1-7 食堂にて
セレナの抱える問題が浮上。
「かんぱ~い!」
「乾杯です」
街に戻ってきたユーマたちは、ユニオンで依頼の報酬を受け取ると今後の話し合いを兼ねて昼食をとりに一軒の食堂に来ていた。
「いや~、セレナって本当強いよね。この調子だと、すぐにランクもあがるんじゃないか?」
「そうでしょうか? 前にテストで同行したクランからは、無理だと言われましたが」
ユーマの称賛の声に、首を傾げるセレナ。ユーマからすれば、討伐対象の探索や戦闘時の連携こそ拙かったがそれは追々身についていくことであるし、最底辺のランクであるFから一般的な冒険者のランクであるDランクまでは簡単にランクアップ出来るように思える。
「そのクランの人たちは何で無理だって言ってたんだ?」
「それが、私は集中しすぎだと」
その言葉に首を傾げるユーマ。セレナは構わず、以前言われたことを思い出しながらユーマに伝える。
「騎士団に居たときは言われなかったのですが、私は戦闘となると目の前の敵に集中しすぎてしまうようなんです」
その言葉にセレナがユーマの言葉に反応せず、一人で魔獣に突撃していったことを思い出す。その時は声を出す余裕がなかったのだろうと思っていたが、実際は聞いていなかったのだと発覚する。
「騎士団で連携訓練を受けていた時はそうでもなかったのですが、実戦になると敵以外が見え難くなるというか。騎士団での討伐訓練時は、事前に情報を得た上で追い込んだ魔獣を討伐するだけでしたし、一撃で切り捨てていたので問題はなかったのですが……」
「あ~」
セレナの言葉に何と反応すればいいのかと悩むユーマ。セレナの問題は分かっている。集中すること事態はいいのだが、それが敵にだけ向けられているのが問題なのである。普段、人間は周囲の情報を自然と取捨選択している。味方が何処にいるか、敵が潜んでいないか、木などの自然物がどこにあるかなどの情報を総合的に判断して行動に移しているのである。これらは、不意打ちを避ける為であり、味方と連携する為でもあり、自分が不利にならないようにする為でもある。セレナの場合、その情報を敵に関するもの以外、不要と捨てているのである。敵と自分だけが存在し、敵を切り捨てることで完結する。なまじ戦闘力が高い為に問題が表面化していなかったようだが、これでは連携など出来ないし、一人で討伐に向かっても囲まれた場合、不意打ちを食らう可能性が高い。
この情報の選択と言うのは、ある程度は自然と出来るのだが、戦闘で活かすには訓練して慣れていかなければならないものである。つまり、経験がものをいう。セレナはその経験が全くない所か、マイナスからのスタートである。これでは、冒険者として経験を積む前に、不覚を取る可能性が高く、クランで経験を積もうにも連携が全く出来ないのでは他のメンバーが危険に晒される可能性が出てくる為、それも難しい。その為、セレナはクラン入りを断られていたのである。
「やはり、私がクランに入るのは無理でしょうか」
無意識に額を抑えていたユーマに、セレナが問い掛ける。その表情は、先ほどと変わらないが、その声は不安に震えていた。
「いや、幸いというか、このクランはオレとセレナの二人だ」
「はい」
「つまり、他のクランのように役割分担が出来ているところに、セレナが入るわけじゃない。それに、セレナが気にするのオレだけでいい。二人でフォローしながら、訓練していけばその問題は大丈夫だと思う」
「では、このままクランを続けても?」
「ああ、それは問題ない。問題があるとすれば、当分は訓練がてら依頼をこなすから、すぐにDまでランクアップって訳にはいかないってとこかな。Eランクは数回、依頼こなせばいいからすぐだけど」
「構いません! 宜しくお願いします!」
ユーマの言葉に嬉しそうに返事をしたセレナは、改めて挨拶をするのであった。
その後、運ばれてきた料理に手をつけていたユーマたちの話題は、先ほどユニオンのカウンターでのやり取りについてであった。
「そういえば、魔石がどうのといっていましたが」
