第一話 神話と旅
どうも、華月柚青と申すものです。初めまして。
ちょっと作品を続けたいと思ったので完結作品より一つ。 楽しんでいただければ何よりでございます。
世界は、七柱の女神によって造られた。
太陽、電気、朝昼を司る女神『テンショウ』。知恵、戦い、経済を司る女神『アシーネル』。死、月、夜を司る女神『ヘルーア』。
愛、美、結婚を司る女神『マーリアス』。動物、自然、生命、豊穣を司る女神『アラーエ』。元素、天候の女神『サラーエティー』。
そして、破壊、再生、輪廻を司る女神『ヤーウェリ』。この七柱の女神によりすべてが成り立っていた。神の数ある生命体の中でも人間、妖狐が取り分け力を持っている。暦は月と一年のみであり、正確な年代はわかっていないようだ。
この世界には、男神は存在せず、代わりに人間の男の中から『王』が生まれた。王は人々を統べ、護り、あらゆる願いを叶えてくれる特別な人間『聖王』となる。
聖王となるは、七匹の九尾を使えし人間。だが、新たな聖王が誕生する時、何らかの災厄が訪れる。その時、世界が滅びるやもしれない―……。
「―……って、言うこと。」
ようやく夢の中から『おはよう』をした十六歳の少年、不知火 澄春は寝ぼけ眼で頷いた。
その目は名のように、澄んだ明るい青で髪は暖光灯の光りを受けて輝く白で短い。目元はスッキリし、タレ目でもツリ目でもない、少し女々しい顔が優しい印象を受けさせた。
頬はほんのり赤くなっているにも関わらずほっそりとしている。。
「……もしかして、また寝てたの?」
桃色の髪を持ち、緑の目をした人型の九尾が切っと澄春を睨みつける。長くおろした髪で、両端のこめかみ辺りにある黒い紐リボンが開いた窓から入った風で揺れた。
「ギクッ。ち、違うよっ!」
「口でギクッて言うヤツ初めて見たわよ。本当に貴方、『狐憑き(きつねつき)』としての自覚あるの?」
聖王の別の呼び名である言葉に、澄春は肩を揺らし複雑そうな顔をすると呟いた。
「だって……。俺、元から聖王になんかなる気ないし……。」
「あーら、何か言ったかしら?」
ちょっと苛立ったよう声で桃色の毛をした九尾は、澄春の顔へアイアンクローを決める。
「いだだだだ! いだい! いだい!! ごめんなさい! 桃さま!!」
「フン、分かればいいのよ、分かれば。」
手を放し満足そうに鼻を鳴らす桃狐の九尾、桃は腕を組んだ。
「それじゃ、次にアタシたち狐の色についてのおさらいをするわよ。」
「え~…………分かった、分かったから!」
握り締めた桃の手が開かれ、ようやく澄春は一つ息をついた。
「じゃ、この本の漆拾捌ページを開いて。」
渋々本のページをめくり、言われたところを読む少年。その後に桃の解説が入った。
本の内容はこうだ。
【桃狐 桃色の毛を持った妖狐の種族。自然の女神、アラーエを崇拝している。この種族はすべてが草を操ることができる。】
【茶狐 茶色、橙色の毛を持った妖狐の種族。サラーエティーを崇拝しており、この種族は基本元素となる火、水、風、土を操り天気も知ることができる。】
【紅狐 赤色の毛を持つ妖狐の種族。太陽の女神、テンショウを崇拝している。電気、光りを操ることができる。】
【黒狐 黒色の毛を持ち死、月の女神ヘルーアを崇拝しており、闇を操ることができる。夜目も利き戦いに秀でた者が多い。】
【緑狐 緑の毛を持つ現妖狐の皇族。愛、美の女神マーリアスを崇拝している。美しい狐が多い。感情、熱を操る。】
【白狐 白い毛を持つ妖狐の種族。知恵の女神アシーネルを崇拝している。理知的で冷静な者が多い。空間、重力を操る。】
最後の項目を見た途端、澄春は妙に思うことがあったようだ。
「ねえ桃。これ、六種しかのってないよ?」
「ええ、そうだけど。」
「聖王って、七匹従えてるんじゃないっけ?」
「そうねぇ……でも、その書いてない種族は絶滅してしまってるのよ。」
「え……?」
澄春は首を傾げ桃を見つめるも、キョトンとした顔で見つめ返されれば嘘ではないことが明確だ。
「その種族って……?」
「そうねぇ。えーっと、アタシが千五百歳だった時かしら。約千年前ね。」
結構長生きしている彼女も、九尾の中では結構若い方である。
「緑狐よりも、もっともーっと綺麗な蒼狐っていう種族がいたのよ。」
「蒼狐……。」
「ええ。全ての妖狐の力が扱えて、破壊の女神であるヤーウェリを崇拝していたわ。でも…皆、妙な伝染病で死んでしまったの。」
「……そうなんだ……。」
「だから、代々の聖王は同じ種の狐を二匹連れていたわね。」
澄春は、自身の首にチョーカーとしてつけている聖王の証を握りながら、ポツリと呟いた。
「会ってみたいな……。」
「馬鹿ねぇ、全滅してるって確認されてるんだから会えるわけないでしょ。それより、明日の準備をしてきなさいよ。」
そう、澄春が聖王として旅に出る日だ。明日を境に、各地に散らばって生息している七柱の女神を見つけなければならない。しかし、蒼狐は滅んでしまっているため、現皇族である緑狐を二匹従えることとなる。
このように急に巫女たちを探さねばならないのも、現聖王が病に倒れてしまったからだ。澄春も小さい頃に一度会ったが、心優しい老人でありとても可愛がってくれていたのを思い出す。そのご老人も既に百三十は生きており、幼い澄春からしても、もう長くないことは分かる程であった。
現聖王の様態を考えつつも、澄春と桃の一人と一匹は先に緑狐と白狐の共存する大きな街を目指すことを決めた。巫女を探す方法としては、『巫女の証』と呼ばれる女神を崇拝する証明があり、それを体の一部に身につけているので中々に分かりやすいのだ。
「ある程度の着替えと下着と、ノートと筆記用具……ここらヘンかな。」
「そうね。それじゃ、夕飯を食べに行きましょうか。」
「夕張を生やしに行く? メロンでも作るの?」
「ぶつわよ。」
「ごめんなさい!」
さてさて、そんな茶番があった日から一週間後。一人と一匹は無事に旅に出たワケだが……。
「迷子だー。」
「どうしましょう……。」
出たあとが無事ではなかったようだ。