと動きの阻害により、容易に起き上がる事が出来ない事だった。



 起き上がろうともがくガエンの胴体へ、足を振り上げイオンが狙いを定める。


「獅子しーんーとーう、勁!」


 言葉と共に、倒れ伏すガエンの鎧を踏み付けた。


 ゴインッ!


 硬質な音を発し鎧はイオンの足を押し返すが、衝撃は中のガエンへと達した。


「ごふ、ごふ! む、無駄だ!この鎧は魔法的な効果は一切ないが、その分強度はさい―――「獅子浸透勁!」―ごふっ!」


 発言の途中で踏まれたガエンは、盛大に咳き込むが物理的なダメージは殆どない。


 直ぐにまた口を開くのだが、イオンはその一切を無視してドコドコ足を繰り出し続けた。


「獅子浸透勁!浸透勁!浸透勁!浸透勁!―――」


「や、やめ、ごふぅ!無駄だと、ごぼお!おほ」


「浸透勁!浸透勁!浸透勁!勁!勁!勁!―――」


 ガエンは静止の言葉と共に、必死で腕を使って身を守るが、留まる所を知らないイオンの足ピストンは鍛造用自動ハンマーの様に、その腕と鎧を変形させていく。


 数十回か数百回か、ドカンドカン踏み鳴らす足が止まる事には、地面に埋まるぺちゃんこの鎧と、ご臨終な着用者が静かに横たわっていた。


 その傍らで、ふう、と一つ息を吐き、額の汗を拭ったイオンは一言。


「獅子浸透勁、万能するぎるわぁ」


 そう宣うと、キラキラとした笑顔を浮かべて微笑むのだった。




 その笑顔を見たヒョウミル達は、こんなバカな子の心配して損したと半眼になる。


 しかしそれで済まないのがゴロツキ達だ、笑顔と同時にお代わりの欲しそうな目で此方を見ているイオンを見て、顔を強張らせ始める。


「さぁどんどん行くよー」


 遂にイオンが笑顔で向かってくると、潰されたガエンの死体を再度目にしたゴロツキ達は、踵を返すと一斉に逃げ出した。 


 しかし機動力に優れたヒョウミル達が、屋根を飛び壁を蹴ると瞬く間に彼等を追い越し、その退路を容易く塞いで見せる。


 逃げ道に突然降って来た雑種達を目にして、ゴロツキ達は一様に顔を青褪めさせた。


 そんな姿にヒョウミルはぐひひと下品に笑い、ジリジリと男達ににじり寄って行く。


「取り合えずあんた等全員、ヤマダの邪魔だから消しちゃうね」


 ヒョウミルの言葉に男達は震えあがると、手にした武器を捨てて、地面に膝を突いた。


「ま、待ってくれ。俺達が悪かった、金での何でも出すから、見逃してくれ!」


 その発言に暫し思案したヒョウミルは、背後の仲間達とも視線を交わすと、改めて男達に向き直り口を開く。


「んーなんかさぁ、イオンの暴れるトコ見たらぁ・・・興奮してきちゃった。だからだダメ」



 そう言って、悪戯っ子の笑みを浮かべペロリと唇を舐ると、猫科の雑種達は尻尾をくねらせ、怯えたネズミに襲い掛かるのだった

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