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魔女のシンデレラ   作者: 黄田 望
4/5

3話


 ―――雄叫びが聞こえる。

 

 聞くだけで鳥肌がでるほど不気味で、心の底から湧き上がる嫌悪感で頭がおかしくなりそうだ。

 私はすぐに携帯で連絡をして、雄叫びが聞こえる場所へ方向転換した。

 

 これ以上、相手の思い通りにさせない為に。


 ◇ ◆ ◇ ◆


 頭が痛い。 

 目の前に現れたモンスターが急に雄叫びを上げたと思えば、咆哮の威力で3メートルは軽く吹き飛ばされた。


 「な、なんなんだよあれ・・・。」


 見た事もない不気味な生物の手にはナイフのような物を所持しており、赤い液体がついている。

 モンスターは「ギャハハッ!」と下品に笑いながらナイフに付着している液体を長い舌でなめた。

 そこで、俺は自分の腕の痛みを感じた。 見ると右腕に刃物で斬られたような跡がある。


 「まさか・・まさか最近出てる不審者っていうのは、あれの事か?!」


 モンスターは身震いをしながら顔を高揚させて興奮している。

 しかし、学校が言うにはナイフで切り付けられた学生は全員腕か足を軽く斬られただけの軽傷。 それならばこれ以上あのモンスターが襲い掛かってくることはないのではないか?

 そんな希望を抱いていたが、興奮状態のモンスターはまたも雄叫びを上げながら襲いかかってきたのだ。

 

 手に持つナイフを振り回しながら異常なスピードで近づいてくる。

 

 「はっや!?」


 何とか1度目の攻撃を避ける事が出来た物の、2撃目に振り下ろされた攻撃で左足を軽く斬りつけられてしまう。

 モンスターは斬りつけた際に付いた俺の血を高級な食べ物を眺めるように見つめると味わうようにその血を舌で舐めとり、幸せそうな表情をする。


 「おいおい・・まさか俺の血ってそんなに美味しいわけ? だから他の人より斬りつけてくるとか?」


 その言葉の意味を理解しているように、モンスターはもっと食べさせろと言わんばかりにナイフを振り回しながら接近してくる。


 「ふっざけんな!!」


 俺はモンスターに背を向けて全力で逃げる。

 このまま家に避難する事もできたが、あのまま家に逃げ込めば家族まで狙われかねない。

 それならばこのままモンスターから逃げ続けていれば騒ぎを聞きつけた誰かが通報してくれるはずだ。


 「―――へ?」


 しかし、そんな期待も一瞬で吹き飛ばされる。

 モンスターから、かなり離れるほど逃げ切る事が出来たが、モンスターは地面が吹き飛ぶ大ジャンプをして、あっという間に俺の真上まで飛んできた。

 最初何が起きたのか頭の整理が追い付かなかったが、モンスターと目が合った瞬間に相手が俺を殺そうとしている事に気が付いた。

 だがらというわけではないが、反射的に俺は走っていた方とは逆へ飛びモンスターの攻撃を回避する事に成功する。


 「くっそ!! なんなんだよお前は!」


 急にナイフで斬りつけられたと思えば今度は完全に殺しにかかってくるモンスターにサトルは叫びあげる。

 だがそれは不安をかき消す為に精一杯に悲鳴のような物だ。 抵抗する為の物でも逃げ切れる根拠がある自信から出た言葉ではない。

 すでに異常な身体能力を見せられ足は震え上げり立ち上がる事が出来ない。

 今、この瞬間でも殺そうとしてくるモンスターを見て不安と絶望が押し寄せてくる。


 (くそっ! くそくそくそくそくそ!!)


 モンスターは最初の攻撃を避けられ少し不満そうだったが、動けなくなっている獲物を見て不気味に笑った。

 一歩、また一歩とまるで追い詰めていくようにゆっくりとサトルに近づいていき、ついにモンスターの攻撃範囲まで近づかれた。

 モンスターはナイフを持つ右腕を高く上げ、サトルを見下ろす。


 「!! ちっくしょー!!」


 殺される!!

 そう諦めた時だ。 

 モンスターが持ち上げるナイフの更に真上から、こちらに向かって飛んでくるものが見えた。

 速度を落とさず真っ直ぐに飛んでくるそれは、そのままモンスターに向かって突進した。

 

 落ちてきた威力で周辺のアスファルトは吹き飛んでいき、すぐ近くにいたサトルも地面に転がりながら吹き飛んでいった。


 「ゲホッ! こ、今度はなんだ!!」


 次から次へと理解できない出来事に巻き込まれるサトルは舞い上がる砂ぼこりに咳き込みながら立ち上がる。 どうやらさっきの落下してきた衝撃で恐怖心が吹き飛んだらしい。


 「大丈夫ですか?」


 砂ぼこりがまだ舞い上がっている中、女性の声が聞こえた。

 

