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四月二日

作者: 優希

【秘めた想い】が思ったより評価をくれる人が多かったので、二人に名前をつけて書いてみました。

よろしくお願いします。

「ねぇ、あきらくんが転校しちゃうって本当?」


少女は、その質問に固まった。


「暁が…?」


「うん。何か噂になってたよ。幼馴染のすずなら知ってるかと思ったんだけど」


「…知らない」


鈴は、廊下で友達とふざけ合っている暁を見た。

数日前、暁の思い付きで砂場を深くまで掘り、公園のおじいさんに怒られたばかりだ。

巻き添えをくらった鈴は、その日以来、暁と口を利いていない。


「…暁が…転校…」


呟いた鈴に、友達が慌てたように言った。


「でも、ただの噂だから。気にしないで」


「気になんてしてないから!暁なんて、どこへでも勝手に行ったらいいよ!」


思ったよりも大きな声が出た。

教室に響いてしまったようで、クラスメイトの視線が痛い。

廊下を見ると、暁もこちらを見ていた。


「何だよ、鈴。俺がどこに行くって?」


いつもの調子で聞く暁に、鈴は顔を背けた。


「…何でもない」




放課後の教室に一人、鈴は残っていた。

日誌を書く手が止まる。


「暁が…」


転校する。

そう呟きかけて止めた。

幼稚園からずっと隣にいた暁が、いなくなる。

考えただけで、涙が溢れた。

大粒の涙が次々と机に零れ落ちる。

そんなの…


「…嫌だ…」


「おいおい、酷いな」


鈴の頭に手が乗った。

その手の主は知っている。

鈴の涙がさらに零れた。

涙で声が震えないように、声を押し殺す。


「…いつから、そこにいたの…暁」


「さっき。気配消して後ろから驚かそうとしたら、お前が急に泣き出したんだよ」


「…酷いって何が」


「暁が嫌だ、とか言われたら、酷い以外に何て言えばいいんだよ」


押し殺した声が、さらに小さくなる。


「……ってなに…」


「何?聞こえねぇよ」


鈴は勢いよく立ち上がり、暁の胸ぐらを掴んだ。


「転校って何!?」


椅子の倒れる音が、静かな教室に響く。

暁の顔を見ることが出来ず、鈴は俯いたまま怒鳴った。


「転校するなんて私聞いてないっ!なんで…っ何でそんな大事なこと教えてくれないの!?」


「はぁっ!?転校!?俺が!?誰がそんなこと言ったんだよ!」


「噂で聞いたって友達が!」


「噂ぁ?」


暁は、うーん、と悩み、思い出したように手を打った。


「あー、あれのせいだ。あれ」


「…あれって何よ」


涙の止まった鈴が睨みあげると、暁は黒板のほうを指差した。

鈴は黒板を振り返る。

縦書きで、『四月二日 日直 萩原はぎわら氷見ひみ』と書いてある。


「氷見って…今日の日直あんただったの!?仕事全部私に押し付けて…」


「そっちじゃねぇ!日付のほうだよ!」


「四月二日?それがどうしたのよ?」


「エイプリルフール!」


「…は?」


鈴は呆れた顔をした。


「…エイプリルフールは四月一日でしょ」


「だから、エイプリルフールのせいだって」


「何、言ってるの?」


「昨日、転校するって嘘ついたんだよ。エイプリルフールだったから」


「…はぁ?」


胸ぐらを掴んだ手に、力をこめる鈴。


「じゃあ、転校はしないってこと?」


「しない」


「…はぁ」


深いため息をついて、鈴はその場にしゃがみ込んだ。


「…本当っぽい嘘つかないでよ」


「イベントは楽しみたいんだよ」


「知るか馬鹿…」


「それよりさ」


暁は鈴と目線を合わせて、問いかけた。


「俺が転校すること、泣くほど嫌か?」


真っ向から睨みつけた鈴は、拗ねたように答える。


「嫌に決まってるでしょ。あんたがいないと楽しくないんだから」


その答えに、暁は嬉しそうに笑った。


「そうか。そうだな」


暁は立ち上がって、鈴に手を差し出した。

鈴はその手を掴んで、立ち上がる。


「俺も、鈴がいないと楽しくない」


「…当然でしょ」


不愛想に応えた鈴は、倒れた椅子を元の位置に戻した。


「早く帰ろうぜー」


「あんたが日誌を私に丸投げするから、こんな時間になったのよ」


「ごめんって。あ、今度の日曜、暇?」


「暇だけど…。また穴でも掘るの?」


「いや、映画とかさ。どうかなって」


「……」


目を逸らした暁の真意を探るように、鈴はジッと暁を見つめた。


「ご機嫌取り?」


「…当たり」


「最低」


鞄を持った二人は、教室の鍵を閉めて、並んで廊下を歩く。


「待ち合わせ、何時にする?」


「十時くらいにしようぜ。昼はおごる」


「じゃあ、なるべく高級なところにしよう」


「えっ…」


「冗談だから。不安そうな顔しすぎ」


笑い合う二人は、同じことを考えていた。

『エイプリルフールは良いものだな』

隣を歩く想い人と手が繋げる日は、二人が思うより近い…かもしれない。


(完)


ありがとうございました。

四月一日に友達と遊んだあとの帰り道で考えた話です。

エイプリルフールだったので、「引っ越す」とか「好き。嘘。大好き」とか「実は宇宙人だ」とか「私の血は青い。嘘。本当は緑色」とか、ありきたりなネタは全てやって遊びました。

そのせいで、青信号を三回くらい逃してしまいましたが…。

普段はクールですが、何だかんだとノリの良い友達が、私は大好きです。


感想とかもらえたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] あたたかいお話ですね。暁、鈴、がんばれー!
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