第四話 姉妹のような
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僕たちの母は女神の巫女同士で、崇拝している女神は違えど仲がとても良かった。だから、僕と櫁も姉妹のように仲良しだったんだ。けど、それはつい昨日に起きた『悪夢』によって幸せは全て崩れ去った。
人間の盗賊たちが、僕たちの村を襲ってきたんだ。それは寝静まった夜で、赤ン坊の泣き声も聞こえないほどに不気味な夜で……。急にチカッと何かが光り、疑問に思った僕は、隣で寝ていた妹を起こした。慌てて外にでると他の家は燃やされていて、村の狐は全て殺されていて……血溜まりばかりだった。
僕は櫁の手を引いて神殿へと向かった。お母さんたちはそこにいたけれど、既に息絶え絶えだ。二匹は僕たちに巫女の証を渡すと、息を引き取った。
泣き叫ぶ櫁を連れて出た時、盗賊の一人が僕に気付いて殺しに来た。
その剣が振り上がった途端だった。
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その剣の持ち手を素早く逆刃で叩きつける少年。その影響で腕が動かず、顔をしかめた盗賊に墨が大剣の柄を腹に入れ蹴り飛ばした。
「ありがとう、墨。」
「いや。しかし、お前も中々にやるな。」
「へへっ。」
照れくさそうに笑った澄春が刀を鞘に戻す。そして、腰を抜かした九尾の二匹に向き直った。
「大丈夫? 怪我はない?」
片方の紅狐の子は、髪が短く目が少し丸い。そして、もう片方の茶狐の子は、髪が短いと思ったら下の方にまとめた髪を日本下げている。目は縦に大きく、小柄な所から九尾になりたてのようだ。
「おーい、二人とも~。」
茶狐の子がハッとすると、恐々澄春に両腕を伸ばして……抱きついた。
「へぇっ!?」
「こ、こわ……怖かったです~……。」
小さく消えそうな声に、澄春は悲しそうな顔で藍を見る。藍も目を伏せると、震えをどうにか止めようと頑張っている紅狐の子の肩を持った。
「もう大丈夫だよ……。大丈夫、これからは俺が守ってあげるから。」
涙目で澄春を見上げた櫁に、ニコッと笑いかける。
……それからしばらくして、ようやく落ち着いた紅狐の朱と茶狐の櫁は今までの行程を話した。そして、その過程から全てを聞き終え澄春は一つの憶測を出した。
『聖王が弱っている。』……きっと、それに違いないだろう。そこでようやく、澄春は事の重大さを感じ焦りを覚える。
時間がない。しかし『聖王』という、とてつもなく大きく恐ろしく偉大な立場に尻すぼみしそうになる。そんな澄春の心情を知ってか、藍がそっと澄春の手を握った。本人も知らぬ内に震えていたようで、藍は静かに優しく、それでも情が篭ったような声で言った。
「大丈夫ですよ、私たちがいますから。」
藍の笑顔に、澄春は少し顔を綻ばせた。