 「え・・あの・・」

 「危ない所でしたが、あとは私に任せて逃げてください。」


 舞い上がっていた砂ぼこりが徐々に晴れ、声が聞こえる女性の姿が見えてきた。

 

 それはまるで御伽噺の世界を見ているように登場する魔法使いのような大きな黒帽子を被ってマントを羽織り、月光で輝く長髪の黒髪と耳に付けてるガラスの靴のようなアクセサリーをつけた女性が立っていた。


 「ギャラァァアアアア!?」


 突然現れた綺麗な女性に見惚れていると、サトルと同様に吹き飛ばされていたモンスターが咆哮を上げ、こちらに向かって走り出してきた。


 「や、やばい!! 逃げましょう! あんな化け物相手にしてたら殺されちまう!!」


 俺は女性の手を取り逃げようとしたが、女性はその場から動こうとせず優しく手をほどいた。


 「ご心配ありがとうございます。 でも大丈夫。 私はあれを倒す為にここに来ましたので。」


 ・・・は? 倒す? あの化け物を?

 何をバカな事をと思ったが、女性は俺の顔を見て微笑むと足を一歩前に踏み出して走り向かってくる化け物と向かい合う。


 「【ガラスの結晶 輝く破片 集結して創る形は刃と化す】」


 女性は右手に持つ指揮棒のような杖をモンスターに向けながら囁くように何かを呟く。

 そしてモンスターが女性に斬りつけられる範囲まで近づきナイフを振り上げた瞬間、女性の杖から光輝く粒子のような物が一点に集中しているのが見えた。


 「【貫け ビビデ バビデ ブー】」


 言い終えた直後、ナイフを振り下ろそうとしたモンスターの腹部にガラスで創られた大きな剣のような物が貫いていた。


 「アァァアアァァアアア!?」


 空気が揺れるような断末魔のような悲鳴を上げたモンスターは、力尽きるように地面に倒れ込む。 すると、倒れたモンスターは一瞬で灰と化すと赤い石のような物だけが残った。


 「たお・・した?」


 俺は一体全体何が起きているのか理解できず地面に座り込んで、今も目の前に立つ女性を見上げていた。

 女性は灰と化したモンスターから残った赤い石を取り上げると当たり前のようにマントの懐へ入れる。


 「・・・さて、大丈夫ですか?」


 女性は石を回収すると座り込んでいる俺の元へ近づき視線を合わせるようにしゃがみ込む。


 「は・・はい。」


 俺は空返事に答えると女性は安心したように微笑んだ。

 

 (まって・・めっっっっちゃ美人!!)


 本当に、まるで御伽噺にでてくるお姫様がいるのならこの人だと断言できる美しさだ。

 マントの上からでも分かるスタイルの良さ、風で流れてくる女性のいい匂い、そしてこの美貌!

 俺の理想とするすべての条件が揃っている!!


 「あ、あの!!」


 俺は咄嗟に女性の両手を取り顔を限界まで近づける。

 女性は突然手を握られた事で「ふぇ!?」と驚いた様子で小さく声を上げた。


 「助けてくれてありがとうございます! よろしければ貴女のお名前を教えて下さい!!」


 真剣な声と眼差しで聞くと女性は握られた手と俺の顔を何度も見返しては戸惑って視線を左右に動かす。

 一見、大学生くらいの人だが、中学生の男子に手を取られ名前を聞かれただけで動揺するのを見て男性に対する耐性が少ないと見た。

 

 「えっと・・その・・っ!」

 「やましい気持ちなど一切ありませんが! 助けてくれたお礼に今度俺とお食事でもいかがでしょうか!! 今すぐ返事が無理でも連絡先だけでも教えてください!!」

 「えぇ~と・・えぇ~~~と~~~~ッ!!」


 攻めまくる度に狼狽える女性はとても可愛らしく、その姿を見ていると俺と同じくらいの少女のようにも見える。

 これならあともう一押し、もう一押しすれば連絡先だけでも教えてくれるかも!!


 「ぜひ―――!!」

 「ご、ごめんなさ~~~いッ!!!」


 最後にもう一押し連絡先を聞こうとした瞬間、女性は先ほどモンスターに向けていた指揮棒のような杖を俺に向けた。


 「【ビビデ バビデ ブー】!!」


 女性がそう言うと、指揮棒の先から真っ白な光が差し込み、あまりの眩しさに俺は咄嗟に目を瞑る。

 すると急に眠気が襲い掛かり体の力が徐々に抜け始め座っている事さえ出来なくなった。

 地面に倒れ込むと眠気のせいで意識が遠くなって行く。


 「うっ・・・」

 「ほ、本当にごめんなさい・・。」


 女性が申し訳なさそうな表情をしながら地面に倒れ込む俺を見下ろす。


 「でも、()西()()を巻き込むわけには行かないから・・・」


 女性はその後、携帯を取り出すと誰かに連絡を取り始める。

 俺はそれを最後に、必死に踏ん張っていた意識が電池が切れたように途絶えた。

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