40 文化爆弾
あらすじ
新生活が始まる
ケモ耳達、育成中
魔獣はだいたい彼女達のご飯
中層での狩りを終えた山田達は、クマ四体分の肉を担いで街へ戻る。
集積所では、悲しみの表情見せてくる雑種達を明日も取れると説得し、クマ二体分を換金に回した。
帰り道お通夜の様だった彼女だが、無くなったお肉より目に前のお肉。手に持つお肉を眺める都度に、ぐんぐん元気を取り戻していく。
全員で家に帰り付く頃には何時もの元気を取り戻し、早速クマ肉を料理して貰う為、ご機嫌で工房内へお肉を運び込んでいった。
その様子を確認した山田は、換金を行うためにギルドへ足を向けたが、その背後から声が掛けられた。
「ねぇ、あたなってここの人?」
何事かと山田が振り返ると、一般人らしいおばさんが一人立っている。
「前にここで商品を作っていた商会の人でしょ、お店もまた再開するの?」
「いえ、ウチは最近できた商会なんですよ」
「あらそう、前の商会とは違うのね・・・でもお店は出すんでしょ?」
「今の所、予定して無いんですが」
そもそも売り物になる、まともな商品が無いのでそう答えると、おばさんは頬に手を当てて困った様に首を傾けた。
「火傷しちゃったから、回復薬を売って欲しかったのに」
そう言って痛そうに持ち上げた手には、火傷らしき痕が見えた。
「はぁ、前の工房は安く売ってくれる、販売窓口を作ってくれたんだけど・・・」
溜息と共にそう告げると、チラチラと山田の顔へ視線を送って来る。
地方の工場が地元の人向けにやっている、売り物に出来ない傷物商品を、格安で売っている即売会が頭に浮かぶ。
どの道、回復薬は有り余っている、山田は地域貢献一環として、これは有りだと判断すると、余った回復薬を取り出した。
「ウチでお売り出来るの、これ位になりますが」
掌に収まる木の小皿の蓋を開けると、そっと手渡す。
「なにこれ、回復薬なの?・・・それになんか臭いわ」
山田に渡された小皿の中の緑スライムを見て、おばさんは顔を歪めてしまう。初めてはみんなこうなる。
「独自製法なもので。でも効き目は確かですし、害は有りません。ただ保存が利かず、三日しかもちませんが」
「直ぐ使うからいいけど・・・いくらなの」
「値段・・・ですか」
どうしようか考えてみたが、どうもご近所さんらしいので、山田は引っ越しの手土産とする事にした。ご近所付き合いは大事なのだ。
「お試しとして、今日の所は無料で結構です」
「あら、ありがとう」
途端に笑顔を見せると、さっそく手の火傷へハンドクリームのように回復薬を塗り付けていく。
すぐさま薬は効果を発し、赤く腫れ上がった火傷が見る間に癒えてゆく。
「ホントに効果が有るのね、匂いも消えてるし」
手荒れごと綺麗になった手の皮膚を眼前にかざし、その効果に満足した女性は山田へと向き直った。
「これって次からは幾らで売ってくれるの?」
「そうですね・・・」
商業ギルドで回復薬は5万で売っているが、傭兵なら傭兵ギルドで3万で買える。
効果自体はハツカ製の方が高いのだが、三日しかもたないのは大きすぎる欠点と言える。これはかなり思い切った値引きが必要だと思われた。
そこで一つの案が脳裏に浮かぶ、雑種達のイメージアップキャンペーンだ。
どの道、マイナー商会のマイナー商品、ご近所の人ぐらいしか買いに来る者も無く、まともな利益など望めるものでも無い。
ならば初めから、金で好感度を買っていると割り切り、超低価格で売ってしまう事にした。
「次回からは千エンドルでお願いします」
何時もの様に山田は、安けりゃいいやろと、浅い考えで低価格設定で販売することを決めた。
「え、そんなに安いの!」
