26 大事な事は目を見て話せ
その後も狩りは順調に続き、街へ引き上げる頃になると、新人達九人はタイマンでハイエナを降し、補助組の六人も三匹程度なら一人で処理できる程度まで成長した。
そろそろ時間も時間なので、本日も沢山の素材と大量の木材を抱え、街へと向かう。
家に帰る雑種達と分かれ、山田は換金や買い物をを行う。今日までに稼いだお金で、二本の剣を購入。タイアーとシープアあたりに持たせる事にする。
雑踏の中、買い物を済ませた山田は、街中をスラム目指して歩いている。そんな彼に、背後から近づく怪しい人影があった。
「や、やぁ」
気まずそうな表情で、探る様な挨拶をしつつ、山田の前にシャジィルが現れた。
(・・・もう会いにきたのか)
一服盛ろうとした訳だし、暫く様子でも見るかと思ったが、結構早めの再会であった。
昨日の今日で、良くも顔を出せたものだと山田としても呆れてしまう。面の皮的な意味でも薬物的な意味でも、彼女は中々にタフらしい。
しかし警戒すべき点は有るが、山田にとっては兎も角、ウルカ達にとって有益な存在なので、穏便に事を運ぶ方針を山田は選んだ。
「昨日は随分早く出来上がって居たが、酒は弱いのか」
「あー、いや・・・何時もは結構いけるんだけどねぇ、酒が合わなかったかな」
山田がはぐらかして昨夜の事を聞くと、シャジィルはほっとした様に返事を返すと、内心でほくそ笑んだ。
(これは・・・薬の事は知らないようだねぇ)
彼女は今のやり取りで、悪事が露見して無いと判断すると、途端に馴れ馴れしい態度で接し始める。
「しかし黙って居なくなるなんて、ちょっとマナーがなって無いねぇ」
「帰る時に言ったが・・・酔ってたから覚えてないのか」
「あぁ、そう、かもしれないね」
シャジィルは薬の所為で全然記憶が無いので、ここは話を合わせてやり過ごす。
(だがこれは良い傾向だよ・・・あたしの事を全然怪しんじゃいない」
どうも昨日は間違えて自分で服用してしまった様だが、逆に言えば致命的な失敗には至っていない。ならば再度の挑戦が可能であり、次こそは上手くやってみせる自信が彼女にはあった。
「昨日は早々に潰れちまったみたいで悪かったね。今日こそ一発あっいや、一杯つきあっておくれよ」
そう言いながら、昨日と同じ様に山田の肩に腕を回すが、その腕が山田の手によって止められる。
「昨日付き合ったろ、酒は苦手なんだよ」
山田は首を横に振りながら言い放つと、シャジィルの腕を押し返し踵を返す。
「じゃ俺は帰らせてもらうよ」
「ちょ、ちょっと待ちなよ!」
慌ててシャジィルは山田の前に回り込むと、その両肩に手を置いて彼の足を止める。
「別に酒じゃなくても、あれだ、えー、飯!。そう一緒に食事とかどうだい」
「食事は家で取る決まりだから」
山田は勝手な家訓をでっち上げると、シャジィルの腕を押し退け家路を急いだ。
しかし、そんな取り付く島もない態度にも諦めきれないシャジィルは、しつこいおっさんの様に、山田へのチョッカイを止めなかった。
それ処か業を煮やし、セクハラ紛いの強引なお誘いへと変わっていく始末だった。
「そう言わずにさぁ・・・なぁいいだろぉ」
そう言いながらシャジィルは、正面から山田に抱き着いてくる。顔におっぱいが当たり、背中に回された腕が円を描きながら、さわさわと彼の背中を撫でさする。
(人目も気にせず街中で・・・痴女なんだがコイツ)
別に山田は、痴女の人に偏見が有る訳では無いが、おそらく周囲からは自分も同じ様な目で見られているであろう事実が、少し悲しだけかった。
そんな悲しみなど微塵も感じてないだろうシャジィルは、山田が呆れて反応しない事をいい事に、更に行為をエスカレートさせていく。
「もうわかってるだろ、あたしはあんたと仲良くしたいんだよ。あんただって満更でもないんだろぅ・・・だからさぁ」
背中の腕が腰をなぞり下がり続け、遂にはその下のお尻まで到達すると、そのお尻を堪能するように揉み始めた。
(おいおい、男のお尻とか誰得なんだよ・・・)
山田はそう考えたが、揉んでるシャジィルが楽しいので問題はなかった。
「さぁ、そろそろ向かおうじゃなか、あたし達の愛の巣へさぁ」
無抵抗を同意と受け取った痴女は、山田を巣穴へ引きずり込もうと、移動を促し始める。
しかし、流石にこれ以上は付き合い切れなくなった山田の両手が、シャジィルの頭部へと伸びていく。
伸ばされた腕は、鼻息の荒いシャジィルの顔を通り過ぎると、その頭部に生えている牛角をムンズと握りしめた。
