'PARTS' 13 明かされる秘密の一部
ウィシィが女性だという事実が発覚して、ウィシィがタカに甘えていた行動の数々をイジられたり羨ましがられたりする中で、扉からノックの音が響いた。ノックから少しの間を置いて、柔和な顔付きをした細身で身なりのいい中年男性がラガロを連れて入室すると、中年男性が会釈してから口を開いた。
「お食事はご満足いただけましたか? タカ様ご一行の皆様」
タカの名前を口にされて、カイト少年達は動揺を表すが、タカは気にも止めずに口を開いた。
「ああ。十分満足した。常連になろうかってくらいだよ」
「それはよかった。うちの従業員兼用心棒のラガロが無礼を働いたとお聞きして、せめて料理だけはご満足いただかないと、商売人としての面目が立ちませんからな。その件に関しましては、誠に申し訳ございませんでした。今後、こういったことのないように教育を徹底致しますので」
そう言って、中年男性が頭を下げ、ラガロもそれに倣う。その様子に、拍子抜けしたような表情になるタカ。心成しか、残念そうに見えるのは気のせいということにしておく。
「ふぅん・・そう素直に頭を下げるとは思わなかったな。もう一悶着あるかと思ってたのに」
「いえいえ。流石に、ナルベアギルド長を一瞬で黙らせたようなお方に喧嘩を売る度胸はありませんよ。損害が大き過ぎるのに、得られるものが何もないのですから」
「ナルベア?」
「冒険者ギルドのギルドマスターの名前」
「あぁ。あの筋肉ダルマか」
ミリエラの説明に、あんまりな思い出し方をするタカ。それに、苦笑する中年男性。
「ナルベアギルド長は、元とはいえ、最高ランクであるSランク冒険者なのですが・・お噂通り、歯牙にも掛けておられないようだ」
「'元'じゃ自慢にもならねぇよ。鈍りまくってんじゃないのか? あんな牽制の1発すら反応できない奴が最高の冒険者とか言われたら、正直引くぞ」
溜め息混じりに言うタカ。それに、緩やかに首を振るダイン達。
「タカさん。あんなの避けられる奴は、人種族辞めてるからな? その認識、おかしいからな?」
「馬鹿言え。お前らは俺の目的と事情に巻き込むんだ。アレくらい、鼻で笑いながら弾けるようになってもらうからな?」
タカの言葉に、絶句するカイト少年一同。
「・・見たところ、お連れの方々はまだ成長途中のようですが、ギルド長すら反応できなかったものをどうにかできるようになる、と?」
「さぁな? 少なくとも、あんたには関係ない話だ。んで? 謝罪が終わったら、こっちにはもう用はないぞ? それとも、オーナー直々に会計でもしてくれるのか?」
「いえいえ。それは他の者に任せておりますので。こちらにお伺いしたのは、謝罪と顔繋ぎの為です」
「・・顔繋ぎ? 言っとくが、雇われる気はサラサラないぞ」
「専属で、などとは考えておりませんよ。しかし、クエストを依頼させていただくことはあるでしょうからな。このラガロを歯牙にも掛けず、ナルベアギルド長すらも一瞬で黙らせ、しかも、1度に大量のドロップアイテムを持ち込んだ、となれば、現在のランクがどうあれ、実力者なのは間違いないでしょう?」
「・・食材の収集クエストか」
タカの言葉に、一瞬目を見開きかけるが、すぐに穏やかな表情に戻す中年男性。
「お察しの通りですな。いやはや、頭まで切れるとは。やはりあなたを敵に回しては良いことはなさそうだ」
「まぁ、俺達の都合と合えばな。クリムゾンピーコックはそう遠くない内に獲りにいくつもりだったんだ。いい肉だってんなら、プロの腕でより美味くしてもらった方が俺達も嬉しいし」
タカの台詞に、若干顔を引き攣らせる中年男性。
獲ってこれることが前提で、しかも、それを極当たり前のことのように言うタカに、ポーカーフェイスが崩れてしまったのだ。
それはつまり、クリムゾンピーコックを獲ることがそれだけ難易度の高いものだということを示すものなのだが、タカの自信は揺らがない。
何せ、'MAGICIANS ONLINE'で、タカはクリムゾンピーコックと似たような魔物をダース単位で狩っていたのだ。
この街に辿り着くまでに遭遇した魔物のほとんどが'MAGICIANS ONLINE'で戦ったことのある魔物に、戦い方からその強さまでもが酷似していた。だから、クリムゾンピーコックの話になったときにも、似た魔物との戦闘経験があるのではないかとタカは予想した。そして、それはアンの回答によって肯定された。
