'PARTS' 12 金は使う為にある 後編
「カイトが一緒にいろって言ったっすよ! これで後はタカがイヤじゃなかったら、ずっと一緒にいられるっす!! イヤとか言わないで一緒にいてほしいっす!! いてくれるんなら、ボク、これからずっと肉食べなくてもいいっす!!」
そんなカオスな状態になっていたメンバー達が、驚愕の表情で一斉に発言元のウィシィに視線を集める。
「ウィ、ウィシィが、肉を食べなくてもいい、だと!? そこまでこいつと一緒にいたかったのか!? す、すまん! 変な意地張ってた俺が悪かった!!」
「待てオイ。ウィシィが肉を諦めるってのは、少年のショックとか葛藤とかその他諸々が'変な意地'の一言で片付けられるレベルに大事なのか?」
「そうだよ! コイツ、フロッグピジョンの串焼きが食いたいからって、自分の食費丸1日分をつぎ込むんだぞ!? 1本串焼きの為に!」
「他にも、丸3日分の食費で、アサルトシープの香草焼きを買ったり、ブロゥピッグの唐揚げを買ったりと、例を挙げたらキリがないくらいに肉に掛ける情熱は本物」
「そんなウィシィが、タカさんといられるなら肉を食わないでいいとか、冗談でも信じられねぇよ・・」
「ウィシィ、そんなにタカを好きになってたのか・・懐いてるとは思ってたけど・・」
カイト少年達の言葉に、呆れたような、でも、どこか照れ臭そうな苦笑を浮かべるタカ。
「お・ま・え・の・頭ん中は肉だらけかっ!」
「皆のことも入ってるっすよぉ~。肉は大好きっすけど、タカの方が好きなんす~」
ツッコミを入れながらウィシィの頭を両手で掴んで揺するタカに、揺すられて語尾が伸びてしまいながらも、半泣きで抗議の声を上げるウィシィ。
「ったく」
呆れたような言葉を口にしながら手を離して、大きく溜め息を吐くタカ。完全に照れ隠しであることは、緩んでいる表情が物語っている。
「そこまで言うんなら、俺の目的にも事情にもガッツリ巻き込むぞ?」
「はいっす!!」
「むぐっ!?」「「「「「「な゛っ!?」」」」」」
食い気味に返事をして、おもいきりタカに抱きついたウィシィは、勢いのままに、タカの唇を塞いだ。タカの驚きの呻きと他のメンバーの驚愕の声が重なる。若干名は怒りの声のようだったが。
「んぐっ。コ、コラッ! 何を血迷っ、て・・・る・・・・?」
ウィシィの体を掴んで、押し退けたタカの声が、何故か段々と小さくなっていき、その表情が見事に固まっていく。
その様子を、怪訝そうに見つめて、動きが止まる他のメンバー。
「・・ちょっと。男共。集合。今すぐ」
キョトンとしたままのウィシィを隣の椅子に座らせて、タカはそう言って、部屋の隅に男子メンバーのみを召集する。
「どうしたんだ? 何か様子がおかしいぞ?」
「答える前に、重大な、かつ、重要な質問だ。お前ら、ウィシィとの付き合いの長さは?]
