1話
中学2年生、14歳。
この時期は子供の中で特に多感な年頃であり、今まで興味がなかった物に興味を示したりする。
例えば、男子中学生となると主に2つの事に興味を持つ。
1つは不思議な異能。
普通はあり得ない未知な力を実は誰かが持っている、または自分の中には実は第二の人格が存在しているなどありもしない事を想像する中二病が発生する。
学校に通っていれば1度はなかっただろうか?
授業中にテロ組織が攻めてくる想像や誰かの危機にかっこよく駆け付けて助け出したりする想像を。
心配しなくていい。 俺は今もしている。
2つ目は男子なら誰もが通る女性への興味だ。
別に意識していないのに女性の胸やお尻に視線を送ったり、親にばれない様に如何わしい画像を見たりして将来の為に女性についての勉強を無意識に始める時期でもある。
恥ずかしがらなくてもいい。 俺は毎日ばれない様に見ている。 特に年上のお姉さんがタイプだ。
もっと言うなら今もなお、俺は女性の魅力から目を離せないでいる。
国語の教科書を盾にして、窓から見えるグラウンドを凝視する。
ここは3階である為、俺の視力ならギリギリ人の判別が出来る程度だ。 それぐらいの視力があれば外で体育の授業をしている女子達を見るには十分だ。
ひと昔前にはブルマと呼ばれる男子にとって羨ましい体操着が存在していたらしいが、そんな体操着でなくとも俺には十分。
夏休みが明けて季節は秋へと変わり、少し肌寒くなった時期。
体育の授業ではジャージの着用が認められた。 夏休みに入る前は全員が半袖半ズボンの薄着だったから女子の身体のラインがくっきりと見て取れていた。
それはそれで俺の中では満足だったが、ジャージを着てしまうとそのラインも見えにくい。
しかし、俺は中学に上がって2年目に対してある事に気が付いてしまった。
女子の体育はマラソンの授業をしており全員がグラウンドを走っている。 その際に身体が温まりジャージを脱いだ時の女子の姿に俺は魅力を感じる事を知ったのだ。
(ぐぉぉぉ!! あの3年の先輩エロ過ぎではないだろうか!! 誰か! 誰か双眼鏡を持っていないか!)
自分のタイプに近い女性を見るたびに目を凝らしてグラウンドを見ていると、背後から頭に教科書の角が振り下ろされた。
「まったく。 授業中に何をそんな必死に外を見てるんだお前は。」
背後に立っていたのは国語の授業を進めていた教師だ。 黒縁眼鏡だけが特徴的で2年に上がった今でも名前を覚えきれていない。
「先生が今言った事復唱してみろ。」
「そうですね。 俺はやっぱりブルマより今の体操服の方が好きです。」
「誰が体操服の話をしてるんだバカモン。」
「アイタッ!!」
呆れながら先生はさらにもう一発俺の頭に教科書の角で殴ってきた。
「いい加減にしないとお前の席を離す事にするからな。」
「そんな先生! 殺生な!! それだけはやめてください! この席から離れれば俺は何の為に授業を受けているんですか?!」
「勉強の為だバカモンが。」
「イッタッ!!」
今度は教科書ではなくチョップが俺の頭に炸裂した。
そんな事をしていると授業の終了を知らせるチャイムが学校中に響き渡る。
「しまった、もう終わりか。 よぉ~し全員そのまま座ってろ~。 このままホームルーム始めるぞぉ。」
教卓へと戻っていく先生を他所に、俺は机の上をカバンの中へ直しながら再びグラウンドの方へと目を向ける。
しかしそこに先ほどまで走っていた女子生徒の姿はなくなっておりカバンを枕代わりに俺は落ち込む様子を出す。
「いいか~。 今から配るプリントには親御さんに必ず渡せ~。 最近この辺りに不審者の目撃情報とうちの生徒にも被害が出てる内容が書かれてるからなぁ。」
前から配りまわされるプリントを俺は無気力に受け取り仕方なく目を通す。
ここ最近夜に出歩いている学生を狙ったナイフのような物で斬りつけられる事件が発生していた。
幸い、今のところは被害にあった学生はすべて手足に軽く斬りつけられているだけの軽傷だが、それでも夜中に刃物で斬りかかられるなんて恐怖以外のなんでもない。
警察は見回りの強化と共保護者への注意喚起に学校と連携して夜中に学生が夜遊びしていないか教師達も交代制で見回りをする事になっているそうだ。
「子供は夜中に出歩かない事。 どうしても22時以降に外へ出る時は保護者の方同伴で出かけるように。 じゃあ今日はここまで! 号令!」
先生の合図にクラスの学級委員長が「起立・・」と声を号令するが、声が小さすぎてほとんどの生徒が聞き取れていなかった。
「灰野~。 いつも言ってるだろう? 号令する時はもう少し声を出さないとみんな聞こえないぞ?」
「は、はい・・・き、起立!」
指摘されて少し大きな声は出たが、それでも真逆の側の席にいる俺には空耳程度にしか聞こえなかった。
学級委員長の名前は灰野姫。
目が見えないほど前髪を伸ばしており、いつも息を潜むように端っこで本を読んでいる印象がある女子生徒だ。 大人しい性格である為、誰も挙手しなかった学級委員の仕事もなんとなく任される形となった。
(もっと自信を持って胸を張ればいいのに・・。 前髪も短くすれば良い線言ってると思うんだけどなぁ・・。)
クラスの中で影が薄い為なのか、誰も気づかないフリをしているのか、灰野は美人の枠に入る。
2年生に上がる春の時期に、たまたま風になびいて前髪が上がった灰野の素顔を見た事がある。 一瞬見惚れるくらい、桜が舞い散る景色とマッチして綺麗な顔が見えた。
恐らくあの景色を見た男子が俺以外にいれば、灰野に興味を持つ男は俺以外にもいたはずだ。
密かに抱える小さな恋心を持ちながら、教室を後にする灰野を勝手に見送り俺も席を立つ。
「あ、ちょっと待て大西。」
教室を出ようとした時、教卓で他のクラスメイト達と楽しそうに会話をしていた先生が呼び止めてきた。
因みに大西というのは俺の名前だ。
大西悟。 思春期真っ盛りの中学2年生である。
「悪いんだが、これ職員室まで運んでくれないか?」
そう言って先生は教卓の上に置かれてあるノートの山だ。
今日の授業の初めに国語のノートを回収したのだが、クラスメイト全員分のノートを職員室まで運んでほしいらしい。
「え~! なんで俺が!!」
「今日授業を全く聞かなかった罰だ。 俺はもう少し教室に残るから頼むな。 断ればお前の先は廊下側に移動だからな。」
「任せてください親方!!」
自分の楽しみを奪われない為に、俺は笑顔で両手に抱えるノートを職員室へと持っていくことにした。