'PARTS' 10 金は使う為にある 前編
それから、ギルドマスターがその場で査定を完了させた。金額がかなりの高額になった為に、準備に時間が多少掛かったが、懐の温かくなったタカはそれなりに上機嫌だ。
好き勝手に暴れたからというのも理由かもしれないが。
「き、金貨が袋いっぱい・・傍で見てるのも怖いよぅ」
「心配すんな。大半は'収納'してあるから、盗られたり無くしたりって心配はない。んで、ウィシィ。腹減ってるか?」
「肉っすか!?」
シェリーの言葉に軽く返した後のタカの問いかけに、尻尾を振り乱して目を輝かせるウィシィ。その反応に、思わず頬が緩んでしまうタカ。
「ん、分かった。行くか。お前らもついでだ。腹減ってんならついてこい」
「へ? 俺達もいいのか?」
「金があるときだけ、太っ腹になるからな。遠慮してチャンスを逃がしたら、次の機会はないかもしれないぞ?」
「「ゴチになりますっ!!」」
バッと頭を下げるベイクとレジィ。
「お、お前ら、正直過ぎだ・・」
「なんだ? ダインはいいのか?」
「いや、行かせてもらう。けど、いいのか?」
「俺から言い出してんだから、当然だろ」
ダインの頭にポンと手を置くタカ。それに、目を丸くするダイン。
「・・俺まで子ども扱いか」
「歳の差がいくつだろーが、しっかりしてよーが、年下は年下だ。年長者には黙って甘えてろ」
タカの言葉に、苦笑するダイン。
「分かったよ。んじゃ、全員でタカが涙目になるまで食ってやろうぜ」
「「「「「おーっ!」」」」
「ぐ・・」
何やら内心の葛藤に呻き声が洩れるカイト少年だが、食欲には勝てなかったらしく、大人しく他の皆と一緒に歩き出した。
「どこか美味いトコとか知ってるか? もしくは、行ってみたかったトコ」
「肉楽園に行きたいっす!」
「おまっ!? 本気で遠慮がねぇぞ、それ!?」
「肉楽園って、また分かりやすい名前の店だな。いろんな肉料理が揃ってるってトコか?」
「そうっす!! 死ぬまでに1回行ってみたかったトコっす!! 店の前を通ったら、涎が止まらなくなるっす!!」
「分かった分かった。皆もそこでいいか?」
「いいかって、むしろ、それはこっちが聞きたいくらいだぞ? いい肉を大量に使ってるとかで、馬鹿高いんだぞ?」
「タカ、ウィシィに甘過ぎ。この子は調子に乗ると、本気で自重しない」
「むぅ。ミリエラはボクをバカにし過ぎっすよ。ボクだって、限度は弁えてるっす」
「それで肉楽園とかいきなり言い出すか?」
「タカはダメだったら、ハッキリ言うっすよ。遠慮するなって言ってくれてるのに、遠慮する方がダメだと思うっす」
「よしよし。素直な奴は好きだぞ」
ウィシィの頭を撫でながら言うタカをバッと見上げるミリエラ。
「私も実は行きたかった。あのお店は、きっと冒険者なら誰でも憧れるお店」
「へぇ。んじゃ、問題ないな」
「・・・私も素直に言った。ウィシィだけ特別扱いはよくない。それとも「よぉっしっ! 素直に言ってくれる奴は好きだぞぉっ!」ん。私も変に遠慮しない。素直になることにする」
「ア、アニキが負けてる・・」
「いやまぁ、男好き疑惑は絶対嫌だろ。しかも、ミリエラの奴、アレはマジでちょっと疑ってないか?」
「まぁ、タカが1番可愛がってるのがウィシィだからなぁ。ウィシィも見た目だけだと男か女か分かりにくいし」
ルグの言葉に同意を示すように頷くタカ。
「俺も最初は男か女か判断に困ったなぁ。女だったらそう気安くもできねぇし、男なら容赦とか手加減とかいらねぇし」
「男にも容赦とか手加減は必要だと思うぜ!?」
「安心しろ、レジィ。品評会は手加減ナシで開催してやる」
「うぐぉっ!? お、覚えてた・・・か、勘弁してくれよぉ」
「じゃあ、開催日は俺の気分次第ってことでどうだ?」
