32 四十対一は全然健全だから
リーダム達の件が完全に落着したので、山田がウルカと共に帰宅すると、ラネットが心配そうな表情で二人を出迎えた。
「お帰りなさい、結局今回の件はどうなったのですか?」
「変な傭兵が暴れていたけど、もう居ないから大丈夫だ」
簡潔に結果だけを告げると、彼女は安心した様にほっと息を漏らしたが、安心できない姉妹も此処にはいた。
「また来たりしない?」
フォリィが不安そうな顔で尋ねると、目覚めていた妹のリサリィも、姉にしがみ付いて怯えた様子を見せている。
犯人の報復を恐れる被害者は、大人でも耐えられない恐怖を感じるらしいので、山田は不安に震える二人に、ハッキリと伝える事にした。
「死んだからもう来ないよ」
「!よかったー」
「かった」
二人に傭兵の死を伝えると一瞬驚いた様に見えたが、次の瞬間には安堵の笑みを浮かべて、姉妹で手を取り合って喜んだ。
死んだ死んだと喜ぶそんな二人を見て、やはり異世界は殺伐なんよと山田を気を引き締めるのだった。
夕食の準備が出来る間に、レベルアップしている雑種達の合成強化を行いつつ、ウルカ、ベアーネ、ネコロには明日はお留守番だと言い付る。
今回の危険行為と戦闘での消耗が大きいので、レッドカードである。更には家の護衛としての意味もある、今後はある程度の戦力は残す事にしたのだ。
しかしこれに不満を持った三人は、せめてもの抗議としてその日は山田の上に圧し掛かって眠りについた。
尤もその様な寝方は偶に有る事なので、その無言の抗議が山田へ伝わる事は無かった。
翌日、ウルカ達三人と小さい子達、その面倒を見たいと言うラネット他数名を残し、他全員で樹海に向う。
槍の穂先を大量に手に入れた事で、主な武装は槍に変わったが、やる事は今までと変わらない。
強化済みの雑種が、樹海初挑戦の新人をフォローしながら、魔獣を大勢でぼこるだけである。
樹海に入った雑種達のパーティーは、早速ハイエナ五匹の群れに遭遇、これを・・・・・・三十本の槍が迎え撃つ。
戦闘は始まった瞬間に終わり、五匹のハイエナ達は何本もの槍にその身を貫かれて、あっけなく息絶えた。
元々棍棒でボコっていた相手に、武装を強化し尚且つ数倍の戦力で当たれば、こうなる以外の結果はあり得なかった。
一方的な戦いに勝利した彼女達は、三十本の血塗られた槍を掲げると、あひゃひゃと高笑いをしながら勝鬨を上げると、更なる獲物を探し求める。
後に無残な姿のハイエナの遺体を残して。
「・・・えぐいて」
「・・・かわいそうまである」
そんな光景を見ながら、補助として控えて居たタイアーとシープアは、一言そう漏らしたそうな。
狩は順調に進み、新人に槍を扱える腕力が付くと、更に戦闘力は上がっていく。
見つけた端から槍を使い、ハイエナをブスブス突き刺しては穴だらけにしてしまう。
木では碌に効果が無かったのに、指一本程度の穂先を付けただけで、この変わり様。やはり鉄は偉大だった。
「槍はやはりいいな」
体格のいい馬の雑種サラフは、先端の輝く穂先を掲げ見ながら、うっとりと呟く。
「見塗れの穂先を見て恍惚としないで下さい」
妹のウィマーナは嗜める様に注意すると、咎める様に視線を姉に向ける。
「棍棒って改めて見るとダサいよね」
その隣では末っ子のポニーが、小柄な体系に見合う小さな棍棒を手に取りそう零すと、二人の姉に話しかけた。
「棍棒ってもう要らないないじゃない?」
「まぁ使わないのは確かですけど」
「ではもう必要ないな」
ポニーの言に姉二人も納得を示すと、腰に下げた棍棒を手に取った。
もはや槍の穂先が折れても、残った柄だけで魔獣を撲殺出来ると感じた三人は、その手に握った棍棒をその場に投げ捨てた。
そしてこのような風景は雑種全体で見られ、山田家の中で復活した棍棒だったが、結局はその価値をどんどん落とすと、史実同様その姿を消すのだった。
数度の実戦を経て、槍の有用性を確認すると、山田は魔獣の品薄状態を解消する為パーティーを三つに分けた。
しかし十人強の三パーティーでの探索でも品薄が続くので、ちょいちょい奥へ向かって移動しながら、需要と供給のバランスを取る。