「は? 急に何言ってんだ?」
「いいから、答えろ。どれくらいだ?」
「全員同じくらいだ。ダインと俺がちょっとだけ長いくらいでな」
怪訝そうにしながらも、タカの迫力に飲まれて素直に答えるカイト少年。
「んじゃ、次の質問。風呂は普通は入れないって話だったけど、水浴びくらいはするよな?」
「おう。汗かいたら、やっぱり水浴びした方がスッキリするしな。体を拭くだけとかもあるけど」
「それがどうかしたのか? アニキ」
「待て。最後の質問だ。お前ら、全裸でウィシィと水浴びを一緒にしたことは? もしくは、裸のウィシィを見たことある奴は?」
「多分、誰もいないんじゃないか? なんか、ウィシィは体が皆と違うから、見られたくないって昔っから言ってたから」
「だよな。水浴びも、1人で隠れてやってたし。俺達は気にしないって言ってたんだけど、本人が嫌がるから、まぁ、無理させるようなことでもないからって」
レジィとダインの回答に、頭を抱えて踞るタカ。困惑して、互いに顔を見合わせるカイト少年達。
「なんだよ? どういうこった? 1人で踞ってねぇで、説明しやがれ」
「・・・待て。俺にも整理する時間をくれ」
「は?」
「・・マジかよ・・・誰だ? こんなベタなテンプレ仕込んだ馬鹿は・・・リアルじゃ洒落にならんってのに」
しばしの間、タカがブツブツと一人言を呟くのを、怪訝そうに見守るカイト少年達と、少し離れたテーブルから何があったのか不思議そうにしているミリエラ達とウィシィ。
少しして、タカがようやく立ち上がる。
「よし。説明する。ミリエラ達にも、何より、ウィシィにも自覚させなきゃならん」
「へ? 自覚させる?」
「すまん。俺もまだ混乱しまくってんだよ。上手く言えん。もう最後はミリエラ達に任せるしかないし」
そう言って、再びテーブルに戻ってくるタカ達。
「どうしたの?」
ミリエラの心配そうな声音に、苦笑を浮かべるしかできないタカ。
「さっき、判明した衝撃の事実を説明する。ウィシィは女だ」
いきなりで、簡潔過ぎる説明に、ポカンとなるカイト少年達。
「いやいやっすよ~。ボクは男っすって前にも言ったじゃないっすか~」
笑いながら言うウィシィだが、タカの表情はこの上なく真剣だ。
「さっき、俺がこいつにキスされて、押し退けたろ? んで、そのときに胸ぐら掴むつもりで掴んだら、柔らかかったんだよ」
タカの追加の説明に、一同の動きと表情が止まった。
「これまで抱きつかれたりくっついてこられたりはしてたけど、全部革鎧越しだったから、気付かなかった。でも、今日は腹一杯に食う為に、腹を圧迫する鎧は皆も外してるだろ? こいつもだ。あ、男共は今すぐ上に視線上げろ。胸、凝視したりしたら、眼球蒸発させっから」
タカの言葉に、咄嗟に顔を上に上げるカイト少年達。
「アニキ、声のトーンがいつになくマジに聞こえたぞ? マジの本気で言ってねぇ?」
「おう。今回は結構マジだぞ。無自覚なせいで無防備な女の子の胸を男が凝視するとか、許されると思うか? っつーか、こいつに関しちゃ過保護な俺が許さん」
「過保護って認めた!?」
「自覚あったのかよ!?」
「アホ可愛い奴ってのは、どうにも昔から放っておけなくてな。特に、素直に懐いてくる駄犬はアホなほど可愛いモンだ」
「駄犬言うなっす!! ボクは狼っす!! 狼人族っすよ!?」
「よ~しよし。そのフレーズもなんか久しぶりな気がするな。んで、ミリエラ。シェリー。アン。確認してやってくれないか?」
「確認って・・どうすればいいの?」
「ウィシィは昔から人に体を見られるのを嫌がっていましたから、仮にタカ達を部屋の外に追い出したとしても、体を見させてもらうわけにもいきませんよ?」
「タカ。本気でボクのコト、女だと思ってるっすか? 確かに、ボクの体はちっさい頃に変だって気付いたっす。股の間は何も生えてこないっすし、胸が最近変に膨らんできてて」
「「「「「女だからだよ!! それ!!」」」」」
「えぇっ!?」
ウィシィの悲しそうな声音の台詞に、全員のツッコミが同時に炸裂する。