「うわぁ・・ホントに容赦無い・・」
「レジィが意外なポジションについたな。イジられ役確定だ」
「いらねぇよ!? そんな役!!」
「じゃあ、アニキのオモチャ?」
「お、お前らぁぁぁぁ~・・」
ダインとベイクの言葉に、ガックリと項垂れるレジィ。
「・・・なんだか不思議ですね」
「ん? 何が?」
そんなダイン達を見ながら呟くように言ったアンの言葉に、首を傾げながら問いかけるシェリー。
「レジィがこんな風になってるところとか、ダインが子ども扱いされて、ちょっとだけ喜んでたりとか、ミリエラがビックリするくらいに積極的だったりとか、今まで見たことなかったですよ? もう3年以上一緒にいるのに」
「・・言われてみると、そうね。タカが色々ムチャクチャなせい?」
「オイコラ。せめて、そういう発言は奢られ終わってから言え」
「あははははっ。奢られ終わってからならいいんだ?」
楽しそうに笑いながら言うシェリー。その様子に肩を竦めるダイン。
「・・・ま、確かに、タカさんが一緒にいるようになってから、張り詰めた感じはなくなったか」
「でしょう? ほんの3日程度しかまだ一緒にいないのに、不思議ですよね」
「何をしんみりしたこと言ってんだ。若い癖に、全然似合ってねぇよ。そういうのはもっと年食ったときまで取っとけ」
「ふふ。はい。そうですね」
「そうっすよ! 今はとにかく肉楽園っす!」
「お前の頭の中はもうそれ一色だな」
「ハァ。ウィシィが1番変わったのかもな。こんなに開けっ広げな奴だったなんて思わなかったよ」
「は? そうなのか?」
「明るくてめげないところは変わってない。でも、こんなに自分の意見を言ったりしなかった」
「ん~・・だって、ボクは頭よくないっすから。皆もいっぱいいっぱいなのに、余計なこと言って困らせたくなかったんすよ」
困ったように笑いながら、頬をポリポリ掻くウィシィ。
「ふぅん。まぁ、お前は確かにアホ可愛いからなぁ。その癖、空気は読めるから、歳の近い奴相手には遠慮が出るか」
「タカもそんなに歳は変わんない筈なんすけどね~」
「まぁ、甘えやすいってんなら、今の内に好きなだけ甘えとけ」
「なんで'今の内に'なんすか?」
「状況によるってこった。今はとにかく飯だ、飯」
「はいっす!」
タカの言葉に、首を傾げたウィシィだったが、すぐに笑顔で返事を返した。
だが、ミリエラ、ダイン、シェリー、アンの4人は表情を少し沈ませてしまう。それを見て、自分の失言を悟るタカ。この4人の察しの良さを見誤っていたのだ。
「タカ・・」
「あ~・・誤解させたか。すまん。そう決めたワケじゃない。ただ、まだその話はちゃんとしてないだろ? 俺にも一応目的はできたから、その協力はしてほしいと思ってる」
「じゃ、じゃあっ!」
「慌てるなって、シェリー。全員とちゃんと話してからだ。かなり荒唐無稽な話するから、覚悟してろよ?」
「うんっ! 分かった!」
「あの、タカさん。1つだけ、先に聞いてもいいですか?」
「ん? なんだ?」
「その・・私達といて、悪くない、と思ってくれています、か? イタッ!?」
恐る恐る問いかけたアンの額に、タカのデコピンが命中する。涙目になってしまうアンは恨めしげにタカを見上げる。
「い、いたひ・・何するんですかぁ?」
「アホなこと聞くからだ。街に着いても、さっさとその話に入らないのがなんでか分かってないのか?」
「え・・?」
「ハァ・・ニブチンが。不安なのは自分だけとか思うなっての」
「ふ、ふあん? ふあんって、'不安'ですか? タカさんが?」
「・・アン? お前が俺のことをどー思ってるのか、小一時間程問い詰める必要がありそうだな? 俺が何も不安に思ったりしない傍若無人な奴だと思ってんだろ?」
ジト目になったタカの指摘に、思わず目を逸らすアン。と、ダイン。
