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咲良がさくとき

仕事で鹿児島に行くことになった。人生初の、九州上陸。新幹線「さくら」に乗っての長旅。

新幹線で時間を持て余した俺は、咲良にLINEを送る。

俺「今、新幹線さくらに乗って、鹿児島に向かってるよ。人生初の九州。」

咲良「えっ、私も新幹線で鹿児島に向かってるところ。今、博多を過ぎたあたり。」

俺「ホント、同じ新幹線じゃん。ミラクル!」

偶然にも咲良と鹿児島で再会なんて、運命を感じる。


夕方遅くに鹿児島に到着。

俺「何食べたい?」

咲良「行きたいところがあるんだけど、一人じゃ怖くてどうしようかと思ってたの。いい?」

二人が向かったのは「かごっま屋台村」。鹿児島の旬の食材と郷土料理を味わえる小さな屋台が並ぶ。俺と咲良はカウンターに並び座る。

俺「何飲む?」

咲良「貴方と同じのがいい。」

俺「鹿児島に来たんだから、俺は芋焼酎飲まないとね。寒いからお湯割りで。一緒で大丈夫?」

咲良「ちょっと酔いそうだけど、せっかくだから私もいただく。貴方がいるから酔っても大丈夫だもんね。」

芋焼酎で乾杯。きびなご、黒豚なんこつ煮、さつま揚げを堪能。 咲良の顔が紅く染まる。

咲良「いつもFacebookで見てるけど、あたたかい家庭を築いて幸せそうね。」

俺「まあね、幸せだよ。咲良は?」

咲良「ほんとはもっと幸せになるはずだったんだけどね・・・」

俺「でも、今でも咲良は輝いてる。いい女だよ。」

咲良「私も、貴方と結婚すれば私も幸せになれたのかな。」

俺「そうかもしれないけどさ。俺よりも、元旦那が良くて選んだんだろ(笑)。」

咲良「そうだけどさ・・・あの頃に戻りたいって思う時もあるよ。」


芋焼酎が身体に染み入り、夜も更けていく。

俺「ちょっと歩こうか?」

夜風に当たりながら、甲突川沿いを歩く2人。自然と手をつないで、寄り添い合う。

俺「歴史、時間の流れを感じさせる町並みだね。昼間に歩けば楽しめそう。」

咲良「でも、貴方はもう結婚してしまったから、昼間に堂々と手をつないで歩くことなんて出来ない。時間の流れを感じてしまうわ。」

俺「いろんな経験があったから、今咲良は輝いてるんだよ。これから素敵な人との出会い、そして幸せが待ってるはず。」

咲良「そうだといいな。でも、今日だけは未来じゃなくて、幸せだった過去にすがりたい・・・」

俺「咲良らしくもないな。ちょっと飲み過ぎたか?」


鹿児島も、まだ3月は夜風が冷たい。

俺「せっかく芋焼酎で暖まったのに、身体が冷えちゃったね。コーヒーでも飲んで帰ろうか?それとも鹿児島ラーメンでも食うか?」

咲良「身体よりも、心の方が冷えちゃった。今日だけはあの頃に戻りたい。独りにしないで。貴方の優しさで、私のさくらを咲かせて欲しいの。」

止まったはずの時計の針が、15年ぶりに動き出した。



翌朝、目覚めると隣には咲良の寝顔。あの頃に比べるとお互い歳を取ったなと感じる。微笑ましい。スマホを見ると妻からのLINE。

「おはよう。鹿児島はどう?出張頑張ってね。子供達もお土産楽しみにしてるよ~」

現実が待ち受ける。咲良の寝顔をもう一度見る。可愛い寝顔。咲良は天使なのか、それとも悪魔なのか。

咲良「おはよう。起きてたの?早いね。」

俺「さっき起きたところだよ。」

咲良「もうわがまま言わないから。ゴメンね。でも、ありがとう。」

俺は何も言わずに彼女を抱きしめ、口づけを交わす。動き出した時計の針は、もう止まらない。


帰りの新幹線の約束をして、俺は彼女のホテルを出た。自分のホテルに戻り、シャワーを浴びて着替える。妻にLINE。

「鹿児島の夜は芋焼酎が美味しかったよ。今日、帰るけど遅くなるから先に寝ててね。お土産、任せとけ。」


鹿児島での仕事を終え、鹿児島中央駅に15時に待ち合わせ。2人、咲良と新幹線に乗る。

咲良「昔は、2人で旅行したこと思い出すね。懐かしいな。」

俺「そうだけど、過去にすがらないで、未来に向かっていけよ。」

咲良「わかってるよ。でも、貴方よりも幸せにしてくれる人に出会うのって、難しいんだよ。」

俺「新幹線さくらって、良い響きだな・・・。」


鹿児島から岡山まで、3時間ちょっと。いろいろな話で、あっという間に時間が過ぎ去る。名残惜しい。

俺「俺は、岡山で乗り換えだから・・・。元気でな!」

咲良「私も一緒に降りる!」

咲良も新幹線を降りた。途中下車して、岡山駅前でご飯を食べてから帰ることに。

俺「長旅で疲れてるだろ?1杯だけだぞ。」

咲良「大丈夫。もう次はいつ会えるかわからないんだから。ほんとは今日は帰さない!って言いたいところだけど、我慢するからさ。もう少し、一緒にいて。」


瀬戸内海のママカリとタコを味わいながら、最後の時間を過ごす。

俺「そろそろ終電だよ。さて、帰るぞ。」

咲良「・・・うん。」


岡山駅の改札を入る。

咲良「おやすみのチューしてくれないと、帰らない。」

俺「人前だぞ。恥ずかしいだろ。」

咲良「してくれないと、帰らないから。」

天使でもあり、悪魔でもある。柱の陰に隠れて、軽く口づけを交わす。

咲良「そんなんじゃ、全然足りないよ。」

俺「もう・・・わがまま女。」

熱く、長い口づけを交わす。

咲良「ありがとう。私、頑張って幸せになるから。」

俺「ああ、幸せになれよ。」

咲良の目から、一筋の涙がこぼれる。いつか本当の幸せを手にして、咲良がさきますように。そう祈って、もう一度最後の口づけを交わした。口の中に広がる、咲良とのたくさんの思い出と記憶。そして切なさ。頬を伝って流れてきた涙が、少ししょっぱく感じた。


咲良がさきますように。


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