第1話:「話が違う」の「話」は大体勝手な思い込み
第1話:「話が違う」の「話」は大体勝手な思い込み
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歌が聞こえる。母さんが夜なべをしてる時に口ずさみそうな、子守唄のような優しい声だ。
ふと、いきなり右側だけ視界が開く。そこに映っていたのはショートボブの茶髪、若草色のエプロンを掛けて裁縫をしている女性の姿だ。
彼女は布で作ったであろう白と黒の円形の布を貼り合わせた魚の目のような物に針を通し、俺の顔へと近づけていく。お、おい、まさか…
グサリ、と俺の顔に針が刺さる。そこそこ痛い。――ていうか針に刺されてそこそこの痛みってちょっとどうかとは思ったが、その直後に俺の左側の視界が一気に開けた。そのまま彼女はちくちくと俺を縫っていく。
ああもう、コレで確信した。俺はぬいぐるみになったんだな。
最悪だ―――ッ!
でも思えばコレって転生する前に言ってたゴーレムの類に入るんじゃないかな?まぁぬいぐるみと聞くとどうしても子供向けのデザインを考えてしまう。ここは製作者の彼女の美的センスと裁縫技術を信用するしかないな、どうしても嫌な予感しかしないが。
てか今重大なことに気づいた。俺、動けない。
腕や足だけじゃない、首も無理なら眼も無理だ。文字通り「ただのぬいぐるみ」に転生してしまったのだ。
『言いましたよね?竜族に転生は出来ないって』
なんて今頃アイツは俺を見ながら呟いてるんだろうな。おそらく俺を縫い終わったのだろう、彼女は大きな欠伸をするとドアの向こうに去って行ってしまった。
今のうちに見える分だけでも把握しておこう。今俺が座らされているのはテーブルの上…かな?壁紙は感光して黄色く変色して、作りを見る限り中世ヨーロッパっぽい感じだ。やっぱりその辺りは他の転生モノと大差ないものだな。
しかし暇だ、だけど何も出来なければ寝る事も出来ない。と、急に声が聞こえてきた。
『オギノさん、聞こえますか?』
お、アイツか。聞こえてるぞー。
『どうしてもゴネて面倒くさいのでぬいぐるみに転生させました、文句は受け付けません』
でしょうねー、こんな事だろうと思ったよチクショー!
『ひとまずはその姿で頑張ってくださいねー、ではでは』
ああっちょっと待って…一方的に話しかけてきて、一方的に切りやがった。心細過ぎるんだけど!ちょっとー…
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その後は何時間も待ち続けた。暇すぎて泣きたいほど辛かったが、泣く事も寝る事も出来ない地獄のような時間が過ぎていくうち、窓の外がついに白んできてしまった。
「おはようアンジー、10歳の誕生日おめでとう」
「えへへ…ありがとうママ」
「誕生日プレゼントは隣の部屋に置いてるわよ」
「やったぁ!」
隣の部屋からいかにも幸せな家族の会話が聞こえ、すぐさま勢い良くドアが開かれる。ドアを開けた女の子は俺を縫った女性に似た茶髪のショートボブ、顔つきもやはり似ている。娘なんだな。
「プレゼントなんだろうなー!」
おそらくアンジーであろう女の子の目が、俺を見た瞬間死んだ魚を見るようなものになったのは気のせいだろうか?
「アンジー、どう?かわいいでしょう?」
「――うん!ありがとうママ!ずっと大切にするね!」
部屋に入ってきた母親が見ている前で、アンジーは俺を抱いてくるりと一回転する。ちょうど一瞬鏡が見えたが、ほんの一瞬、だけどその一瞬でもいいくらいに不細工なぬいぐるみの姿が見えた。
大きな角のような突起、背中に生えた小さな翼、太く大きな尻尾。体格は高さ50cmの3頭身テディベアみたいなものだがそれはドラゴンを模っているのだろうとかろうじて判断できた。
あくまで『かろうじて』と言わせて貰う。それほどまでに不細工なのだ。縫い目はガタガタで、目の位置は若干ズレている。黄ばんだクタクタの生地に詰め込まれた綿は偏っていた。一瞬映っただけでもこれだけの情報が見て取れる位に俺の体は不細工だった。
「ママ!この子と遊びにいってくる!」
「あまり遠くまで行っちゃダメよー」
「はーい!」
アンジーが元気良く家を駆け出し、「わーい、わーい」と機嫌よく街道を走る。
白い石造りやレンガ造りの家々が並ぶ街道を、アンジーは駆け抜ける。そのまま街の門をくぐると、そこにはなだらかな平原が広がっていた。
「わーい、わーい、わー…いるかァこんなもん!」
なんて思った矢先、いきなり俺はその平原に勢い良く叩きつけたれた。
「はぁ…いくらなんでもこれはガチで無いわ…」
投げ捨てられた俺を見る目は、さっきの死んだ魚に対する目そのままだった。やっぱりさっきのは見間違いじゃなかったか。
「普通ッ、10歳にッ、なるッ、女子にッ――こんなッ、モノをッ、あげるかっつーの!!貰われても全然嬉しくないし…死ねッ!」
荒々しい文句を叫びながら、その恨みを込めるかのごとく俺を何度も踏みつける。どうやら俺の中には鳴き袋みたいなものが入っているらしく、踏まれるたびに「プピー、プピー」と可愛らしく鳴る。完全に子供用だな俺。
「うわ、こんな音まで鳴るとか子供感ヤバすぎじゃない。まぁいいわ、あの女には無くしたとか適当に理由付けて泣きついときゃ大丈夫でしょ」
そう言ってアンジーはどこかに去ってしまった。
マジか。俺このまま朽ち果てる流れなの?てかアンジーの言動がヤバ過ぎる。荒んだ家族もいいとこだぞまったく。
『言い忘れましたけど、せめてもの温情で竜型のぬいぐるみに転生させました』
うん、今更。でも転生できたのはいいけどさ、身動きひとつ取れないと意味無くない?