「然り気無く目を逸らしてるダインくんよ? 君ともOHANASHIしなきゃならんよーだな? 物理で」
「待て!? アンとの扱いの差が酷くないか!? 'お話'のニュアンスがなんかおかしいし、どうして物理が絡む!? いや、意味は分かるけど、分かりたくない!!」
「現実は望むと望まざるとに関わらず、押し寄せてくるものなのだよ? 要約すると、分かりたくなくても分からせてやる」
「この上なくハッキリ言い切った!? なんか、俺相手には他の奴より徹底して逃げ道塞いでないか!?」
「いや、だって、お前、頭切れるし」
「意外に評価してもらってんのは嬉しいけど、今は全然喜べねぇっ!?」
「ククク。まぁ、手始めに肉楽園の最高級肉を、ウィシィと同じペースで食わせてやる。残したら、当然、電撃魔法のお仕置きだ」
「ウィシィと!? それ、お仕置きが決定してるだろ!?」
「・・・そんなに食うのか? ウィシィは」
「食べるっすよ~っ。本気出したら、ボク達の稼ぎじゃ生きてけないくらいっす!!」
「・・・地味に不憫になること言うなぁ。しかも、やたらと明るく・・よし。俺が許す。本気で腹いっぱいにしてみろ。そのペースにダインを付き合わせるから、ちょうどいい」
「ホントっすか!?」「マジか!?」
似た表現のリアクションなのに、歓声と悲鳴に分かれた声が上がる。そうして、沈んでしまった空気が盛り返されて、また賑やかに進んでいくタカ達。
ーー意外に本気で懐かれてんのな。いや、頼りにされてる、が正しいか? まぁ、中身は35のおっさんだからなぁ。
保護者も引率者もナシで15から17の子どもだけでパーティー組んでるってことは、頼りにできる相手が他にいなかったってこったろ? しかも、アンが'3年以上一緒にいる'とかって言ってたから、スタートは最年少のミリエラとルグが12で、最年長のカイトで14・・・そりゃ、頼りにしたくもなるわな。歳が近い上に、一緒に苦労してきた相手には、信頼はしてても頼りっきりにはなれないだろうしなぁ。まぁ、俺が頼りになりきるかどうかはともかくとして。
それに、俺には俺の目的がある。それだけに生きるつもりはないけど、蔑ろにするつもりもない。こいつらが付き合ってくれるかどうか、それ次第だな。これからも一緒にいられるかどうかはーー
1人でそんなことを考えて、自嘲気味に内心だけで笑うタカ。
自分でも意外な程にこのメンバーと過ごす時間が心地好く感じていて、ウィシィ達がどう思うかよりも、自分自身が一緒にいたいと思っていることに気付いたからだ。
どうやら、タカは自分で思っているよりも、完全に天涯孤独な状態であることに心細さを覚えていたらしい。テンションが上がっていて、自覚できていなかっただけで。それをウィシィ達と過ごす時間が気付かせたのだ。
無論、タカはこの世界にやってきたことは微塵も後悔していないし、する筈もないのだが。
それから少し歩いて、目的の店である肉楽園に到着した。
入口から肉の焼ける、食欲に直撃する匂いが溢れ出ている。これは確かに、店の前を通り過ぎると堪らないだろう。それほどに美味そうな匂いなのだ。
「お~。ホントに美味そうな匂いを垂れ流してるな。こりゃ期待できそうだ」
隣で尻尾を振り乱しているウィシィの喉から、〈ゴキュリ〉という生唾を飲み込む音がする。そのウィシィの頭を撫でるタカ。
「ほれ。さっさと入るぞ。こんな匂い嗅いじゃ、俺も堪らねぇからな」
ブンブンと首を縦に振りまくるウィシィ。口を開くと、涎が溢れてしまいそうで口が開けないらしい。
「な、なんか緊張してきた。ここ、高ランクの冒険者とかデッカい商会を持ってるような商人とかの金持ちが行く店だろ?」
「お、俺達が入ってもいいのか?」
ここにきて、腰が引け始めたらしいルグとベイク。
