第八話 愛斗のモテ期
保健医の一件から教室に戻った愛斗、麗花、詩織は帰り支度をしていた。
麗花と詩織は、泉が愛斗を誘惑したおかげで不機嫌だった。
麗花は、「何故、保健医は愛くんを誘惑するの。それに愛くんのこと何故、知っているのだろう」と考えていた。
詩織は、「これは、立花社長の仕業かも、ただ、同じ立花だった。親戚かしら」と思っていた。
愛斗は、「二人が不機嫌だったため、どうしたら、いいのか」と戸惑っていた。
すると、美香も教室に戻ってきて「さぁ、帰りましょう」と話し、三人と詩織は一緒に教室を出た。
四人が教室を出たあと小泉京香も教室に戻ってきた。京香も帰り支度をして教室を出たのだった。
四人が校門の前まで来ると大騒ぎになっていた。
校門で、一人の女の子がいたからだ。その女の子は、読者モデルのアヤカだった。
アヤカは、現在19歳の女子大生である。中高生にも人気で茶髪ストレートなロングヘアの髪型である。モデルスタイルのスレンダータイプの女の子だった。
まわりは、なんでこんなところにいるんだろうと思っていた。
声をかけようとした人もいたが、アヤカに睨まれて雰囲気的に誰もが声をかけづらい状態だった。
「なんの騒ぎなんだろう」と美香は言った。麗花も「なんだろうね」と言った。
詩織は、「あっ、アヤカ」と思った。
そう、詩織とアヤカは、エイアイケーの取引先会合パーティーで愛斗と会っていたのだ。
愛斗は全然、覚えていなかった。アヤカは、愛斗を見つけた。
すると、「愛斗君、みぃ―つけた」と叫び愛斗のところに走ってやって来た。
アヤカは、愛斗に抱きつき「会いたかった」と声を出した。
愛斗は吃驚した。麗花と詩織は目を丸くして驚いていた。
「愛斗くん、凄く会いたかったの」と言って、いきなり愛斗の唇にキスをした。
愛斗は、「何ごと」と吃驚して固まってしまった。
まわりは、「えー」と大騒ぎになった。クラスメイトの男子も「また、神崎愛斗か」と批判の嵐だった。
詩織は、「はっ」と我に帰り、「いったい、何しているのよ」と愛斗をアヤカから離して、愛斗とアヤカの間に入った。
「アヤカ、何やっているのよ」と詩織は言った。
麗花も愛斗も、ショックで固まっていた。
「別にいいんじゃない。キスぐらい。あなたには関係ないわ。これは愛斗くんと私の問題なの」とアヤカは詩織に言った。
「なんですって」と詩織は言った。
すると、「こら、校門の前て何やっている」と生徒指導の先生が叫んでいた。
「なんか、注意されそうだから、私は行きますね。それじゃ、またね。愛斗くん」とアヤカは去って行った。
このとき、後ろの方で小泉京香も見ていた。
「今度は、読者モデルのアヤカが神崎愛斗に迫ったの。何故なの」
「神崎くんがこんなに女の子にモテるなんて、イケメンでもないのに。彼は、どちらかと言うとキモいよね」と思いながら、愛斗には何かあると疑っていたのだった。
美香は、「一体、なんなのよ。さぁ、帰ろう」と麗花と愛斗に声をかけた。
詩織は、「私は、こっちだから」と言って三人とは逆の方へ歩き別れた。
愛斗は、まだキスの感触が残っていてボーとしていた。
麗花は、たまらず叫んだ。「愛くんのバカぁ」と言って愛斗にビンタして走って行ってしまった。
愛斗は、「えぇ―、なんで」と言って、ピリピリしている頬を手で抑えると美香は「愛くん、無防備すぎるからよ」と言って美香も行ってしまった。
麗花は自宅の前まで帰ってきた。家に入ろうとしたところ、買い物から帰ってきたアンナと鉢合わせになった。
「あら、麗花ちゃん」とアンナが声をかけると麗花は黙っていた。
「どうしたの」とアンナが聞くと麗花は泣き出し、「あぁ―ん、アンナさん」と叫びアンナに抱きついた。
「どうしたの、麗花ちゃん。また、愛斗になんかあったの」と聞いた。
「アンナさん」と麗花は声を出していた。
「少し、落ち着こう。ちょっと、何処か喫茶店にでも入ろうか」とアンナが言うと「うん」と麗花は答えた。
二人は、喫茶店に入って、「すいません。コーヒーを二つ」とアンナは注文した。定員は「は―い」と答えた。
