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つまるところ端から採用されるはずもなく

 彼女と集合してから小一時間。

 俺の両手は既に彼女が購入したもので塞がっていた。

 確かに、それがマナーと思って、彼女の荷物を持つと買って出たのは俺であるが、最初は遠慮していた蒲郡が次第に何も言わずに俺に荷物を押し付けてくるのを見ると、モヤモヤとしたものが視界の上の方でちらついてくる。

 

 というか、この状況、ものすごく覚えがある。

 

 某邪智暴虐の嬢、橘さんの買い物に初めて付き合わされたのも、去年の今頃ではなかったろうか? どうやら俺のこの役回りというものは、運命に決定づけられているものらしい。やんぬるかな。


 まあ、重くないからいいんだけどさ。モトキ荷物持ちだ~いすき。

 などと暗示をかけてみたら、存外楽しくなるかもしれないと思ったが、やはりそんなことはなかった。


「おい、蒲郡」

「なんです?」 

「今日、何しに来たの?」

 俺の聞き間違えじゃなかったら、確かこいつはデートとか何とか言ってたはずなんだが。俺が知るデートとは、一緒に遊んだり、遊園地行ったり、映画見たりするやつのことで、決して暇そうな高校の先輩に荷物持ちをやらせることとは同義ではないと思うんだがなぁ。

 何? 俺が知らないだけで、デートとはこういうものなの? モトキ詳しくないからよく分かんない☆


 蒲郡は俺に聞かれると眉間をクシャッとさせ

「ですから、デートって言ったじゃないですかぁ。あー、だめですよ先輩。女の子が買い物を楽しんでいるというのに、そんな不機嫌な顔しちゃ。これもデートの一環なんですから」

「……」

 いいように利用されているだけな気がするのは、俺の心が貧しいからなのだろうか?


 もんもんと思案していたところで

「せんぱい、せんぱい」

 蒲郡がくるりと俺の方を向いて呼んできた。

「なになに?」


「これ可愛いですか?」

 蒲郡は商品の帽子を被り、こちらに媚びるような視線を送ってきている。蒲手にはまた別な帽子が引っかかっていた。


 俺はそんな彼女をちらと一目してから

「こりゃたまげたね。いよっ、尾張小町」

 と適当に答えた。

 ちなみに名古屋名物の尾張小町は愛知の小牧市にある長崎堂という製菓会社が作っている。

 同社の主力商品は長崎かすてーらであるわけだが、長崎といえばカステラでカステラといえば長崎かすてーらであり、長崎かすてーらは名古屋名物「尾張小町」の隣のラインで作られており、つまるところ長崎かすてーらはほぼほぼ名古屋名物な気もするので、もはや長崎は名古屋であると言える。言えない。


 名古屋大帝国領土拡大に尽力している俺に対し、蒲郡は胡乱げな視線を向けてきた。

「なんかそれ、ナンバープレート感が半端ないですし、田舎娘が必死こいて頑張っておしゃれしてみました感が出てて、ダサいので辞めてほしいんですけど。せめて名古屋小町くらいにしてくださいよ」

「名古屋より尾張のほうが範囲が広いやろがい」

 津々浦々の皆々様は、名古屋以外の尾張の都市を知らない、というか尾張なぞ知らないなんて噂があるが、そんな話は知らない。

 

