第七話 やってやるよ
七柱の女神たちの送った、新たな聖王への試練だ。この龍を倒すこと、追い払うこと。それにより、この世界の全てを守る覚悟があるのか、それを確かめられる。
龍は澄春たちを見下ろし、その大きな体を器用に波のように動かし街の真上に来る。そして、澄春と目線が合うなり咆哮を繰り出した。
「……!!」
「聖王!」「聖王さま!」「聖王様!!」「澄春っ!!」
それぞれが澄春を呼ぶ。途端に、眩い光りが澄春を包んだ。その発光源は澄春の首についている狐の模様が入ったチョーカーだった。
「え、なっ……!」
七匹の魂が、そのチョーカーに入り込む。チョーカーの狐の色が『桃色』に染まった時、澄春の前に草木の盾が現れ咆哮を遮った。
「わっ……わっ!?」
少年は、久々に感じる躍動感に心が踊る。小さい頃、初めて木登りをし街を見渡した時のようなワクワクとドキドキで、止まらない『楽しい』と近しい感情だ。
刀の鞘を払うと同時に、刃が銃剣に変形する。狐の色は『紅』だ。狐の色はそれぞれの狐たちに対応しており、得意としている武器と力を引き出しているようだ。澄春は更に心が跳ね上がる。龍の顔に向かって光りを放ち、銃剣を撃つ。龍は怯み銃弾に気付かず、目を撃ちぬかれた。
次に染まる色は緑。武器は棒の両端に刃がついた「両刃」へと変化する。それを頭上でクルクルと回し龍へとひと振りした。すると、その両刃は熱を帯び緑の円を描いた衝撃波が、龍へと向かって行く。それを龍は度々繰り出した咆哮で消したが、今度は翼の形をした衝撃波が飛んできた。白色で、弧を描くように飛んできたそれを龍は慌てて尾の方で防ぐ。
武器は「薙刀」へと変化しており、それが更に変形すると「大剣」になった。狐の色は黒で、月の力による幻覚を龍に魅せる合間に大剣で「逆鱗」と呼ばれるであろう場所へ突き刺した。
「グァアア!」
龍は怒りに目を赤くさせる。それもお構いなしに、新たな聖王は笑って狐の色を度々桃色にした。武器は「槍」、槍の刃に力を込めて思いっきり龍の鱗に突き刺した。普通は壊れることのない筈の鱗はいとも簡単にこわれ、急所を顕にする。そこに追撃を加えるべく、澄春は武器を「弓」へと変えた。狐は茶色に近い橙色であり弦を引くと火、水、風、土の四つの元素の力が合わさった矢が現れる。それを急所に向けて放つと、龍は悶えた。
次の追撃には狐が藍色へ変色し、武器が「打刀」へと変わる。そして、龍の左目に突き刺すと刀からは靄が現れ、その目を破壊した。
「グォオオオオオォ!!」
この世に存在するもの全てを揺らすのでは、と思えるぐらいに大きな叫びを上げた龍に新たな聖王は飛び込んだ。狐の色が『七色』に染まる。
武器が、虹色の光りを帯びた「太刀」へと変化した。
〝楽しいかもしれない。〟
〝聖王ってのも、悪くないんじゃない?〟
もう、あの時の「恐怖」はない。今は「期待」と「愉快感」のみが、胸の底から込み上げて来ている。
「……聖王、やってやるよ! 女神様ァッ!!」
色鮮やかな閃光が、龍を包んだ――……。