34.術策
この世界に現存している魔法に関する歴史書を紐解いていくと、召喚魔法と人族の起源が同じ座標に行き着いてしまう。
魔法はどうやって生まれ、この世界に住む人族はどこから来たのか。
それを記す歴史書をみれば、この世界を創った創造神が、獣ばかりだったのこの世界を安定させるため、異界から人族を移住させてこの地に住まわせたのが始まりとされているのだ。
つまり、この「異界からの移住」を行うための行動こそが召喚魔法ではないかという説である。
召喚魔法は魔法陣の知識がないと完成しないと言われているが、この世に一番初めに示された魔法陣は二つの「神託」であったという。
一つは人間族へ、もう一つは精霊族に与えられ、長い歴史のなかで変遷し、当時のまま残っている魔法陣はもうないとされている。
改変が加えられ、現代ではもはや「亜流」となった魔法陣は、人間族が異界からより強い魔獣を呼ぶためのモノとなり、本来の意味を失ってしまったと言っても良い。
さらに有意義な魔法が多数存在する世界で、召喚魔法は必要不可欠な魔法とは言えず、衰退の一途を辿る結果となった。
もし、「亜流」の召喚士が古代の魔法陣を起動させたら?
もし、未熟な召喚士が強力な個体を召喚してしまったら?
人族はその身に降りかかる厄災をどのようにして打ち消すのであろうか。
◆
地球と呼ばれる惑星構造の異世界にいた四人が、ゼダハ王国に召喚されてから三日が経過している。
初日は環境の変化の疲れもあって四人全員が夕方まで眠り、夕食後もまた眠ってしまったので碌に話もできなかった。
二日目に再び全員が顔を合わせたが、裸で放り出された四人のため、衣装合わせや生活必需品の準備、今後生活する左宮の設備の説明などに費やされ、お付の執事とメイドに振り回されるだけであった。
ようやく落ち着いたのが三日目で、トウゴが四人だけで話せる場を作って欲しいと願い、ようやく集まる事が出来たのである。
左宮の中庭にある円卓で四人が向き合っている。
皆の前には紅茶と皿一杯の菓子が置いてあり、ケンジとセナミは早速手を伸ばし幸せそうに頬張っていた。
トウゴは一口紅茶を啜ると、皆を見渡してから確認するように話を切り出した。
「一昨日、ロード何とかさんが言っていたけど、この場所が地球とは違う、別の世界だという認識であっているよね?」
「何故、日本語が通じるところは意味不明。」
「おお、俺に付いたメイドさんなんか、手の先から光の玉を出してたぞ。髪の色なんか地毛で緑なんだぜ。」
「うん、何もかも日本とも違うし、何より兵士だとか騎士だとか、帯剣してうろついているんだ。話には無かったけど、政情不安で戦争中なのかもしれない。」
流石に人殺しの道具とは無縁の生活をしていた四人にとって、甲冑を着て左宮のあちらこちらを警備している騎士は何となく恐ろしいものに映ってしまう。
それが風呂やトイレに行くたびに、メイドらと共に、後ろに控えて立っているのだ。
「分らないのは呼ばれたのが何故僕達だったのか、ということと、何のために呼ばれたか、だ。」
「魔王軍団との戦争に一票。」
「いやいや、幾らなんでもそれはラノベの読み過ぎでしょ。一般人の僕らに戦争しろなんて。」
「大丈夫。勇者の成長は早い。あっという間にレベル999になる。」
どうやらセナミは異世界召喚の本を結構読んでいるらしく、言葉の端端に本に書かれているような話が飛び出してくる。
他の三人はそういう物があるのは知っているが、機会があれば読むという程度で、積極的に読んでいたわけではない。
「ま、まぁセナミさん、ラノベじゃなくってもうこれは現実だから。戦争なんか行ったら死んじゃうから。」