フィールドの過酷さは、ゲームと現実とでは大きな差があるだろうとの予想はできたので、一応撤退の可能性も考慮してはいる。しかし、クリムゾンピーコックの戦闘力自体は問題視していないのはそういった理由なのだ。
「ふ、ふふふ。そのときには、報酬にも色を付けさせていただきますよ」
「期待しとく。んで、もう少しここ、借りてていいか? 他に聞かれていい話でもないから、こういう個室で話せた方がありがたいんだけど」
「ええ。もちろんですとも。これだけの料理を堪能してくださったお客様を追い出すなどという真似はできませんからな。ごゆっくりと」
「ありがとよ。まぁ、極力長居はしないようにはする」
「お気遣い、ありがとうございます。あぁ、最後になりましたが、私はこの店のオーナーであり、この辺り一帯商店の総まとめをしております、マカサと申します。何かお困りの際には、どうぞ我がマカサ商会をご利用ください」
そう言って、マカサはラガロを連れて部屋を後にした。
「・・なぁ? タカさん。あのオーナー、タカさんの名前、知ってたよな?」
「ギルドに情報源でもあるんだろ。総まとめとか言ってたし、それなりの影響力があってもおかしかない」
「変な噂でも立ってんじゃねぇか? 冒険者を軒並みブッ倒して、受付嬢まで焦がしやがったんだから」
「箔がついていーじゃん。舐められていいことなんか1つもないぞ?」
「だから、テメェはなんで微妙に好戦的なんだよ・・俺に言われるとか、相当だぞ?」
「自分で言ってりゃ世話ないな」
「ほっとけ」
「それで、話って何?」
ミリエラの問いかけの言葉でタカに視線が集まる。
「パーティーに加えてくれるっつったろ? だから、俺の目的と事情を、まずは簡単に話そうかと思ってな」
「全部はまだダメ?」
「ダメじゃねぇけど、頭パンクすんぞ? 非常識過ぎて。ケティなんか半泣きになってたし」
「「「ケティって誰?」」ですか?」
「ハモんな、そこ。反応が早すぎて怖いから」
「女の子の名前っすよね? ボク達と会う前の仲間とかっすか?」
「仲間・・まぁ、そういうことになるか。あいつにも協力は求めなきゃなんねーし」
「誰?」
「妖精族だよ。お前らを見つけた日の日中に初めて会ったんだ」
タカの説明に、胸を撫で下ろす3人娘。
ーー何故にアンまで同じ反応をする? まさか・・まさか、だよなぁ? だって、俺だぞ? でも、地雷な気がするから、スルーしとこう。アンはミリエラ達より大人っぽいから、普通にしてられる自信がねぇ! ミリエラ達だけでも内心焦りまくってんだよ!! 35歳童貞舐めんな! こちとら、とっくに'魔法使い'になってて、'妖精'の仲間入りまであとちょっとなんだぞ!ーー
3人娘の反応に、そんなことを思いながらも話を続けるタカ。
「まぁ、とにかく、いきなり全部ってのは無理だ。追々、ゆっくり話してく。んで、まずは、俺が使ってる魔法を全員に覚えてもらいたい」
「いいのか!?」
タカの言葉に、期待全開で興奮気味な声をあげるレジィ。ベイク、ルグも期待に目を輝かせてたりする。
「いいも何も、俺の目的の為には必須なんだよ。あぁ、別に危険なことをさせたいわけじゃないから、そこは安心してくれ。むしろ、普通に冒険者をして生きてくのに限っちゃ安全性が増す筈だ。ここでは詠唱して使う魔法が普通なんだろ?」
「・・やっぱりタカさんの魔法は詠唱を必要としないのか?」
「しないな。っつーか、あんな非効率的な魔法、やってられるかって感じだ。妖精族のケティですら、アホみたいな魔力持ってんのに、俺が軽く使った魔法より威力が低い魔法しか使えないんだからな」
タカの言葉に、絶句するカイト少年達。
「人種族より圧倒的に高い魔力を持ってるっていう妖精族でそれだ。俺と同じ、もしくは、似た技術を持った奴がいない限り、俺はこの世界で魔法に関しちゃ最強な自信がある。ついでに、詠唱魔法、あぁ、詠唱が必要な魔法を俺が勝手にそう呼んでるんだけど、詠唱魔法の性質上、魔法が遠距離専門の固定砲台だと思ってるだろ? でも、俺の魔法はオールレンジで戦れるからな? 実際に見てんだから、それはとっとと信じて、頭の中を切り替えとけ。俺の魔法、あ~・・'PARTS'魔法でいいか。'PARTS'魔法は柔軟な発想と思い付き、あとは魔力操作が物を言うんだ。頭カチカチにしてたら、'PARTS'魔法の利点が全然活かせねぇからな?」
