'PARTS' 11 金は使う為にある 中編
ラガロが部屋を後にしてから少しして、ようやく呆然としていたメンバーが我に返った。
「タカさん・・物凄い注文の仕方して、物凄い金額が聞こえたんだけど・・・」
「そうか? 査定結果が金貨で100枚近くになってたんだから、気にしなくていいだろ」
「いやいやいやいや。俺達はすっげぇ嬉しいよ? 嬉しいけど、いいのか? 肉料理一通り全部って・・」
「食えるだろ。若いんだし。それに、目をキラッキラさせてる大食いもいることだしな」
「肉楽園で肉料理全部・・・」[ジュルリ]
「うあ・・こんなウィシィ、見たことねぇよ」
「目が肉になってんぞ、オイ」
「大体、ダインくん? 君にはウィシィと同じ勢いで食わせるっつったろ? 金額なんぞ気にしてる余裕あるのか?」
「うぐっ・・そ、そうだった・・・」
「はははははっ。制限ナシで遠慮ナシのウィシィなんか初めてだもんなっ! ダイン、頑張れ~」
「どこまでダインがついてけるか、楽しみだなっ」
「く、ベイク、ルグ・・お前ら、本気で覚えてろよ」
タカのツッコミで顔を引き攣らせたダインに、ベイクとルグの割と容赦のない声援? が浴びせられる。ダインは恨みがましい視線を向けて唸ることしかできない。
そんな男勢を尻目に、シェリーは期待に瞳と表情を輝かせる。
「・・・ねぇ? ここの肉料理にさ、霜降り紅肉ってあるかな?」
「・・・あったと思います。確か、そんな話を聞いた覚えがありますから」
「そっかぁ」[ゴクッ]
そんなシェリーとアンのやりとりに、タカが興味を引かれて会話に口を挟む。タカのツッコミがきっかけとなってイジられているダインは放置されるらしい。
「なんだ? その霜降り紅肉って」
「知らないの!? って、そっか。タカは遠い所から来たんだったもんね。えっと、クリムゾンピーコックっていうおっきな鳥がいるんだけど、その肉のこと」
「メチャクチャ美味しいって噂っすけど、そのクリムゾンピーコックがスッゴい強くて、しかも、いる所も危ないトコだから、高ランク冒険者でも獲ってくるのがメッチャ難しいっていう肉なんすよ! だから、物凄く高いんす! 1匹で金貨100枚はするらしいっす!」
「へぇ。楽しみだな、そりゃ」
シェリーの説明を補足するように、ウィシィが興奮気味に言葉を繋げる。それを単純に楽しみにするタカの、ある意味平然とした反応にカイト少年が呆れた表情を向ける。
「値段を聞いても全然動じやしねぇ・・お前、金銭感覚狂ってんぞ?」
「金は使う為にあるんだぞ? ましてや、余裕がある状態なら、そういう美味いって話のモンは楽しみにしなきゃ嘘だろ」
「ん。確かにそう。それに、本当に美味しかったら、また食べたいから頑張れる」
「ああ。頑張ったらその分、自分へのご褒美もなくちゃやってけねーよな。っつーか、その為に頑張るんだし」
「・・そっか。楽しみの為に頑張ればいいのか」
「それなら、しんどいクエストでも頑張れるよな」
「そうだな。まぁ、無理しちゃ何にもならないから、そこだけは気を付けなきゃならんけど」
そんな風にワイワイと賑やかな部屋に、最初の料理が運ばれてきてから、次々と料理が運ばれてくる。そして、それらが、凄まじい勢いで皿の上から消えていく。高級店というだけあり、ウィシィ達にとっては人生で最高に美味い食事なのだ。無論、豊かな日本で育ってはいても、高級店に行ける程の稼ぎがあるわけでもなかったタカにとっても同様だ。
まして、タカにとっては、異世界で初めてのマトモな食事である。街に戻ってくるまでは、初期所持品として与えられる回復アイテムとしての干し肉しか食料がなかったのだから、空腹でないわけもない。
全員が「美味い」と感想を溢しながら、食事を貪っていく。
そんな中で、話に出た霜降り紅肉が運ばれてきた。
タカにとっては、これまでの肉料理に使われていた材料の肉も何の肉か分からないものばかりだったが、これは特に異彩を放っている。
