第10話:調子に乗るとその分のしわ寄せが怖い
第10話:調子に乗るとその分のしわ寄せが怖い
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今はもう静まり返った宴会場で、リザードマン達にまぎれて一人の女性が眠っている。一匹の大蛇が彼女を見つけると尾で肩をべしべしと叩いた。
「ん、むぅ」
「ローズさんですか?ローズさんですよね…?」
小声で囁き続けると、ローズはゆっくりと起き上がった。寝起きを叩き起こされて少し不機嫌そうな目をしている。
「一体どうしたのさ、こんな夜中に」
「あ、あの…あなたがローズさんですか?」
「そうだけどさ、あんた誰?」
「実はアルさんにあなたを起こしてくるように頼まれました。魔物の群れがこの集落を襲おうとしているので」
「はぁあぁぁぁ…」
ローズはこれでもかという位の大きなため息をつき、ぼりぼりと頭を掻く。
「ったく、なんでアルはこうホイホイと面倒事を運んでくるかなぁ」
「協力して頂きたいんですけど、よろしいでしょうか?」
「そもそもここまでされて断るのもおかしな話でしょ」
すぐに立ち上がり、ローズは会場を後にする。彼女の後を大蛇もせっせと付いていった。
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「――というわけでした」
アルから説明(という名の釈明)を受けたローズは再び大きなため息を漏らす。
「ったく、いきなり燃えて登場したかと思ったらそんな事がねぇ」
「んで、大蛇ちゃん。[水魔法]ってなにか使える?」
「あ、はい。私の種族であるスワンプバイパーなら全員[水魔法]は覚えてますよ」
「なら俺に乗ってくれ!是非とも消火係が必要なんだ」
大蛇ちゃんはこくこくと頷き、俺の後脚からするすると上っていく。
「ローズにも、この集落に防衛線張って欲しいんだ」
「仕方ないわね、ここは任せて頂戴」
「うん、助かる」
俺はそのままさっきと同様に敵の掃討にかかった。
【トロイドラゴンのレベルが7になりました】
【トロイドラゴンのレベルが8になりました】
【トロイドラゴンのレベルが9になりました】
【トロイドラゴンのレベルが10になりました】
「うっしゃぁ!どんどんおかわりかかってこんかい!」
もう自分でも何言ってるか分らないくらいにテンションが上がっている。そりゃあ、ここまで楽して経験値稼いでたら地道に戦うのが馬鹿らしくなってしまうな。
集落を囲んでいる敵も始めと比べて7割くらいに減っている。
「これならローズの出番は無くても――」
そこまで言いかけた所で、いきなり何かが俺の胴体に突き刺さった!
「ぐぅっ!がぁ、痛い…!」
炎で出来た槍のようなものが、俺の胴体を貫通していた。[痛覚軽減]スキルすら吹っ飛ばす激痛が俺を襲う。
「あ、[アクア]!」
すぐに大蛇ちゃんが消火してくれたけど、ダメージ量が半端無い。折角回復してきてたのに、残っていたHPの半分…250以上持っていきやがった。
けど、こんな大規模な攻撃は一体どこから来たんだ!?
「アル、あれ見てみろ…」
イフが指した先、大きな影が見える。大きな翼、赤い甲殻、口から漏れる火炎――まさしく、それはドラゴンだった。
「ほ、本物だー!」
「本物の竜なんて聞いてないぞ!」
「わ、私もこんな大物がいるなんて知らなかったです!」
赤竜はブレスを吐くのか、口の中が明るく燃えている。これはガチで危ないパターンだ。
「こんな所でただただ混乱してても格好の的だ。アル、急いで戻れ!」
「だな。ローズと急いで合流しよう!大蛇ちゃんはバリスタで牽制を頼む!」
「え、ええ!」
大蛇ちゃんが放った矢は猛スピードで竜に向かって飛んでいくが、軽くかわされながらも多少は怯ませられた様だった。ノリで大蛇ちゃんに指示出しちゃってたけど、一体どうやって撃ったんだろう?すごく気になる…
ひとまずこの隙に[ロングダッシュ]で距離をとり、辛うじて撒くことが出来た。
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「ローズ!」
慌てて集落に戻った時にはローズの足元に魔法陣が広がっていた。急ごしらえだったからか、家にあったものよりも作りが甘い。
「お、魔法陣!それならローズ、急ぎでなんか召喚してくれ!」
「ああもう、集中してたのにそんな大声出して!もういい、『とりあえずなんか』来て!」
『とりあえずなんか』でやっぱ通じるのか。多分ランダムで呼び出す時はこの単語使うようになってるのかな?
