第18話:(A氏)『この世界もまた一段ときな臭くなってきやがったな』
第18話:(A氏)『この世界もまた一段ときな臭くなってきやがったな』
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広場近くの宿に入ってカウンター前で順番待ちをしている間に今の所持金をチェックしておいた。俺の財布には銀貨44枚と多頭竜の鱗、アンジーの財布には銀貨24枚。携帯調理器具一式とか買ってたし、アンジーの残金が思った以上に少なくなってるのは考え物か?
当のアンジーは俺を見て『何だよ』とか言ってるけど…コイツ本当に分かってるのだろうか、少しでも浪費したらきついラインまできてるんだけどなー?
ふと、並んでいた俺達の後ろに黒ローブが並んできた。目深にかぶられているフードの盛り上がり具合からすると恐らくは竜人なんだろうけど…残念だったな、その程度の変装で誤魔化せるほど[情報解析]先生は甘くない。身元はバッチリ洗わせてもらうぜ!
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ヒューマン・レンジャー【ランクB】 Lv6/50
名前:フランツ・ヘンドリクセン
二つ名:偽風竜神の特務暗殺者【ATK+500% MAT+500% DEF1固定 MDF1固定】
状態:闇駆け【夜間限定AGI+100%】
HP:640/640
MP:480/480
ATK:2100(+1750)
DEF:1(-179)
MAT:960(+800)
MDF:1(-179)
AGI:800(+400)
スキル:[ステータス閲覧][発声][闇駆け][盗賊の心得Lv6][風魔法Lv3]
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あれ?確かこいつは…ガスタの里へ向かう途中でミスティを撃ってきた奴の中にいたな、物騒な二つ名といい、一体コイツに何があったんだ?
その間に受付の順番が俺達に回ってきたので受付に入る事になった、どうやらアンジーは後ろの奴にまだ気付いていないらしい。
「いらっしゃい。ひとり一部屋なら銀貨7枚、そっちの黒いのと相部屋なら銀貨5枚ずつだよ」
『んー…アル、テメェはどっちにすんだよ』
すかさず後ろの黒ローブを手繰り寄せ、アンジーの腕を一緒に掴んで主人に聞いてみる。
「後ろのコイツと3竜ならいくらだ?」
「あー、それなら銀貨4枚ずつで構わない。ただ寝床は自分でなんとかしてくれよ」
「それでいい」
すぐに自分の財布から銀貨12枚を支払い鍵を受け取ると、さっさとアンジーと黒ローブを連れて部屋に入り内鍵を閉めた。急に連れられた黒ローブ…もといフランツは何が起こったのか分からず混乱したままだ。
「さて、二日ぶり…といった所かな。フランツ隊長――いや、元隊長?」
着ていたローブを掴んで一気に引っぺがすとやはりそこには竜人の面を身に着けた人間の姿が。とりあえず驚いたアンジーの顔が面白かったので脳内に保存しておこうかな。
あちら側も観念したのか静かにその面を外すと、金髪碧眼の若い男性が姿を現した。短髪で清潔感溢れるその顔には大きな痣が出来ている…しかも結構新しい。
『――成程な俺も把握したぜ。あん時の野郎がこんな所に一体何の用があって来てんだよ?』
フランツは俯き加減のままじっとしていたけど、何かを決めたように顔を上げその口を開いた。
「どこで僕の事を知ったのかは知りませんが、この国に来たのは…これのためです」
そう言って肩から提げられた鞄から取り出したのは淡く光る人の頭大はあるオーブ。とりあえずコレも解析先生に鑑定をお願いするとしよう、一体何なんだアレ?
【時限式圧縮魔法爆弾:レア度UC:MPコスト40:スロット揃い時効果[1個:なし 2個:スキル[MPチャージLv2]一時解禁(30秒)
3個:スキル[MPチャージLv4]一時解禁(60秒)]
魔力を注入すると、一定時間後にその魔力量と属性によって一定範囲に属性攻撃を繰り出す魔法道具。
込められる最大魔力量はオーブのサイズによって変動、拳大のサイズでも効果範囲は半径50メートルに及ぶ。
このオーブの詳細――属性:風魔法[LvMAX] 効果範囲:半径1250メートル 残り時間:2分15秒】
「ちょっ!?」
慌ててソレをひったくって回収、咄嗟に翼のポケットへ収納する。
「こんな危ない物持って何考えてんだよ!仮に発動してもこれじゃお前までっ…」
「…薄々は気付いていました」
悔しそうに拳を握るフランツの目はまだ生気に溢れていた。これから自分が死ぬんじゃないかと勘付いているのに、普通そんな目をするのか?答えはNoだろう。
どこかで彼自身納得いってない所があるからこそ諦め切れていないと俺は予想するね、そこを掘り下げてみようか。
「フランツ、ガスタの里で何があった?オーブは俺が預かってるんだし諦めてゲロっちまえよ」
『てかこのオーブ、中で爆発とかしねぇか?』
…しない、よね?