「でも、異世界召喚なんてそんなもん。力が必要だから呼ぶわけで、私達はその力がある。」
「おいおい、随分自信ありげだな。あんな兵士が襲ってきたら柔道をやってた俺でも無理だぜ?」
「そういう力じゃない。この世界はゲームの世界に似てる。皆も自分の能力が見えるはず。」
事も無げにセナミは、自分達にはこの世界の人間を凌駕する能力が与えられたのだと言い放った。
「え?どうやって?」
「自分の能力を見たいと思えばいい。私はステータスって唱えてみた。」
「へぇ・・・、ステータス!」「おおお!!何これ!?」
セナミはともかく他の三人にも「頭の中に文字列が浮び上る」現象が起こり、焦点の合わぬ目を宙空に彷徨わせて驚愕の表情を浮かべている。
それは間違いなくこの世界に於ける自分の能力で、常人とは掛け離れた、異界人特有の能力があることを覗わせる内容だった。
「因みに私は召喚魔法が使えるみたい。ゲームだとサモン?」
名 前:セナミ・イケザキ(♀17)
種 族:人間族(異界人)
状 態:平常
生 命 力:8,000 魔力量:11,000
能 力:召喚士/操魔者
固有能力:【魔力循環】【魔力回復上昇】
特殊能力:【風魔法】【召喚魔法】【意識同調】【空間収納】
通常能力:【生活魔法】【弓術】【投擲術】【騎乗術】【鑑定】
「俺は重戦士らしいぜ。守護者って守ればいいのか?ゴールキーパ-みたいなもんか。」
名 前:ケンジ・サイトウ(♂16)
種 族:人間族(異界人)
状 態:弱興奮
生 命 力:15,000 魔力量:6,000
能 力:重戦士/守護者
固有能力:【障壁】【獣化】
特殊能力:【土魔法】【身体強化魔法】【空間収納】
通常能力:【生活魔法】【拳闘術】【剣術】【盾術】【鎚術】【威圧】
「僕は魔法剣士か。ずっと剣道をやっていたからかな?だけど、勇者ってのは、無いなぁ・・・。」
名 前:トウゴ・カミシロ(♂19)
種 族:人間族(異界人)
状 態:弱興奮
生 命 力:11,000 魔力量:10,000
能 力:魔法剣士/剣の勇者
固有能力:【魔法剣召喚】【瞬速移動】
特殊能力:【火魔法】【風魔法】【身体強化魔法】【空間収納】
通常能力:【剣術】【体術】【双剣術】【生活魔法】【索敵】
「・・・。」(何なのよこれ・・・。本当に異世界へ来ちゃったというの?)
名 前:レイ・ナイトウェル(♀18)
種 族:人間族(異界人)
状 態:弱混乱
生 命 力:7,000 魔力量:13,000
能 力:治療士/賢者
固有能力:【魔眼(鑑定/魅了/幻惑/支配)】【魔力回復上昇】
特殊能力:【水魔法】【光魔法】【治癒魔法】【空間収納】
通常能力:【槍術】【薬学】【生活魔法】【索敵】【錬成】
各人が自分に与えられた能力をみて興奮あるいは混乱してしまう。
セナミは昨晩の内にいろいろ試していたのか、すでに風魔法を使えるようになっていて、掌の周りで風を起こしたりして見せた。
「あたしは【鑑定】能力があるから、他の三人の能力も少しは見える。固有能力ともう一つの職業?は見えない。」
「ある程度は自分の能力は隠しておけるってことかい?」
「そ。ある意味切り札になるかも。トウゴさんとレイさんは【索敵】能力があるからパッシブお奨め。」
しばらくの間、自分の能力がどのようなモノなのかを確認し合い、セナミが自分の知識を最大限披露して皆の質問に答えて行った。
そして、全員が自分の能力を知ったところで、再びセナミが口を開き、さらに深く掘り下げた現状分析を語り始めた。
セナミ曰く、
レベルが無い、若しくは見えないということは、個人のスキルに依存することになる。
