第53話:過去話はフラグの香り(アリスの場合・後編)
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第53話:過去話はフラグの香り(アリスの場合・後編)
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「あら?あれは確か…」
アンジーと行動を共にし、今は聖サーラ王国の国境付近の詰所に滞在して数時間後。詰所外の庭で寝ていた私のもとに1匹の小さな竜がぱたぱたと飛んで私の頭に着地する。そのまま頭の上できゅーきゅー鳴いた後、しれっとそっぽを向いて飛び立っていった。
何を言っているかは分からなかったけど事の内容は頭に入ってきてたんだよね、ホント不思議。その内容は…私が風竜王に選ばれたことを知らせるものだった。
『よう、風竜王になったみたいだな』
あらリボンス、久しぶりね。
『晴れて風竜王になったお前に良い事してやるよ。ホラ、目ぇ瞑れ』
言われるがまま目を瞑ってじっとしていると、突然身体の奥底から力が湧くようなイメージが…いや、実際に湧いてる!そのまま私の身体の表面を淡い光が覆っていく――
『ただの風竜王じゃあ、あいつ…アルフレッドには勝てねぇだろうよ。(あの時の強力な攻撃といい、もしかしたら「あの女」の助力があるかもしれねぇな)だからお前も強くなるべきなんだよ、そこんとこ分かるだろ?』
ま、まぁ確かにそうよね。で、私はどうなるのかしら?
『とりあえず進化先の種族チェックしてみろ、それ次第で名乗り方変えるかどうか決めるんだな』
進化を終えステータスをチェックすると[暴風竜王エアリストーム]になっていた。とめどなく溢れる力に戸惑いながらも、アルフレッドへと復讐に向けて確かな一歩を踏み出せた事に実感が湧く。
――今ならきっとアイツを殺せるんじゃないかしら?
そう思い始めると居ても立ってもいられなくなり、すぐに翼を広げてアルカンの街へと飛び始めた。
「おいアリス、ちょっと待てよ!」
アンジーの声が聞こえた気もするけど、今はそれどころじゃ…
「きゃぁあっ!?!?」
急に景色が歪んで私は地面に激突した。倒れた横にはさっきの詰所が見えてる…どうやら転移で連れ戻されたみたいね。
「ったく、急に進化したと思ったら勝手に飛んで行って。焦るんじゃねぇよ、タイミングを図れ」
「じゃあいつ行くのよ?いつまでもあいつがアルカンの街に留まるわけでもないってのに」
「もうすぐこっちに新任の火竜王が来るってリボンスから連絡があった、ソイツと合流してからアリスと火竜王でアルカンを落とすんだ。万一ピンチなら思いっきり急上昇しろ、確認し次第俺が転移でここまで連れ戻す」
成程、アンジーは保険って訳。まぁいいわ、焦ったら事を仕損じるだけだし…ここは待つことにしましょう。
それから2日経った昼頃、兵士の一人が詰所の扉を乱暴に開け、中の兵士達に声を上げた。
「やっべぇぞ、今バジェット城塞がデカブツに襲われてるって連絡が入った!誰かすぐに向かえる奴はいないか!?」
それを聞いた私はすぐに飛び立った。まだ問題の火竜王と合流できてないけど奴を追い詰める数少ないチャンスだからね、もたもたはしてられなかった。
大急ぎで飛び立って数十分、すでにバジェット城塞は粉々に破壊され瓦礫の山になっていた。その脇ではアルフレッドが他の竜達を取り巻きに警備兵を攻撃しているところだ。
背後から声を掛けてみるとこっちに気付いたみたいだけど、当のアルフレッドは辺りをきょろきょろと見回して誰かを探しているような雰囲気だった…まぁ、アンジーでも探してたんでしょうね。
隣にいたのは氷竜王と地竜王。地竜王は相性もあるし居ないものとカウントしても問題はなさそうね、氷竜王の方は[アイシクルバレット]を私に撃ち込んでくるけど今の私には片翼で十分に対処できる。その程度だなんて竜王が聞いて呆れるわね。
今度は[アイシクルウォール]を張ってきたけど…何をするつもりかしら?
