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再び始まる神話戦争  作者: 籠目かごめ
第一部
8/46

四勢力

 校舎から少し離れた場所。

 部活動に勤しむ生徒たちの声もほとんど届かない場所に教会はあった。

 扉をノックすることも声をかけることもなく、その門を開けた。

 

 「いらっしゃい。随分と大変そうだったわね」

 

 聖堂内に配置されている長椅子に、修道服に身を包んだ女性が一人座っていた。


 「ちっ――――呼び出しのタイミングがいいと思っていたが、やっぱり見てやがったのか」

 

 舌打ちをして、アレンは修道女を睨みつける。

 おおよそ教会内で行う行為ではないが、今この場にいるのは二人だけ。

 誰もアレンを咎めるモノはいなかった。


 「これでも一応、あなたの保護者みたいなものだからね。可愛い弟子が心配で心配で……行動を把握する程度許してほしいものだけど?」


 「……面白半分なだけだろうが」


 「まぁね」


 くつくつとシスターは笑った。

 年齢はアレンよりひとつかふたつ上だろうか。右目の下にある泣きぼくろと、淡い銀色の髪が特徴的な女性である。

 露出の少ない修道服を着ているにも関わらず、魅惑的な印象を覚えるのは、彼女のスタイルの良さを証明していると言えるだろう。


 普通ならば、教会に仕える修道女と誰もが思うのだろうが、彼女の場合は些か事情が異なる。

 なにせこの教会を管理しているのが彼女なのだ。

 それどころか、フォリア契約者(テスタメント)育成学院内の権力の多くが彼女に握られている。それこそ学院内でも五指に入るレベルだろう。


 「――――用がないならもう帰るぞ」


 「待って……最近あんたからの定期報告が来てないけど、なにかあった訳?」


 先ほどまでの様子から一変して、シスターは至極真剣な瞳でアレンを見つめる。


 「むしろ逆だ。報告することなんてなにもねぇよ」


 「そう?なら別にいいのだけれど。新しい契約者(テスタメント)が『統制局』に取られたりでもしたら、()()としてはちょっと困るのよ。ましてや『異端狩り』の目にでもついたら最悪ね」


 「なんだ、そっちも随分と大変そうじゃないか……秘蹟(ひせき)管理教会第八支部局長代理、クリスティーナ・ヴィヴィアン。ああ、それとも白雪姫(スノーホワイト)と呼んだ方がいいか?」

 

 その名前にクリスはピクリと眉を動かした。

 

 「……懐かしい名前を持ち出してきたわね」


 この学院、あるいは管理教会での彼女の名前はクリスティーナ・ヴィヴィアン――愛称はクリス。

 しかし、アレンは彼女のもう一つの――――本来の呼び名を知っている。

 白雪姫(スノーホワイト)

 魔法が空想の産物(おとぎばなし)の存在として認識された現代に残った、最後の()()使()()。七人の()()の一人。


 「この学院には四つの勢力の影が潜んでいるのはあなたも知っているでしょう?」


 そう言って、クリスは四本の指を立てた。


 「一番有名なのは『統制局』ね。二年前の『戦争』での勝者――――この学院だけでなく、契約者(テスタメント)を管理するための施設を数多く運営している。四勢力の中でも特に大きな組織で、厄介な存在」


 厄介な存在かどうかは置いておいて、たしかに統制局は四勢力の中で最も大きい組織と言える。

 学院だけでなく、この街の至る所に統制局の手が届いていることを見れば、その規模は容易に想像できるだろう。

 

 「――――『反乱軍』」


 その言葉の響きに、アレンは一瞬眉を動かした。


 「『戦争』で統制局と戦い負けたところね。現在は小規模なゲリラ戦やらなんやらで統制局にちょっかいを出すのが限度の組織。

 それでも、二年前に統制局を苦しめたのは事実だからね――統制局としても、手放しで放置はできない存在だわ」


 シスターの話をアレンは黙って聞いている。

 それでも、少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「『異端狩り』。四勢力の中で最も規模は小さいけれど、反乱軍以上に危険な組織。

 契約者(テスタメント)は危険な存在であるとして、彼らを一人残らず排除することを目的としている。この組織に所属しているのは全員非契約者だから、その分過激な手法を取ることも多い。

 神話に例えるのであれば、人間が神に歯向かう英雄譚みたいなことだけど、やっていることはとても褒められた行為ではないわね」


 二年前は存在しなかった、新しい組織。

 『戦争』による被害を目の当たりにした者たちの一部が結成したものである。

 あの『戦争』が生み出した負の遺産とも言えるだろう。


 「そして私が所属する『秘蹟管理教会』。現代に蘇った神代の痕跡を残そうとす組織。『異端狩り』とは対照的に、契約者(テスタメント)という()()を存続させようとする集団。

 その性質上、前の戦争ではどちらにつくこともなかった傍観者。どちらが勝とうとも契約者(テスタメント)の存在が消えることないのだから介入する必要はなかった。

 『戦争』が終わった現在では、統制局と反乱軍の間に起きた問題を預かる調停役、みたいな仕事が多いわね」

 

 このシスターが所属する秘蹟管理教会。

 契約者(テスタメント)を保護するのではなく、その存在を残そうと考える組織。

 つまるところ、契約神と契約者という神秘(システム)が現代に存続し続けるなら、どれだけの契約者(テスタメント)が死のうとも構わないとするイカれた組織だ。


 「そのおかげで、管理教会(うち)には潤沢な資金がたんまり入ってきて助かるんだけどね」


 「ふん……そいつは良かったな」


 半ば嫌味じみた雰囲気を漂わせながら呟いたが、シスターはそれを気にすることなく話を続ける。


 「少しばかり特殊ではあるけど、あなたの身柄を預かってるのは管理教会(うち)なのよ?一度くらいは依頼を受けてみてもいいんじゃない?」


 「悪いがパスだ」


 シスターの提案をアレンはあっさりと断った。

 

 「用件はそれだけか?ならもう帰るぞ」


 「ああ、ちょっと待って」


 シスターは心の中まで見透かすような瞳でアレンを見つめた。


 「もう一度確認するけど、変わったことは()()()なにもないのよね?」


 冷汗が溢れ出そうになった。

 アレンはシスターに一つ()()()をしていた。


 「ああ、平和なもんだよ」


 あくまで自然体で。平静を装ったまま、ため息まじりに呟いた。

 演技には自信ないが、それでもたぶん上手くいったはずだ。


 「そっか。最近『統制局』の動きが怪しいのよね。こっちが調べた中だと、昔のデータ……戦争時のものを洗い直しているみたいだったから、あんたにもなにかしら接触があったかもと思ったんだけど。

 ほら、あんたもあの戦争で活躍した『雷帝』『魔獣妃(まじゅうひ)』と同じ、四傑の一人の訳だしね?」


 「……それこそ昔の話だろ。じゃあ、今度こそ帰るからな」


 アレンは気怠そうに手を振ると、そそくさと逃げ出すようにその場を後にしたのだった。



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