固有能力は誰にも、仲間内でも教えないほうが良い。聞かない方が良い。それがマナー。
人間が付加能力を持っているだけだから、これがあるからといって強いというわけではない。
ラノベ的展開だと、召喚された理由は戦争の旗頭か、魔王と戦うか、魔獣の氾濫を押さえるかの三択。
今回は美少女王女様とのラブラブ展開は無いようだが、特に勇者のトウゴはハニートラップに注意。
奴隷の首輪を付けられたり、いつの間にか洗脳される場合もあるから、気を抜けない。
ただ最初に話した国の首脳の三人は、直ぐにこっちを支配する様な動きは無かったので、しばらくは大丈夫かもしれない。
「あたしが考え付くのはこの位。」
「あんたすげえな!それも全部ラノベの知識かよ?頼りになるぜ!」
「高二だから。あなたより年上。」
「おう!姉さん俺は姉さんに付いていくぜ!」
二人のテンションは異常だが、言われてみればそんな展開も本当にありそうで怖い。
トウゴもレイも、こういった知識は周りから聞きかじった程度しかなく、セナミのようには適応できずにこの二日間不安に苛まれていたのは事実だった。
「セナミさんのおかげで僕達の立場は何となく理解できた。じゃ、何で僕達だったのか、分かる?」
「今の段階で四人の共通点が分からないから無理。同時召喚の条件は、同じ場所だったり年齢だったりいろいろ。」
「俺は大宮にいたけどよ、ユージ達も一緒だったのに俺だけここにいたんだ。」
「あたし甲府。全く別の場所。」
「僕は大学の道場にいたよ。都内の東南大学だ。」
「私は・・・教室にいたわ。横浜の白桐学院付属よ。」
「おおう・・・、超お嬢様学校・・・。」
全員が同じ時間軸にいた事は分かったが、場所やその他の事象に共通点は無く、この世界で行われた「召喚」は対象をランダムに選んだものだったと結論付ける。
「そこまで分ったうえで、僕達はどうしたらよいだろうか?できればバラバラな行動は取りたくないな。」
「まずはこの世界の事を知らなければならないと思います。今は何が正しいのか、判断がつきませんから。」
「レイさんに賛成。いきなり魔王を倒せと言われても困る。」
「そうだね。あとは自分の能力の把握と、元の世界に帰る方法かな。」
「ラノベ的には帰還はムリ。」
「・・・まぁ、そう決め付けないで行こうよ。僕も期待はしていないけどさ。」
召喚されたその日に言われた言葉が繰り返し頭の中に響く。
『我々の呼びかけた声に貴方達が応えてくれたから』
異世界モノの話に詳しいセナミはともかく、他の三人もロードヘルブが言っていたように元の世界での生活に満足していた訳ではない。
心の何処かで変わりたいと、逃げ出したいと常々考えていたことを否定できなかった。
そして現実に、望まずとも異世界という場所に来て、今すぐ帰りたいかと問われた時に、はっきりそうだと言える自分を想像できないのが事実なのだ。
「まぁ、部屋は豪華だし飯もそれなりに美味しい。いつも監視されているような感じを除けば、とりあえずは快適だな。」
「おいおい、俺は勘弁だぜ。執事もメイドも笑顔なのに目が笑ってないんだぜ・・・。オッカネェよ。」
ちょっと沈んだ雰囲気を和らげるためか、トウゴが軽口を言いケンジが応えて場を和ませる。
「でも戦争とかは勘弁してもらいたいなぁ。人を殺すなんて絶対無理だからな。」
「大丈夫。ラノベ的には人を殺して後悔する様な主人公はいなかった。」
「い、いや、それとはまったく別だろう。怪獣みたいな化物ならともかく・・・。」
「大丈夫。最初の人殺しはたぶん薄汚い盗賊だから。遠慮なく殺って。」
「・・・。」
悪い笑顔を見せるセナミの言葉で微妙な空気になった時に、トウゴのお付メイドがそろそろどうかと四人を呼びにやって来た。