すると作り出された厚い氷の壁が突然爆発し、その破片が私の所へ飛んで来る。スピードも大きさもさっきのより数段上ね。だけど――
「そうきたのね…[ガストウォール]」
目には目を、壁には壁を。強くなった私にはこの程度の攻撃は無いに等しいわ。けど…
『もっと力が欲しいってか?』
ええ。完膚なきまでに叩きのめして、絶望の淵に叩き落してから殺してやらないと今の私の気は収まらないわ。
『ま、勝手にしろ。力はくれてやる』
ならさっさと力を頂戴。憎いアルフレッドを、その仲間を皆殺しに出来るだけの力を!
「おおぉおおおオオオオ――――ッ!!」
本能のままに咆哮をあげ、私の身体が尋常じゃない熱を持って膨れ上がっていく。
「ワタシノ名ハ絶暴風竜王えありすとーむ、憎キオ前ヲ殺ス者ノ名ヨ!」
声の出方がかなり変わっちゃったわね。ステータス欄は見てないけど、直感ていうのかな?行くべき私の道が見えた気がした。
全身から迸る力を空気の弾丸に変換し、アルフレッドに向けて連射していく。けれどあっちも相当やるみたいで全弾回避していってる、そうとなれば――全体攻撃に切り替えれば!
「埒ガ明カナイワネェ…コレナラドウカシラ?[テンペスター]!」
[風魔法]最上級の全体攻撃魔法、[テンペスター]。発動に時間は掛かったけど、一旦発動してからは私が言うのもなんだけど地獄絵図だったわ。
残っている城塞の壁すら根元から吹き飛ばし、付近一帯が草一本生えていない見事な更地に生まれ変わっている。
ふと奴の口に笛が咥えられているのが見えた。紫色と水色…いずれにしても放置するわけにはいかないわ!
「援軍ヲ呼ブツモリ?サセナイワ!」
「そっちにもさせる訳無いだろ!撃ち落してやるよ!」
カウンターを合わせるようにアルフレッドの全身から大量のミサイルが発射されるけど、今の私にはかわせない訳でもない。ローリングでギリギリの所を回避し、そのまま両脚の鉤爪で咥えられていた笛を2本とも粉々にした!
よし、これで厄介事は減るでしょうね。あとは――
「なぁアリス…お前も転生者だったんだな」
「ナッ――!?」
いきなり何の脈絡もなく放たれた爆弾発言に一瞬戸惑った瞬間、私の横っ腹になぜか砲弾がめり込んだ。どうやらアルフレッドも予期してなかったのか、かなり戸惑った様子をしてる。
体勢を立て直した時、隣に転移魔法陣が出現してそこから赤い竜が飛び出してきた。こいつがアンジーの言ってた火竜王ね。どうやら無事合流できたみたい。
だけどすぐに向こう側でも雷竜王と水竜王が合流してしまった。一応2対4ではあったけど、すぐに火竜王の様子が変化しそのまま進化した。これで実質何対何になるのかしら…訳分からないわね。
水竜王が私に向かって突っ込んできた。右手刀は水で覆われ、剣の形をしてる。多分アレ、相当切れるんでしょうね…だけど軽く仰いだだけですぐにバランスを崩して地面に落ちちゃったわ。
そのまま水竜王を追撃しようとしたけど、隣でミサイルが爆発したせいで辺り一面が煙で見えなくなってる…ああもう、面倒臭い!
扇いで爆煙を吹き飛ばそうとした所を水竜王に妨害され、たまらず地面に叩きつけた隙に雷竜王が攻撃に移ってしまった。
「「ぶっ飛べ…!地平線の、――彼方へぇぇぇっ!」」
「ギャアアッァァーっ!!」
うわぁ…脚めりこんでてすっごく痛そう。なんかこういう空中オーバーヘッドって何かの漫画で見たような気がするわ。それより問題なのは火竜王との距離が開きすぎた事ね、これじゃ実質1対4じゃないのよ!
「フン、マサカソコマデヤルナンテネェ…流石ニ分ガ悪クナッテキタワ、ココハ退カセテモラオウカシラ?」
アンジーに言われていた通りに急上昇すると、すぐさま転移されてもとの詰所に戻っていた。
「アンタがサインを出したって事は、相当あっち側も強くなってるって事でいいんだな?」
開口一番、アンジーが私に聞いてきた。変わり果てた私の姿に一切関心を示さず、ただ奴についての情報を聞きたがるのは――やっぱりアイツが憎いからなんでしょうね。
黙って頷くと「そうか」と一言漏らし、すぐに転移でどこかへ飛んで行ってしまった。私が彼女を見ることは二度と無かった――
――――――――――
『ようアリス、訃報だ。アンジーが逝ったぜ』
私が詰所でアンジーの帰りを待っていると、リボンスから突然とんでもない事を聞かされた。
アンジーが死んだ?それってどういう…
『どうもなにもそのまま、アンジーがアルフレッドに殺されたって事。あいつはそこまで弱くない…ていうかかなり強い筈なんだがなぁ』
で、今そのアルフレッドは一体どこに?