「お、人間の癖にマニアックなプレイをするじゃ無いか。どうだい、どうせなら場所をかがががっづだぁだだだ!痛いって!ほんとに痛いって!」
喜色を浮かべたシャジィルだが、山田がシャジィルの頭蓋を分離させるべく左右に角を引っ張ってみせると、途端に悲鳴を上げて頭を抱えるのだった。
「ちゃんとしたプレイの仕方を知らないなら、やめなぁ!」
その後、ようやく解放された彼女は痛む頭を左右から押さえ、しゃがみ込んだままに怒鳴っていた。
「プレイ自体知らんわ。で、結局何がしたいんだお前は」
そんな彼女を見下ろし、いい加減周囲から向けられる好奇の視線に耐え兼ね、その目的を問いただす山田。
「決まってるじゃないか。あんたとやりたいんだよ」
「・・・」
そして告げられた事実は、単なる性への欲望で、思わず山田も閉口してしまう。
「あ、もちろん子作りの方」
山田の無言を勘違いしたシャジィルから、要らん補足が入り、ようやく山田も口を開く。
「・・・なんでまた」
「強いからさ。それをあたしの雌が求めてる」
「・・・」
「あぁ心配は要らないよ、身体だけ貸してくれればいいから。取り合えず一晩100万でどうだい。オプションとしでででっなんで!いだだだだ!」
角開きを再開すると、山田に角を握られたままのシャジィルが、地面に倒れ込み痛みの余り足をバタつかせた。
「あの子達の前でそんな事言ったら、この角引っこ抜くから」
万が一雑種の子達が、一晩幾らなんて商売を覚えたら大変なので、この牛には事の重要性を分かって貰うべく、シッカリ脅しを掛けておく。
「わ、わかったから、あんたはもう角に触らないでおくれよ」
解放され、目元を潤ませ距離を取った彼女は、最終的に頬を膨らませ山田を睨みつけると。
「まったく、折角こんないい女が誘ってんのにさ!ロリだかホモだか知らないど、おぼえてなよ!」
言い放ちシャジィルは駆け出したが、代わりに道行く人々の足が止まった。今まで横目で見る程度だった視線が、突き刺さる程の鋭さをもって、山田に注がれた。
しかしそれも一瞬の事で、次の瞬間には何事も無かったように、人々は動きだし街には平和が戻って来る・・・だが平和の戻らない者が居た。
能力の高さ故に、通常であれば気付かない一瞬を捉えてしまった山田。彼はあの瞬間、人々の視線の動きを、変化を知覚し、その中に込められた意味にまで辿り着いてしまった。
ロリなの?ホモなの?どっちなの? 山田へ刺さった周囲の視線は、確かにそう問い掛けていた。実際には完全に被害妄想なのだが、彼がそう思ってしまった以上、それは事実となり、その心に鋭い刃となって突き刺る。
そして異世界に来て、最大のダメージを受けた彼の精神の奥底で、見えない何かが音を響かせ砕け散る。破片となって散っていく。
その粉々になった破片から、それが山田のなにを形作っていたのか最早分からない。しかし一つだけ、確実に分かり得る事実もあった。
この日彼は、言葉に出来ない何か大切な物を、失ってしまったのだ。
その日余りにも辛い事があった彼は、失意のまま帰宅し、失意のまま食事を取ると、失意のままに不貞寝した。
「よく考えたら、見知らぬ他人に誤解された所で、どうでもいいか」
朝。ぐっすり眠って目覚めた彼はすっかり復調すると、朝食時ちゃぶ台を囲む雑種達の心配そうな視線に気付いた。俺またヘマしたな、下らない事でみんなを心配さた自分に呆れると、朝食後、安心させる為に全員の頭を撫でて回った。
「もう大丈夫なんですか?」
ベアーネが心配そうに寄り添って来るので、そっと頭を撫でる。
「すまない、つまらない事で悩んでたみたいだ」
今考えると実際しょうも無い事だった、少なくともこの子達を心配させる価値が無い事は確かだ。
気持ちを切り替えると、新たに選抜した雑種達を加え、山田は何時ものようにお仕事へと出かけたのだった。
一連の準備を熟し樹海に着くと、タイアーとシープアへ剣の支給をおこなう。
「俺の剣、りっぱだろ」
「ひゃーカチカチだよー」
嬉しそうに自らの剣を称賛する二人。棍棒に比べ立派でカチカチに硬い金属の剣を掲げ、随分楽しそうにはしゃいでいる。
しかしその様子を羨ましそうに見つめる他の子が目に入と、子供に不便な思いをさせている不甲斐無さに、山田は溜息が止まらなかった。
(何時か全員に、剣と鎧を着せて上げよう・・・)
危険作業に従事させた責任も有るからと、心密かにそう思う山田だった。
全雑種強化プロジェクト三日目を始める前に、パーティーの再編成を行った。