そのまま左宮内の広い部屋に連れて行かれると、そこにはラミルト司教が待っており今後の四人の予定を話してくれた。
まずは昼までの間は座学を中心に、この世界の一般常識や地理、民俗などについて学んでもらう。
それ以降は自分たちの能力に慣れるため、練兵所での訓練を行う事になっているとか。
彼女の話ぶりを見ても、今のところ四人に無理強いしたりするような所は無い。
四人で話し合った通り、先ずは知ることが先決と教師役の文官の話に耳を傾けるのであった。
◆
それから二十日ほどは様々な訓練に明け暮れた。
この世界は危険だという認識が、自分の身を護るための技術を磨くという欲求に変化していったのだ。
とりあえず全員一緒の共同訓練で、特殊能力である属性魔法の発動を成功させている。
トウゴが火、レイが水、セナミが風、ケンジが土と、それぞれの主力である属性は攻撃魔法としての威力も十分であり、あとは実戦で発動から相手に向けるまでのコツを掴めばよいくらいまで練度が上がっている。
通常能力についても、四人とも武器を扱う能力を持っており、トウゴとケンジが剣を、セナミが弓を、レイが槍を練習していた
四人それぞれにその道の第一人者である教官が付き、能力の上昇度に合わせた方法で繰り返し修練を行っている。
その中で、目を見張る成長を遂げているのがトウゴで、剣技については近衛騎士と比べても遜色ない動きを見せ始めている。
特に双剣を使うようになってからはさらに攻撃の幅が広がり、近衛騎士団の分隊長クラスぐらいの腕が無いと太刀打ちできない程であった。
一方、ケンジは戦闘のセンスが誰よりも良いみたいだ。
武器も大剣や大鎚だけでなく、大盾をも武器にした戦い方もできる。
以外にも自分から攻め込んでいくタイプではないようで、一旦守りに入ればトウゴでもその防御を崩すのは難しいかもしれないと言わしめている。
セナミはただひたすら的に向かって弓を撃っている。最初は外れまくっていた矢も、今ではほぼ百発百中である。
もっとも、彼女はそんな訓練より召喚魔法を試して見たくて仕方がない。
城の中には至る所に魔獣用の結界があるので、そんな中で召喚すれば何が起こるか分からないと言われ、召喚魔法の発動を止められているのだった。
レイの通常能力は槍である。
何となく槍を突く、回す、払うなどの動きは分かる、イメージ通りの動きが出来るのだが、足の動かし方、足さばき上手くいかない。
いろいろ試行錯誤し、以前習っていた巫女舞を取り入れてみたところ、レイの槍術は変化自在、常人では予想もつかない動きを見せるようになったのである。
四人はセナミが言っていた「固有能力は隠しておく」という言葉を守り、練兵所で行うのは通常能力と特殊能力だけにしている。
特に戦闘系のトウゴとケンジは、レイとセナミに人払いをさせて二人きりになった時に固有能力を試していた。
レイもセナミも固有能力に関しては一人でいる時、自分の部屋にいる時でも練習は出来るので、トウゴ達の訓練を助ける役回りなのだ。
固有能力に関しては、レイは一度、ラミルト女史と一緒にいた大柄な騎士の一人をそっと【魔眼】を発動させて鑑定してみた事がある。
すると彼の情報はたちどころにレイの頭に入ってきた。
名 前:ナザウェル・パイルドード(♂29)
種 族:人間族
状 態:平常
生 命 力:4,300 魔力量:1,000
能 力:近衛騎士/上級騎士
固有能力:---
特殊能力:【火魔法】【身体強化魔法】
通常能力:【剣術】【槍術】【生活魔法】
まず驚いたのは、騎士達は軒並み自分達以下の能力しかない事だった。