いや、そう言われると段々不安になってきたぞ…試しにポケットから取り出して解析先生にチェックしてもらうとタイマーは2分ちょっとのままだった。どうやらポケットの中に入っている間は進行が止まってくれるようだ、それなら入れたままにしても安全だしそのままにしておこう。
「うん、爆発しない。安心して話してくれ」
「…分かりました」
部屋に備え付けられていた椅子に座り、フランツは身に起こった事を話し始めた…
「改めて自己紹介しますね。僕はフーリエの偵察隊長…いや、彼の言う通り元隊長のフランツ・ヘンドリクセンです、風竜神ガブラスタ様に仕える者としてフーリエの地で任務を全うしていました。
僕が偵察隊長に着任してから数年経ったある日、任務から帰った僕は聞きなれない謎の物音に誘われるがまま地下牢へと入っていくと、そこには巨大な竜が枷に繋がれた状態で囚われていました。ましてやその竜が「自分が本物の風竜神だ」と訴えた事には本当に驚きです。
緊張しながらもそのまま彼女の話に耳を傾ける中で僕にある疑問が生まれてきました。もし仮に彼女が本物の風竜王ならば、今僕が仕えているガブラスタと名乗る者は一体誰なのか?奇しくもそう思った直後に風竜神様…いや、偽風竜神が地下牢に下りて来たので探す手間は省けましたけど。
降りてきた彼女に問いただしてみると、特に誤魔化そうとする様子もなく自身の身元を軽々と明かしてくれました。自身が肌身離さず持っている杖が、対応する枷で繋がれた者から魔力と寿命を奪うのだという事も…
偽風竜神の名はニーナ・テーリス。500年前から『神託』に従って生きてきていると、そう言っていました。
そこまでの事をこうも軽々しく僕に話した時点で、知った僕の口を封じる為の手段もあるのだと十分に把握できました。現に僕がここに持ち込んでいたオーブ・ボムは…あなた方からしても危険な物だったのでしょう?
――結局、僕は彼女の言う事にただ従うだけの日々を延々と過ごしてきました。不用意に彼女の元を離れようものなら僕の命は一瞬にして消されると、本能がそう告げていましたので。
2日前の夜でした、領内に侵入してきた獣竜を僕達偵察部隊が仕留め損なった後、突然彼女から隊長の任を解かれた末に「セントドレイクの双子王に届け物をする」という任務を与えられました。僕からすれば彼女の元から離れるチャンスでもありましたけど…やはりそう簡単に事は運べなかったようです。
あとはご覧の通り、捨て駒にされた挙句に自爆までさせられそうになった…というわけです」
フランツの話を一通り聞いた上で、俺はある提案を持ち掛ける事にした。
「フランツ、お前がここまで来たって事はつまり『あの防壁』を越える手段を持っていたって事だろ。内から外が出来るなら、当然中に入る手段も知ってるよな?」
少し考えた様子を見せたけど、すでに彼の腹も決まっていたのだろう。すぐに首を縦に振って肯定した。
「なあフランツ、お前はフーリエ側からすればお前はもう死んでる人間だ。どうせ死んでるならさ、俺達と一緒に偽風竜神を倒しに行かない?」
「いきなり部屋に引きずり込まれた挙句になりゆきで自分の身の上を話して、果てには自分の元上司を倒す…ですか」
『あァそうさ、実を言うと俺もその途中だしよ』
「――確かに白竜さんの言う通り、僕はもうあちら側からすれば死んだようなもの。死人に口無し、あなた達に秘密を話すことなど死人の僕には出来ようがありません。あなた達に話した事もすべて死人の独り言、誰もその話を聞ける者などいない…ですよね?」
「そういう事だ」
手を前に差し出すと彼も手を握って応えてくれた。完全に偶然の成り行きではあったけども、これで人間の協力者を得る事が出来たのは非常に大きい。
「よろしくなフランツ、歓迎するぜ…ひとまず自己紹介からか。俺はアルフレッドだ、アルって呼んでくれ」
『俺ぁアンジェリカ。アンジーでいい』
「よろしくお願いします、しばらくの間お世話になりますが――そういえばずっと気になっているのですけど、一体どのようにして僕の名前を知っ」
そこまで言った所でポケットに入れていたオーブ・ボムを無言で取り出すと、彼も理解したのかすぐに黙ってくれた。
その後は皆で食事を摂るべく市場をぐるっと見て回り、そのまま部屋に戻って休息を取ることにした。フランツはそのまま出ると勿論大騒ぎモノなのでさっきの変装グッズを身に着けてもらったのは言うまでも無い。
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ガスタの里郊外、だだっ広い草原のど真ん中に1羽の巨大カラスが転がっていた。レミー・モリトール…「案山竜壊し」モリトール一家の構成員であり、先日アルフレッド一行に飛ばされた彼は復讐心に燃えていた。
