第六話 迷いを振りきって
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ワタシは美と愛を司る女神、マーリアスさまの巫女よ! どう?凄いでしょ! ……え、別に? って?ちょ、ちょっとそんな冷たいこと言わないでよ!
ワタシたちは平和にのんびりと首都で巫女をしているわ。最近、村が一つ焼かれたって聞いたけど大丈夫なのかしら。
……ていうか、聖王さまだいぶ弱って来てるみたいじゃない? 私たちが次に聖王さまに従うのよね。……にしたって、代々オジサンの聖王さまだし今回もどうせオジサンなんでしょ……って、ええ!?
若っ!! ていうかカッコいいようで可愛い感じの男子じゃない!! 若い!! やだ、どうしよう緊張してきちゃったじゃないッ!!
……って、笑わないでよ清姉ー!!
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「やーっとついたー!!」
ようやく首都(最初の目的地)についた澄春は、グググッと青空に両腕を伸ばした。
「凄ーい、大きいですー!」
「ここが首都なんだね、僕も初めて来たよ。」
櫁と朱が口を開いた次に、墨と桃も独り言の如くぼやく。
「巫女となった時ここに来たが……相変わらずだな、活気が衰えていない。」
「アタシもこの馬鹿と一緒に二、三回来たわぁ……。」
もちろん馬鹿とは澄春のことである。そして、最後に藍が呟いた。
「……六八九七年ぶりかな……。」
「えっ。」
ツッコミしたそうな朱を置いて、澄春は中へとズンズン入って行く。それに五匹がついていくと、一際大きな建物がドーンと建っている。そこに現聖王がいるわけだが、その人が次期聖王が来ていることを知ることはないだろう。
その建物の前に建っている二つの塔が繋がった寺院。そこにマーリアスとアシーネルの二柱の巫女がいる。澄春は足早にその扉の前まで行くが、どうしても開くことができなかった。
聖王となることへの決心がつかない。そんな複雑な感情が織り交ざる中、澄春を放って桃がガチャリと扉を開けやがった。
「ああああ!! 桃!! 待って、俺の心情を語るナレーションがまだ終わってない!!」
「何メタいこと言ってんのよ。目の前でボーッと釣ったってる方がウザいわよ。」
桃の遠慮ない刺のある声に、澄春はげんなりした。
「やだー! 本当に若ーい!!」
唐突に響く甲高い声に、澄春は肩を揺らす。
「初めまして、わたくしはアシーネルの巫女、清と申しますわ。こちらはマーリアスの巫女、翠。」
上品で物腰が柔らかく、髪が長い白髮に銀色の吊り目が更に高貴さを醸し出す白狐と、ずっとキャーキャー叫んで飛び跳ねている髪が短く緑色で水色の目をした、緑狐の二匹。特に飛び跳ねている方の、たわわに実ったそれが……否、なんでもない。
「嘘ー! こんなに若い聖王だったなんて……信じられないわ!!」
「翠、聖王様の前ですわよ、上品になさい。」
「あ、そ、そうだった……。」
ようやく落ち着いた翠に、澄春は苦笑いを浮かべると巫女の七匹を見渡した。
『テンショウ』の巫女『朱』と『アシーネル』の巫女『清』、『ヘルーア』の巫女『墨』。
『マーリアス』の巫女『翠』に『アラーエ』の巫女『桃』、『サラーエティー』の巫女『櫁』。
そして、絶滅したと信じられていた『ヤーウェリ』の巫女『藍』。
いよいよ、澄春が聖王となる舞台が整った。
「……とうとう、だ。」
独り言のはずなのに、それを嘲笑うかのように空間に声が響く。だが、それを無視して澄春に最初に声をかけたのは、藍だった。
「大丈夫です。前にも言いましたが……私たちがいますよ。」
「藍……そうだね。」
もう、逃げられない――……。
――……ならば、戦う。
そう心に決めた澄春たちを襲ったおぞましい鳴き声。それに従うように、七匹と次期聖王は建物の外へと出る。あれほどに澄み渡っていた空は黒い雷雲で覆われ、これから起こる〝何か〟を吉兆しているようだ。
「……あれは……。」
桃が目を見開き、藍が表情を引き締め、墨が顔をしかめた。朱が複雑そうな顔をし、櫁が恐怖に顔を歪め、翠が睨みつけた。
清が真剣な顔をし、澄春がまっすぐに見つめる先。
そこには、大きな青き龍がいた。