習得している能力は元より、そう言う基準なのか数字化されて表れている生命力など比べ物にならないくらい低いのだ。
セナミに聞いても同じ内容なので間違いはないのだが。
他の三人に比べ、レイの固有能力【魔眼】は使いどころが難しい。
鑑定や幻惑などは使えそうだが、魅了や支配はいつどこで使うのか、本人も判断がつかないし、今のところ四つの力が宿っているが、これから増えていくのかどうかも判らないのである。
そう考えてからレイは、戦闘訓練に参加するよりも書庫に通って自分の能力を調べたりする時間が多くなってきている。
それを見たセナミも書庫に付いてくるようになった。セナミも魔獣図鑑やお伽噺の挿絵などをみて召喚する従魔を何にするか、真剣に悩んでいる。
そんな訓練に明け暮れているある日、いきなり座学の休止を申し渡された四人は、宮殿の謁見の間へと向かっていた。
今日、初めてこの国の王様と謁見するというのである。
一応、四人はこの国の貴族と同等の身分を保証されていて、座学では貴族に対する礼儀作法や立ち回りまで教育されていた。
騎士や一部の貴族とも何回か会席した事もあるが、流石に王族と会うというのは緊張してしまうものだ。
平伏のままで良いと言われ控室で暫く待っていると、騎士団長のグラハムが四人を迎えに来た。
入室のお声が掛かり、重厚な扉が開かれて中に入る。
四人は上座に目を向けないように自分の足元だけを見て謁見の間へと入り、一応片膝を付いて頭を垂れ、臣下の礼を取った。
しばらくの沈黙の後、上段から快闊な声が響く。
「いや、低頭も礼儀もいらんぞ、勇者殿。君達は家臣ではなく客人なのだからな。」
その声に四人が思わず顔を上げると、にこやかな表情のゼダハ国王バレッド・アルベフィムル・ゼダハが玉座に座っていた。
王の横には後継者と見られる王子と、反対側には王妃と王女が並ぶ。
上座下には宰相や騎士団長、魔法士長他首脳陣が並び、壁際にはこの国の貴族だろうか、豪奢な衣装に身を包んだ数十人の男女が並んでいた。
「楽にしてくれ。まぁ当方の儀礼には多少付き合って貰わねば文官が煩いがの。トウゴ殿、レイ殿、セナミ殿、ケンジ殿だったかな?」
「は、はい。バレッド王に於かれましてはご機嫌麗しく・・・」
「はっはっは、やめよやめよ、トウゴ殿。我とは対等・・・いや、友人とでも思って接してくれれば良い。」
「は、はぁ・・・」
こうした偉いさんとのやり取りは、全部年長のトウゴが受け持つことに決めていたのだが、緊張していたトウゴも王の態度に間の抜けた声を出してしまう。
四人とも結構緊張していたのだが、王の人懐っこい笑顔と、意外なほどフレンドリーな態度に面食らってしまい、緊張どころか頭の中が混乱状態になっていた。
そして、今まで声を上げて笑っていた王が急に真顔になり、低い声で言った。
「此度の召喚の件、貴公らにとって不本意であった部分もあるだろう。こちらの都合を押しつけたは申し訳ない。許してくれ。」
そういうとバレッド王は着座のまま頭を下げた。
この行動には四人は元より謁見の間にいる全員が驚愕した。居並ぶ家臣達も目を見開いていたり、口をパクパクさせて声も出せないでいる者が殆どである。
「王よ!王自ら頭を下げる事では・・・」
「控えよ!!この国の長たる儂が謝罪せずして、勇者殿の許しを乞えるものではないわ!」
「し、しかし!」
食い下がるのはこの国の宰相であろうか。黒と青の礼服に身を包み、神経質そうな口調で王に言い募る。
それでもバレッド王は【威圧】を発動させ、宰相を黙らせる。
「周りが煩いが気にしないでくれ。この国には、いや、このノクトール三国と東大陸イータルには貴公等の力がどうしても必要なのだ。」
「は、はい・・。」
