第1章 抵抗軍の戦い 第1話 囚人兵として(前編)
2029年7月。
救世主の騎士団を自称する団体が世界各国を滅ぼした事件、即ち『世界事変』が勃発してから5年目となる。絶大なる組織力、そして個々の戦闘員の高度な戦闘力を以ってわずか半年程度で地球の殆どを掌握するに至ったのである。
第1話 囚人兵として(前編)
「お前は救世主の騎士団の人間ではないと言うのなら、我々と共に戦おうとは思わないのか? 」
私はとある『秘密任務』で北千住を調査していたところ、救世主の騎士団とは対立関係にある抵抗軍の幹部に声をかけられて、救世主の騎士団の構成員ではないかと疑われたのである。そして事実と相違する旨を伝えたところ、今度は抵抗軍への入隊を強く勧められたのだ。
「そのつもりはない。私も色々と忙しいので帰らせてもらうよ」
私はこの抵抗軍に入隊する気はない。早いところ、『秘密任務』を終えて『議長』に報告する必要があるからだ。
もちろん、私は救世主の騎士団のメンバーではない。
「入隊をしないなら、ここでお前には死んでもらうことになるがな」
「…………殺すと? 」
「お前が、ここ北千住で怪しい行動をしていたんだ。救世主の騎士団の構成員と疑われても仕方ないよな? 」
ここ北千住には抵抗軍の拠点がある。そこで怪しいと思われるような行動をとれば、確かに抵抗軍と敵対している救世主の騎士団と疑われても仕方がないことだろう。
「しかし幹部さん。私を救世主の騎士団の構成員と疑っておきながら、何故私に入隊を勧めたのかね」
これは、当然の疑問だ。
「疑問に思うよな? それは怪しい奴を捨て駒にして使うからだよ」
…………なるほど。
あんたら、疑心暗鬼のようだな。まあ、救世主の騎士団が世界を支配しており、絶望的な状況なのは判るが。
「つまり今この場で確実に死ぬか、又は戦場に行くかということか」
「物分りは良いみたいだな。お前は俺に捕まった時点で、もう逃げられないんだよ」
こうして私は抵抗軍囚人兵として入隊することになってしまった。だが、『秘密任務』による調査結果についても1日でも速やかに『議長』に報告しなければならない。しかし、囚人兵という扱いから分かるように、私は抵抗軍の牢獄に幽閉され、身体の自由を奪われてしまったのだ。
※
抵抗軍の囚人兵となって3日目。
北千住に救世主の騎士団が攻め込んできた。それを迎撃をするため私にも出撃命令が下されたことにより、私もいよいよ戦うことになったのだ。
広場に囚人兵たちが集められ、それぞれ武器が手渡された。
「その杖は、魔法が使えない者でも一振りすることで火炎系の魔法を繰り出すことが出来るものだ。しかし、杖1つにつき7回程度火炎魔法を繰り出すとただのゴミとなる。無駄使いはしないことだ」
杖に関して正規兵による一通りの説明が為された。さらに、抵抗軍の軍服の識別についても説明がされ、将軍・佐官・尉官・下士官及び兵の4種類に分かれていること、最後に救世主の騎士団が赤いローブ姿で活動していることも伝えられた。因みに、囚人兵には軍服は支給されておらず、私服に青い腕章を身に付けることになっている。
そして、正規兵の説明は終わり、私たち囚人兵は隊列を作り最前線へ移動することになった。
「あんたは家族とかは? 」
突然、囚人兵の1人が声をかけてきた。私と同じ年頃の男性だった。
「姉と妹がいるが……」
実は私の両親は、すでに他界している。
「あ、いや、家族構成を聞きたいわけじゃないが、俺の家族は皆、救世主の騎士団に所属しているらしい。もしかしたら家族と戦うかもしれないと思うと、やってられないんだよ。それによ…………あいつだって高い地位になったと聞くのによ! 」
「なるほど……心中察するよ」
これは国家同士の戦いではない。必然的に自分の大切な人と戦う可能性も高くなるだろう。もし今回の戦いで、姉や妹それに友人や幼馴染と出くわしたら、と思うと私も心が曇る。
「だが逃げれば正規兵に殺されるんだろ。じゃあもう俺の人生終わりじゃん」
彼の言うとおり、私の人生も終わりに近づいているのかもしれない。