 そしたら蒲郡は

「まあ、そんなことどうでといいですけど」と本当にどうでも良さそうな顔をして「で、どっちがいいと思います?」

 と帽子をクイッとさせ、再び聞いてきた。


「……お前なら何被っても似合うだろ」


「うわぁ」

 俺の言葉に対し、蒲郡は蔑視を向けてくる。


「……なんだよ?」

 蒲郡は

「それ、橘先輩とか安曇先輩なら喜んだかも知れませんが、私そんな軽薄なお世辞で喜ぶほどちょろい女じゃないですよ?」

 と眉を顰めた。


「ばっか、俺が女子を喜ばすためにそんなこと言うかよ。俺がそう言うのは単に考えるのが面倒くさいからだ」

「うわぁ。とことん最低だ、この人」

「なんとでも言え」


 蒲郡はまた鏡の方に視線を戻し

「……まあ、端から先輩のセンスなんて当てにしてないのでどうでもいいですけど」

 ボソボソ言った。

 ……。


 だったら何のために聞いたのかね、この子は。


「なあ」

「ん?」

 蒲郡はこちらに顔は向けず、店の鏡を見たまま、頭に載った帽子の角度を気にしている。


「ここ出たら、そろそろ飯にしないか?」

 彼女は鏡に顔を向けたまま、さして興味なさそうに答えた。

「いいですけど、牛丼屋とか、色気のないとこは嫌ですよ」


 俺はしばらく考えてから

「……いいとこがある」

 と返した。


   *


 彼女を連れて行ったのは、名駅に隣接するモールのレストラン街で、そこにあるカフェレストランだった。

 サラダ中心のヘルシーな食事が売りで、客層は女性が殆どを占めている。


「ここでいいか?」

 店の前で蒲郡に尋ねたところ

「……えっと」

 彼女はぽかんと不思議そうな顔をしていた。


「こういうところは嫌か?」

 俺はチョイスを誤ったのではないかと不安になって聞いた。


「いえっ、そんなことはないんですけど、むしろお洒落で素敵ですし、だからこそ逆に驚いているというか、先輩がこういう店を知っていることがとても意外で……」

「高二男子をなめるなと言うことだ」

 俺は格好つけて言った。しかしながら、実のところ、ここを教えてくれたのは橘であるなんて話があったりなかったりするわけだが、別に嘘はついていないから問題ないと思う。多分。


 蒲郡はぴょこんと頭を下げた。

「じゃ、先輩ごちそうになります!!」

「バーカ、割り勘だよ」

 俺が言えば蒲郡は分かりやすく膨れた。

「むぅ」

 なんだその顔は? 俺がお前にそこまでする義理がないだろ。何なら急に呼び出されて荷物持ちをさせられている俺の方が、昼飯を要求する権利の正当な保持者であるわけだが、そこは年長者であることを鑑みて目を瞑っているのだ。感謝しろ。


  *


 そんな感じで店に入って食事を取ったのだが、俺は蒲郡の本当の狙いをそろそろ聞き出そうと考えていた。

 俺が注文したサーモンのサラダもあらかた片付いており、店員に食後のデザートであるベリータルトを頼んでから

「で、お前、今日は何の目的で俺を呼びつけたんだ?」

 と蒲郡に尋ねた。


 ストローに口をつけ飲み物を飲んでいた蒲郡は、上目遣いで俺を見てきた。

 コップを置いて言うには

「だからぁ、デートって言ったじゃないですか。先輩もしつこい人ですね。そんなんだと女の子に嫌われちゃいますよ?」

「……とか言って、俺に相談とかあるんじゃないか?」

「は? 先輩に相談? 私が? 何を?」

 君、すっかり敬語消えてますよ。


 俺は生徒議会で見た蒲郡と山本との関係を思い出しながら

「……恋愛相談……とかな」

 とおずおずと言った。


「……恋愛相談? いや、なんで会って間もない人に、相談なんか。仮に相談するとしても、先輩なんかにはしませんよ。まして恋愛相談なんて」

「ですよね」

 ちょっとぉ、安曇さん。話が全然違うじゃないですか。

 

 俺が恥ずかしさのため、頬を熱くしていたところ、ふと蒲郡は何かを思いついたように声を上げた。

「あ、もしかして先輩、恋愛相談にかこつけて、私の好きなタイプ聞き出そうとしてます?」

 そう言って、目を細めている。


「いや全然。興味ないし」

「むぅ」

 だから、そんな顔しても駄目だから。


 ……相談でないとすると、他にどんな理由があるだろうか?

 この女に何か聞いても、まともな答えが返ってこない。

 ならばスタイルを変えるしかない。


 そう思って

「じゃあ、どうして俺を……デートに誘ったんだ?」

 相手の懐に飛び込むことにした。


 そしたら蒲郡は

「女友達とお出かけだと色々気遣うじゃないですかぁ。その点先輩だったら、私が行きたいところ行っても文句言わなそうだし、荷物持ちしてくれそうだなぁって思ったので」

 と言い、満面の笑みを浮かべた。

 ……。

 

 やっぱりそれデートじゃないと思うんだ。

 というかデートコース云々言ってたのはどこの誰だったか。


  *


 週明けの月曜日。

 学校の飲み物売り場で偶然橘と会って、少し言葉を交わしたのだが


「そういえば、花丸くん。土曜日は何していたの?」

 俺は少しギクリとして、訥々と

「……あ、……えと、……読書かな」

 と返した。実際蒲郡と別れ家に帰ったあと本読んだもんね。嘘じゃないもん。


「ふーん。名駅で花丸くんに似た人を見たと思ったのだけれど、どうやら他人だったみたいね」

「……あ、ふーん」


「ところで」

「ひゃい?」

 橘の冷たい声に思わず怯んで噛んでしまった。


「サーモンとベリータルト、美味しかった?」

「…………」


 嘘は良くないなと切に思いました。




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