以前面倒だった猿も投げ槍の前では無力で、次々と射貫かれ木の上からぽとぽと落ちて来る事になった。
そして魔獣の数も増え、安定した狩りを行っていると遂にその時が来た。
「あった」
猿達を全滅させ、雑種達の合成強化を行った後、死んだ猿の鑑定を行っている山田がポツリと呟く。
跳猿
レベル20
調合
身体 71
敏捷 75
魔力 47
先日の傭兵の件で味を占めた山田は、魔獣もステータスの持つのなら、人と同じくスキルを持つ可能性も有るのではと考えた。
そしてハイエナから始まり、本日百七十匹目の鑑定で、遂にスキルを持つ魔獣を発見したのだ。
早速、調合を使う子を決める為にアンケートを行った。
「この中に調合に興味ある奴は要るか?」
そう言うと全員の手が上がった。
「なんか知らねーけど、ヤマダの役に立つんだろ。やってやるよ」
タイアーがそう言うと周りもウンウン頷いて来るが、こう言うのは個人の好みでやって貰った方がいいので、追加で質問する。
「じゃー戦闘が苦手な奴は要るか」
全員の手が一斉に下がった。ここのパーティーは全員戦闘大好きなので、結果は分かり切ってい居た。
「・・・他のパーティーにも聞いて見るか」
こうして残りの二パーティーにも聞いてみた結果。
「わ、私、戦闘とかは余り・・・ごめんなさい」
鼠の雑種のハツカは、小柄な体を震わせ申し訳無さそうに申し出たが、好都合なのでよしよしとその頭を撫でまわす。
そのままリセットされた猿のステータスから、スキル調合をハツカへと移す事にする。
ハツカ
レベル 1
調合
身体 73
敏捷 98
魔力 42
当然のように合成は成功し、彼女へスキルが移ると早速その性能を試して貰う。
調合自体はせめて容器や机位準備してからとし、まずは下準備を行う事にした。
「この草が素材判定が出てます。あ、この石もです」
調合スキルを得たハツカは、利用可能な素材が分かる様になっていた。
そんな彼女の指導の下、狩を行いながら、素材となる植物や鉱石の採取も併せて行われる。
その後狩りも順調に終り、調合用の素材も十分に集めると、持てるだけの材木を切り倒す。
そして何時もの様にまだ日も高い内から、山田達は街への帰路に就くのだった。
この日は調合用の素材の確保を優先し、納品は最低限に絞った為、換金額は非常にしょぼかった。
そんな少ない予算から食料と共に調合の道具を揃える。
もっとも、本格的な道具は高いので、すり鉢や器くらいしか買えなかったが。
帰宅し何時もの様に皆を撫で回すと、何時もの様に夕食を取る。
そして食後に、ハツカと調合について話を詰める事にした。
「・・・んー素材から調合の結果が何となく分かる感じですね」
素材を手に持ちウンウン唸るハツカに、山田は何となく既視感を覚えた。
(合成と同じか、なら色々作らせて実験させた方がいいな)
基本的な使用感が合成と似てると感じた山田は、実際に使って見ないと感じが掴めないと判断した。
「なら片っ端から作ってみろ」
「え、でも調合は出来ますが、出来た製品を保存する方法がありませんよ」
「いいさ、工作と同じで作業自体が目的だから」
どうも出来上がる物は既製品と違い、消費期限が短いらしいが、山田は構わず制作を頼んだ。
合成と同じで色々やってみて、それから考える作戦である。
「後、やり方さえ理解すれば、スキルが無い人でも調合自体は出来ると思います」
ハツカの言う事には、スキルを使えば魔力を消費する事で、道具や知識が無くとも素材を使い、回復薬等の調合が行え。
逆に必要な環境さえ整えば、スキルが無くても調合は可能らしい。
「・・・多分ですけど」
最後に自信無さそうにそう付け加える彼女の感覚は、山田にも十分理解出来た。スキルの仕様は実にフワッとした感覚なのだ。
「じゃ何人か興味が有りそうな子に手伝って貰って、色々やってみてくれ。素材全部使っていいから、ダメ元で頼む」
実験とは失敗した結果も一つの成果だ、失敗したからこそ見えて来るものも有る。
―――ストラテジーでも一回滅亡するまでがチュートリアルなのだ。
