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'PARTS' 14 やっぱり金は使う為にある

頭が沸騰したカイト少年達が落ち着いてから、タカ達は肉楽園を後にした。


マカサがわざわざ見送りに来ていた辺りに、タカへの期待値の高さが窺えたが、タカは気にも止めずにいた。クリムゾンピーコックの肉を獲りにいくのは、タカの中では確定事項ではあるが、優先度としては高くない。タカにとっての最優先事項は、己の活動拠点の確保とこの世界に'新しい風'を吹かせることなのだから、当然と言えば当然だろう。


大規模商会と思われるオーナー直々の見送りに、カイト少年達は気後れしていたが。




そのマカサに何かを聞いたタカは、先頭に立って迷いなく足を進め始めた。その後に続くカイト少年達。


「どこに向かってんだ? 宿は別方向だぞ?」

「ん? 腹ごなしの散歩だよ。大人しく付き合え」

「その割には、なんか足取りに迷いがなくないか?」

「散歩に決まったルートなんかないだろ? 気の向くまま、足の向くままだ。それに、街の地理を把握しとくのも大事なことだしな。緊急時に備えて」

「緊急時って、なんかあるっすか? 街の中で」

「スタンピードって経験ないか?」


タカの言葉に、表情を僅かに暗くするカイト少年達。


「・・ある。私達が元いた街を出るきっかけになったのがそれ」

「そうだったのか・・悪い。嫌なこと思い出させたな」


ゆっくりと首を振るミリエラ。


「大丈夫。もう3年も前のこと。でも、理由は分かった。確かに、スタンピードのときには街が大混乱になる。安全に逃げられるルートを組み立てるのに、街の中の地理は重要」

「タカさんも経験あるのか? そんなことを考えとくなんて、普通ないぜ?」

「何回かな。基本は普段は見かけないレアなドロップアイテムを回収できるチャンスだったんだけどな」

「あ、アレをチャンスって言うか・・あ、でも、タカさんの故郷じゃタカさんみたいなのがいっぱいいるんだし、それならそうなるのか?」

「どんな魔境だってツッコミ入れたいけど、タカさんみたいなのが何人もいたらなぁ・・」


呆れ気味に言うダインとレジィ。




'MAGICIANS ONLINE'では、スタンピードはゲリライベントの1つだ。街に被害が出る前に食い止められるかどうか、もしくは、街に出た被害の大小で国への貢献度が変わる。当然、防ぎ切れずに街に甚大な被害が出れば、貢献度は大きく下がることになり、気に入っていたNPCキャラがいなくなってしまったりすることもあった。


ただ、'MAGICIANS ONLINE'はあくまでもゲームである。いなくなったNPCキャラの代わりは時間を置いて出てくるし、貢献度も他のクエストを進めれば再び上昇する。

しかし、この世界は現実だ。失われた命は2度と戻らず、心に刻まれた哀しみと後悔、自責の念はそう簡単には薄れない。




カイト少年達の背負う過去を、タカはあえて自分から掘り下げて聞くつもりはなかった。平和で安全な日本に生きてきた自分では、過酷な状況を生き抜いてきた少年少女達の心の痛みを本当に理解できるとは思わなかったからだ。