「イチかバチかだけど…さて、どっちになるだろうね」
魔法陣に渦巻いていた魔力が収束すると、中央部から何か出てきた…って、なんか知ってる姿なんだけど?
「ぷぴー」
「プピ?」
「プピィ」
「ぷぴっ!」
プピプピ言いながら出てきたのはドラグドールだった。赤、白、黄、青…いろんな色が揃っているな。それが…えー、どれくらいだ…150体はいるんじゃないかな?
「バチだったー!」
「プピーッ!」
バチ扱いされたドール達は不機嫌そうにプピプピ言ってる。けど今はぬいぐるみの腕でも借りないといけないくらいに状況が悪い。
「とりあえずドール達集合!」
「「プピーッ!」」
トコトコ走りながら、ドール達は素早く15列横隊で集合した。
号令あげたらちゃんと聞いてくれるんだな…だったら彼らには存分に働いてもらおう。
「これから竜と戦いに行く、正直厳しい闘いになるだろうけどここで勝たないと明日は来ない!お前達の力を貸してくれるか?」
「ぷぴぃ~」
「プピ!」
「もちろんですよ~」とか「おう!」とか言ってそうな仕草をしながらドール達は俺に乗り込み始めた。
【称号:軍団長を入手しました】
【称号:一城の主を入手しました】
一城の主か、責任重大だな…個人的にもドール達に愛着はあるし、なるべく死なせたくない。
ドール全員と大蛇ちゃんが乗ったのを確認し、途中の小物は一切気にせず一直線に竜の元に急いだ。
【トロイドラゴンのレベルが11になりました】
【トロイドラゴンのレベルが12になりました】
「そうだ大蛇ちゃん」
「私の事は、テレジアとお呼びください」
「おおう、名前あったんだな。んじゃテレジア、ドール達にバリスタの使い方を説明してくれないか?」
「はい!ではドールさん達はこちらに来て下さい」
「ぷぴー」
俺もテレジアのバリスタ講義を聴きながら念動力で動作させることが試してみると、両腕の4門までなら何とか動かすことが出来た。ていうか撃った直後には既に次の矢が装填されてた。不思議!
てか彼女のバリスタ、歯車に付いてるハンドルを咥えて回して弦を張ってたのね。納得。
「ふん、また来たのか」
うわぁ、あっちの赤竜さんも普通に喋ってる。
「そりゃぁどてっ腹に風穴開けられた借りがあったら返さない訳にはいかないでしょうよ」
「作り物の分際で」
「どうも。けど覚えときな、世の中には本物より価値のある作り物もあるんだぜ!」
「…ほざけ、[フレイムランス]!」
赤竜が詠唱すると彼の周囲に巨大な炎の槍が出現した。俺、コイツに刺されたのか。てか次刺されたら中のドール達も無事じゃ済まないなコレ。
「ドール達は4人一組でバリスタを操作して下さい!」
「5-23番、斉射だ!」
「「ぷぴぃ!」」
カタカタと弦を引く車の音が響き、両腕以外のバリスタから赤竜に向かって沢山の矢が放たれる。
「ぬっ!?」
一瞬反応が遅れた赤竜。だが、遅れたにもかかわらずほとんど手ごたえが無かった。
「プピー!」
ん、そうか。命中は1発だけか…え?今ドールの言ってる事が分ったような?
