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1-6 グリーンベア討伐 その2

ユーマも戦います。



「あの~、セレナさん?」


「はい。何でしょうか?」


 グリーンベアの死体を避け、セレナに近づいたユーマは残心をといた彼女に恐る恐る話しかける。話しかけられた彼女はと言えば、街にいた時のような無表情であった。先ほどチラッと見えた笑みは気のせいかと思ったユーマは、そのまま話を続ける。


「いや、見事な腕だったよ」


「そうでしょうか。一応、元いた騎士団では見習いには勿体無い腕と評されてはいましたが、お世辞だとばかり」


「いや、本心だと思うよ。それ。でも、それだけの腕を持っていて何で騎士団に残らなかったんだ? あ、話をしたくなければ別にいいんだけど」


 そう言いながら、背後にあるグリーンベアの死体を確認するユーマ。これは解体して持ち帰るにも、量が多いなと思案しているとセレナが騎士団を退団した理由を話す。


「私、冒険者に憧れていたのです。家の方針で15を迎えると同時に騎士団に属することは決まっていたのですが、おじい様が理解ある方で私の自由にすることを許してくださったのです」


「へー、それでこっちで冒険者を?」


 取りあえず血抜きをすることに決めたユーマは、リュックからロープを取り出すと近くの木の枝に投げる。どうやら、木に吊るして血抜きを行うようである。


「はい。ところで、何をやっているのですか?」


「ああ、獲物を処理しようと思ってね。解体するにも血抜きはしないと。セレナが首を切り落としてくれたおかげで、大分抜けてるとは思うけど、っと。よし。セレナ、これをベアの足に結んでくれ。オレは反対側をやるから」


「あ、はい」


 その後、二人で協力して木に吊るすとユーマはナイフを取り出す。


「オレが内臓の処理をしている間に、そこら辺の土を掘ってくれる? 内臓をそこに捨てるから。あと、他の魔獣が来るかもしれないから警戒は怠らないように。いやー、クランだとこういうとき便利だよな。オレはアイテムボックスなんて便利なもの持ってないし」


 アイテムボックス。その名の通り、アイテムを収納するものである。特殊な魔法を用いて生産されており、その生産方法は門外不出である。その大きさは一抱えあるものから、手のひらサイズまで様々であり、どれも共通した機能として見た目の容量の数万~数十万倍もの物質を収容できるのである。また、不思議なことに取り出す際は、念じれば入れたときの状態で取り出せるというのである。

 中級者以上の冒険者には必需品といっても良いのだが、小さなものでも高額であることから一つのクランで一つ所有しているればいい方と言われている。

 無論、今まで一人で活動してきたユーマが所持している訳もなく、こうやって解体しながら持ち帰る部位を取り出しているのである。


「あの」


「ん? もう穴掘れた? もう少し待ってね、まだ内蔵取り出せないんだ。もう少しすれば……「アイテムボックス持ってますが」……何ですと!?」


 思いもよらぬセレナの言葉に振り返るユーマ。セレナが差し出しているのは、先ほどまで彼女が腰から吊るしていた袋。てっきり買出しで頼んだポーションが入っているのだと思っていたが、アイテムボックスも入っていたらしい。


「それ早く言ってよ。アイテムボックスがあるなら、血抜きだけして解体は業者に頼めばいいか。じゃ、袋から出して用意してて」


「いえ、これがアイテムボックスです」


「へ? この袋が?」

 

「はい。袋型アイテムボックスです。お店とかで使っているのは、箱型が主ですが騎士団では袋型を利用してます。私のも、おじい様が用意してくれました」


 ボックスじゃないじゃないかとユーマは内心で突っ込んでいたが、これはユーマの知識が足りていないだけである。セレナの言うように、騎士団では持ち運びやすく柔軟に形を変える(何故か中身には影響がない)袋型の方が重宝されている。また、最初が箱型だけであった為、ボックスと名がついているだけで今では研究が進み袋型、リュック方、ボトル型と多様な形態を持っている。


「そうなんだ……。ま、どうでもいいや。じゃ、血抜きが終わるまで、周囲を警戒しながら休憩しよう……と思ったけど」


「一体……いえ、二体でしょうか」


「そうだね。足音を隠さずに近づいているってことは、オレたちを脅威と思ってないのか、血の匂いが強いから手負いだと思って油断しているかだな。どっちにしろ正面から堂々とってのはありがたいかな」


 ユーマの言葉通り、堂々と姿をあらわす二体。二体は灰色の毛並みをした狼の姿をした魔獣――グレーウルフ――であった。彼らは知能が高く、数十体の群れで行動し最低でも十体一組で狩りを行う習性から、出くわした際の危険度が高い魔獣である。最も、山奥で生活している魔獣である為出くわすことが少なく、人間が襲われることは少ない。


「グレーウルフだ! 奴らは普段は群れで行動するが、ここらで群れの目撃情報はなかった。群れの一員じゃなくて、はぐれの可能性が高い!」


 ユーマが経験から群れではなく、何らかの要因で群れとはぐれたものだとセレナに伝えるが、セレナから返事はない。返事はないが、先ほどの腕を考えると遅れを取るとも考えにくい為、ユーマは目の前の二体を警戒しながら考えを巡らす。


(おかしい。はぐれだとしても、二体ともが堂々と姿を現すなんて。と言うことは……)


「セレナ! そっちの二体は任せる! 大丈夫だよな!」


 やはりセレナからの返事はないが、二体に飛び掛るセレナを見たユーマは後ろ――吊るされたグリーンベア――に振り返る。


「やっぱり!」


 そこには、グリーンベアを狙うもう一体の姿が。獲物を横取りされてなるものかと、ユーマは急いでその一体の前に踊りでる。


「残念。そう簡単に横取りはさせないぞっと」


 どうにか間に合ったユーマが剣を抜き、グレーウルフと相対するとベアに迫っていたウルフは距離を置く。構わず、ユーマはウルフに近寄りウルフの足めがけ水平に剣を振るう。それを高く飛ぶことで交わしたウルフが、そのままユーマめがけて飛び掛ってきたところをユーマは潜り込み下から突き刺す。首を下から貫かれたウルフは二度痙攣した後、ぐったりとして動かなくなるのであった。

 それを確認したユーマは他に仲間がいないか周囲を見渡し、確認する。その後、ウルフから剣を引き抜くと、そのまま首もとを切り血抜きを始める。そこにセレナが歩みより話かける。


「お見事」


「前にはぐれを狩ったことがあったからな。その時はこいつの跳躍力に驚かされたが、分かっていればこんなものだ。そっちこそ二体相手に余裕だったんじゃないか?」


「まぁ、少々素早かったですが、それだけです」


 そのセレナの言葉に呆れた表情を見せるユーマ。グレーウルフ単体の強さはそれほどでもないとは言え、二体を相手に全くの無傷。その上、またもや首を一刀両断となれば相当の腕と誇っても良いはずだからである。

 王都の騎士団は化け物揃いなのかと思ったユーマであったが、これ以上時間を取られないために、ある程度の血抜きが済んだ時点でアイテムボックスに収納し帰路につくことを決めるのであった。

セレナの実力は騎士団でも上位でした。


あと、台詞の行間あけてみました。

どちらが読みやすいですかね。


感想お待ちしています。

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