だから、タカは過去ではなく、現在の、そして、未来の話を口にする。


「その魔境に、お前らもいずれ踏み込んでどっぷり浸かってもらうけどな? 何もかも全部ブッ飛ばして、欲しいものは全部手に入れられるように」

「タカ・・」


タカの言葉に、ミリエラは目を潤ませて、その手を握る。


「あぁ。でも、今の常識だけは残らねぇか。アドラコくらいは鼻歌混じりに倒せるようになるから」


タカの軽口に、全員が苦笑を洩らす。それが、落ち込んでしまっていた自分達を元気付ける為のものだと分かったからだ。


「なるっすよ! もう泣いて逃げてるだけなんてイヤっすから!」

「ん。いずれ、タカのことも私が守る。常識なんて気にしてられない」

「いや、俺を守るとか無理だからな? 俺より上には絶対にイカせねぇからな?」

「ふふ~。でも、そんな'常識'も残らないかもよ~? 欲しいものは全部手に入れられるようになるんだもん」

「ハッ。影すら踏めないままに足掻くがいいわ、ガキ共が」

「アニキの台詞がまるっきり悪役だ・・」

「似合い過ぎる・・この人、英雄譚(ヒロイックサーガ)に出てくる英雄とかより、魔王の方が似合ってんじゃね?」

「ってより、もう魔王って呼ばれたことあるんじゃないか?」

「・・そういや、'理不尽大魔王'とかって掲示板に書かれてたっけか」

「ブハッ!? 掲示板って、完全に晒しモンじゃねぇか!?」



タカが思わず呟いてしまった'掲示板'とは、当然ながらインターネット上のもので、カイト少年のツッコミにある'掲示板'とは意味合いが異なる。しかしながら、キャラ動画をアップされた上での呼称であり、'MAGICIANS ONLINE'プレイヤー達に多く知れ渡ったという結果があったので、晒し者というのは間違いではない。付けられた二つ名に喜ぶ中二病患者には苦痛も羞恥も伴わないが。



そうして、タカが散歩と称してカイト少年達を引き連れたまま進んだ先に、大規模な店構えの商店が現れた。


「おぉ、確かに一目で分かるな」

「何がっすか?」


自分が女性であるということを認識して、照れたり恥ずかしがったりとタカへの反応が激しいウィシィが、タカの隣で首を傾げる。



ウィシィは照れ臭くて恥ずかしくて堪らなくても、タカの隣からは離れようとしないのだ。ミリエラもタカの隣を確保しているので文句は言わないが、シェリーとアンは隙を窺って隣を奪うつもり満々であることをタカは知らない。


女性に関する経験も免疫も耐性もない為、そういったことまで察することがタカにはできないのだ。おかげで、彼女達の好意に対する動揺は、表には出さないで済むレベルで抑えられているのだが。



「武防具と服を取り揃えてる店」

「「え!?」」

「は? 武防具?」

「待って。タカ」

「待たない。行くぞ」


動こうとしないだろうことが予想できるミリエラの手を握り、全員に声を描けてから店の中に進んでいくタカ。他の面々も戸惑いながらも、タカに続いていく。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「マカサからの紹介で来た」


にこやかにタカ達を出迎えた若い女性店員の顔が、タカの一言で凍りついた。


「金貨50枚程度の予算で、こいつらの武器と防具を見繕ってやってくれるか?」

「「「「「「金貨50枚!?」」」」」」


続くタカの台詞に、女性店員のみならず、カイト少年達や近くにいた店員達の悲鳴に近い驚愕の声が上がる。


「多少の足が出ても構わねぇから、この店の最高の装備の中から、1番合うのを選べよ。合わない武器は邪魔になるだけだ。あぁ、高いだけの飾りは見せなくていい。実戦で使うからな」


周囲の反応を完全に無視して、言葉の前半をカイト少年達に、後半を女性店員に投げ掛けるタカ。


「ま、待て待て待て待て! どうして俺達の装備まで!? 服はミリエラ達に買ってやるっつってたけど」

「ん? んなコト決まってんだろ。装備が貧弱じゃ舐められる」

「「「「「「そこか!?」」」」」」


カイト少年達の総ツッコミに、タカは苦笑を浮かべる。


「まぁ、それもあるけど、お前らがちゃんと強くなるまでは装備は整えとかないと、命の危険があるからな。流石に、俺の求めるレベルのが店に置いてあるとは、今はまだ思ってないけど、強い装備は確実に自分の命を守ってくれる。冒険者稼業をして生き抜く為には大事なことだろ?」

「それはそうだけど、いくらなんでも金貨50枚はムチャクチャ。この人数分の物を買うにしても、高ランク冒険者クラスの装備を買うことになる」

「だから、そうしろって言ってんだよ。ホントは最上位の装備品で固めたいトコだけど、俺だけで金を稼いでたら意味がないからな。お前らにも頑張ってもらう為の先行投資ってヤツだ」