「プーピー(敵のブレスが来ます!)」
やっぱり、ドールの言ってる事が分ってきてる!ブレスが来るとなると、コイツの出番だな。
「[アイスウォール]!」
ひとまずコレで時間を稼ごう――なんて安直に考えた俺が悪かった。
相手は竜だ。火力の差は歴然なのに、ましてや覚えたての[アイスウォール]なんかで防げる訳が無い。氷の壁は一瞬で溶かされ、そのまま炎は俺達の方へ迫ってくる。
「まずい、全員俺の中に――」
「プピィィィー!(うわぁぁぁー!)」
逃げ遅れたドール達の断末魔が響く。プピプピ音だけでなく、燃えていく彼らの痛みが聞こえる…
「くそっ…!被害は!?」
「ぷぴー、ぷぴぷぴ!(18体、死亡です!)」
「テレジアは消火を、ドール達は俺が修復したバリスタから順次射撃だ!」
「「プピ!(了解!)」」
ドール達がどんどん矢を撃ち出すが、やはり速度に対応されたらどうしようもない。赤竜の身体には一切かすりもせずに矢は彼方に飛んでいってしまう…
「お前、その程度の力で何故ここまで立ち向かう?」
「何故って…」
えーと、集落が襲われるから…ではないな、ドール達の仇…でもない。でも、心当たりはある。
俺は正直、ここまで自分の体が大きくなって、外見も竜に近づいてきたけど…それでもアイツが言った通り、「作り物」なんだよな所詮。
俺は作り物に転生した事を受け入れようとしているけど、本物の赤竜を見た時にそいつに「憧れて」しまったんだろう。いや、憧れと言うよりもこれは…
「ちょっとした、未練って奴だろうな」
今でもアイツみたいな立派な竜になりたかったと心の底では思っている。けど…やっぱりそれでも――
「ならばその未練、我が断ち切ってくれよう!」
赤竜の周囲の魔力の流れが大きく変わった。
「[フレイムランス]!」
奴の周囲に、さっき詠唱したままだった分にさらに炎の槍が2本も追加された!こいつは相当まずいな、コイツを食らったら俺は…!
切羽詰った俺と対峙する赤竜の目は、俺とは対照的に余裕に満ち溢れていた。
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トロイドラゴン【ランクD】 Lv6/24
名前:アルフレッド
状態:積載
HP:248/641(+166)
MP: 98/425(+55)
ATK:195(+60)
DEF:195(+50)
MAT:252(+42)
MDF:325(+65)
AGI:148(+13)
パッシブスキル:[痛覚軽減Lv6][HP自動回復Lv3][ダメージヘイトLv4]
スキル:[ステータス閲覧][発声]
[念動力Lv6][被服補正Lv4][被服吸収Lv4]
[火魔法Lv3][氷魔法Lv3]
[バリスタLv2]
[ロングダッシュLv1]
称号:[転生者][クレーマー][ホラー人形][燃えるゴミ][放火犯][害虫駆除業者][雑巾]
[二束三文の安物][パワードスーツ][人見知り][ミイラ取りのミイラ][対リア充決戦兵器]
[神の依代][空調服][効率重視][叩かれ屋][クラスチェンジャー][怠け者][上司の靴磨き]
[キャンディー工場][ただのカカシ][夜間警備員][ホラーカカシ][固定砲台]
[火炎放射器][高性能カカシ][解体業者][戦車][怪獣][送迎バス][事故車][道路清掃車]
*[軍団長]*[一城の主]
補正:[ HP+45%]↑ [ MP+25%]↑ [ATK+55%]↑ [DEF+45%]↑
[MAT+30%]↑ [MDF+35%]↑ [AGI+20%]↑
[火攻撃+110%] [火耐性-20%] [水攻撃+30%] [水耐性+30%]
[氷攻撃+20%] [氷耐性+30%] [雷攻撃+20%] [雷耐性+20%]
[風攻撃+20%] [風耐性+20%] [土攻撃+25%] [土耐性+20%]
[光攻撃+20%] [光耐性+20%] [闇攻撃+60%] [闇耐性+20%]
[対虫系+10%] [対鳥系+40%] [対獣系+40%] [対構築物系+20%]
[対高Lv系-10%] [対低Lv系+10%]
[取得経験値+60%] [進化必要レベル-20%] [HPMP吸収率+40%]
[遠距離射程+40%]
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称号詳細――
[軍団長]:数多の部下の上に立つ者。常にその采配には責任が伴い、立つ者としての器が試されます[全パラメータ+5%]
[一城の主]:部下達の拠点を管理し、その頂上に君臨する者…というより彼自身が拠点になっているんですけどね。[全パラメータ+5%]




