第ニ話 入学式
麗花は、愛斗と再会してすぐ、家に帰って、二階にある自分の部屋に入った。
それで、机の中から手紙を出して眺めていた。愛斗から貰った最後の手紙であった。
麗花はベットの上で壁に寄りかかり、枕を抱えて手紙を読み返していた。
「あぁ、ショック。愛くんのバカッ、普通、いきなり告白するぅ」
「パパから愛くんが帰ってくると聞いて、感動の再会を待ち望んでいたのに期待して損した」
「中学のときは、男の子から告白され続けてウンザリしていたのに愛くんも同じことをして。もうガッカリ」
「あのときは、愛くんのこと好きだったな。友達としてなのかな。でも、今の私は愛くんのどう思っているのだろう。単なる幼馴染、それとも、恋愛相手なの」とブツブツ言っていた。
すると、「ピンポン」と家のチャイムがなった。
玄関で、麗花の母である梨沙が出た。
玄関先の門で、アンナと愛斗が立っていた。
「あら、もしかして愛くん」と梨沙が声をかけた。
「はい。梨沙叔母さん」
「久しぶりねぇ、随分、大きくなって、そちらは」
「彼女は、僕を世話してくれるアンナです。アメリカに渡ってから、ずっと面倒を見てもらってて、お姉さんみたいな人です」
「そうなの」
「はい。私は、アンナ・ギルバートといいます。愛斗の世話を紫乃から頼まれました。宜しくお願いします」
「随分、日本語が上手なのね」
「ありがとうございます」
「さぁ、入ってください」と家に入った。
リビングに入ると、麗花の父である和人がいた。
「おぉ、やっときたな。愛くん。久しぶりだな。大きくなったな」
「はい」と愛斗は答えた。
「やぁ、アンナ、この前はどうも」
「はい。この前は挨拶だけでしたが、今後も宜しくお願いします」とアンナは答えた。
「おぉい。麗花。ちょっと、降りてきなさい」と和人は、叫んだ。
ドアの音が鳴り、階段から降りる音がした。
ガチャとドアが開き、麗花が入ってきた。
「なに、パパ」と言うと、はっと愛斗がいるのに気が付いた。
「ほら、仲が良かった。愛くんだよ」と和人は話すと、麗花は愛斗のことを睨みつけた。
「どうしたんだ。そんなに怖い顔して」と和人が話すと、
「すみません。さっき、家の玄関前で会ったんです。ちょっと、怒らせてしまって」
「そうなの、ほら、麗花」と梨沙が話したが、ふんと麗花は横を向いてしまった。
「仕方がないわね。ごめんね。愛くん」
「いいえ、多分、僕が悪いのだと思う」
「さぁ、愛斗、今日は挨拶だけにして、片付けがあるので帰りましょう」とアンナが言った。
「はい。それでは、今日はお暇させて頂きます」と言って、アンナと愛斗は帰った。
家に帰るとアンナは「くっくっくっ」と相変わらず笑っていた。
「そんなに笑うなよ、アンナ」
「だって、アイトー、笑えるよ」と話した。
アンナは、服を脱ぎ出し、「アイトー、私、シャワーを浴びてくるね」とアンナは言って、風呂場に行った。
すると、電話の音が鳴り、愛斗が電話にでたら妹の花蓮だった。
「もしもし、お兄ちゃん。無事、日本に着いたぁ」
「あぁ、着いたよ」
「ちゃんと片付けとかしているの」
「うん、これからやるよ。アンナに言われているからね」
「そうなんだ。そういえば、麗花ちゃんと会えた」と花蓮に言われたが愛斗は黙ってしまった。
「どうしたの」と花蓮が聞いたが、愛斗は「うぅ」と唸っていただけだった。
「なにかやったんでしょう。話してよ」と花蓮が言うと愛斗は、「実は」と言い事情を話した。
「バカね。お兄ちゃん。女の子の気持ち、全然、わかっていないよ。恋愛ゲームでいえば、死亡フラグだよ」
「なんで、死亡フラグなんだよ」
「じゃ、言い方を変えれば、好感度フラグは全クリア状態よ」
「えぇ、」
「思春期は難しいのよ」と花蓮は話したが、愛斗はわかっていなかった。