「此度の謁見は我と貴公らの顔合わせとでも思ってくれ。大義であった。」
王の言葉を合図に四人は退出を促され、釈然としない気持ちのまま謁見の間を出て行った。
控室の戻ってきた一行は、緊張の糸が切れたかのように豪奢なソファでグッタリしていた。
王様と聞いて偉そうな男が出てくるのと考えていたのに、あんな気さくな人だったとは裏切られた思いである。
「はぁ~緊張した。でも何か気さくな王様だったね。」
「ラノベ的には腹黒のはずなのに意外。悪者は宰相かも。」
「まぁいいんじゃね?偉そうにしているおっさんより話が分りそうなおっさんでさ。」
控室で話をしていると、再び呼び出しがかかり、謁見の間とは別の部屋へと案内された。
そこには先程拝謁したばかりのバレッド王と、ついさっき王のお叱りを受けた宰相が待っていた。
四人は王と共に宰相がいたことに体を固くすると、謁見の間の時と同じように王が朗らかに笑い、四人に言った。
「あれは演技じゃ。貴族の中には成り上がりを蔑む者もいるのでな。宰相と一芝居打ったのじゃよ。」
つまり四人に失礼な態度を取れば、王の逆鱗に触れるのだということを、あの場にいる全員に知らしめた、ということである。
あの場で王が四人に対して礼を尽くしたことは早々に国内に広まるであろうし、宜しくない感情を抱く者が居たとしても、大きな抑止力になるはずであった。
迫真の演技で勇者をも誑かす事が出来たと王はご機嫌で、部屋の空気も和やかなものに変わっていく。
当たり障りのない国の内情を話したのち、王が居住まいを正して四人を見渡した。
「この部屋へ呼んだのは、お主達を異界から召喚した理由を話すためじゃよ。」
「っ!」
「グラハムにもロードヘルブにも、これだけは儂の口から直接言わねばならんと口止めしていたのじゃ。」
「確かにお二人ともそれだけは話してくれませんでした。」
バレッド王はひと息付くと、四人に長い話になるからと断り、紅茶を勧める。
「十二年前のことじゃ。我が国と東大陸の魔人族連合軍との間に戦争が起こった。この事は聞いておるな?」
「はい、座学にて戦争があったことは聞きました。」
「うむ、その争いでな、我がゼダハ王国の兵士五千と東大陸にある都市国家イータルの一般人一万が餓死した。」
「ええ!が、餓死・・・。」
バレッド王が目を閉じ、一つ一つ思い出すように語る。
魔人族の大軍がイータルを取り囲み港を制圧したため、食料供給が途絶えこと、ゼダハ王国がイータルを救うため食料を満載して向かったが、海棲魔獣に船を沈められ溺死したり喰われたりしたこと。
その後の交渉で魔人族は軍を引いたが、半年にも及ぶ兵糧攻めで弱い者から死んでいったこと。
「我が国の兵士五千の死は致し方ない。戦争じゃからな。きれいごとでは済まぬ。だが、腹を空かして死んでいったイータルにいた者達の無念は別じゃ。」
「・・・。」
「年寄りが真先に死に、多くの子供も助からなかった。外道の所業じゃ。」
あまりにも凄惨な話に四人は言葉も出ない。
戦争や人の死などと無縁の世界で生きてきた四人にとって、初めて身近に「死」というものを感じた話である。
この異世界に連れてこられ、最初は戸惑いや不安もあったのだが、訓練を続けて自分の能力がどんどん開花してくると、元の世界では感じる事が出来なかった何とも言えない高揚感が湧き上がってきた。
この能力があれば、この世界で充分生きていけるし、能力的には相当優位な立場であることも分っている。
だが、実際に「死」はある。
自分たちの得た力は、死から自分を守るためのモノであり、また敵に「死」を与えるものでもあるのだ。
沈黙葉支配する部屋で、それを破るようにバレッド王は言う。