「出回ている品に比べて―「ちょっとまってて!すぐ戻てくるから!」
行き成り山田の言葉を遮ったおばさんは、近くの建物へ走り込んでいった。
何事かと待つ事暫し、急いで戻って来たおばさんが手を突き出してきた。
「はぁはぁ、これで五つ売ってちょうだい」
そう言って手の平を開くと、そこには大銅貨が五枚乗せられている。
「いいですけど、さっきも言った通り日持ちしませんよ」
「ウチの子にも使いたいし、そんなに安いなら料理にも入れてみたいのよ」
「え、回復薬って食えるんですか」
「健康になるとか、美容にいいそうだけど、違うの?」
知らん。山田は即座に白旗を上げると、空き住宅の一つでおばさんにお待ち頂くと、工房で調合に勤しむハツカの下へ走った。
そこで回復薬五つを作って貰うついでに、回復薬いり料理についての情報を仕入れる事にする。
「あの、食事に混ぜるのはおススメしません。組み合わせ次第では、全く違った効果が出てしまうかも。滋養強壮や美容には別のお薬が有ります」
と言う事を、出来立てホヤホヤな回復薬を手渡しながら告げると、その手をおばさんに強く掴まれる。
「・・・その話もっと詳しく」
こうして山田の作ったケモール商会では、回復薬に続き、美容薬の販売が確定したのだった。
今の所、やって来そうな顧客は一人だが客は客、山田は新たな職業訓練の一環として、ご近所相手の販売業にも取り組んだ。
将来、雑種達が独立する際、働き口は多ければ多いほど良いのだ。
取り敢えずは空き住宅の一つを仮店舗とし、販売体制を確立する為に接客マニュアルを作成した。
1いらっしゃいませ、ありがとうございました。
2店内は何時も清潔に。
3商品の受け渡しは、お金を貰ってから。
4分からない事は全て拒否、ヤマダの帰りを待つ。
5出来るだけ殺さない。
こうして隙の無い五か条を作ると、山田不在時の販売体制も整えていく事にする。
販売担当はリスの雑種、リースに任せる事にした。彼女は邪魔なお金を地面に埋めたり、玩具と一緒に箱に突っ込んだりしない。
精々山田のポケットに、ぐいぐい押し込んで来るだけだ。
早速商業ギルドへ彼女を従業員に登録しに行く。
前例が無い言われ、雑種を従業員にして本当に良いのか、ウィンクルにしつこく確認されたが、何とか登録する事が出来た。
受け取った従業員証をリースに手渡すと、これで今後は彼女も商売を行う権利を持つ事になる。
今後は山田が居なくても彼女が仮店舗で接客し、必要に応じて内勤組から応援を付ける事で販売体制は完成した。
こうして安く回復薬を提供する事で、周辺住民への雑種融和政策を行っていく準備が整ったのだった。
さてそろそろ晩御飯でもと思った矢先、大勢のマッチョ達が敷地内にズカズカと踏み込んで来る。
その手には建物を解体出来そうな大きな木槌等が握られ、山田はさっそく雑種排斥派でもいらっしゃたのかと彼等の前に立ち塞がった。
「悪いが、ココから先は私有でね」
「あんたが此処の責任者か?」
「それがなんだと?」
そう答える山田に男は、懐から小さな器を取り出した。
「ウチの嫁から聞いたんだが、この回復薬を売ったそうだな」
そう言って見せて来たのは、ハツカが作った回復薬のようであった。
「・・・確かにウチの商品だと思うが」
「一つ千エンドルって聞いたが・・・本当か」
「・・・はい」
するとざわざわと彼等はお互い見渡し、山田に向き直ると伺う様に口を開いた。
「その、俺達にも売って貰えたりするのか?」
「もちろんですとも」
山田はすぐさま態度を変え腰を屈めると、仮店舗に設定した住宅を両手で示した。
「ささ、あちらの店舗にて対応させて頂きますので、中でしばしお待ちください」
