さよなら、初恋
いつかこの失恋を笑える日がくるだろうか。
昔話のように、遠い御伽噺のように他人に語れる日がくるだろうか。
「大好きなの。
まだ、それでも愛してるの。」
あなたを思うと涙がとまらなくなる。
些細な仕草も匂いも、全部、全部が鮮明に思い出せる。
今すぐにでも忘れてしまいたいのに、そう思うほどに記憶は思いとは裏腹にどんどん甦る。
初めて名前を呼んでくれた日。
苗字から名前呼びに変わったあの瞬間、今でも私は覚えている。
すごく嬉しかったから。
すごくドキドキしながら返事をしたこと、あなた知らないでしょう?
何でもないように返事をしたけれど頭の中はパニック状態。
体中の熱が胸に一気に集中したきがする。
それくらいドキドキしていたの。
初めて手を繋いだ日。
いつもと同じ帰り道、同じ風景。
だけど一つだけ違うこと。
それはあなたが私の手を繋いでくれたこと。
無言で差し出してくれた右手に私の指先が絡まったあの瞬間、時が止まればいいと願った。
冷たかった手の温度がそこだけ熱を帯びていく。
やばい、と汗ばむ手に焦る。
だけど放したくない。
家に着かなければいいのにと思った。
初めて喧嘩をして仲直りした日。
些細な誤解が切っ掛けですれ違いばかりしていた。
信じていたけれど少しの疑いが私とあなたを遠ざけた。
だけどあなたは正面から私に問いかけた。
まっすぐな瞳に射抜かれた疑心はすぐに砕け散った。
初めてキスをした日。
沸騰しそうなほどの熱い体温とドキドキ高鳴る胸の痛みで死にそうだった。
キスをするたびこうなるのならばきっと私は早死にしてしまう。
ちゅっ、と触れるほどの優しいキス。
彼の瞳を覗き込めば恍惚とした私がいた。
彼といれるならもうどうなってもいいとさえ思った。
初々しい私達の恋は初めてばかりだった。
「どうしたらいいの。」
何度、空に問いても答えてくれる言葉は聞こえない。
もう、君は、いない。