「いいんすか? タカのお金、ほとんどなくなっちゃうっすよ?」

「いや、金貨10枚は残る計算だから余裕だろ」

「・・あれ? 何か、残るお金、少な過ぎない?」

「多少は足も出るだろ。装備には拘らなきゃ意味がないんだし。それに、お前らの服もあるし」

「私達の服にいくら使うつもりなんですか!?」

「まぁ、今回は精々金貨10枚くらいまでかね? っても、アン達だけの分じゃないぞ? 俺も着替えは必要だし、少年達の分もな。まぁ、こいつらは服装とか気にしなさそうだから、俺が適当に選んどくけど」

「それでも、金貨10枚はおかしいだろ!? 俺達が普段着てる服なんか、銅貨何枚とかなんだぞ!?」

「だーかーらー。貧相なカッコしてると舐められるんだっての。文句があるんなら、お前らの服は面白可笑しい方向で選んでやるけど?」

「「「「「普通でお願いしますっ!!」」」」」

「ん、素直でよろしい」


若干顔を引き攣らせたカイト少年達は、声を揃えて普通を懇願する。それに、満足そうに頷くタカ。ノリが暴君そのものである。


「うわぁ、もう皆タカに抵抗する気なくしちゃってるっすね~」

「・・他人事みたいに言ってるけど、ウィシィ? お前に買う服は女物限定だからな?」

「えぇっ!? なんでっすか!?」

「自分が女の子だってのを忘れんな!」

「あ、忘れてたっす!」


ウィシィが元気良く言い切ると、タカはガックリと肩を落とす。


「で、でも、いきなりは恥ずかしいっすよぅ」


上目遣いでタカを見ながら、モジモジするウィシィ。


「リハビリだと思え。ミリエラ達のを選ぶついでに、お前のもちゃんと見繕ってやっから」


タカの言葉に、照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑顔を浮かべるウィシィ。その喜び度合いは、振り乱される尻尾が示している。


「はいっす!」

「・・タカ。私のもちゃんと選んで?」

「分かってるっての」

「あ、あたしのもね? そ、その、せっかくだから、よ、夜用とかも」

「それは全力で却下だ、ドアホ。普段着とクエスト用とだけだ」


赤くなりながら言うシェリーに、そう言いながら頭を小突くタカ。


「じゃあ、あの、タカさんの趣味に走ってもらったりはダメですか?」

「・・・お前は俺の趣味がどんなだと思ってやがんだ」

「えっと、タカさんも男の人ですし、やっぱりえっちぃのが好きじゃないかなと」

「よし、分かった。アン、お前は後で説教な。ほれ、男共は装備を選んでこい。変に遠慮しやがった奴がいたら、連帯責任で全員強制モロ出しで、街の入口で品評会開催だからな」

「全員!?」

「開催場所が具体的だぞ、オイ!?」

「ヤベェ。これ、マジでやらせるつもりだ」

「さ、流石はアニキ。連帯責任とか容赦なさ過ぎだぜ・・」

「感心してる場合か!? お前ら、本気でマジでちゃんと選べよ!? 道連れにしやがったら、マジでブン殴るからな!?」


慄くカイト少年達を尻目に、タカは固まっている女性店員へと静かに声を掛ける。


「目利きの怪しいガキ共なんだ。良いのを見繕ってやってくれ。アドバイスとかができる奴がいるんなら、手配してくれると助かる」

「え? あ、は、はい。かしこまりました。マカサ様からのご紹介となれば、是非もございません」

「頼んだ。さて、2時間後にまたここで集合だ。決めきれてなきゃ、そこからまたゆっくり考えりゃいいから、時間になったら一旦は集まれよ。んじゃ、解散!」


タカの号令で、カイト少年達は店員に案内されて装備品のコーナーへ、タカはミリエラ達を連れて店員の先導に従って衣服のコーナーへと散らばるのだった。






それから、2時間後。タカ達は店の入口に集合した。


カイト少年達は店に入ったときとは雲泥の差の装備で身を包み、手にした武器もそれぞれそれなり以上の逸品となっている。ミリエラ達は、新たな装備に加えて、服も新調したものに着替えている。