イータルもこの十年、魔人族の顔色を伺いながら何とかやって来たが、もう限界が来ている。
搾取される武器食料、労働力として奥地まで連行される人族もいる。
「ここまで言えば聡明な貴公らならば分かるであろう。イータル解放のためそなた等の力を貸してほしいのだ。」
そういうとバレッド王は再び四人に頭を下げるのであった。
◆
四人が退出した部屋にはバレッド王と宰相イージニアスが残っている。
つい先程までの明るさとは全く異なる光を目に宿した王が、四人が出て行った扉をじっと見詰めていた。
「王よ、意に沿わぬ仕儀、申し訳ありません。」
「まだだ。まだ足りぬ。こんなモノでは彼らを繋ぎとめておくことは出来ぬわ。」
「勇者らが鑑定持ちでは中々手を出せませぬ。能力によって当方の敵意まで察知するかもしれません。」
「しがらみを作れ。女、男、宝も金も、何でもくれてやれば良い。上手く転がすのだ。」
「はっ!仰せのままに。」
◆
バレッド王との拝謁からまた少し日が過ぎたとある日、四人はそろって王国の馬車に乗り、街の方へと出かけていく。
四人の乗る馬車の後ろには近衛騎士団の騎馬が五騎従っている。
向かう先は王都メッサドのあるメサイナ教の聖堂である。
王城の中では制約が多すぎて、これまで一度も試すことが出来なかったセナミの従魔召喚を行うためである。
当初は街外の何処か適当な場所を選んで召喚を行う予定だったが、警備の都合とラミルト女史のご厚意により王城からほど近い、聖堂の中庭を使うことになったのだ。
ようやくセナミは初めての召喚魔法に挑戦する。召喚魔法の発動の仕方は何となく分っているのだという。
皆が心配しているのは、呼び出したすべての従魔が大人しくセナミに従ってくれるか、ということである。
四人が一緒なのも騎士が随行しているのも、つまりはそういうことであった。
「でもよ、姉さん。思った通りの従魔がそう都合よく召喚されるモンなのか?」
「ゲームの時と同じだと思う。ガチャみたいなモノ。」
「んあ?どういうことだ?引きまくるってか?」
「それに近い。いいもの当てるまでひたすら回す。」
「おいおい・・・。ゲームじゃないんだからそれは拙いだろう。召喚した魔獣はどうするんだ?」
「全部契約する。目指せモフモフ生活。」
ふんすと鼻息も荒く自信満々の表情でセナミが答える。
セナミは本気で複数の従魔を召喚しようとしていた。
この日のために王宮の書庫に入り、魔獣図鑑を探し出してどんな魔獣がいるか調べまくっていたのだ。
「ダメだよセナミさん。そんなに一杯いたらエサも大変だし、一匹でもいなくなったら大騒ぎになるよ。」
「仕方がない。それなら魔獣の最強種を召喚する。」
「いや・・・無理だろ?!いきなり王宮の真ん中にドラゴンなんか召喚してみろ、王宮がパニックになるぞ!」
「ん、ドラゴン。決めた。ドラゴンにする。」
そう言うや否やセナミは魔法陣の傍に立ち、詠唱もせずに魔力を練り始めた。
彼女はただドラゴンが召喚されることを願った。自分の頭の中にあるイメージをそのままに。
しばらくすると、魔法陣から無数の光の球が浮かぶ上がり、徐々にその光が集まってくると何かの形を取りはじめた。
魔法陣を中心にして空気が流れを作り、中庭の草木を揺らしている。
魔法陣と共に集合した光の球の輝きがどんどん強くなっていく。もはや直視できないほどの強い光となり全員が目を閉じた直後、一瞬で輝きが消えてしまった。
そして恐る恐る目を開けた一行の目に映ったモノは。
「ガ、ガアァ!?」『な、なんだ!?』
魔法陣の中心で、体長1m程の真黒な小ドラゴンが何か肉を噛り付きながらこちらの方を見ていた。