次の日の狩組は、タイアー達が護衛を兼ねて、留守番組として抜ける事になったが、ウルカ達三人と更に増えた雑種達が加わり、四十名程での出立となった。
ウルカ達三人が加わり戦力が増えた事と、流石に生活費が逼迫してきたので、今回は美味しい大物を狙い中層を目指す。
可哀そうなハイエナ達を狩りつつ、表層で最低限の強化を新人へ施すと、お昼前には中層へ辿り着いた。
そしてそんな山田達の前に、アイツが、餓狼王三号が現れたのだった。
餓狼王は率いた二〇匹余りの餓狼達を、小手調べとばかりに雑種達に向け襲い掛からせる。
能力で劣る雑種達だが、武器の性能と数の力でコレを迎え撃ち、優位に戦闘を行った。
ウルカとベアーネのサポートも有り、雑種の槍衾でドンドン数を減らし焦った餓狼は、指示を求める様に背後の餓狼王へ振り返ると、そこには首を落とされた主の上で一服しているネコロの姿が。
「・・・きゅーん」
思わず切ない泣き声を発した餓狼だが、程なく穂先に貫かれると仲間と共にその命を落とすのだった。
こうして中層の洗礼を無事潜り抜けた雑種達は、その後も勝てる相手は数でボコり、勝てない相手は山田に任せると言うズルをしながら、順調にスコアを稼いでいった。
「うりゃー!」
「ブフォオオオオオォォォォォ!」
すれ違い様に振るったウルカの剣閃が大鹿の首を切り裂くと、大量の血と雄叫びを放ちその巨大な体が大きく跳ねる。
大鹿はその大角をブンブン振り回すと、荒い息遣いと共に、ギロリとウルカを睨み付ける。
大勢の雑種が取り囲む中、大鹿は一歩二歩と足を繰り出すとフラリとその身を揺らし、ズズンッと地を揺るがし倒れ伏した。
暫しの静寂が訪れ、雑種達がお互いに目配せをすると―――
「うきゃほーーーーーーー!」
―――歓声が上がり彼女達は一斉に飛び上がった。
楽な戦いでは無かった。
ウルカ達比較的能力の高い者にとっても、大鹿は格上の存在で、戦闘開始間も無く雑種達に負傷者が続出した。
しかし四十対一と言う数の優位と、主力の三人が大鹿との戦闘を事前に見知って居た事。
なにより突進する大鹿に対し、槍が圧倒的に相性が良かった事が重なり、雑種達は山田の手を借りる事無く勝利を手にする事が出来たのだ。
ハラハラしながら大鹿との戦いを見守っていた山田も、安堵のため息を盛大に吐き出した。
そして怪我の手当ても忘れ、喜び散らかす彼女達を落ち着かせようと近づくと、それに気づいたウルカが飛んでくる。
「お、お肉!ヤマダお肉!」
「ん?」
先ずは褒めようと伸ばした山田の手が、服を伸びる程引っ張りながら訴える彼女の声で止まった。
「お肉仕留めた、どうする?たべる?」
どうやら彼女達の熱意は既に勝利の余韻を通り抜け、美味しいお肉へと移っていたらしい。
興奮した様に叫ぶウルカに続き、他の雑種達もお肉を連呼し大鹿に群がって行く。
「ヤバイ!コイツ肉すぎる!」
「食うの?!食べるの?!」
「だめ、先ずは血抜き」
そして山田が何をするまでもなく経験者ネコロの指揮の下、大鹿が木に吊るされ血抜きが行われていた。
なんの躊躇いも無く中層で血抜きを始めた雑種達に呆れつつも、山田には彼女達を注意する事は出来なかった。
(本当の飢餓知らない俺には何かを言う資格は・・・無い)
などと山田は雑種達の食への欲求を、今まで飢えてきた所為だとシミジミとそう思ったが、実はそんな事は無い。
原因はどっかの誰かが、望むままに美味しい食事を与えるものだから、彼女達がすっかり食いしん坊になっただけなのだ。
人は知り得てこそ欲を知る生き物である。
しかしそんな事を知らない山田は彼女達への指示を、はしゃぐ前にせめて怪我の手当てをする様お願いするに留めるのだった。
その後ハイテンションな彼女達は、落ち着き無く大鹿の周囲をうろつき回り、血に誘われやって来る魔獣達を迎え撃った。
肉を取られまいとする彼女達の熱意は凄まじく、血に惹かれてやって来た餓狼王四号を蹴散らし、おかわりで現れた肉、猪に襲い掛かるとその身を吊るした。
それ以上の大物が出なかった事も幸し、彼女達はその後も、多数の魔獣を血の海に沈めて行った。
こうして中層での狩は成功を収め、山田家のメイン狩場は、中層にその場を移す事になったのだった。