「・・ミリエラもシェリーもアンも見違えるくらいだけど・・」

「・・え? お前、ウィシィなのか? マジで?」

「うぅ~。そんなに見ないでほしいっすよぉ」


耳を垂れさせ、尻尾を股に挟んでタカの後ろに隠れてしまうウィシィ。




カイト少年達が呆けるのも無理はない。ウィシィは、どこからどう見ても、誰からの目にも明らかな少女の姿に変わっているのだ。しかも、頭に'超美'が付くレベルの。


ボサボサだった銀髪が綺麗に梳かれて、紅色した花柄の髪留めが髪も髪留めも、そのどちらの色も引き立てている。さらに、鮮やかな青のワンピースにその銀髪が映えて、可愛いだけでなく、可憐さが男心を擽る。元々の整った顔立ちも含めて、見惚れるなというのが無理な程だ。


そんなウィシィが恥ずかしそうに頬を染めて、チラチラと恋する乙女な表情でタカを見ているのだ。その可愛らしさは、男として生きてきたウィシィを知っている彼らには衝撃的過ぎるだろう。



「化けたよな~。あ、スカートの下は短いズボン履かせてるから、妙な期待はすんなよ?」

「しねぇよ! お前、本気で言うことが最悪だな!?」

「そうか? 男なら正常な反応だと思うんだが」

「タカ。スカートの中が見たいなら、私のを見ればいい。2人きりになれば、その中まで」

「よぉっしっ! ミリエラ! その口、ちょぉっと閉じようか!? ここは店の中だからな!?」

「むぅ。ホントにいいのに」

「お前は本気で言ってるのが分かるから止めてるんだよ・・気付いたら言質取られて引き返せないトコまで行き着いてる気がするから、迂闊なことも言えねぇ・・」

「それにしても、タカさんの荷物、かなり多くないか?」

「そりゃ、この袋2つにお前ら全員の服が入ってるからなぁ。俺のもあるし。ホントはここで着替えさせようと思ってたんだけど、嬉しそうに武器選んでたから、邪魔すんのはやめといた。宿取ったら、そこでお前らも着替えろよ。その服、大概傷んでんだから」