「あ、友達が来たから切るね。また、電話するね」と花蓮は電話を切った。
そうすると、アンナがシャワーを浴びて、風呂場から出て来た。
愛斗が「え」と声を出した。アンナは全裸でタオルを首に巻いているだけだった。
「な、な、なんで、素っ裸なんだよ」と愛斗は吃驚して叫んだ。
「なに、驚いているの。別にアイトーに見られても気にしないわ。姉弟みたいなものだから」
「僕が気にするよ。目のやり場に困るよ」と言いつつ、チラッと見ていた。
「アイトー、何気に見ているじゃない。男の子だからしょうがないけどね」とアンナは言って下着を着た。
「で、どうするの。麗花ちゃんのこと」
「どうも、こうも、ないよ。嫌われたみたいだし」
「まだ、わかんないでしょ。でも、会っていきなり告白はないわ」
「そうかな」
「そうよ、攻略したいんだったら少しずつよ」
「ん、考えてみるよ」
「さあ、食事にしましょう。何か作るから」とアンナは、キッチンに行った。
「簡単にスパゲッティにしちゃうね」とアンナは夕食を作っていた。
食事をした後、来日したばかりなので、愛斗は疲れて直ぐに寝てしまった。
翌日の朝、アンナに起こされた。「朝だよ、アイトー。予定が詰まっているから、直ぐに出るわよ」
「えぇ、もう」と急がされ、パンをかじって家を出た。
そして、連れて行かれたのは、日本エイアイケー本社だった。
受付嬢の案内で、愛斗達は社長室に入った。
すると、社長の立花俊介がいた。
「愛斗、元気か。久しぶり」
「俊介さん、ご無沙汰です」
「今日は、一日付き合ってもらうから」
「どおせ、こき使うのでしょう」
「今日は、会食と人と合うだけだよ。あと、アンナから聞いたぞ、日本で恋愛したいんだって。だったら、私に任せなさい。いっぱい、恋愛させてあげるよ」
「それは、いいから。俊介さんが言うとろくなことにならない気がするから」
「大丈夫だって、じゃ、行こう」と話した。
俊介の心の中では、「面白いことになりそうだ、散々、恋愛させてあげよう」と思っていた。
愛斗は、料亭に連れて行かれ、沢山の取引先と会い、引っ張りまわされた。
やっと解放され、夜遅く自宅に帰れたのだった。
「なんか、疲れたよ。アンナ」
「まだまだ、序の口ですよ。明日以降も予定が詰まってますよ」
「え―」と愛斗が言った。
散々、入学式の前日まで連れ回され忙しい毎日を送った。
「アイトー、明日は入学式ですね。準備はできていますか」
「散々、連れ回されて、それどころじゃなかったよ」
「ふっふ、そうだね。じゃ、風呂に入って。それとも、一緒に入る」
「いいから、じゃ、入ってくるよ」と風呂に入った。
愛斗は、湯船に浸かりながら思っていた。「麗花ちゃん。どうしているかな。忙しすぎて、全然、会えなかった。麗花ちゃんと恋ができたらいいな」とつぶやいたいた。
次の日の朝になり入学式の日になった。
制服に着替え、朝食を取っていると「アイトー、せっかくだから、麗花ちゃんと一緒に行けば」とアンナが言った。
「一緒に行ってくれるかな」
「誘ってみようよ。車で学校まで送るから」とアンナが言い、学校に行く準備を速攻でやってアンナと一緒に隣りへ行った。
「おはようございます」
「あら、アンナさん」と母の梨沙が出た。
「麗花ちゃん、いますか。一緒に学校まで送って行こうと思いまして」
「あら、ありがとうございます。麗花ぁ」と梨沙が大声で麗花を呼んだ。
「なに、ママ」
「アンナさんが、学校まで、送ってくれるそうよ。一緒に行けば」
「ん…、じゃ、ありがたく一緒に行きます。少し、待ってて。支度するから」と麗花は言って、部屋に戻った。
「アイトー、良かったね」とアンナが言うと愛斗はニッコリした。
少し待つと麗花が降りて来て、三人は車に乗った。