タカの台詞に、目を白黒させる一同。
「・・ごめん。既に、頭がパンクしてる。タカの言ってることは全部常識外れ」
「だろーな。だから、ちょっとずつ話してくっつってんだし」
「え~と・・つまり、タカの魔法は今までの魔法とは全然違うってことっすよね? ってことは・・ボクでもタカみたいに指1本で殴ってきた相手を受け止められるってことっすよね!?」
「まぁ、そこまで行こうと思ったら、大変だと思うけどな」
「じゃあじゃあ、空を飛んだりとか水の中にずっと潜ってたりとか物凄い速さで走ったりもできるっすか!?」
「空飛ぶのと水の中で息ができるようになるのは、制御は難しいけど、まぁ、いけるだろ」
「じゃあ、ボクがタカより強くなって、ボクがタカを守ってあげたりもできるっすか!?」
「それは無理」
バッサリと返答されて、ガックリと肩を落とすウィシィ。
「えぇ~・・なんですっかぁ?」
「最強は俺なんだよ。誰が譲るか」
「「「理由が子どもだ!?」」」
「うぅ~・・でも、ボクが必死で頑張ったら」
「ない。俺はそれ以上に必死になるから。絶対に誰一人俺より上にはいさせん」
「「「目がマジ過ぎる!?」」」
「うぅ~っ。タカがイジワルっす~っ」
ポカポカとタカの肩を叩くウィシィ。
「俺を越えようとか、15年早いわ」
「なんで15年なんすか?」
「俺がここまで登り詰めるのに掛かった時間が15年なんだよ」
タカの言葉に、首を傾げるカイト少年達。
「そうだな。お前らが変に焦らないように、これは言っとくか。俺の実年齢は35だ。もうすぐ36になるトコだったな」
「タカはどう見ても、20歳くらいっすよ?」
「ん。それに、言い方が変。どうして36歳になるところ'だった'なの?」
「うんうん。やっぱりミリエラは頭の回転が早いな。よく気付いた。ただ、理由がなぁ・・正直、なんでこうなってんのか、俺にも分からん。気付いたら若返ってた、としか言いようがないんだよな」
タカの困ったような言葉に、全員唖然とする。
「気付いたらって・・」
「いつか分かればいいなぁとは思うけど、まぁ、若返って悪いことはないからな。大して気にしてねぇんだよ、理由は」
「まぁ、それはそうだろうけど、じゃあ、タカはホントは35のおっさんだってのか?」
「そーだな。だけど、レジィくぅん? 言い方には気を付けようなぁ? マジで品評会させんぞ」
「すんませんっしたぁっ!!」
半眼になって言うタカに、勢いよく頭を下げるレジィ。
「ったく。まぁ、とにかくだ。俺はお前らの倍近く生きてる。んで、お前らが生きてきた時間と同じくらいの時間を強くなる為に費やしてきた。だから、お前らが俺と同じレベルで物を考えるのはやめろ。影すら踏ませやしねぇから」
「でも、それでタカの目的の助けになれる?」
「うん。協力って言ってたよね? それって、そんな程度でいいの?」
「そんな程度って言うけど、それなりのレベルにはなってもらうぞ? そうだな・・バカデカい蜥蜴みたいな魔獣を知ってるか? 火を吹いたり雷を吐いたりするようなヤツなんだけど」
「アドラコのこと?」
「ああ。多分そうだ。俺が知ってる名前とはちょっと違うけどな。そいつの小型くらいは、1人で鼻歌歌いながら倒せるようにはなってもらうから」
「「「「マジで言ってんのか!?」」」」
タカの宣言に、カイト少年、ダイン、レジィ、ルグの悲鳴に近い絶叫が響く。
「アドラコのちっこいヤツでも、王国の騎士団が出てくるって話っすよ? そんなのを1人で倒せるようになるっすか? ボクでも?」
「ああ。アレをソロで倒せるのが一流かどうかの目安になってたからな」
「「「「一流の基準がおかしいからな!?」」」」
「・・・お前ら、ホントに仲いいな。ツッコミがピッタリハモってんじゃねぇか」
「そっ、そういう話じゃないだろ!? タカのいた国はどういう連中が蠢いてたんだ!?」
「そうだなぁ・・アドラコだっけか? それの小型をソロ討伐が一流の入口。俺達はグランドラゴンって呼んでたけど、まぁ、アドラコの超大型なタイプだな。そいつを単独撃破できる奴が超一流。んで、頭がおかしいって言われるレベルになったら、エンシェントドラゴンっていう、魔法は使うし、ブレスは全属性放ってくるし、超回復なんて反則技を持ってるしっていう怪物とか、グランデュークデモンって最上位の悪魔タイプの魔物とかを単独撃破できたりするな。ちなみに、俺はその頭のおかしいってランクの奴らから、頭がおかしいって言われてたぞ」
