阿波で心も浮いてきた
時は3月。桜が咲いている。咲良からも遥からも、年明けに「あけおめ」メールが来て以来、連絡もない。
「あいつら、いい恋してればいいな」なんて思いながら、桜の木の下のカップルを眺めている。
そんな折の、1通のメール。
「先輩、元気ですか?金曜日、急に神戸出張に決まったんですけど、土曜日逢えませんか?ちょっとでも逢えたら、徳島まで行きますよ!でも、ご家族の予定があれば、諦めますから・・・(笑)」
遥からのメールだ。
「元気だよ。遥は?偶然だけど、家族は春休みで実家の山形に帰ってるから、土曜日大丈夫だよ。俺も逢いたかった。俺が神戸まで行こうか?」
すぐにメールを返す。
「逢えるんだ。やったー、嬉しい!私が徳島まで行きますよ。四国は初めてだから。それと、先輩が住んでる街を手をつないで歩いてみたいからっ。」
「じゃあ、楽しみに待ってるね。お気をつけて!」
「お・も・て・な・し、期待してますよ。」
週末はもうすぐ。さて、どうしようか。
土曜日の朝、徳島駅で高速バスを降り立った遥を迎える。
俺「長旅お疲れさん。徳島にようこそ。」
遥の荷物をさりげなく持つ。
遥「お久しぶりです。逢いたかった。」
休日の午前中から、遥は熱い抱擁を交わしてくる。
遥「徳島って、ヤシの木があって南国チックですね。面白い。」
俺「そうだよね。四国は北海道と全然違って、とてもいいところだよ。」
駅前の駐車場でトランクに荷物を積み、車に乗り込む。
俺「で、どっか行きたいところある?かずら橋?うず潮?桜?それとも高知や愛媛まで行く?」
遥「桜はキライです。響きが嫌。天気もいいからゆっくりドライブしたいです。海がいいな。」
俺の車は、西に向かって走り出した。
積もる話もたくさんあり、話題には事欠かない。この居心地の良さ。やっぱり、惹かれ合う2人の間には特別な想いが詰まっている。
俺「恋はどう?芽生えてるか?」
遥「芽生えてたら、また先輩なんかに逢いに来ませんよーだ。」
俺「適当なドライブだからなんも情報ないけど、とりあえずなんか食うか。」
遥「行き当たりばったりで、水曜どうでしょうみたいでなんかいい感じ。」
俺「このゆるい感じでも楽しめる関係がいいよね。お前はやっぱり最高だよ。」
遥「じゃあ、ここで食べよう。「漁師めし」だって。面白そう。」
今治で漁師めしを堪能。
俺「なんか近くに今治城ってお城があるみたいだけど、興味ある?」
遥「せっかくだから行ってみたいです、殿」
俺「お前もその気じゃないか。こっちにもっとよれ。」
遥「とっ、殿。お戯れを・・・」
俺「えーい、何を今さら・・・って危ないわ!事故るわ!」
遥「じゃあ、夜までおあずけね。ウフフっ。」
今治城を観光。
俺「ここまで来たから、しまなみ海道を渡って、広島まで行こうか。で、瀬戸大橋を渡って帰って来よう。」
遥「私、神戸から高速バスで明石海峡大橋を渡ってきたから、今日だけでぜんぶ制覇出来ちゃいますね。凄い。行きましょう!」
俺「海がきれいだね。」
遥「ホント癒される。ありがとう・・・。ねえ、ここなら誰も見てないから、キスして・・・。」
遥が目を瞑り、俺に身体を寄せてくる。
俺「遥。逢いに来てくれてありがとう。大好きだよ。」
土曜日の昼下がり。大自然の下で、熱い抱擁とキスを交わす2人。
遥「やっぱり、離れられないくらい、大好き・・・。」
俺と遥はしまなみ海道を渡り、広島に抜け、岡山から瀬戸大橋を渡り、四国に戻るところだった。
