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魔女のシンデレラ   作者: 黄田 望
3/5

2話


 「サトル~。 コンビニ行ってアイス買ってきて~。」


 自分の部屋で漫画を読んでいた俺に3つ上の姉が風呂上りの様子で髪を拭きながら勝手に部屋に入ってきた。

 

 「・・ねぇちゃん。 部屋入ってくるならノックくらいしてくれよ。」

 「なに言ってんのよ。 アンタの部屋は私の部屋みたいなもんじゃない。」

 「じゃあ、ねぇちゃんの部屋は俺の部屋でもあるわけだ。」

 「なに言ってんのよバカ。 私の部屋は私の部屋に決まってんでしょ。」

 「理不尽にもほどがありませんか?」

 「っていうかそんな事どうでもいいの! 私今ものすごくアイスが食べたいからコンビニ行って買ってきて!」


 ベッドに寝転んでいる俺を蹴りつけながら頼み事をする姉に面倒くさい雰囲気をさらけ出す。


 「でも、もう夜中の23時まわってるんだぜ?」

 「だから?」

 

 何か問題でも? みたいに本当に理解できていない様子で姉は首を傾げる。


 「いや、ねぇちゃんの学校でも言われなかった? 22時以降は1人で夜道を出歩かないようにって。」

 「そうね。 そんな事も言ってたわね。」

 「でしょ?」

 「それじゃあ私みたいな可憐で美しい女が外に出るわけには余計ダメね。 じゃあアイスよろしく。」

 「待て待て待て待て。」


 当たり前のようにコンビニ行く事前提で部屋を後にしようとした姉を呼び止める。


 「何よ。 私はともかく男のアンタを襲う奴なんていないわよ。 それとも何? あんた自分で襲われるとか思ってるわけ? ちょっと自意識過剰すぎない?」

 「その言葉そのまま返してさしあげますが?!」

 「なんですって?!」


 夜中だというのに姉弟喧嘩(主に俺が殴られるだけ)が始まると、リビングから母親のお叱りを受けピタッと俺達は動きを止めた。


 「あんた・・・これだけ実の姉が頭下げて頼んでいるのにどうしても行こうとしないわけね?」

 「脅迫してるの間違いだと俺は思うけど?!」


 これ以上続けても無駄だと悟ったのか姉は「分かったわ。」と肩を落として部屋を出た。

 ようやく嵐が去ったと落ち着いてベッドに座った時、空いているドアの影に姉が覗き込む形でこっちを見ていた。


 「な、なに?」

 「本当にお姉ちゃんのお願いが聞けないのね?」

 「だから嫌だって言ってるでしょう。 もう少し早い時間だったら別によかったけど時間帯が時間だし。」


 時刻はすでに23時を回っている。 こんな時間にコンビニに行こうとは思わないし最近は夜の気温が下がった事もあり肌寒い外を出歩くのも嫌だ。


 「・・・そう。 わかったわ。」

 「そうそう。 いい加減アイスは諦めて今日は―――」

 「じゃあアンタのベッドの下に隠された本を今から母さんと父さんに預けてくるわ。」


 そう言って姉が背後から取り出したのは、友人から譲り受けて俺のベッドの下に隠していたグラビアアイドル写真集の本だった。


 「ちょっ?! いつの間に??!」

 「あんたが私のお願いを聞けないという事は私に逆らうという事。 いい? 姉に逆らえばどんな目に会うか、その身を持って知るがいいわぁあああああああ!!」

 「行きます! 行かせて頂きます! なんならアイス奢るからそれだけはやめてぇええええ!!」


 そうして、姉の頼み事(脅迫)により、俺はこの肌寒くなった外へ出かける事になった。


 

 ◇ ◆ ◇ ◆


 姉に脅迫されコンビニまでアイスを買いに来た俺は体を震わせながら帰路を歩いていた。


 「そもそもこの寒くなった時期にアイスとか馬鹿じゃないですかね?!」


 よく考えればこの時期に合わない買い物をさせられて、肌寒い外に出された怒りが今更ながら湧き上がってきた。


 「まず俺のコレクションをいつの間にベッドから盗んだんだあのバカ姉! 恥ずかしい! 姉に俺のタイプバレたの超恥ずかし!!」

 

 買い物に出る前、玄関前でニヤニヤと笑いながら「あんたこんなのがタイプなのねぇ~」と弱みを握った悪代官の顔を思い出して、これからずっと姉の言う事をきかなければならない状況に、人通りのない道の真ん中で頭を抱えて叫んでいた。

 そんな事をしていると冷たい風が流れ更に体が冷え込んできた為、あとの事は帰ってから考える事にした。


 「それにしても本当に寒くなったぁ。 秋なんて存在した? いきなり冬に突入したような―――」


 ブツブツと不満を声に出しながら歩いていると、背後に何か違和感を感じた、

 なんとなく歩いていた足を止め、一度背後を確認する。

 しかし、そこには人の姿などなかった。


 「・・・気のせい、か?」


 再び前を向いて歩き始める。 

 すると、俺の歩幅に合わせるように背後から人の足音が聞こえてくる。

 俺はもう一度後ろを振り返るが、やはり人の姿など何処にもなかった。 そして再び前を向いて歩き始めると、また誰か別の人の足音が聞こえてくる。 

 不気味に思えてきた俺は歩く速度を上げるが、足音は合わせるようについてくる。 いや、徐々に近づいてきているが聞き取れる。


 (まずい・・まずいまずいまずい! これってまさか!)


 昼間に学校で配られた不審者について書かれたプリントを思い出す。

 被害にあった学生は男女関係なく夜中に出歩いていた学生が手足にナイフのような物で斬りつけられている事を。


 (冗談じゃんねぇ! 何処のだれかも知らない奴に斬りつけられるなんて御免だ!!)


 家までの距離ももう少し進んだ角を曲がればすぐだ。 それならばと俺は購入したアイスを落とさないように強く握り閉めて全力で走りだす。 

 足音が走ってくる音も聞こえなくなり、急に走りだした事から諦めたのかと思い、角を曲がった直後、足に何かが躓き盛大に転んでしまう。


 「~~ッ! な、なんだ?」

 

 顔面から転んだせいで鼻から血が流れ出ているのを手で押さえながら顔を上げると、そこに何かがいた。


 食べ物を見つけた獣のように涎を垂らしながら大きな目を見開き、俺を覗き込む生物。 人間のような体をしているが全身緑色で、それを人間だとは言い切れない容姿をしている。

 一言で言うならば・・・そう、その生物は『モンスター』だ。

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