『ああっ!申し訳ありません、忘れておりました。ではスキル[念動力]を授けましょう。これで多少は動けるはずです』
【スキル:念動力Lv1を取得しました】
【ぬいぐるみからスタッフド・ドラゴンへ変異しました】
なんだ、ちゃんと手立てあるじゃん!ていうか俺、完全に呪いの人形じゃねーか。
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そういえばさ、俺自身のステータスって見たりとかできる?
『はい、念じれば自身のステータスを確認できますよ』
よし、それが聞ければいい。早速いくか、[ステータス閲覧]っ!
すると俺の視界の右上にウィンドウが出現した。ちゃんとステータス載っているな、どれどれ…
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スタッフド・ドラゴン【ランクG】 Lv1/5
状態:通常
HP(体力):10/10
MP(魔力):15/15
ATK(攻撃): 2
DEF(防御): 2
MAT(魔攻):10
MDF(魔防):10
AGI(敏捷): 3
パッシブスキル:[痛覚軽減Lv1]
スキル:[ステータス閲覧]
[念動力Lv1]
称号:[転生者][クレーマー]
補正:[MAT+ 5%]
[取得経験値+50%]
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へ、へぇ…[クレーマー]ねぇ…ってオイ
『ゴネたのは事実ですし、あなたの行動の結果がこうして称号として記録されていくのです。称号に嘘はつけませんよ』
へいへいわかりましたよー、へいへい
『拗ねるほどでも無いでしょうけど』
ていうかATKとDEFとAGIが低すぎる!序盤では結構重要なステータスなんだけど!?
『そこは…まぁ、ぬいぐるみですし』
言われてみればそうか。竜型とはいえただのぬいぐるみだし、物理関係には期待持てないか…
ひとまずスキル欄に[念動力Lv1]がある事だし体浮かして飛んでみよう。
俺は念動力を使って浮かぶイメージを捻り出すが、いつまで経ってもウンともスンとも言わない。
そこにアイツの補足が入ってくる。
『ちなみに念動力のレベルに比例して、持ち上げられる重量が決まっています』
それを先に言ってくれよ!今のレベルで体が浮かないとなると…後はアレか。
念動力を俺の両脚に集中させ直立するイメージを流し込むと、俺の脚は大地を踏みしめすっくと立ち上がった。ただ、それ以外には力が入ってないので上体はブラブラである。
予想通り、歩き出すと上体が完全に後ろに倒れてズルズルと引きずってしまう。
コレではいけないので今度は両手足の先端に意識を集中させ、ブリッジの状態で進んでみる。おお、結構安定するぞコレ。
【称号:ホラー人形を入手しました】
なんか称号が手に入ったが、気にせず野原を進んでいく。
『うわぁ…』
傍から見ればかなり気色悪いであろうが、動けないよりはマシな筈だ。
『オギノさんはこれからどうする予定ですか?』
とりあえず俺を捨てて踏みまくったアンジーをタコ殴りにする。女性相手にどうとか、そんな野暮なことはどうでもいい!
『では、お気をつけて』
おう、一発(以上)ぶん殴ってすっきりしてくるわ。っと、その前に。
『何でしょう?』
荻野ってのは前世の名前な訳だしさ、今回新しい名を名乗ってみようと思う。
『なるほど、名前は決まっているのですか?』
しばらく考えてたんだが、アルフレッドに決めた。
『アルフレッド、ですか。まぁ本人がそれでいいのなら止めませんよ』
俺は個人的にこの語感が好きだからコレでいい。ひとまず、俺の名はアルフレッドだ!