何せ、間違いなく火が通っているのに、肉の色が鮮やかな紅色をしているのだ。しかも、ナイフで切り分けると、透明で綺麗な肉汁が溢れ出てくるのだ。その上、ナイフに伝わってくる感触だけで肉の柔らかさが分かってしまうというおまけ付き。
その肉は口に入れると、舌の上で肉が解けるように溶けていく。なのに、肉を噛み切る歯応えはしっかりとあって、肉に絡む辛口のソースが絶妙な調和で肉の美味さを一段階上げている。
3人娘は、タカ以外のことに関しては表情に乏しいミリエラですらも、うっとりとした表情になり、頬を片手で押さえ、少年達は呆けてしまう。言葉にできない美味さというものを全員が実感していた。
大きくない霜降り紅肉は、文字通り、瞬く間に無くなってしまう。そこでタカが料理を運んできたラガロを呼び止める。
「いかがなさいましたでしょうか?」
まさか口に合わなかったのではと、ラガロが顔色を悪くするが、それは完全に杞憂というものだ。
「今のが最後の肉料理だって言ってよな? 会計は全部で今、いくらになってる?」
「あ、はい。12万6500レーベでございます」
「金貨で12枚程度か。この料理の単価は?」
「1万5000レーベでございますが・・」
タカの問いかけに、嫌な予感がして顔を引き攣らせるラガロ。自分の常識がまたもブチ壊される予感がしたのだ。
そして、その予感は正しかったりする。
「納得の値段だな。んじゃ、これ、あと3つ追加な」
「「「「マジでか!?」」」っすか!?」
タカの言葉に、ラガロは言葉をなくして顔を引き攣らせ、ダイン達は驚愕の叫びを上げる。若干1名は歓声のようだったが。
「つ、追加分が、よ、4万5000レーベ。合計で17万1500レーベとなります、が・・」
掠れた声で再確認するラガロ。この店で最高値の料理をアッサリと、しかも、複数追加注文する客など普通は有り得ないのだから当然である。しかし、この世界の常識に疎いタカはそんなことは知ったことではないとばかりに余裕の態度を崩さない。財布の余裕は心の余裕でもあるのだ。
「金は余裕だから心配すんな。こんな美味いモン食って、踏み倒すような奴に生存権はねーよ。食えるだろ? これなら」
「食べれるっす! もう結構お腹膨れたっすけど、これならまだ全然余裕で入るっす!! ・・でも、いいんすか? 物凄い金額になるっすよ?」
「俺だけが食ってもいいんだけど? 食いたくないんなら」
「食べたいっす!」「「「食いたい!!」」」
期待全開にしつつも遠慮を見せるウィシィに、煽るような台詞を口にするタカ。そこに、ウィシィを筆頭にベイク、ルグ、レジィからもやたらと素直な反応が返ってきた。どうやら、タカの言い出したことに対してはもう遠慮ナシで甘えることにしたらしい。
「ん。これは抗えない。甘える」
「うんっ! ありがとっ! タカ!!」
「決めた。タカさんの言い出したことにはもうツッコミも遠慮もしない。俺も食いたい!」
霜降り紅肉の威力は相当のモノだったらしい。ミリエラとシェリーばかりか、ダインまでもが全力で素直になることにしたらしい。
「ってワケだ。頼むよ」
「は、はい。か、かし、かしこまりました」
その反応に満足げに頷いて、ラガロに追加注文を通すことを促すタカ。ラガロが体と声を震わせながら、深々と一礼して部屋を出ていく。その様子に、怪訝な表情を浮かべるタカ。
「・・・なんであんなに震えてたんだ?」
「お前、自分の非常識なやったこと忘れてんのか?」
「まぁ、つい俺の中の中二が目覚めて、おもろいコトした自覚はある」
「'ちゅうに'が何だか知らねぇけど、あんな非常識な真似を軽々やってみせるわ、とんでもねぇ金額の請求に眉一つ動かさねぇわ、とんでもねぇ金額の料理を欠片も迷わないで追加しまくるわってなったら、もう得体が知れなさ過ぎて、普通は怖ぇよ。そんな相手に、アイツはモロに喧嘩売っちまってんだぞ? 生きた心地しねぇだろうよ。ついでに、ここのオーナーも顔面蒼白になってんじゃないか?」
「ん~。まぁ、それならいいか。自業自得だ。飯の味には満足できるから、後は相手の態度次第で俺の出方も変わるし」
「満足してなかったら、どうしてたのよ? それ」