「おうっ。ありがとな、アニキ」

「マジで俺達のも買ってくれたのか。ワリィな」

「素直に装備を選んでたから、ウケを狙える服が選べなかったのが残念だ。いずれはそれも買うから、感謝はそのときでいいぞ」

「そっちでは感謝できねぇよ!? タカは油断してっと、サラッと実行しそうで怖ぇ!」

「チッ。言質取ってやろうかと思ってたのに。まぁ、いいか。んじゃ、会計済ませるから、先に店の外で待っててくれ」

「分かった。じゃあ、皆行くぞ」


カイト少年の号令で、全員が店の外に出ていく。


「ふふ~。こんなに可愛いの初めてよね」

「はい。タカに甘えてばかりなのが申し訳ないですけど、やっぱり嬉しいですね」

「ん。タカが選んでくれたから、余計に嬉しい」

「ボク、ホントに変じゃないっすか?」

「大丈夫だってば。タカだって可愛いって言ってくれてたじゃない」


シェリーの言葉に、赤くなってしまうウィシィ。


「そ、そそそ、そうっすけど・・」

「まぁ、ちょっとずつ意識も変えていけばいいだろ。いきなりってのは無理な話だろうし。反応はもう完全に女そのものだけど」

「タカを男として好きだって意識した途端に、いきなり反応変わったもんな~」

「にしても、お前らの服、クエスト用じゃないよな? それ」

「クエスト用よ? 丈夫な布で作ってあって、ちょっとやそっとじゃ破けないんだって」

「マジでか。十分、その、女物って感じなのに」

「ハァ・・そこで'可愛い'って言えない辺りがタカと違うのよねぇ」

「ほっとけ! んなこと簡単に言えるか! アイツ、絶対に女誑しだぞ!? 可愛い可愛いって簡単に連発しやがっテェェェェッ!?」


背後からのアイアンクローで持ち上げられて、語尾を悲鳴に変えるカイト少年。そこで、全員がカイト少年の背後に現れた人物に気付いた。


「あ、タカ」

「お待たせ。んで、少年? 誰が女誑しだって? 確かに、ちょっと趣味と目がおかしい奴らが出てきてるけど、それまでの35年、ガチで女っ気の欠片もなかった俺に、イケメンがそれを言うのは喧嘩を売られてるようにしか聞こえないんだがなぁ?」

「すんませんっしたぁぁぁぁっ!! 頭がなんかミシッて音立ててる! ミシッっていってっからぁぁぁぁ!?」


カイト少年の全力の謝罪の言葉に、タカのアイアンクローが解かれる。


「ったく。大体、可愛い子に可愛いって言うのに躊躇う理由が分からん。俺なんか、誰に何言っても気に止める女なんかいなかったから、躊躇ったこともないぞ?」


そう言いながら、足を進め始めるタカ。アイアンクローの痛みに踞っていたカイト少年も含めて、全員がタカに続いて歩き出す。


「マジでか。タカさんの住んでたトコの男に対する女の基準ってそんなに厳しいのか」

「世の中、見た目が9割なんだよ。俺が焦がしたギルドの受付嬢の反応が普通だ」

「むぅ。タカは格好いいのに」

「まぁ、見た目は普通だもんね。でも、他が全部カッコ良くてもダメなものかなぁ?」

「それで'趣味と目がおかしい'ですか」

「イヤっすか? ボク達がタカを好きだと」


不安げに言うウィシィの頭を、苦笑混じりに撫でるタカ。


「んなワケねーだろ。ただ、俺の実年齢は教えたろ? 流石に、この歳の差は色々躊躇うっての。いくら見た目が20歳くらいに戻ってても、な」

「ボク、気にしないっすよ? タカの見た目が35歳のおじさんでも、絶対に好きになってたっす」


ウィシィの言葉と真っ直ぐな眼差しに、タカは思わず目を逸らしながらデコピンを喰らわせてしまう。


「アダッ!? な、何するっすかぁ? 痛いっすよぉ」

「うるせぇ。ちょっとその口閉じてろ、この駄犬」

「おぉ~、タカが照れてるよ。初めてじゃないか?」

「ほぇ?」

「よし、ルグ。お前も一緒に恥ずかしい想いをさせてやろうじゃねぇか」

「ゲッ!? 余計なコト言ったか!?」

「照れてるっすか? ホントっすか? ねぇねぇ、タカッ。ボクがタカのこと好きでいて、喜んでくれるっすかっ?」


ルグに意識を向けようとしたタカの腕に、おもいきり抱きついて引っ張りながら問いかけてくるウィシィ。



それに、とうとうタカのポーカーフェイスが崩れた。



「だぁぁぁぁっ! お・ま・え・はぁぁぁぁっ! ガンガン懐に潜り込んできやがるな!? 遠慮とか恥じらいはどこに忘れてきやがった!?」


赤くなりながら絶叫するタカ。カイト少年達はポカンとしてしまっている。


「だって、分かんないっすもん! タカにイヤな想いさせてたら、ボク、物凄いイヤっすもん!」

「嫌ならとっくに姿消すかなんかしとるわ!」

「・・ホントっすか?」

「ぐ・・お前、容赦なく突っ込んできやがるな、マジで」

「ダメっすか?」


また不安げに目を潤ませるウィシィ。それに、タカの何かがポッキリ折れた。


「あぁっ! もうっ! 分かった! 降参だ! 素直に認めてやる! 嬉しいよ! ただ、戸惑ってんのも躊躇ってんのもマジだから、返事はしばらく待ってろ! 覚悟決めたら、無理矢理にでも嫁にしてやる!」