「あ、あぁ」
急変した山田の態度に若干引きつつも、男たちは山田の指し示す仮店舗へ入っていく。
山田を直ぐにサンプルの回復薬とリースをとっ捕まえると、彼女へ事情を説明し仮店舗へと急いだ。
イスに座る男達〈テーブルを挟んで〉その反対側に立つ山田とリース。
「ではリース、たのむ」
彼女は頷くと、男達の正面に座った。
「雑種・・・」
席に着いたのが山田では無く雑種だった事に、初めは男達に戸惑いが走ったが、次第にリースの行う製品の説明と値段に意識が持って行かれ、ごく自然に商談は進んで行った。
「たすかるぜホント、また来させて貰うわ」
「ありがとうございました」
そして最後には笑顔でリースに挨拶すると、ご機嫌な様子で仮店舗を出て行く。
上手く行ったと、ご機嫌な顔で見上げるリースの頭をなでなでしつつ、山田も事の成功にご機嫌だった。
「よくやった、この調子で頼むよ」
「でも雑種だと抵抗が有ると思うけど」
「大丈夫、人とは直ぐに慣れてしまう生き物だからな」
「私達にも慣れる?」
理解できないと言いた様子のリースに、山田は遠い目をしながら語って聞かせた。
「人外しかり男の娘しかり、始めはどんなに禁忌されようが、触れ続ければ何れ侵され馴染むものなんだ」
山田の脳裏にはかつて起こった、男の娘ブームの記憶が蘇っていた。
初めは男の娘など、所詮は女装だなんだと否定的だった社会が、次第に受け入れ、何時しか一つの方向へ纏まっていたのだ。
―――付いてたっていいじゃないと。
「なにそれ?」
地球のブームなど知らないリースは、山田の遠い目の理由に思いいたらず、首を傾げるばかり。
「人の本質だよ、君達が世間を席捲する事は歴史が証明している。人類何れ気付く事になる・・・・・・ケモ耳しか勝たんと」
しかし最終的に勝ち残ったのはケモ耳であった、山田はその事実を深い感嘆と共に言葉で示した。
何やら頭の悪い事を言い出した山田を、リースは暫く見上げて居たが、これ以上撫でて貰えそうも無いと悟ると、山田の手を握りしめる。
「どうでもいいけど、ご飯行こう」
そう言うと、未だに何か呟いている山田の手を取って、夕ご飯が待つ工房へと彼を引き連れて行った。
今は雑種に対し禁忌感がるかもしれないが、触れ合って居ればその内馴染む。
そう信じる山田のケモ耳文化の侵食計画は、こうしてゆっくりとを進めてられていった。
その後も雑種達は工房で技術を磨き、樹海に入っては元気に魔獣を狩り続けた。
中層での活動も安定傾向で前日の様な、クマ×3なんてアクシデントは滅多に起きず、ここ数日でお肉溢れる中層は彼女達の楽園になりつつあった。
しかし一見順調にしか見えない彼女達の行く道に”安けりゃいいやろ”と言う山田の浅い考えが、争いの火種を生み出していた。
山田の工房より程近い位置には、従業員20人程度の中規模の商会、ベル商会が存在した。
そこの商会長、ベルトッシュは弛んだお腹を揺らし、報告をしに来た中年の男に向き直る。
「薬の売れ行きが悪い?」
「はい、最近になって酷く落ち込んでいます」
業績悪化の報告に来た番頭のケルストは、恐る恐るといった様に言葉を続ける。
「う、噂では以前テータイン商会の工房があった場所に、新しく入った商会が有るそうで」
「噂だと?何故キチンと調べんのだ、この馬鹿たれめ!」
まさに今回の件は、噂を知りつつ放置した彼の失態と言えた。
「す、すみません、直ぐに探ってまいります」
「いいか、相手が分かるまでは穏便に事を進めよ」
「は、はい、分かっております」
こうして山田の所為で生まれ火種は、チロチロとその手を雑種達に伸ばし始めたのだった。