「ギルドの馬鹿女と冒険者達と同じ運命だったな。問答無用で」
「流石、アニキ! まったく容赦がねぇぜ! そこに痺れる憧れるぅっ!!」
ベイクの台詞に、思わず肩をコケさせるタカ。
「なんでお前がそのネタ知ってんだ・・」
「ねた?」
何のことだか分からずに、首を傾げるベイク。ここが異世界である以上は偶然の一致でしか有り得ないのだが、これにはタカも流石にツッコミを入れざるを得なかったのだ。通じるワケがないツッコミなだけに、勢いはかなり弱いものになってしまっているが。
「いや、いい。こっちの話だ。しっかし、霜降り紅肉ってのはマジで美味いな。そのクリムゾンピーコックてのはどこにいるんだ?」
「ま、まさか、自分で捕まえるつもりか!?」
「いくらタカでもムチャっすよ! 炎と溶けた岩の地獄に住んでる鳥っすよ!?」
強引に話を変えたタカの問いかけに、カイト少年の驚愕の台詞にウィシィの制止の台詞が響く。しかし、タカは僅かにもその態度に不安を混じらせない。
「溶けた岩? 火山の中にでも生息域を持ってるのか?」
「正解。ここからずっと南にあるボルカニク火山の内部に生きてるらしい」
「ふむ・・耐火・耐熱の装備が必須か・・・ちなみに、どんなのか知ってるか?」
「え、あ、はい。全身に炎を纏った鳥なんですけど、長く鋭い嘴は鋼鉄の鎧すらも貫くそうです。全身の炎を羽根みたいに飛ばして攻撃してくることもあるそうで、もちろん、飛ぶらしいです。あと、オスのクリムゾンピーコックは大きな尾羽みたいに炎を纏っていて、メスの方はそれがない分、火力は低くて捕まえやすいらしいです」
「でも、オスの方が美味い、とか?」
「は、はい。噂だと、オスのクリムゾンピーコックの肉は、メスの10倍くらいの値段がするそうです」
「見た目で分かるモンなのか? オスとかメスとか」
「あ、オスの肉は、焼くと真っ黒になるらしいから、火を通せばすぐに分かるらしいですよ。と言うか、捕まえるときに多少は絶対に焼けるそうですから」
「・・まぁ、'炎と溶けた岩の地獄'だもんな。そりゃそうか」
「ってことは、この霜降り紅肉はメスので、真っ黒っつー、食欲がいまいちそそられない色のオスの方はこれより美味い、と」
アンの回答とレジィの納得の台詞に対して、呟くようにして洩れたタカの言葉が妙に室内に響く。誰ともなく、喉がゴクリと鳴る音が鳴った。
「・・タカは、無事に行って帰ってこれる自信がある?」
「さぁな。実際に、そのボルカニク火山とやらを見てみないと何とも言えねぇよ。でも、ダメなら引き返せばいいだけだし、そう遠くない内に狩りに行ってみたいモンだ」
目をギラギラさせながら、心底楽しみにしたように獰猛な笑みを浮かべるタカ。そこに、隣に座っていたミリエラがポ~っとした表情のままでいきなり抱きついた。
「な゛ぁっ!?」
「ミ、ミリエラ? どうした?」
動揺と驚愕の叫びを上げるカイト少年と、動揺しまくりで声を若干震わせるタカ。ミリエラは潤んだ瞳と僅かに頬を赤く染めて、タカを見上げる。
「・・・タカ。抱いて?」
「な゛っ!?」「「「「おぉっ!?」」」」「ちょっ!?」「ミッ、ミリエラ!?」
口々に怒りやら驚きやら焦りやらの声が上がる中、タカはペシンとミリエラにデコピンを喰らわせる。若干、顔が赤くなって、目を逸らしている辺り、タカにもサッパリ余裕は無さそうである。
「脈絡が無さ過ぎる上に、心臓に悪いから、そういうことを言うな。おっさんには刺激が強過ぎだっての」
「タカが悪い」
「予想外の反論!?」
「格好良過ぎ。目がギラギラしてた。獲物を狙う眼。私もそんな眼で見られたいっていう気持ちが抑え切れない。ますます好きになる。だから、抱いて?」
「ズッ、ズルい!! あたっ、あたしもっ!!」
「シェリー!? お前まで何血迷ってんだ!? 正気に戻ることを強くオススメする!!」
「だって、カッコ良過ぎなんだもんっ! 顔は普通なのに、凄くカッコ良過ぎて、もうワケ分かんないくらいに好きになっちゃってるんだもんっ!!」
「シェ、シェリー・・う、ウソ、だろ?」
