4話
朝の学校への通学時間。
俺は学生カバンを片手にスマホを睨みつけながら登校していた。
その原因は昨夜、まるで夢のような出来事に遭遇してしまったからだ。
全身緑色の化け物にナイフで斬りつけられながら追いかけられた。 しかしそんな中、まるで御伽噺に出てくるような綺麗な女性に助けられた。
女性は指揮棒のような杖から不思議な力を使いモンスターを倒した。
ここまでだと俺の妄想が膨れ上がり見た明晰夢なのではないかと疑ったが、いつもの通学路とは別に昨夜モンスターに襲われた場所に足を運んでみると、女性が耳に着けていたガラスの靴の形をしたアクセサリーの片側が道に落ちていたのだ。
実物があるのであれば、昨夜起きた出来事はすべて本物で、あの綺麗な女性も俺が作り上げた妄想ではないと断言出来た。
そこで俺は近代のツールであるネットを使いあの女性が何者か調べる事にした。
当たり前だがただ『化け物の特徴』や『魔法使いの恰好をした女性』だけ調べても検索されるのはすべてアニメやゲームのキャラクター設定ばかりだ。
しかし、そんな中1つだけゲームやアニメに関係のないサイトを見つけた。
サイトの名前は『メルヘン』。
最近起こったオカルト的な出来事がまとめられているサイトだった。
サイトで記載されているものは『妖精』や『小人』。 他にも『妖怪』や『UAM』と言った伝説や幻となった生物を見たという情報が集められている。
その中でもトップに情報に載っていた物を見て、俺は道の真ん中で足を止めた。
「魔女の・・・シンデレラ?」
サイトには、御伽噺に出てくる魔女のような恰好をした美しい女性が真夜中の空を飛んでいるというものだった。
女性が飛んだ後には必ずガラスの破片のような粒子が飛び交い輝き、耳にはガラスの靴に模したピアスをしている事から『魔女のシンデレラ』と噂されているという。
「これだ・・・この人だ! 間違いない!!」
俺はポケットにしまっていたガラスの靴のアクセサリーを取り出す。
サイトに書かれてある情報と俺が昨夜見た女性の特徴が完全に一致している!
そして幻でも夢でもないという証拠まで俺の手元にある!
あれは夢なんかじゃなかった!
嬉しさのあまり身体を震わせ今にも拳を空へ上げたい気持ちを必死に抑える中、背中を誰かにトントンッと叩かれる。
「お、おはよう・・・ございます・・!」
後ろを振り返ってみると、そこにはクラスメイトであり学級委員長でもある灰野が立っていた。
今日も長い前髪を目が隠れるように垂れ隠しており、目の前にいるというのに挨拶が小声すぎて聞き取りづらい。
「おっす灰野! 珍しいな話しかけてくるなんて。 どした?」
灰野が俺に・・というか人に話かけるなんて俺からしてみればとても珍しい事だった。
教室にいてもずっと古そうな本を一日中見ているだけのイメージが強く友人もそれほど多いわけでもなさそうなのだ。
しかもこの小さい声のせいで話しかけられているかさえ認識できない為、こうやって面と向かって灰野と会話をする事さえ貴重な事だった。
「えっと・・その~・・・あの~・・」
灰野は話しかけてきたのはいいが一向に話題を切り出してくる様子がなく、しどろもどろとしている。
「そういえば灰野と通学時に合うのは初めてだな。 いつもこの時間帯なのか?」
「え? う、ううん。 きょ、今日はちょっと探しものしてて・・・。」
「探し物? 何か落としたのか?」
「う、うん・・ちょっと・・」
灰野は長い髪で隠れた右耳に触れながら顔を逸らす。
一緒に探そうかと提案をしてみたが、灰野は高速に顔を横に振りながら「あわわっ!」と謎の声を発した。
「だ、大丈夫! そう大したものでもないから!!」
「そ、そうか?」
「うん・・あっ! ご、ごめんね呼び止めて! 私少し用事があるから先に行くね! ・・その、また教室で!」
「お、おぉ・・。」
そのまま灰野は学生カバンをラグビーボールのような持ち方で学校へと走って行った。 普段体育でもあまり目立たない為か、目の前で走っていった灰野が実は足が速い事を俺はこの時初めて知った。
◇ ◆ ◇ ◆
(見つけた―――。)
昼間までは賑やかだった学校は下校時間となり、残っているのは教師と部活動を頑張る生徒達のみ。
夕暮れの日差しが教室に射し込み少し冷たい心地いい風が吹く。
(見つけた―――ようやく、見つけた!!)
誰もいない教室の中、そこには何かが教壇の前である生徒の席を一点に見つめて立っていた。
(間違えるはずがない。 見間違えるはずがない!!)
何かは悪臭のする涎を垂らしながら机に近づく。
(これで俺は幸せになれる。 お前を喰らえば・・・俺が【魔王】になれる!!)
涎が垂れる口角を限界まで上げ、何かは手に持っていた刃物を机に刺し込んだ。
(さァ・・・物語を始めよう!)
誰もいないはずの教室で、ゲラゲラと何かは大声で笑い続けた。
しかし、その不気味な笑い声が聞こえていたのは、学校の外にいた前髪で目が隠れた1人の生徒だけだった。