「で、でも、孤児院の院長先生と面倒見てくれてた先生が言ってたっすよ? ボクと先生は男同士だから、先生がボクの体を触っててもおかしくないし、股の間を触るのは男の子の証拠が生えてくるようにする為だって」
ウィシィのその言葉に、タカから表情が消える。
「オイ。ウィシィの育った孤児院ってどこだ? そのゴミクズ共、この世の地獄を見せてから、身動きが取れない状態で魔物の餌にしてやる」
底冷えするような静かな、しかし、怒気を孕みまくったタカの声音に室内の温度が下がったような感覚に襲われるカイト少年達。
しかし、その怒りを理解できる為に、タカの問いかけに無念そうに答えるダイン。若干、顔が引き攣ってはいるが。
「いや、残念だけど、ウィシィの育った孤児院はとっくに潰れてる。ウィシィよりも酷い目に遭わされた子が出てな。国が動いたんだ。一応、国営だったしな」
「チッ」
「な、なんでそんなに怒ってるっすか? ボク、変なこと言ったっすか?」
不安そうにするウィシィの頭を優しく撫でるタカ。
「お前が悪いんじゃない。お前に間違ったこと教えた奴が悪いんだ。だから、心配すんな。な?」
タカの優しい声音に、不安そうな顔を一転させて、にへらっと頬を緩ませるウィシィ。
「・・ウィシィ? 少しだけ顔が赤くなってる?」
「うぅ~・・タカと会ってから変なんすよぉ。タカが頭撫でてくれたら、なんか顔がちょっとだけ熱くなるっすし、抱きついたりくっついたりしてたら、ドキドキして落ち着かなくなるっすし、でも、離れてたら、寂しくて構ってほしくなって我慢できなくなるっすし」
「「「「惚れてんじゃねぇか、それ」」」」
「えぇっ!? でも、ボク、男っすよ!? 男なのに、タカを男として好き、と・・か」
そこまで言って、ボフンッという音が響きそうな勢いで顔が真っ赤になってしまい、言葉が途切れるウィシィ。
「あ、あれ? あれ?」
「・・・ウィシィ。素直に答えて。ウィシィが男とか女とかはいいから」
「う、うぅ~・・はいっす・・」
「タカと私がくっついてると、モヤモヤしたりした?」
「・・したっす。だから、ボクもくっつきにいってたっす」
「私がタカに抱いてって言ったときは?」
「・・よく分かんないっすよぅ。なんか、尻尾がザワザワして、走りまくりたくなってたっすけど・・」
「タカとキス「そ、それはっ」・・それは、何? 嬉しかった?」
ミリエラの言葉を思わず遮ってしまったものの、続けられる質問に真っ赤になって、俯いてしまうウィシィ。
「むぅ・・とりあえず、ウィシィ。それはウィシィが女なら、正常な反応」
「・・うん。とりあえず、タカを女の子として好きだって言うんなら、当たり前だよ。それ全部」
「そうですね。とりあえずは、極自然な心の動きだと思います」
ミリエラ、シェリー、アンから発せられる迫力と圧力に、ウィシィは思わず、俯いた顔を上げて、椅子から降りてタカの後ろに隠れてしまう。
「な、なんで3人して、'とりあえず'って言うんすか? なんか、メチャクチャ怖いっすよ?」
「そうやってタカに自然に甘えるからでしょぉぉぉっ!!」
「しかも、キスまで。油断した。タカに1番可愛がられてるウィシィが女だとは」
「ひぃぃぃっ!?」
耳を垂れさせて、尻尾を股の間に挟んで小さくなってタカの背中に隠れてしまうウィシィ。
「あ~、よしよし。怖くない怖くない。ほら、ミリエラとシェリーも。今はこいつに自分の性別を自覚させないと。これまではよかったけど、これから成長してくに従って、何かと不都合が出てくんだから」
「タカ。ウィシィが女だと分かっても態度が変わらない。どうして?」
「いや、だってウィシィはウィシィだし。男だろーが女だろーが、アホ可愛くて、無邪気に明るくて、素直に遠慮ナシな駄犬だろ?」
「駄犬言うなっすよぉ」
「はいはい。そういうのは、後ろに隠れながら言うもんじゃないからな?」