『長いのでアルで通しておきますね』
…それ位なら良しとするか。
話は戻るが、今いる平原から俺が居た家までは結構な距離がある。[念動力]で行くにしても徒歩になるし、それを使うにもMPを若干消費する。1分毎に1消費するので10分位したら念動力の出力が落ちて、動けなくなってしまう。
幸いMPは何もしなければ2分毎に1回復するので、20分ほど休憩を挟めば何とか移動も再開出来る。
ていうかもしMP回復が割合回復じゃなかったらこれから先が物凄くしんどくなりそうだ。ここは切に祈っておこう。
そうこうするうちにやっと俺は家の前までたどり着いた。それと同時に、バケツを持ったアンジーが玄関のドアを蹴った。
「やっと見つけたぞアンジーてめぇ!ぶん殴ってやるから覚悟しやがれ!」という意思を込め、俺は[念動力]で体内のある器官を強く圧迫した。
「プピー!!」
「アイェェェェェェエエ!?ウゴイテルナンデ!?」
混乱しているアンジーの足元に少ないMPを注ぎ込んで駆け寄り、連打を浴びせる!
「…って何コレ…全然痛くないんだけど」
殴った反動で俺の中の鳴き袋がプピプピ鳴るだけで、全然ダメージが入っていない。
やばい、[念動力]のレベルって上がらないの?
『敵を倒してレベル上げて、進化しないと[念動力]のレベルは上がりませんよ?』
完っ全に詰んでるじゃねーか!!どうにかならないのか!?
『何でも他人に頼るのはよろしくないと思います、自分の力でどうにか打開してみてください』
詰 ん だ 。
「なんか怖いし燃やしといた方がいいわね。[ファイア]っ!」
アンジーの手のひらから小型の火の玉が俺の顔面にぶつかり、俺の頭は激しく燃え出した!
やべぇ、あついあつい!
【称号:燃えるゴミを入手しました】
なんて称号くれてんだよチクショー!てかあっつい!
地面に放り出された俺はよたよたとあてもなく走り回り、藁の山にぶつかる。た、確か火を消すには砂が効果的だったはずだ、昔通ってた工業高校でそういうの聞いたぞ。
でも近くに砂は無いので、代用として畑の土で山を作ってそこに頭を埋めると、少しずつ火の勢いは弱まり少し経つと火は消し止められた。ふぃー、セーフ!
一息ついて後ろを振り返ると、そこにはごうごうと燃え盛る家が…
【称号:放火犯を入手しました】
【スタッフド・ドラゴンのレベルが2になりました】
【スタッフド・ドラゴンのレベルが3になりました】
【スタッフド・ドラゴンのレベルが4になりました】
【スタッフド・ドラゴンのレベルが5になりました】
【スタッフド・ドラゴンからドラグドールへの進化が可能になりました】
【称号:害虫駆除業者を入手しました】
マジか。てか放火犯とか不名誉すぎ。害虫駆除業者の称号って事は…アレか、家の中にいた害虫全員火刑に処しちゃった訳だな。
アンジーは呆然と立ちすくんでいたが、その隣で買い物から帰ったであろう母親も膝から崩れ落ちていた。
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スタッフド・ドラゴン【ランクG】 Lv5/5
名前:アルフレッド
状態:通常
HP: 6/18
MP: 5/28(+1)
ATK: 6
DEF: 6
MAT:18
MDF:18
AGI: 7
パッシブスキル:[痛覚軽減Lv1]
スキル:[ステータス閲覧]
[念動力Lv1]
称号:[転生者][クレーマー]*[ホラー人形]*[燃えるゴミ]*[放火犯]*[害虫駆除業者]
補正:[ MP+ 5%]↑ [MAT+ 5%]
[火攻撃+50%]↑ [火耐性-10%]↓ [闇攻撃+10%]↑
[対虫系+10%]↑
[取得経験値+50%]
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称号詳細――
[転生者]:異世界から転生してきた者(物)のために、今後の生活をサポート致します。[経験値+50%]
[クレーマー]:ゴネてゴネて相手を押し切った者、やはり発言力が強いと魔法も多少強くなります。言霊に近いものですね。[MAT+5%]
[ホラー人形]:奇怪な体勢で移動する気持ち悪い人形。ホラー要素って大体魔力的なものが絡みますよね?[MP+5%][闇攻撃+10%]
[燃えるゴミ]:火曜と金曜は燃えるゴミの日です!燃えないなら燃えないゴミの日に出してくださいね?[火耐性-10%]
[放火犯]:民家に火をつけるなんて度胸ありますねぇ。そう簡単に出来る事ではないので補正は多めにしておきましょうか。[火攻撃+50%]
[害虫駆除業者]:短時間で夥しい量の虫を倒した者に贈られます。それにしても家ごと焼くなんてダイナミックにも程があります![対虫系+10%]