だが、定員は委員長の小泉京香だった。この店の娘だったのだ。
学校から帰って、直ぐ、店を手伝っていた。
京香は、お客さんを見て驚き「きゅっ」と後ろ向きになり「何故、神崎麗花が」と思った。「お父さん、ちょっとお願い」と言った。
京香は「何か、面白い話しが聞けるかも」と思って、こっそり、麗花の後ろの席に座った。そして、麗花に京香かいることがバレないようにお手拭きを折り始め手作業をやっているそぶりをしたのだった。
アンナは「どうしたの」と聞くと麗花は、「実は…」と今までの事を全て話した。
話しを聞いたアンナは、「これは、また、俊介さんの仕業ね。余計なことを」と思った。
アンナは少し間をおいて、「ねぇ、麗花ちゃん。本当の気持ちを正直に教えて」と話し出した。
「本当の気持ちって、アンナさん」
「麗花ちゃんは、愛斗に幼馴染みと言ったけど、今も単なる幼馴染みという気持ちなの」と聞いた。
麗花は少し考えて、たんたんと答えた。
「アンナさん、私ね最初はやっぱり幼馴染みなのかなと思っていたの」
「だけど、今回のことがあって、私、すごくヤキモチをやいてしまって、はっきりと自分の気持ちがわかったの」
「自分の気持ちって」とアンナが再度、聞いた。
「あぁ、私、愛くんがすごく大好きなんだなと、愛くんに恋しているんだなと思ったの」と麗花が答えた。
「そう、麗花ちゃん、はっきりとわかったのね」
「うん、愛くんは、別にイケメンとかではないから、女の子にモテないと思っていたところもあった」
「愛くんを好きになるとしたら私ぐらいかなと安心感もあったかもしれない。だから、このままでもいいかなぁと思っていたの」と麗花は言った。
アンナは、「麗花ちゃん、愛斗のどういうところが好き」と聞いた。
「う―ん、まずは、愛くんはとても可愛いの。いつも、こちゃこちゃ何かをやっている仕草とか、いつもの行動かしらね。直ぐ、構いたくなる」
「気持ちはわかるわ」とアンナも思った。
「それに愛くんは、いつも私のことを大事にしてくれて、何かと気にかけてくれているところかな。小さいころから変わらない。そんな優しい愛くんを大好きになったのかもしれない」と麗花は正直に答えた。
「今の話を聞いて、やっぱり私のお気に入りの麗花ちゃんだわ。私も正直に全部、話すわ」とアンナは言った。
「え、全部って、アンナさん。何のこと」
「麗花ちゃん、しっかり聞いてね。私の勤めている会社は知っているかしら」
「あまり、知らないけど、ただ、美香のお父さんのこと知ってそうだから。何か関係があるの」と麗花は聞いた。
「私、エイアイケーという会社に勤めているの」
「えー、アンナさん、エイアイケーの社員だったの。エイアイケーって、あのAIで有名な会社よね」
「そうよ、私は愛斗の専属秘書、愛斗は、エイアイケーを作った本人なのよ。だからトップであるCEOなの」とアンナは言った。
「えー、エイアイケーのトップって、アイトー・フランクスという人だったと思ったけど、有名だから私でも知っているわ」と麗花は驚いた。
「麗花ちゃん、紫乃さん知っているわよね」
「はい。紫乃おばさんですよね。アメリカで結婚した」
「そうよ、アメリカで紫乃・フランクスになったの。それで、愛斗は紫乃さん達の養子に入って、愛斗・フランクスになったの」
「あ―、だから、アイトー・フランクスなの」
「そうよ。愛斗は、とてもAIに興味があってね。AIチップを開発したの。アメリカでは天才アイトーとかAIオタクとか呼ばれていたわ。そして、エイアイケーを紫乃さん達と一緒に起業したのよ」とアンナは話した。
麗花も吃驚しながら「愛くん。すごかったんだね」とつぶやいた。
「私も、紫乃さんとは昔から付き合いがあって、小さい愛斗が来たころから可愛がっていてね。弟のように思っていたわ。なんせ、愛斗は可愛いから。麗花ちゃんと一緒よ」とアンナは話した。
「私の知らない愛くんという感じだけど、私にとっては、愛くんは愛くんだわ」と麗花は言うと
「そうね。麗花ちゃんは、そうだと思った。だけど、愛斗が日本に来ているということが世間にバレるととんでもないことがおきるの」