そう言って、肩越しにウィシィの頭を撫でる。タカの後ろに隠れるウィシィの姿は、雷の音に驚いて、主人の影に隠れて怯えるダメ犬そのものである。少なくとも、狼の要素は欠片も見当たらない。
「ん。分かった。じゃあ、手っ取り早くウィシィに自分を女と認識させる」
「へ?」
「どうやってだ? 無理矢理剥くとかは止めてやれよ? 昔から本気で嫌がってたんだ。1回、カイトが無理矢理水浴びに連れていって、服を剥ぎ取ろうとしたときは号泣してたくらいなんだからな?」
ダインの念押しの台詞に、少女達からカイト少年に向けられる目がゴミを見るものに変わる。
「最低」
「考えらんない」
「怖かったでしょうね。ウィシィは」
「待て待て待て待て! ただ俺はつまんねぇこと俺達の間じゃ気にすんなってのをだな!! それに、女だなんて思いもしなかったんだぞ!?」
「うんうん。よかったな? 少年?」
「は?」
「もし、そこで強引に実行してて、ウィシィを剥いてたりしたら、手足拘束した上で、3日程モロ出しで晒しモンだったんだぞ? 防壁魔法で侵入防ぐから、助け出されることもなく」
「本気であそこで引いといてよかったって心から思うわ!! お前、本気で自重しろよ!? ウィシィに関してだけ、マジで過保護だからな!? そのノリのまんまだと、直に街の1つや2つブッ飛ばすぞ!?」
「うわぁ・・カイトの口から'自重'って言葉が出たよ」
「この中で自重から1番遠ざかってた癖にな~」
「ルグ、ベイク、うるせぇっ!!」
「んで、任せていいのか?」
「ん。問題ない。でも、タカだけは残っておいてほしい」
「念の為にってか?」
「何するのか分かんないけど、いきなりの話だもんね。実際に、突き付けられたらパニックになっちゃうかも」
「その心配はしてない」
「へ? そなの?」
「ウィシィはもうほとんど女としての自覚が無自覚に出てきてる。後は、目で見て分かるものがあれば納得できる」
「そんなに簡単なものでしょうか?」
「普通なら、多分無理。でも、タカのことを好きになったおかげで、心の動きも体の反応も女になってる。間違った刷り込みのせいで思い込まされてるけど、もう既にそういうズレが出てる。だから、あとは納得するだけ。だって、そうすれば、自分がタカを好きでもおかしくなくなるから」
「「あぁ。なるほど」」
「な、なんで納得するんすかぁ。ボクは男で、ちょっと変な体なだけで、でも、タカが好きで・・うぅ~」
「安心して。絶対に普通に納得できるから」
そう言って、ウィシィの頭をポンポンと撫でるミリエラ。
「じゃあ、なんで俺がいた方がいいんだ?」
「ん。簡単なこと。ウィシィに私の裸を見せる。そうすれば、自分の体が女のものだと分かる」
「俺がいる必要性皆無だよな、それ!?」
「万が一、ウィシィが特異体質の男だという可能性を考えて、私の裸を見る男はタカが最初であってほしいから」
「・・こ、断り辛い言い方を・・・本音は?」
「ウィシィに納得させるいい手段が思い付いたから、それを口実にタカの理性を揺さぶってみようかと」
「こ、こいつは・・ハァ」
しれっと本音だという言葉を言い切ったミリエラの頭を撫でるタカ。
「分かった。じゃあ、万が一、ウィシィが男だったら、俺が責任持って嫁にもらってやる」
バッとタカを見上げるミリエラ。
「それなら、大丈夫か?」
「・・・どうしてバレた?」
「へ?」
「そんな不安そうなツラして、バレないとでも思ってたのが驚きだな」
「不安そう? ミリエラが?」
「ウィシィが男な可能性が微粒子レベルでは存在してっからな。いくら仲間とは言っても、男に体を晒すのに抵抗ないわけないだろ? だから、微妙に不安だったんだよな?」
そう言って、ミリエラの方に視線を向けるタカ。ガバッとタカに抱きつくミリエラ。
「タカは何回私を口説いたら気が済むの? とっくに落ちてる。ここまで女を落としておいて、それに応えないのは男じゃないと思う」
「オイ。人を口説くだけ口説いて放置するタチのワリィ奴みたいに言うな。至って当たり前のことしか口にしとらんだろうが」