「はいはい。ここで立ち止まってるから、余計なこと考えるんだ。今はウィシィを見習って、ただ食欲全開にしてりゃいい。行くぞ~」
「あっ、待ってよ!」
「タカはホントに物怖じしない。素敵」
「ぐ・・」
ベイク達と同様に、若干腰が引けかけていたカイト少年が悔しそうに呻くが、置いていかれては堪らないとタカの後に続いたシェリー達を追って、店内に入っていく。
「いらっしゃいませ。失礼ですが、当店はそれなりに高額な食事を提供しております。随分と人数が多いようですが、懐は大丈夫でしょうか?」
店内に入ると、いきなり強面の男が慇懃無礼な態度でそんなことを言ってきた。それに、タカは眉をしかめる。
「何なら、店ごと買い取ってやろうか? そのときには、テメェの出番はなくなるけどな。くだらねぇこと言ってないで、とっとと案内しろ。人を見かけだけで判断してると、行方不明者リストの仲間入りさせんぞ」
「いきなり喧嘩腰!? タカさん、挑発に弱すぎじゃないか!?」
「コレは挑発とは言わん。ただ、失礼・無礼なだけだ。オイ、アホ面。案内したら、とりあえず、オーナーを呼んでこい。これで味にガッカリさせたり、満足いかなかったら、店ごと蒸発させてやるって言ってる客がいるってな。相手がどの程度ヤれるのかも判断できない頭でも、その程度の伝言はできるだろ? とっとと動け、ウスノロ。それとも、その頭も耳も飾りか? 頭の悪そうな面な上にトロ臭いとか最悪だぞ。ったく、ドロップアイテムを残す分、魔物の方が可愛げがあってまだマシだな」
「ギ、ギザマ゛・・」
顔色が赤くなってから青くなり、最後に白くなるという、怒りで顔色が変わるという見本のような状態になる強面の従業員。
「これが挑発の見本だ。相手が自覚してるだろう欠点を徹底的に叩きつけてやるのが、効果的に挑発するコツだな」
「見本!? コツ!?」
「あ、あの、お店の人、メチャクチャ怒ってますよ?」
「そりゃ、怒らせないと挑発した意味ないだろ? んで、怒って冷静さを失った奴は」
「ゥルァァァァッ!!」
強面従業員はタカの言葉の途中でおもいきり拳を振りかぶって、ダインとアンへの解説を行うタカに殴りかかる。
「【身体強化:最大】っと。まぁ、こんな感じに物凄く動きが読みやすくなる」
瞬間的に強化魔法を発動させたタカは、振り向きもせずに振り下ろされた強面の男の拳を人差し指だけで受け止めてみせた。
'MAGICIANS ONLINE'でのタカの強化魔法の凄まじさは、既に近接職泣かせのレベルにあった。何せ、序盤の雑魚が中盤の中ボス級の強さにまで強化されるのだ。それを、ある程度以上のステータスを持ったプレイヤー、ましてや、多数のジョブレベルをカンストさせ、組み合わせられる'PARTS'の数だけでなく、ステータスもおかしなことになっていたタカに使えば、一体どうなるのか。
その答えが、これである。中二病の再発でもある。
自分の拳を、あろうことか、指1本で受け止められたという現実離れした現象に、完全に硬直して思考が停止してしまう強面の男。この街までの道中やギルドの件で、タカの実力の片鱗を見せられていたカイト少年達も呆然としてしまっている。
「・・凄い。指1本でなんて、カッコ良過ぎる。これ以上惚れさせてどうするつもり?」
「アニキ、流石アニキだぜ。英雄譚の英雄みてぇだ」
「うひゃ~。タカはやっぱりメチャクチャ強いっすね~」
「・・・ね? タカのお嫁さんって、ミリエラだけじゃないとダメ? やっぱり凄くカッコいいんだけど。一緒にってダメ?」
「お、おおおおお、おい? シェリー? 何バカなこと・・」
シェリーの熱に浮かされたような言葉に、硬直から強制再起動させられたカイト少年が、動揺たっぷりな声を上げる。しかし、それを完全に無視して、ミリエラは口を開く。