「どういうこと、アンナさん」
「多分、マスコミやらなんだかんだと、大騒ぎになると思うの。愛斗はあまり、表に出ないから。だから今は、隠しているの。普通の生活ができるようにね」
「そうだったのですか。あ、だから、詩織ちゃんやアヤカが愛くんを誘惑しようとしたの」
「そうかもしれないわね。本当の愛斗を知っているからね」とアンナが話すと麗花が決心した。
「私は、愛くんが大好き。私が愛くんを守る。私の愛くんだから」
と麗花ちゃんが言った。
「麗花ちゃんは、とても愛斗のことが好きなのは分かったわ。あとは、愛斗のほうね」
「どういうこと、アンナさん」
「最初、麗花ちゃんに幼馴染みと言われて、それに満足してしまったようなの」
「え、私は愛くんにとって、単なる幼馴染みということなの」
「いいえ、多分、愛斗は麗花ちゃんのことが好きだと思うけど、昔みたいの仲良くなれたから満足してしまったみたいね。麗花ちゃんと恋をしようと思えなくなってしまったみたい」
「えー。恋人同士になれないということ」
「わからない。元々、愛斗が日本に来たのは、次世代のAIチップを研究するため来たの。そのためには恋愛を経験することも一つの理由。それで、恋愛するなら麗花ちゃんと恋仲になりたいと思ってきたの」
「そういう理由で、日本に戻ってきたのね」
「でも、麗花ちゃんと恋仲になりたいというのは本気だと思う。この前も言っていたしね。だけど、どういう状態が恋仲なのか本人はわかっていないと思うの。だから、麗花ちゃんが教えてあげてね」
「はい、だけど、私、愛くんと恋人になれるかな」
「大丈夫よ。麗花ちゃんなら。私も協力するね」
「本当。ありがとうアンナさん。絶対、愛くんをおとすわ」と麗花は覚悟を決めた。
「私。麗花ちゃんが気に入っているから。妹ができるみたいでうれしい」
「アンナさん。私もお姉さんができたみたいで、うれしい」
「あ、そうだ、愛斗がアイトー・フランクスだということは秘密ね」
「はい。絶対、秘密にします」
「あとは、愛斗を攻略するだけね。麗花ちゃん。頑張ろう」とアンナは言った。
「はい。頑張ります」と麗花も元気がでた。
「あ、コーヒーも来たみたいね。飲んで帰ろう」とアンナが言って、コーヒーを飲みながら色々とアンナと麗花は小さかったころの愛斗について話していた。
コーヒーの飲み終わり、一緒に喫茶店を出て帰った。
後ろの席で、今までの話しを一部始終を聞いた京香は、「あの神崎愛斗がアイトー・フランクスだったなんて吃驚」と思った。
京香は、少し考えた。「これは、使える。神崎愛斗の弱みを握ったわ。神崎愛斗を私の言いなりにできるかも。アイトー・フランクスを小間使いにできるなんて、最高じゃない。ちょっかい出しちゃおう」と悪だくみを考えていた。
喫茶店から帰ってきたアンナと麗花は、家の前までくると母梨沙が庭の手入れをしていた。「あら、麗花にアンナさん、おかえり。一緒だったの」
「はい。麗花ちゃんとコーヒーを飲んでいました」
「ママ、アンナさんと色々と話しをしちゃった」
「ありがとうね。アンナさん」と梨沙はお礼を言った。
「いいえ、私も麗花ちゃんと話しができて楽しかったですし」とアンナは話した。
すると梨沙は思い出して「あっ、そういえば、来週、お姉ちゃんが帰って来るそうよ」と梨沙が言うと麗花は、「えぇ―」と叫んだ。
「あら、麗花ちゃん、お姉ちゃんがいたの」とアンナが言った。
「うん、とんでもない姉です」と話すと、アンナは、「とんでもない、お姉さんなの」と聞いた。
「うん。愛くんが危険、守らなきゃ」とだけ、麗花は答えた。
そのころ、美香の自宅では美香が「ねぇ、パパ、堂島詩織、アヤカ、立花泉はパパの仕業なの」と俊介に怒っていた。
「まぁ」
「なんで、そんなことするの」
「愛斗に恋愛させてあげようかな―、と思って」
「パパのバカッ、麗花がショックを受けて悲しんでいたじゃない」
「悪かったよ。まぁ、これも経験だし。なぁ、美香」
「パパのアホッ」と美香は怒鳴った。
美香は、麗花のことを考えながら心配していたのだった。