「私の気持ちを分かりやすいと言ってくれる人なんていない。それなのに、分かるのが当たり前っていうのは私にとっては殺し文句。まして、まだ少しの時間しか一緒にいないのに。実は、それなりに見てくれてる?」
ミリエラの問いかけに、フイッと目を逸らすタカ。
ミリエラは掛け値無しの美少女だ。そんな子に全力の好意をぶつけられて、気にせずにいられる男はまずいない。当然、タカも例外ではない。
しかも、最初は[血濡れ鼠]らしき盗賊団の1人に腹を蹴られたという彼女の容態を心配して、特に注視していたのだ。表情の乏しいこの少女は、そうでもしないと我慢して無理をしそうな気がしていたから、余計に。
「ふふ。嬉しい。それじゃ、タカとウィシィ以外は部屋の外に出て。ウィシィが出てきたら、2時間くらい食休みをしてくれてたらいい」
「俺も出るぞ!? っつーか、何をしれっとウィシィまで追い出すつもりになってんだ!」
「そうよ! 大体、女の子同士なら見られたって問題ないんだから、あたしまで出てく必要ないじゃない! それに、ウィシィに納得させるんなら、ミリエラ以外にも女の子の体見せた方が納得しやすいでしょ!! そ、そしたら、そのあとは、ウィシィが出てってから・・」
「シェリー。あなたまで本音が駄々漏れですよ? もう少し建前というのを大切にしましょう? あくまでも、ウィシィに納得させる為のものなんですから」
「うあ・・アンの奴、建前って完全に言い切ったぞ」
「まぁ、ウィシィが女だってのはもう確定だもんなぁ」
「それにしたって、女って怖ぇ」
「うるさいですよ。とりあえず、そういうことですから、男性陣は少しの間、部屋から出ていてください。呼ぶ前に入ってきたら、許しませんからね?」
「へいへ~い。行くぞ~」
カイト少年の号令で、タカを含む男勢が部屋から出ていく。
それから、しばらくして、中から扉が開かれて、再び男勢が中に入る。そこには、真っ赤になって、小さくなっているウィシィと、呆れ顔の3人娘がいた。
「どうしたんだ? ウィシィは。納得できなかったのか?」
ダインの問いかけに、シェリーは首を振る。
「したわよ。でも、意識までそんなにすぐに変わんないみたいで、恥ずかしかったみたい」
「その癖、タカに甘えてたことが今更恥ずかしくなってきたらしい」
「あぁ・・背中に乗っかったり、腰にタックルしてたり、撫でろとか言って頭擦り寄せたりしてたもんな」
「あぅぅ~。言わないでほしいっすよぅ。思い出したら、なんかメチャクチャ恥ずかしいっすよぉ」
「・・なんつーか、スッゲェ今更だな。まぁ、ウィシィが女だって思ったら、もう恋人同士レベルにイチャついてたようにしか思えねぇけど」
レジィの言葉に、ますます赤くなるウィシィ。チラチラとタカを見ていたりする。
「男だと思って接すんのと、そうじゃないのとじゃ意味合いが全然違うだろ。アホなコト言うな」
「タ、タカはボクみたいなの、イヤ、っすか?」
「・・お前、いきなり反応が女の子っぽくなってんじゃねぇよ」
捨てられた仔犬のような目で見てくるウィシィの頭を、くしゃっと撫でるタカ。
「ゆっくり自分の中の認識と現実とのズレを減らしていきゃいい。焦んなくても、リーダーがここにいていいって言ってくれたトコだろ?」
パァァァッと表情を輝かせて、タカに抱きつくウィシィ。
「はいっす! ずっとずっと一緒っす!!」
そう言いながら尻尾を振り乱すウィシィを、ミリエラとシェリーが引き剥がす。
「ウィシィ。ダメ」
「さっきまで恥ずかしがって小さくなってたのに、何羨ましいことサラッとしてんのよ!?」
「へ? あ」
一気にまた赤くなってしまうウィシィ。
「・・なるほど。認識は改まったけど、意識がついてきてないんだな」
「いいんじゃね? 別にウィシィはウィシィなんだし」
「そだな。アニキが大変そーな気がしなくもないけど」
ウィシィが女性だという事実に、驚きはしてもカイト少年達の態度は何も変わらない。9人の絆は、その程度のことでは揺るがない程に強固な信頼であることを感じて、タカは目を細めるのだった。