『さぁな、聖サーラ王国内で確認はされてるがもうトンズラこいてるかもしれねぇ』
翼を広げて詰所から飛び立ち、私は一直線にアルカンの街へ向かった。最後に滞在したのがアルカンの街なんだ、そこに行けば何かしらの情報があるはず!
進化したことで飛行スピードが並外れて速くなり、崩れたバジェット城塞跡地からアルカンの街が見えるまで2時間程で着くようになってた。倍以上のスピードになってるわね…さすが竜王といったところかしら。
「ン…アレッテ…」
黒雲うずまくアルカンの街、その防壁前に何者かが立ちはだかっていた。姿は完全に多頭竜だけど、鱗が漏れる光にやたら反射してテカテカしてる。
「…誰カシラ?見タ感ジあるミタイナ姿シテルケド」
「残念だったな、俺だよ!」
くっ、こいつわざとらしく親指向けてドヤ顔するなんて腹立つ!唾吐いてやるわ、ぺっ!ぺっ!
その唾を最小限の動きで回避したアルフレッドはそのまま避けざまに大砲をぶっ放してくるけど、こっちもサラッとかわしてプラマイゼロにする。
『アリス、昔の恋竜をいつまで引きずっているつもりだ』
いきなり奴の口から別人の声が聞こえてきて一瞬は戸惑ったけど、あの声はイフのものね…やっぱり長年ローズと連れ添ってたイフでもそんな事聞いちゃうのね、正直哀しいわ。
「アナタ達ニハワカラナイデショウネ。ドレダケ私ガ苦シイ思イヲシテキタカヲ…ネ!!」
不意打ちで[ガストバレット]を撃ち出しはするけど、どれもギリギリの所でかわされて埒が明かない。
『勿論、分かる訳無いだろう。一緒にいる間ただの一度も話していないのだからな』
「ジャア聞クワ、アナタハ死ンダ事ッテ…アルカシラ?」
『なっ――』
以前アイツからいきなり核心を突かれて油断した所を攻撃されたんだ、こっちだって同じ事やったって文句は言われないでしょうね!
予想通りに動きが止まった所を[ガストバレット]の雨をお見舞いすると予想以上に効いたのか、あっちはピクリとも動かず私の攻撃を全身で受け続けていた。
少し経ってすぐに正気に返ったのかミサイルで反撃してきたので、こっちも距離を取ってカウンターの[テンペスター]を発動する…アイツも一度くらい死んでみれば私の気持ち、分かるんじゃないかしら?
どうやらアルカンの街は何かしらの防壁に守られているのね、全然吹き飛ぶ気配が無いわ。
「なあアリス。バジェットの時の続きなんだけど、お前も転生者なんだろ?だったら本名だけでも聞かせてくれないか?」
こんな時にまたそんな話を振ってくるなんて…そもそも何でアルフレッドが転生者について知っているのかも気になるけど、そもそもあんたみたいな奴に教えたりする訳が無いでしょう!!
『誰ガオ前ナンカニ教エルモノカ、殺シテヤルッ!!』
「前世は何で死んだんだ?事故か?病死か?」
私の攻撃をかわしながら、わざと聞こえるようにはっきりと話してくる辺りにアイツの趣味の悪さが出てるわね。まぁそんな程度で私の攻撃が止むわけでも――
「――通り魔か?」
その瞬間私の思考が一瞬止まった。その隙を突かれて「物凄く眩しい何か」を爆発させたのか目が眩む…目が慣れた頃にはアルフレッドの姿を見失ってしまった。
「ふーん、通り魔に殺されたんだ。そりゃ恨みも出るだろうな、復讐神の加護か付くくらいなんだし」
「黙レッ…黙レッ!!!」
どうして復讐神…リボンスの事を知ってるの!?