「あの竜め 恨み晴らさで おくべきか」
『恨みを晴らしてぇのか、なら好都合じゃねーか』
突如聞こえてきた謎の声にレミーは周囲を見回す。彼の背後には皺ひとつ無い漆黒のスーツを身に纏った男が立ち、その顔は不敵な笑みで満ち溢れていた。そんな彼の隣には筋骨隆々の虎人が腕を組んで待機している。
『俺ァリボンス、復讐を司る神だ。横にいるコイツも「その竜」に復讐すべくすべく俺の加護を欲したいわば同類、仲良くやれよ』
「へぇ、あんたもあの竜にいわされたクチか。俺はベクターだ、よろしくな」
「…レミーだ」
『ならレミー、お前にも俺の加護をくれてやる。奴らは今セントドレイクのどこかにいるはずだ、しっかりやれよ?』
レミーの額に当てられた手からリボンスの力が流れ込む。しばらくしてベクターを背に乗せるとセントドレイク国を目指して翼をはためかせた…まずは首都、アルフランドを目指して――
『…復讐を忘れた奴にもう用は無ェ、恨むんならテメェ自身を恨むんだな』
空の彼方へ消えていったレミー達を見送ったリボンスは、そのまま霧の様にその姿をかき消していった。
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そして日を跨いでセントドレイク滞在二日目。まずは昨夜に俺達と分かれてゼッドとともに診療所へ向かったミスティ、彼女の怪我の具合を知るべくその診療所へと向かう。付き添いのゼッドが目立ってくれたので道に迷わずには済んだけど、向かった先で待ち受けていたのは非常に面倒な現実だった…
「ああ、姐さん!大変ッスよ、ミスティさんが!」
『どうしたんだよそんな慌てて』
「…わたくしから説明します」
ベッドに寝そべっていたミスティが姿勢を正して(いわゆる「やたら背筋の伸びたお座り」のポーズだ)、俺とアンジーをしっかりと見据えた。フランツには一応診療所の外で待機をしてもらってる。
「――医者の見解では「全治2ヶ月」だそうです。このままではわたくしはただの足手まとい…あなた達やテレジア様の役に立てるとは到底思えません」
「ボクはまだ役に立てると言ったッスけど、ミスティさんの心は固いみたいッス…」
それからは色々と話し合ったけど…怪我が治るまでの間、ミスティはこのまま滞在する事になった。
彼女はおもむろにベッドの横に置かれていた鞄、[彼方の背嚢]の紐を咥えて俺の方へと差し出す。自分の商売道具を手放すなんてあのミスティからは想像もつかないけど、現に彼女は俺に鞄を差し出してる。つまりは俺がミスティの行商をしろって事なのか?
「ミスティ…こんな俺にお前の役目を引き継げると思うか?俺が出来るのはあくまで俺が出来る事だけだ、残念だけど期待には添えそうにないぞ」
「別に引き継がなくても大丈夫です、あなたが成すべきことを成してください。わたくしはここで骨折からの回復に専念して回復し次第合流します」
黙って鞄を受け取りそのまま背負っ…うのは背中の翼で無理だったので腰に固定する。俺が成すべきこと――か。
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ドラコ・マーグレイヴ【ランクB】 Lv1/50
名前:アルフレッド(荻野祐一)
二つ名:白竜伯爵【全パラメータ+30% 光攻撃+50%】
状態:通常
HP:877/877(+202)
MP:877/877(+202)
ATK:585(+135)
DEF:585(+135)
MAT:877(+202)
MDF:877(+202)
AGI:585(+135)
スキル:[ステータス閲覧][発声][情報解析][アイテムスロットVer.2.00]
[ブレス中級][光魔法Lv5][治癒魔法Lv3][簡易検査]
アイテムスロット状況:[竜革の財布:多頭竜の鱗:多頭竜の逆鱗:ロック烏の風切羽:時限式圧縮魔法爆弾:なし]
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ドラコ・マーグラヴィーン【ランクB】 Lv1/50
名前:アンジェリカ(八王子美咲)
二つ名:黒彗星【ATK+50% AGI+50% 対鳥系+50%】
状態:通常
HP:450/450
MP:450/450
ATK:1012(+337)
DEF:675
MAT:450
MDF:450
AGI:1012(+337)
スキル:[ステータス閲覧][発声][情報解析][アイテムスロットVer.2.00]
[ブレス中級][闇魔法Lv5][状態異常魔法Lv3]
アイテムスロット状況:[多頭竜の逆鱗:鮫魔革の財布:携帯調理器具一式:ロック烏の風切羽:なし:なし]
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