「むぅ・・シェリーなら仕方ない。近々、既成事実を作る予定」
「き、既成事実って! ・・は、初めては、その、優しくしてほしいかなって」
ミリエラの爆弾発言に、真っ赤になって両手を頬に当てながら体をクネクネと捩るシェリー。
「オイ。そこのアホ2人。何をサラッとおっそろしい予定立ててやがる。正気に戻れ。言ってることが怖過ぎるわ」
「大丈夫。私も初めて。タカ以外には触れさせないから」
「それが正気なことの証拠にでもなると思ったか!? 後で頭に治療魔法を最大出力でかけてやるから、ちょっと黙ってようか!?」
「むぅ。本気なのに」
「あ゛~っもう! とりあえずっ! とっとと案内しろ!」
強引に話を元に戻して、強面の男のうごきを促すタカ。恫喝とも言う。
「う、く・・こっちだ」
如何に現実離れした信じられない現象であっても、事実は事実。自分との実力の差をありありと見せつけられた強面の男は大人しくタカ達を席に案内する為に、先導して始めた。
それから、案内された席は個室。豪華な作りで、上客用のものと思われる。案内途中に、タカがオーナーを連れてくるように念押しして、途中で伝言を持ってきた別の従業員が来てから、通路を進む先が変わったので、オーナーからの指示だろう。
「うおっ。なんだ、この椅子!? 俺達が泊まってる宿のベッドより柔らけぇっ!」
「に~くっに~くっ肉っすよ~っ」
「よしよし。嬉しいのは分かった。分かったから、落ち着け。オイ、オーナーには飯の邪魔すんなっつっとけ。うちのアホ可愛い奴が限界だ。んで、皆、腹減ってるよな?」
「減ってるっす! さっきからお腹鳴りまくりっす!」
「同じく!」
「んじゃ、とりあえず、全部の肉料理一通り持ってきてくれ」
「ひっ、一通り!? きっ、金貨で10枚は必要になるぞ!?」
タカの適当過ぎる注文に、強面の男が悲鳴のような驚きの声を上げる。それと、口を半開きにして固まるカイト少年達。
「そんなモンか。それくらいなら問題ない。できた分からジャンジャン持ってきてくれ」
「わ、わかっ・・かしこまりました。失礼致します」
強面の男は顔をおもいきり引き攣らせながらも、一礼して部屋を出ていく。
部屋を出た強面の男は、大急ぎで厨房に向かい、注文口から大声でタカの注文を伝える。
「はぁっ!? 肉料理一通り全部だぁっ!?」
「金貨10枚は「それはもう言った!!」!?」
コックの1人の言葉を遮って、強面の男が発した言葉に、厨房が静まり返る。
「そんなモンかと軽く言いやがった! そのくらいなら問題ねぇんだとよ!! くそっ! ショボい格好してやがる癖に!! 完全に最初の対応間違えちまった!! 頼む! 急いでくれ!! ここでそんな注文の仕方するなんて、俺ぁ聞いたこともねぇよ!! 絶対に普通じゃねぇ! これ以上怒らせたら、ブッ殺されちまいかねねぇ!!」
強面の男の言葉に、厨房が一気に騒がしくなる。
「仕上がりの早ぇモンから手ぇつけていけ! 仕込みに時間掛けなきゃならん分も並行して進めろよ!!」
「急いでも手抜くんじゃねぇぞ!! ラガロがあそこまで言う輩だ!! 下手打ちゃ俺達までヤベェかもしれねぇぞ!!」
「料理長!! 他の注文はどうすんですか!?」
「バッキャローッ! ラガロがビビるような相手より優先させる相手がいるとでも思ってんのか!?」
「はっ、はいっ!」
俄に戦場と化した厨房の様子を遠い目で見ながら、ラガロというらしい強面の男がヨロヨロと近くの椅子に崩れ落ちるように腰掛ける。
「くそ・・これでも俺はAランク冒険者だったんだぞ・・何なんだよ、あの化物は・・・ガキ共が粋がって身の丈に合わねぇ店に入ろうとしてるだけだと思ってたってのに・・・」
項垂れながらそんなことを呟くラガロに、声を掛けられる者は誰一人としていなかった。