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幼き聖王と七匹の巫女  作者: 華月柚青
2/8

第二話 たった一匹の生き残り

~~


 それほどに高くない木々の間をすり抜けて行くこと、既に三週間が経とうとしていた。

「村……ないわね……。」

 がっくしと落胆する桃をよそに、澄春は木に登って小鳥を戯れている。

「本当にあんたは自由気ままね!」

「楽しいよー? 桃も登っておいでよー!」

「お断りよっ。」

 頬を赤くして怒る桃に首を傾げながら、目の前に広がる川を見渡す。

 


だが、その青い目に『異様なもの』が写った。

「なんだろ……アレ……。」

 疑問に思った澄春は、頭に小鳥を載せたまま木から下りてきた。

「桃、こっち!」

「へっ? あ、ま、待ちなさいよ!」

 急に走り出す少年に、桃は呆れ顔をしつつも走ってついていく。少年の行き着いた場所、そこには白い壁の小屋があった。

 不思議なことに、煙突はガラスでできており、小さな窓から見える床は青色のようだ。

(青色の……?)

 少年は導かれるように、その小屋の扉を開けた。動機が着々と早くなり、妙な汗が出そうになる。その気持ちは期待と不安に埋め尽くされていて、跳ね上がるような鼓動に“嬉しい”に近いものが芽生えた気がした。

 少年の前の先にあったものは、少年がいつしか欲しいと望んだモノ。



 ――……藍色の髪と目をした、美しい九尾の娘がそこにはいた。


~~


「なるほど、お二人は白狐と緑狐の村に行こうとしていらっしゃったのですね。」

「はい、そのとおりです……。」

 不法侵入まがいのことをし、桃に殴られた澄春は腫れた頬を涙目で擦りながら答えた。

「どうもすみません、うちのバっカっ! が……。」

 丁寧に頭を下げる桃に対し、(らん)は笑うと合わせて礼をする。

「……ところで……貴方は……。」

「へ、あ、はい!?」

 改めて藍にじっと見られ、ビクッと肩を揺らす澄春。唯一の生き残りであることにも驚いたが、やはりその美しさに澄春は目を奪われる。

 両方のこめかみで髪をそれぞれ二本に結んだ髪は艶を帯び、目は吊っているというのに何処か儚げで可憐な少女だ。

 ぼんやりとした表情のすばるを置き、藍は言葉を続けた。

「貴方は……次期、聖王さまなのですか?」

「あ、はいっ!」

「そうですか……恐れながら、単刀直入に申します。私を連れて行ってくださいませ。」

深々と頭を下げられ、澄春が戸惑う。

「そ、そんな! 唯一の生き残りなんですし……。」

「……私は、長年独りぼっちでした。だから、ここでお会いできたのも何かのご縁でありましょう。」

「でもっ……。」

「お願いします……もう、独りは嫌なんです……!」

「いいじゃないのよ、澄春。」

 以外にも、あっさりと承諾した桃を見て、澄春は少し困ったような顔をした。

「蒼狐が憑いてる聖王ってのも居なかったわけだし、ちょうどいいんじゃない?」

「う、うーん……そっか、そうだよね……。よし、一緒に行こう!」

 少しだけ楽しそうに笑う澄春に、桃も笑みを浮かべる。

「あ、ありがとうございます! 桃さん、聖王さま!」

 蒼狐の少女は、心底嬉しそうに笑った。

「よーし、それじゃあ早速出発しましょ! 時間もないことだし!」

 気合を入れるように桃が勢いよく立ち上がり、澄春と藍を見る。それに応じる様に、一人と一匹は笑顔を浮かべた。

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