「ああ、アレ? ほら、グリーンベアが大きかったでしょ?」
「ええ。大きかったですね。私が知っているのより、ふた回り以上大きかったと思います」
己が仕留めた魔獣について思い出しているセレナに、ユーマが話を続ける。
「その時にオレも同じこと言ってたんだけど……ま、その辺りは追々直していくとして、魔獣からは魔石が取れる。これは知っているよね?」
「勿論です。その魔石が討伐の証ですからね。ユニオンや騎士団に渡すことで、討伐したと証明され報酬などが貰えます」
「そ。でも、あのグリーンベアは体も大きかったけど、魔石も大きかった。普通、グリーンベア程度の魔獣じゃ、魔石に蓄えられている魔力も微々たるものだから、ユニオンとかに二束三文で買ってもらうんだけど」
「ああ、強い魔獣ほど魔石に蓄えられている魔力が大きくて、値段が高いと聞きますね。何でもユニオンはその魔力を抽出して、魔法の品を作っているとか」
セレナの言葉に頷きながら、ユーマは話を続ける。
「そういう噂もあるよね。実際、何に使っているのかは知らないけど、ランクの高い魔獣の魔石はかなり高額で取引されている。魔石のことを、ジュエルというくらいだからね。で、グリーンベアの魔石だけど……普通のと同じだったんだよ、魔力が」
「あの大きさでですか?」
セレナが思い出しているのは、業者に肉を分ける代わりに解体してもらったときに見たこぶし大の魔石であった。緑色をしていたそれは、同じく解体したグレーウルフの灰色の魔石よりも大きく、通常のグリーンベアの三倍はあった筈である。
「そう。ウルフの方は想定通りだったけど、ベアが納得行かなくて粘ったんだけど、ダメだった。それと、興味深い話も聞いたよ」
「話――ですか?」
「そ。何でも、オレらというか、セレナが倒したグリーンベア以外にも大きな個体が増えてきているらしい。そのどれもが、大きな魔石だったらしいけど魔力は普通の個体と変わらないらしい」
その言葉に考え込むセレナ。それに対し、無理もないと思うユーマ。同種族の魔獣であるなら、魔石の大きさ=魔力の多さだというのが、常識なのだから。昔は、体の大きさで魔石の大きさが決まるとされていたが、今では魔石の大きさはその魔獣の年齢だとされている。つまり、魔力は年齢を経た魔獣の方が多く蓄えているというのが、最近の通説なのである。
「では、あのグリーンベアは若い個体だということですか?」
「そういうことになる。今まで、あの魔石の大きさのグリーンベアなら二十年は生きているとされてたそうだ。でも、それはありえない。基本的にグリーンベアは十年くらいの寿命だからね」
「一体なら兎も角、複数体となると……ありえないとは言い切れませんが、遭遇する確立は限りなく低いですね」
「面白い話だろ?」
ユーマの言葉に頷くセレナ。いろいろ考え込んでいるセレナに、食事を終えたユーマが提案する。
「さて、これからなんだが……。互いの戦闘スタイルが分からないと、フォローも出来ないだろう? 正式にクランを組むのなら、尚更知っていた方がいいし。現状では、セレナがフォローに入るよりも、オレがセレナのフォローに入ることが多くなると思う。そこで先にセレナの戦闘スタイルとかを知ろうと思うんだが、どうだろうか?」
「それで構いません。確かに現状では、私がユーマをフォローするのは難しいと思いますから」
「じゃ、早速何処か場所を見つけて……」
「あ、それならまず私の宿に寄ってもらえますか?」
「別に構わないけど……。何か取ってきたいものでも?」
セレナの言葉に、首を傾げるユーマ。これから、戦闘スタイルの話をするのに何か必要なものがあるのだろうかと。そんなユーマに対し、セレナは何でもないことのように告げる。
「はい。今日からユーマと同じ部屋に泊まろうと思いまして」
「は?」
「クランを組んだのですから、寝食を共にするのは当然です」
さ、行きましょうと食堂を後にするセレナを、慌ててユーマは追いかけるのであった。
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