ウルカ、ベアーネ、ネコロのパーティーに、先日から参加している九人を振り分け、それぞれ四人パーティーとする。
新たにタイアーとシープアをリーダーに就け、二つのパーティーを作ると、補助二人、新人三人を加え、六人パーティーを二つ作る。
今日はこの五つのパーティー。二十四人+山田が、各個に樹海を探索する事になる。
それはつまり、広範囲に散開した五つのパーティーの間を、山田が全力で行き来する仕事が始まると言う事だった。
早速笛の音に呼ばれ、辿り着いた先には、既に生きている魔獣は存在しなかった。
「ヤマダ、もう終わったぞ」
この班のリーダー、虎の子タイアーが笑顔で近寄って来ると、そのまま頭を差し出して来る。
山田もすぐさま手を伸ばすと、その頭を撫で始めた。やっぱ大きい子の頭を撫でるのは、小さい子とは違った感触がある。言うなれば、大型犬と小型犬の違いといった所だ。
遠慮無くその頭を撫でると、んぅ~と喉を慣らし、そのままギュッと抱き着いて来る。
タイアーは初日の勘違い以来、合成時に抱き着くようになった。本人曰く「この方が効果が高い」との事だが、完全に勘違いだと山田は知っている。
しかしスポーツ業界でも、心理面が成績に影響する事は常識だ。プラシーボ効果で彼女達に良い影響が有るかも知れないと、特に指摘の類は行わない事にしていた。
「はい、終わり」
合成が終わったので肩に手を当て、声と共に引き離そうとすると思いの外強い抵抗があった。
「ほんとか、やたら早かったぞ!手を抜いたりして無いよな」
そう言うとしがみ付く腕に力を込め、放されまいと抗いだした。合成の全容を知らない彼女からしたら、山田がいい加減な仕事をしてないか不安らしく、必死にグイグイしがみ付いてくる。
(自分の能力に関する事だからな、そりゃ必死にもなるか・・・)
凄くお腹が痛いので病院へ行ったら、医者が聴診器を当てただけで「ただの食あたりです」なんて言われた日には、患者としてはもっとキチンと調べろと言いたくなるだろう。
しかし合成は凄く底の浅いスキルなのだ。失敗なや見落としなど起こり得ない程、底が浅すぎるスキルなのだ。
タイアーが心配している様の事は起こり得ない・・・が、不安に思うのももっともなので、医者に倣って優しく説明する事にする。
ここでの説明が悪いと訴えられる。以前そんなニュースを見た事の有る山田は、彼女の頬に手を添え此方を向かせると、しっかり目を見て説明を始めた。
適当に理由を付けて山田に抱き着いて居たタイアーは、突然の山田の行動に目を見開いて驚いた。強引に顔を引き寄せられたと思うと、彼の顔が間近に有る。
キスでもされるかとドキドキする中、合成に付いての説明が始まったが、内心穏やかでは無い今の彼女では、全然頭に入って来ない。
真っ赤な顔で殆どを聞き流す中、最後の言葉だけは彼女の心に留まる事に成功した。
―――合成はきちんと成功した。だから・・・俺を信用してくれ、タイアー」
「・・・・・・うん、信じる」
真摯な瞳でそう告げられたタイアーは、潤んだ瞳で山田を見つめ、吐息と共に囁いた。
頭では何言ってるのか分からなかったが、信じろと名前を呼んでくれるのなら、どんな事でも信じよう。タイアーの心はそう決めた。
最後に一度、彼の胸に顔を寄せ頬ずりを落とすと、その身を翻し仲間たちの下へ駆け出していく。
こうして患者は医者のインフォームド・コンセントに納得し、ようやくその場を後にしたのだった。
しかしここには残り五人の雑種が合成待ちしていて、この光景を食い入るように見つめていた。
その中から次は私の番だと患者が歩み出ると、ガチガチに緊張し期待に顔を真っ赤に染めて口を開く。
「よ、よろしくお願いしまあす!」
その後、タイアーの言う「この方が効果が高い」を真に受けたらしいこの子も、当然の様に山田に抱き着いて合成を受け、当然の様に合成に疑問を呈し、インフォームド・コンセントへの流れとなるのだった。
この日の探索の結果、探索できる戦力が大分充実してきた。
既に五つのパーティーの二十四人が、表層で危険な目に合う事は無いと言える。と言うか既に過剰戦力で、獲物の数が不足している程だ。
武器さえ揃えば家に残っている子達も組み込んで、十パーティーでの編成も可能なるのだが・・・その武器が無い。
(雇い主としては、備品の準備位きちんと行いたいが。しかし表層の稼ぎじゃな・・・)
こうして表層での収益を考慮し、明日辺り資金調達のも含め、山田は中層への挑戦も視野に入れる事にしたのだった
雑種はちょろいんよ。




