プロローグ
初投稿になりますが、精一杯やってみようと思いますので、よろしくお願い致します。
プロローグ:
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「悪の怪人め、コレで止めだ!必殺、デラックスキャノン!」
「うおおお!かっけぇ!」
「こうして今日も街の平和は守られたのであった――」
テレビの中の特撮ヒーローに憧れた時代が、俺にもあった。いつか俺もこんなカッコいいヒーローになりたいとコスプレをし、回転椅子からジャンプしてバランスを崩し、床に激突して前歯を折った事もある。
「ついに五所川原投手、夏の甲子園で自身初となるノーヒットノーランを達成しました!今どんなお気持ちですか?」
「すげぇ…俺もこんな主役級の人生送ってみたいなぁ」
「『えー、気が付いたら達成出来ちゃってましたね。今になってびびってますよ――』」
青春の代名詞ともいえる高校野球のエースに憧れた時代が、俺にもあった。いつか俺もこんな主人公のような選手になりたいと、投球練習をして肩を壊した事もある。
「俺は――俺はあんたの事が忘れられなくて…もう、お前を独りになんてさせない!」
「あー、こういうロマンス味わってみたいもんだな」
「ばか…寂しかったんだからね――」
恋愛ドラマの主役のような色恋沙汰に憧れた時代が、俺にもあった。いつか俺もこんな素敵な恋がしたいと、女性の多い職場に就職した途端に変な噂を流されて退職を余儀なくされた事もある。
「あー、もういいや。俺、疲れたわ」
結局、どれほど努力をした所で、結果を伴わなければただの一人相撲なのだ。
自分の、荻野祐一なんてそこまで目立つ訳でなくありふれたものでもない中途半端な名前に、ひどくがっかりした時期もあった。せいぜい、萩野に間違われるのが関の山である。
常に学校でも職場でも誰か一人は万能な奴がいて、そいつが持ってる個性的な名前も相まって皆の話題を独占する。何とかしてそいつを越したいと努力はしたが、先程言ったように結果が付いてこなければ意味は無いのだ。
結局、俺は今まで大した事を何ひとつ成し遂げないまま人生を無駄に過ごしてしまった。
しかし、そんな俺にも転機が訪れる。
「ん?ポスターがこんなに…」
自宅の近所の商店街の壁一面に、何かのチラシが貼ってあった。
「どれどれ――『映画撮影に伴うエキストラ募集のお知らせ』…」
「――これだ!!!」
千載一隅のチャンスとはまさにこの事だった。ここでエキストラ出演に成功すれば、少なくとも映画出演への可能性は見えてくる!そうなれば今までの無駄尽くしだった俺の人生に華がやってくるはずだ!
このチャンスは是が非でもモノにしないといけないという使命感の元、俺はオーディションに駆け込んだ。
「ん、周りを見る限りは…いける気しかしないな」
今までは他のイケてる奴の影に埋もれてしまってはいたけど、運よく今回のオーディションに集まっていた有象無象の中では目立ってくれたらしく、監督はエキストラとしての出演にOKを出してくれた。
苦節22年…そう、思い立ってから年月は経ち、すでに年は28歳になっていた。老いとは哀しいものだな、うん。
そしてついに撮影日、俺達エキストラは『激しく吹き飛ぶ車を見て逃げ惑う市民』の役を全うするために全力で演技する事になった。あっという間にリハーサルが終わり、ついに本番だ。
「いくぞ!3、2、…アクション!」
監督の声と共に、スタントマン操るスポーツカーが強烈なエンジン音と共に発進し、予定されたジャンプ台できりもみしながら派手に吹き飛ぶ!
ここまでは順調、後はいかにして俺の迫真の演技をカメラの前に見せつけ監督の目に留まるかだ。
ところが、吹き飛ぶ車はなぜか俺のいる方向に向けて放物線を描いている。
文字通りに『激しく吹き飛ぶ車を見て逃げ惑う市民』となった俺がちらりと横を見ると、椅子から立ち上がり手をバタバタさせる監督が見えたがすぐに激しい衝突音と共に俺の視界は暗闇に閉ざされた。
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何だか、変な気分だ。視界は相変わらず真っ暗だが、その暗さに不安を覚えない。全身の感覚が無いように思えるが、「暗い」という感覚はちゃんと残っている。
ふと、傍らで若い女性の声が聞こえてきた。どうやら聴覚もしっかり残っているらしい。
「ええと――ハギノさん、聞こえますか?」
ハギノじゃない、オギノだ。
「ではオギノさん、早速ですが次の世界へ転生していただきます」
ちょっと待て、もうちょっと何かしらの前説とかあってもいいんじゃないのか?いくらなんでも唐突過ぎるぞ、どうなってるんだ全く。
「やはり転生とは何なのか説明しろといった感じでしょうか?」
いやそういう意味じゃなくて。こういう展開は昔読んだ小説とかでも似たような状況あったし、ある程度は予想出来てたんだけど…ほぼ開口一番で仕事進めちゃうパターンは俺、経験無いから正直戸惑ってるわけよ。
「と言われましても…事前に色々と話したところで結局はここに辿り着く訳ですし」
なんだけど!なんだけどさぁ…まぁいいや、ここは話すだけ疲れる。細かいことはサラッと流して、早速転生への手続きを頼むよ。
「で、では…次の世界での転生先の種族はいかがいたしますか?」
この選択で先の生活が大きく左右される。下手にしょぼい種族なんて選んでしまった日にはどうなることか容易に想像出来る。やはり慎重に選ばないといけないな。
なーんて思ってると思った?んな訳ないだろ!転生先なんて最初から決まってる。
もちろん竜だ!ドラゴンだ!
何をしてもしなくても、その圧倒的な存在感ならば注目もされるし活躍も出来る筈だしな!という訳で誰か知らないけど神っぽい人、俺は竜に転生するぞ!
「あー、えと…」
すると女性はバツの悪そうな声を出した。嫌な予感。
「実はですね、転生先の種族は生前のカルマで決まるのですが、ハギノさんのカルマは±0なんです。なので正直に言いますが、竜族には転生できません」
プラマイゼロでなんで!?てか俺のカルマプラマイゼロって…
「竜族に限った事ではありませんが、多少カルマが良いか悪いかで転生先の種族は選べるものです。ですがちょうどプラマイゼロになるとほとんど期待は出来ません…」
まぁ、ずっと一人相撲ばっかり取ってきた俺は何かを成した訳じゃないからな。良い意味でも悪い意味でも。てかまたハギノ言ったろ。
「カルマゼロの方ですと転生先はヒューマンかゴーレムになってしまいますが…」
絶対に断る。断じてそんな無個性の塊のような種族にはなりたくない。てか2種類しか無いのなら最初から2択迫れよ!
「ですが先程のように」
どうしてもダメか!?
「ええ、やはり…」
お 願 い し ま す !
脳内で最大限の土下座をかますと、しばらく考え込んだような雰囲気を感じた。
「…わかりました。転生の手続きをいたします。しばらくお待ちください」
うへへ、ゴネ得ぅ。多分今の俺は人生最大級のドヤ顔をしてるんじゃないかな?でも、それくらいにおいしい。
「ではオギノさん、新しい異世界ライフをお楽しみください!」
うっしゃぁやってやる!今度こそ人生…いや、竜生を満喫して、色々やって、目立ちまくってやる!
その直後、俺の意識はぷっつりと途切れたのだった。