ガックリと床に手をついて四つん這いになってしまうカイト少年。
「うお~。とうとうシェリーまで告ったぞ」
「しかも、ミリエラ級にドストレート」
「相手がアニキだからな~。落とされても仕方ないだろ。でも、ちょっとだけカイトが気の毒だな」
「まぁ、あのバカにはいい薬だ。あいつらが頼りにしてくれてるからって、それに甘えて何も行動しなかった結果なんだからな」
「ダインは厳しいですね」
「フォローしてやるか?」
「いえ。流石に、あそこまで反応してたら、カイトの気持ちは分かりますし、気がないのに優しくするのは余計に可哀想な気がしますから」
「うは。バッサリ切っちゃったっすね~。そんな気、全然なかったんすか?」
「なかったですよ? 皆、私にとっても家族ですから。まぁ、ほんの少しだけ引かれていた頃もあったかもしれませんけど」
そう言って、羨ましそうにタカに構われているミリエラとシェリーを見つめる。
「・・・こんなに、胸が痛くなったことなんて、ありませんでしたから」
「あ、やっぱりアンもアニキが好きになってたのか」
「ま、まままま、まだ内緒ですよ? その、勢いで、とかじゃなくて、きちんと好きだと伝えたいですから」
「おう。まぁ、頑張れよ。あの人、身持ち固そうだし」
「ありがとうございます、ダイン」
タカがミリエラとシェリーを諭そうとしているのを尻目に、新たな事実が発覚していたのだが、タカが知ることになるのはどうやらもう少し先のことのようだ。
それからまた少しして、霜降り紅肉を使った料理が運ばれてきた。そして、全員が気持ちのいい満腹感と満足感に包まれることになったのだった。カイト少年がヤケ食いして、身動きが取れなくなったことを除いて。
「美味しかったっすぅ。タカ、ホントにホントにありがとうっす」
ウィシィの台詞を皮切りに、他のメンバーも口々に礼の言葉を述べていく。
「おう。満足できたか?」
「はいっす! こんなの生まれて初めてっす!!」
ウィシィの心底嬉しそうな笑顔に、目を細めながらワシャワシャもその頭を撫でるタカ。
「えへへ。なんかお返ししたいっす。タカは自分で何でもできそうっすけど、何かしてほしいコトとかないっすか?」
ウィシィの意外な台詞に、キョトンとするタカ。
「何でもいいっすよ? 大したことできないかもしれないっすけど、全力で頑張るっす!」
「あ、アニキ! 俺も何かしてぇっ! やってもらってばっかじゃ、仲間になってくれなんて言えねぇし!」
「ん。当然。好きな人の力になりたいのは当たり前のこと」
「結局、タカに頼っちゃいそうな気はするんだけどね~」
ウィシィに続いて、ベイクまでもが同じようなことを言い出し、ミリエラと、若干自信がなさげではあっても、シェリーも同意を示す。
「ああ。別に飯のことだけじゃない。街に戻るまでだって、ずっと守ってもらって助けてもらってた。そんな程度で何言ってんだって思われるだろうけど、俺もウィシィ達と同じ気持ちだ」
「俺もだぜ。タカ」
「おう。何ができるかなんか、全然分かんねぇけどさ」
ダイン、ルグ、レジィと続いたところで、全員の視線が不貞腐れたようにそっぽを向いているカイト少年に集まる。
「・・・んだよ」
「カイト。このパーティーのリーダーはお前だ。最終的な決定権はお前にある。だから、お前の正直な気持ちも聞かせてくれ。タカさんには当然感謝してる。力になりたいってのも俺の本音だ。でも、この3年、俺達を支えて先頭に立って、ここまで連れてきてくれたお前を蔑ろにもできない」
ダインの言葉に、ますますブスッとするカイト少年。
「だから、俺はお前の判断に従う。これからどうするのかってのをな」
「まぁ、そうだな。やらかしまくってるカイトだけど、それが面白かったんだし、そうなってたのもカイトのおかげなんだからな」
「だな~。こういうときの判断は、俺には荷が重いし」
「ん。ごめん。私もカイトのことは信頼してる。でも、タカの傍から離れるのは考えられない。だから、カイトの結論次第ではお別れになる」
「う・・それが辛いから、タカのこと好きだって認められなかったのになぁ・・」