二人はお互い、何を話したらいいか分からず黙っていた。
「あらあら、二人ともどうしたの。久しぶりなんでしょ」とアンナが声かけても黙ったままだった。
少したって愛斗が「この前は、ごめん。会ってそうそう言うべきじゃなかった。でも、いい加減な気持ちで言ったわけではなく。また、昔みたいに仲良くなりたかったんだ。許してくれるかな」
「愛くん、この前は吃驚しただけだったから。まぁ、許してあげる。また、幼馴染から仲良くしましょう」
「ありがとう。麗花ちゃん。嬉しいよ」と言って小さい頃の感覚で愛斗は、麗花の手を握ってしまった。
麗花は「もう」と言って赤くなってしまった。
アンナは二人の様子を見て、笑顔で見守っていた。
「そろそろ、学校に着きますよ。少し、手前で下ろしますから、あとは、二人で歩いて行ってくだい」と言い、車を止めた。
車から降りた二人は、一緒に学校へ歩いて行った。
少し歩いていると、周りの生徒が麗花ちゃんをジロジロ見ていた。
小声で、「あの子、新入生」「凄く、可愛い子」「綺麗な子」「なんだ。あいつ」「あいつ、どっか行けよ」とか聞こえた。
「麗花ちゃん、目立つね」
「ほっといて、行きましょう」と言っている間に学校に着いた。
「これから、高校生だね。麗花ちゃん。宜しくね」
「そうね。宜しくね」と言って学校に入り、入学式を迎えた。
入学式は、体育館で行われた。
入口で資料が配布され、クラス替えの名簿が入っていた。
僕は、1年A組だった。麗花ちゃんはと見ると同じA組だった。
クラス毎に席が分かれていて、僕と麗花ちゃんはAクラス席の通路側に並んで座った。
周りからジロジロ見られた。やっぱり、麗花ちゃんは目立つのだろうと思った。
「麗花ちゃん、同じクラスだよ。良かった」
「そうね。良かったね。宜しくね」
「うん」と話しているうちに入学式が始まった。
校長先生の話しが終わり、壇上から降りてきた。
僕が座っている横の通路を横切る時に校長先生が僕と目があった。そのとき、先生はウィンクした。
「えっ」と小声を出してしまった。麗花ちゃんが「どうしたの」と聞いた。
「なんでもない」と答え、僕は思った「校長先生の配慮だと」
校長生先生は、女性で五十嵐先生だ。俊介さんの友人だと言っていた。
僕は、帰国子女の推薦枠で学校に入れてもらえたのだ。
麗花ちゃんと同じクラスになれたのも校長先生の配慮だと思った。
入学式が終わった。担任は中尾先生という気弱な感じの先生だった。
その場でホームルームが行われて、今日は解散となった。
すると、後ろから「麗花ぁ」と呼ぶ声が聞こえた。
麗花ちゃんが振り向くと親友の立花美香だった。
「麗花、また、一緒だね。しかも、クラスも一緒だね」
「美香、本当、嬉しいね」と両手で手を繋いで喜んでいた。
「ねぇ、麗花、珍しいね。男の子と一緒にいるなんて」
「あ、紹介するね。彼は愛斗くん。私の幼馴染で親戚なの。だから名字も同じ」
「あ、だから、男の子と一緒にいるのね。麗花は男の子を避けていたから、愛斗くん、宜しくね」
「はい、お願いします」
「麗花はね、凄くモテるのよ。しょっちゅう、男の子から告白されてね」と美香が話すと
「ちょっと、やめてよ」と麗花は言った。
愛斗が心配そうな顔をすると美香が
「うふふ、愛斗くん、そんなに心配しないで大丈夫よ。麗花、全部、断っていたから」と笑いながら話していた。
愛斗は、安心した顔をすると麗花が「愛くん、私は、軽薄そうな男の子なんて御免よ」と話した。
「ふうん、麗花は愛くんと呼んでいるんだ。私も愛くんと呼んでもいい」
「うん、いいよ、僕も美香ちゃんと呼んでいいかな」
「オッケーよ」と会話しながら三人は、学校を出て帰宅した。
入学式という一日が終わただのだった。