遥「瀬戸大橋、長いですね。真っ直ぐー」
俺「そうだね。でも横風が強くて、車が揺れる~」
遥「揺れる~想い~体じゅう感じて~。先輩、感じてくれてますか?遥の想い。」
俺「感じてるよ。もちろん。でも、今は横風を一番感じてる・・・ちょっと怖い。」
遥「結構な距離を運転させてしまいましたね。夜は、マッサージで癒してあげますから。お楽しみに!」
瀬戸大橋を無事に通過し、香川県から徳島県に戻る。
俺「徳島着いたら、何食べる?鯛とか魚系か、阿波尾鶏系がおススメだけど。」
遥「そうですねー。先輩と一緒なら何でもいいけど・・・今日は阿波尾鶏で!」
俺「了解。ところで、宿は取ったんだっけ?」
遥「宿?取ってないですよ。私を1人にする気ですか?そんなわけないですよね!」
俺「はいはい。お付き合いしますよ。」
空腹もピークになりつつある頃、徳島に到着。 阿波尾鶏を堪能。
遥「美味しいですね。阿波尾鶏。一度見てみたいな~阿波おどりも。」
俺「阿波おどりも凄いよ。本当に感動と興奮。男おどりも女おどりも素晴らしい!」
遥「すぐに約束できる関係ならいいんだけどね・・・」
俺「そうだな・・・」
口数が減り、すだち酒を飲む。
遥「年末に、札幌で咲良さんに逢いましたよ。」
俺「咲良に会ったんだ。元気だった?」
遥「元気でしたよ。私もホント久しぶりに会いました。偶然会って、そのまま遅くまで2人で飲みながら語り合いました。」
俺「偶然会ったんだ。そして遅くまで語り合うなんて、凄いね。何話したの?」
遥「何話したと思います?気になりますか?特別な2人ですもんね。」
俺「別に気にならないよ・・・。お前らだって、よき先輩と後輩だもん、積もる話もあるだろうし。」
遥「私と咲良さんには共通の点があるんですよ。わかりますか?」
俺「なんだろう・・・。難しいな・・・。」
遥「それはね・・・。まだ教えてあげない。もう1軒行きましょう。徳島のお酒が飲めるところでゆっくりと。」
場所を変えて、「すだち」と「なると金時」のお酒を堪能。
遥「で、私と咲良さんの共通点は?わかりましたか?」
俺「共通点ね。どっちも、いい女。」
遥「それは当たり前じゃないですか。心当たりがあるけど、言いにくいですよね。」
俺「心当たりね・・・。」
遥「じゃあ質問を変えます。先輩は優しくて良いところがいっぱいあるんですけど、1つだけ大きな欠点があります。わかりますか?」
俺「なんだろう。欠点はいっぱいあるからさ。」
遥「それはね。私と咲良さん2人に優しくて、それぞれに特別な人って思わせているところ。それって、本当の優しさなんかじゃないの。」
俺「そうなのかもしれないな。」
遥「私はそれに気付いたの。それでも、先輩のことを忘れられなくって、また逢いに来ちゃうの。ダメな女。」
俺「ダメなのは俺の方だよ。俺がダメな男なだけ。」
遥「先輩、本当に悪いと思ってる?お詫びしたい?」
俺「悪いと思ってるよ。お詫びしたい。」
遥「じゃあ、今日は先輩の家に泊めてください。家族の、夫婦の聖域で、私を愛する自信と覚悟ありますか?」
俺「ああ。泊まれよ。それくらいの覚悟はあるよ。半端な気持ちでお前を愛してないから。」
遥「ウフフ。じゃあ、おじゃまします。いっぱい愛してくださいね。」
俺「俺だけじゃなくて、やっぱりお前も相当悪い女なのかもしれないな。」
遥「今頃気がついたんですか?もっと早く気がつけば良かったですね。でも、もう遅いですよ。ウフフ。」