「そうですか? なんだかんだ言いながら、カイトなら大丈夫だと思ってるんですけど」
「う、うぅ~・・ボクは決められないっすよぉ・・どっちもおもいっきり大事っす。大好きっすもん・・・」
言いながら、ジワッと目を潤ませるウィシィの頭を撫でるタカ。
「アホ。泣くな。今生の別れになるワケでもあるまいし。しょっちゅうってワケにもいかんだろーけど、まぁ、ちょくちょくは顔見せにくるって。お前は本気でなんか心配、っつーか、気に掛かるんだから。んで、ミリエラとシェリーも、'家族'よりも優先するようなもんじゃない」
「でも」
話の流れから結論を出そうとする若者達を落ち着かせる為に、敢えてゆっくりと口を開くタカ。
「いいから、最後まで聞け。本気で俺を好きでいてくれるんなら、次に会ったときでも、その次に会ったときでもそうでいてくれるだろ? そうなったら、かっさらってやるから、それまではちゃんと皆と過ごしとけ。そのときには、俺の目的の為の足掛かりもできてるだろうしな」
「・・好きな人とずっと一緒にいたいと思うのは、間違い?」
タカの言葉に、俯いてしまったミリエラは声を震わせながら問いかける。
「い~や。それが普通だろうさ。でも、その'好きな人'は俺だけじゃないだろ?」
「・・・でも、それじゃ、タカが1人になっちゃうよ?」
「ならねぇよ」
「え?」
ずっとブスッとしたまま黙っていたカイト少年の声に、一同が驚きと共にカイト少年へと再び視線を集める。
「なんで別れる方向に決まったみたいな話してんだよ。くそっ。あ~っ!! くそっ!! 認めてやるよ!! テメェはアホみたいに強くて! クソッタレなくらいに大人で! 俺じゃ逆立ちしたって敵わねぇくらいにカッコいいってな!! だから、テメェはここにいやがれ! 何か事情とか目的とかあんなら、さっさと話して協力させろ! 借りを全部返すまでは一緒にいねぇと、返してからボッコボコにできねぇだろうが!!」
ヤケクソ気味に言い放ったカイト少年に、目を丸くするタカ。
「・・頭、だいじょぶか?」
「どぉいう意味だ!? 正面からは無理でも、寝てるトコだったら怪我くらいはさせれんだぞ!?」
「マジでどうした? えらく殊勝な思考だぞ? ぶっちゃけた話、俺がお前の立ち位置にいたら、俺を毒殺くらいはしてるぞ? 長く苦しむ系の、でも、絶対に助からない猛毒使って」
これまでと違って妙に弱気な脅しを口にするカイト少年に対するタカの言葉に、全員がドン引く。
「・・いや、流石にそれはねぇよ? お前、ちょいちょい思考が過激過ぎるからな? どういう人生送りゃ、んな過激で危な過ぎる思考が普通に出てくんだ?」
「普通だろ。長年一緒にいて、意識もしてて、悪くない雰囲気と思いつつもヘタレなせいで何のアクションも起こせないでいたら、その美少女2人が目の前で他の男に靡いてくのを見る羽目になったとか、発狂モンじゃね?」
タカの言葉に、額に青筋を浮かべて、顔をおもいきりヒクつかせるカイト少年。
それと、後退りをしながら慄くレジィ、ダイン、ルグの3人。
「こ、この流れでも、一切の容赦がねぇとか、どんだけ鬼なんだ!?」
「タ、タカさんがカイトの急所を正確に刺しまくりやがった・・っつーか、なんでこんなに正確に把握してんだよ!? 観察眼が鋭すぎて怖ぇよ!!」
「カ、カイトが不憫過ぎる・・俺のことはそこまで見透かされてないよな? な? 大丈夫だよな?」
「お前らちょっとだけ黙っててくれないか!? いくら俺でも、いい加減泣くぞ!?」
レジィ、ダイン、ルグの、カイト少年への追い打ちなんだかタカへの慄きなんだかよく分からない言葉に、涙目になって怒鳴るカイト少年。
「ふふ。美少女・・タカが私を美少女って言った。ふふふ」
「にへへ。これ、ちょっとヤバイくらい嬉しいんだけど。ニヤニヤしちゃうの、止めらんない」
「むぅ・・」
そんな少年達を完全に無視して、にやけるのを止められないミリエラとシェリー。そんな2人を羨ましそうに見ながらむくれるアン。
タカの台詞で、シリアスな空気が一転して、カオスが肉楽園の個室を包むのであった。