タカの解説に、おもいきり顔を引き攣らせまくる一同。
「・・どうしたらいいですか? タカの言う魔物や魔獣に心当たりがあり過ぎるんですが」
「超大型のアドラコって、南のアドルカ王国の騎士団を全滅させたって噂のヤツ、だよな?」
「魔法を使ったりいろいろなブレスを吐くアドラコは、伝説の超巨大魔獣だと思いますよ? あと、最上位の悪魔タイプの魔物も世界最大のダンジョン、[冥落]の深部に生息すると言われている伝説の魔物だと思います」
掠れた声でタカの解説に補足を入れるアンに、タカは感心を表情に浮かべる。
「へぇ。アンはやっぱり魔物とか魔獣に詳しいな。そうなんだよ。グランデュークデモンはダンジョンの最深部の門番だったんだよ。んで、あいつら、倒しても一定時間で復活しやがるんだよなぁ。確か、倒しても精神体になるだけで死にやしないから、ダンジョンに満ちてる魔素を吸収して復活できるんだったっけかな」
「め、目眩が・・た、確かに、そういう伝説が残ってるって話は知ってます。古の時代の最強の称号を与えられた英雄達がダンジョンの攻略に向かって、凶悪な強さの悪魔を打ち倒してダンジョンの最深部への道を開いたのに、体勢を整えて戻ってきたら、またその悪魔が道を塞いでいた、と」
「・・・俺の気のせいじゃなかったら、タカさんはそれを倒したことがあるっていう風に聞こえたんだけど」
「倒したぞ? まぁ、マトモに戦ったら時間が掛かって仕方ないから、遅滞魔法で最大火力の魔法の発動を遅らせて、戦闘が始まった瞬間に消し飛ばすっていう反則技でだけどな。1回マトモに戦ったら、倒すのに4時間も掛かった。流石にあのタフさと回復力の高さには毎回付き合ってられないんだよ。最深部の魔物とか魔獣はもっとタチが悪いのがわんさかだったから、消耗も抑えたかったし」
ダインの問いかけに、事も無げに答えるタカ。もう驚き疲れたと言わんばかりに、脱力してしまう一同。
無論、'MAGICIANS ONLINE'内での話であることは十分に理解しているタカだが、これまでに遭遇した魔物と'MAGICIANS ONLINE'で対峙した魔物との強さに違いが感じられない為に、その自信が揺らぐことはないのだ。生き死にに直結する事柄だけに、油断するつもりは毛頭無く、慎重に行動するつもりではあるが。
「マ、マジでか・・」
「ダメだ。こいつ、マジだ。そんなとんでも魔物との戦いのことを、思い出話するみたいな顔で言ってやがる」
「そんなに強い人がたくさんな場所なら、特殊な場所だっていう話にも納得できる。明らかに異常」
「・・だなぁ・・・そりゃ、そゆなトコにいたんなら、一流の基準がおかしくもなるわな・・・グリーンウルフとかブラウンリザドの群れを片手間で全滅させてたんだもんなぁ」
「ダイン、帰ってこい!?」
遠い目をして言うダインにカイト少年のツッコミが炸裂しながら、ダインの肩を揺さぶる。
「ははは。まぁ、でも、それもすぐじゃない。'PARTS'魔法を使えるようになる為には、必須のマジックアイテムがある。無くても使えるけど、'PARTS'魔法の最大の利点である'応用が利く'って点が活かせなくなるから、やっぱり必須アイテムだな」
「もしかして、タカがいっつも持ってる本がそれっすか?」
「お? 当たりだ。よく分かったな」
「タカが魔法を使ったら、その本がぼんやり光ってるっすから」
「マジか? 気付かなかった・・」
「淡くしか光ってませんし、それよりもタカが使う魔法の方に、普通は目を取られますから。仕方ありませんよ」
ーーよく見てやがる。しっかし、これが実は女神様からもらった神器の1つで、他にもそれなりの数を持ってるとか知ったら、こいつらもケティみたく怒るんだろーなぁ・・数の理由が理由なだけにーー
そんなことを思いながら、ケティにしたのと同じように'PARTS'魔法の使い方の説明を始めるタカ。ケティのアドバイスに従って、女神や異世界の話は伏せたままで。
そして、'PARTS BOOK'に触れて、'PARTS'の存在を認識したカイト少年達は、脳の許容量を越えたらしく、頭から煙を噴き出しそうな顔で頭を抱えたのであった。以前にケティが'PARTS'がどういうものなのかを短い時間で理解して、多少手間取ったものの、すぐに'PARTS'魔法を発動させられたのは、魔法に長けた妖精族だからこそだったらしい。