「んじゃさ、誰に復讐したかったワケ?」
私はそもそもお前に復讐するために…あれ?私は誰に――
「今まで目の前の俺を殺すのに夢中で忘れてましたー」なんて言い訳が通る程この世界は甘くないぞ」
「黙レェェェェェエエエッ!!!」
私は…一体誰に復讐しようとして転生を…ああ、そうだ…確かあの時の通り魔に復讐しようとして――
『騙されるんじゃねぇ、今のお前を突き動かしてんのは誰への恨みだ?』
そうだ、今の私はブレイドさんを死なせたアルフレッドに復讐するために動いてる、攻撃を休ませたらいけないわ!
無我夢中で[テンペスター]を二重で発動しようとするけど、アイツの3つ首のうちの黒い方からナイフが飛んで私の顔に刺さり思わず口をつぐんでしまう。そのまま私は思いっきり地面に倒されあっさりマウントを取られてしまった。
『アリス、教えてくれ。お前の本当の名前を…』
ちょくちょくイフの声が聞こえてくるわね…見た感じロボットっぽいし、中にイフでも乗ってるのかしら?――だとしたら、チャンスかもしれない。
マウントを取ってあっちも油断してる。試しに背後に[ガストランス]を発動させたけど気付く様子もない、もう少し意識をこっちに向けさせればっ…!
「私ハ――」
アルフレッドの姿勢が前傾気味になった所を、全力の[ガストランス]を背後から突き刺した!風の槍は胸を貫通して、その隙間から力なく垂れた腕と大量の血が流れ、私の腹部に滴り落ちる。
「嘘だろ、イフ…おい、返事しろよ…」
残念だったわねぇ、散々苦しめてきた罰よ!大事な仲間を一人ずつ殺して…アルフレッド、あなたは最後に殺してあげるわ!
「ガゥッ!?」
私に乗っかってるアルフレッドの鋼鉄の右フックが私の頬を打つと、牙が数本折れる音がした。もう1発殴られ、折れた所から血が噴き出すのがゆっくりと見えるような気がする…けど残念だったわね、その様子なら中のイフ君も長くは無いでしょう。
ダメ押しの[ガストランス]を発動させると流石にそれはよけられちゃった…けど、その隙にマウントを振りほどいて姿勢を整える。
「アリス、お前はやっちゃあいけない事をしたんだ。…覚悟はしなくていい、だから死ね」
さっきまでとまるで別のオーラを纏ったアルフレッドが、静かに構えを取った――その瞬間奴の姿が消えた。
「ギャンッ!」
え、何?今私殴られたの?
「ガッ…」
途中何とかしようと鉤爪で反撃しようとしたけど、アイツはそれすら一切意に介さず私を殴り続ける。一体どこから殴られているのかさえ分からないほど彼のスピードが上昇していた。
「ドウシテッ…サッキト別物…ッ!?コンナ事ガアッテ――」
「さっきの威勢はどうした、イフの痛みはこんな物じゃないぞ」
さらに奴の全身からミサイルが発射され私の全身にぶつかる…けど爆発はしなかい、ただ私の骨を軋ませるだけ。
「嫌ッ――助ケテっ…」
痛い。痛いよ…どうして?私だって復讐神の加護を授かってるし、転生者ってこういう時大体優遇されるものじゃないの?
『やっぱりな、そういう事だったか』
ちょっとリボンス、一体どういう事なの…
『今ので確信したぜアリス、アルフレッド――あいつも転生者だよ』
「ソンナ事ッテ――」
膝から崩れ落ちた私を前に、アルフレッドの身体を覆っていたオーラが一気に迸り彼の両腕に収束していく。やがてそれは飛行機のジェットエンジンみたいな形のガントレットになった。ああ、多分コレでパンチを加速させるんでしょうね…予想通りガントレットは爆音と共に青い炎を噴き出し、奴は両手を揃えて後ろに引いていく。
「モウ死ニタクナイッ…ヤダッ、助ケテ…っ」
『諦めるんだな、ここまできたらもう俺にはどうしようも出来ねぇよ。ロンデラの奴、とんでもないのを拾ってきやがったな』
ここまできたらもう覚悟は出来てるわ。意識も朦朧とし始めたし、身体も全く動かなくなってる。
健二さん、ブレイドさん…私もそっちに行くわ。兄さんは私が死んで今頃どうしてるのかな、無事に暮らせているのかしら?
――心配するな七海、俺がついてる――
「兄サンっ…――」
兄さんの声が、聞こえた気がした。
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