「ホ、ホントっすか!?」

「おおっ! だから、不安になんかなるな!」

「はいっす!」


嬉しそうに照れ笑いを浮かべながら、タカの腕をギュッと抱き締めるウィシィ。


「・・・タカさんが取り乱した・・あるのか、そういうことも・・いや、当然なんだろうけど」

「アニキが押し負けた・・? マジで?」

「ウィシィ、スゲェ・・」

「むぅぅぅ。タカ、私は? 私も嫁にしてくれる?」

「あっ、あたしも!」

「あのぉ・・告白できる場面がないままで、勢いで好きだと伝えるよりもきちんと言いたかったんですけど・・ここで乗り遅れるのは非常にマズイ気がしますから、もう言っちゃいますね? 私もタカさんのお嫁さんにしてくださいね?」

「ア、アン。お前、1番ブッ飛んだ台詞を口にしてる自覚あるか?」

「いいんです。1番出遅れちゃいましたから、せめてこういうところで印象付けておかないと、負けちゃいそうですし」

「ハァ・・まぁ、流石にミリエラ達とおんなじリアクションしてたから、そうなのかなぁくらいは思ってたけどなぁ・・」

「タカ、タカ。嫁。嫁」

「単語でアピールすな。分かったから・・ハァ・・俺の故郷じゃ、こんな歳の子に手を出すのは完全に犯罪なんだけどなぁ・・」

「そうなの? この国じゃ、15歳で成人なのに」

「どこの国でも同じだと思ってました。でも、今はこの国にいるんですから、問題ありませんよね?」

「ん。問題無し」

「そぉなのか・・まぁ、でも、ホントに覚悟決めるまでは待ってくれ。マジで色々振り切らねぇと、俺の覚悟が定まらん」

「覚悟が決まったら?」

「そのときになっても、お前らが俺なんぞを好きでいてくれるんなら、俺から嫁になってくれって懇願するよ」

「んっ」「やったぁっ!!」

「なら、あとは既成事実を作ってしまって、覚悟を完了させるだけ、でしょうか?」

「待って、アンさん? 何故にきみがそんなに過激なのかな? ダインに続く常識人の筈だろ?」

「だって、タカさんを野放しにしておいたら、もっとお嫁さんが増えかねないじゃないですか。私、結構寂しがり屋なので、構ってもらえないくらいに人数が増えるまえにって思うんです」

「増えねぇよ!? お前の中で、俺はどんだけモテる女誑しなんだ!?」

「ん。アンの言葉には一理ある。構ってもらえなくなるのは嫌」

「ん~、でも、どのみち増えそうじゃない? あのギルドの女の人みたいなの以外だったら、タカのこと知ったら大抵好きになっちゃうような気が」

「しねぇよ! お前ら、本気で趣味悪いからな!? もしくは、脳と目がおかしい!」

「そんなことないっすよぉ。タカはカッコいいっす!」


ウィシィの言葉に、脱力するタカ。そんなタカの肩をポンと叩くダイン。


「タカさん。無理だって。俺達ですら、アンタのことは本気でカッコいいと思ってんだ。ほんの短い時間だけど、これまでの付き合いで、な」

「そうそう。意外にガキっぽいトコとか、鬼なトコとか、容赦ねぇトコとか、そういうの見ても変わんねぇんだから」

「ついでに、女に弱いってトコも見たけどな~」

「アニキは最高にカッコいいぞ?」

「・・テメェは本気でムカつく。ムカつくくらいに敵わねぇって思う。だから、とっとと覚悟決めやがれ。こいつら泣かせたら、死んででもブッ殺すからな」


ダイン、レジィ、ルグ、ベイクに続いて、カイト少年に投げ掛けられた言葉に、タカは顔を引き攣らせて苦笑を浮かべる。



ーーこいつらの中の俺は一体どんな風に映ってんだ!? 命助けたせいで、変なフィルター掛かってんだろ! これ、絶対に!! 全部の誤解が解けたら、マジで俺、殺されるぞぉぉぉぉっ!?ーー

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