未来が見える少年の話
「明日は全国的な快晴ですが局地的に――」
ニュースの声が聞こえる。
テレビの向こう側では、にこにこと笑顔を浮かべたお姉さんが明日の天気を教えてくれている。
ただ僕は、そんなこと教えてもらわなくても分かってしまう。
僕は生まれつき未来が見えてしまう。
自分の未来だ。
いや、生まれつきというのは少し語弊があるかもしれない。
きっと生まれつきのものだか、この能力が特別なものだと知ってからそう長くない。
人間には当然備わっているものだと本気で思っていたのだ。
未来は見ようとする所まで見えてしまうが、あまり遠くの未来は見ないようにしている。
長く見てもせいぜい1週間程度だ。
なぜかって、自分の死ぬ時まで見えちゃったら怖いだろう?
未来が見えるのも楽ではない。
例えば今日だって、僕の元に神様らしき人が来ることが分かってしまっている。
もう一度言うが、神様だ。
僕はこれでも、未来を見た時はすごく驚いた。
もうすぐそこのドアから入ってくる。
ガチャりと音を立ててドアが開く。
そこには、当然未来を見た時まんまの、きっと誰もが想像するであろう優しそうな容姿をした神様がいた。
僕はあらかじめ用意していた折りたためるタイプの机に僕と向かい合う形で座るように促した。
神様が口にしたことも、未来を見た時に見たまんまだ。
この能力は私のものだから、返して欲しいと。
ここで僕が嫌がると神様は提案してくる。
1週間のみこの能力を返してもらうから、その後また話を聞くと言うものだ。見た通りの提案だ。
神様に嫌われると何をされるか分からないし、1週間分の未来はあらかじめ見ている。
1週間経てば返してくれるのだし、僕は快く能力を返した。
しつこいだろうが、ここまでまるっきり見たまんまだ。
神様は満足そうに帰っていった。
果たして、神様はどこに帰っていくのだろう。
能力を返して1日目。
今日は月曜日で、学校だ。
まあ別に学校でも、前に未来を見た通りなのだから問題ない。
2日目3日目も未来を見た時通りの日が続く。
しかし4日目。
今までは友達とのコミュニケーションの内容まで全て前の日に見ていたし、直前にもカンニングができたので、能力を返す時には何も思っていなかったが、1週間分のことを一言一句覚えておくなんて不可能だった。考えるべきだった。
僕はこの日から、実質的に初めて未来が分からない日が続くことになる。
それは僕にとって未知の世界だった。
人と話すのがこんなに難しいとは思わなかった。
喋りながら話題を考え、その時々に合った相槌を打つ。
1日過ごしただけでとても疲れてしまった。
しかしそれと同時にみんなはこんなに難しいことをやっているのかと思った。
素直にすごいと思った。そして少し羨ましいと思った。
ん?羨ましい?なぜ?
でももう終わる。
あと1日学校に行けば日曜日に能力を返してもらえる。
そして、未来の見えない僕の最後の学校が終わった。しかしその夜、今日話した元から仲の良い幼なじみから明日は何時集合にしようかという内容のメールが届いた。
そういえばそんな会話に適当な相槌を打ってしまった気がする。
あまり乗り気はなく断ろうかとも思ったが、土曜日さえ乗り切ればという気持ちでどうにか午後1時とメールを返すことができた。
待ち合わせ場所には10分前に着いた。
少し早かったと思ったがすぐに幼なじみはやってきた。
そういえばこうやってふたりで待ち合わせをしてどこかに行くのは初めてな気がする。
いわゆるデートと言うやつなのだろうか。
しかし今まで誘われることなんてなかったのに、なぜこのタイミングなのだろうか。
デートなどと考えていたら少し緊張してしまった。
これでは元々喋れないのが更に悪化してしまう。
そんなことを考えながらどうにか一生懸命話しているとあっという間に夕食が終わった。
とても疲れたはいたがそれ以上に充実感やそれに似た、上手く言い表せない気持ちに襲われた。
これで解散の予定だった。
確かそんなことをちょうど1週間前に見た気がする。
未来を見たことなどほとんど忘れてしまっていた。
そう、だからこそ今この時、初めて自分の見た未来に逆らおうとした。
もう少し話していたかった。
勇気を出して彼女を公園に誘うと、快く了解してくれた。よかった。
夜の公園は誰もいなく、明かりの弱い街灯の下にあったベンチにふたりで座る。
そこで僕はまた一生懸命に話題を出し、話を繋げようとする。
彼女は終始にこりと、優しい笑みを浮かべていた。
この時間がいつまでも続けばいいと思った。
とても楽しい時間だった。
日曜日になった。約束の日だ。
この1週間、僕はどうだっただろうか。
なにかとても長い夢を見ていたようだった。
ただただ疲れた記憶しかない。
いや、本当はもう分かっているはずだった。
僕が経験したこの1週間は、今までの人生と比べものにならないくらい充実していた。
とても楽しかった。
僕は未来が見えることが幸せなのだと思っていた。
しかし、そうじゃないのかもしれない。
確かに、未来が見えるのは便利で、人と話すことは疲れないし、雨に濡れることもないし、将来的に困ることもないのかもしれない。
でも、それでももう少し、未来の見えない、疲れて、とても充実している世界を、先の見えない世界を楽しむのも良いと思えた。
その日、部屋のドアを開けたのが母親だけだったことに、なんの不満もなかった。
さあ、明日はどんなの話をしようか。
最後まで読んでいただきありがとうございます
基本的には1週間に1回くらいのペースで投稿していこうと思っています
是非、感想やアドバイス等よろしくお願いします