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1-1 現る

初投稿。


「次の方~」


 閑散とした室内に響く女性の声。声の主は暫くその場で待っていたが、誰も自分のところにこないことを確認すると、大きく伸びをする。


「やっぱこの時間帯は少ないわね~」


 彼女が確認したのは、壁にかけられた時計。それはお昼時をさしている。


「早く交代時間にならないかなぁ。朝食食べ損なったから、早く交代したいわ」


 そう言うと、ぐてっと机に伏せる。普段なら同僚に見咎められる行動だが、今は大半の職員が昼休憩で不在だからこそできるのである。

 そんな彼女に声がかけられる。


「あの~」


「あ、はい! 冒険者統括連盟――ユニオン・アリオス第六支部へようこそ!」




 マニュアル通りの挨拶をしながら身を起こした彼女の視界に飛び込んできたのは、薄茶色のマントに身を包んだ少年。この街では珍しい黒髪黒目、中々に男前な相貌に少々注視してしまう。

 一方、注視されている少年はといえば、持っていた荷物を床に降ろすと改めて受付に座る彼女に話しかける。


「えっと、登録をしたいんですが」


「はい。冒険者登録でしょうか? でしたら、まずこちらの用紙に」


「あ、いえ、その――拠点変更の方です」





 冒険者登録。それは、冒険者統括連盟に冒険者として登録することを指す。

 冒険者統括連盟――通称“ユニオン”――とは依頼者からの依頼をランク付けして報酬と共に掲載したり、冒険者が依頼を達成した場合の報酬の受け渡し、依頼の斡旋、冒険者の管理などを行っている組織である。この組織に登録し冒険者となることで、冒険者としての活動が行えるわけである。

 少年が依頼した拠点変更とは、冒険者の管理にあたる業務である。最も、拠点となるユニオンを記録するだけであり、拠点変更を報告しなくとも別に罰則規定がある訳でもないので登録したユニオンのまま放置している冒険者も珍しくない。

 そんな現状の中、律儀に変更しに来た少年に対し真面目だなと感想を抱きつつ受付嬢は仕事を進めていく。


「拠点変更登録ですか。では、ユニオンタグをお願いします」


「あ、はい」


 少年は首元に手をやると、首から提げていたタグを外す。受付嬢は机の脇に置いてあった端末を操作した後、端末に埋め込まれた球体にタグをかざすように促す。少年がタグをかざすと、端末の下部から紙が出力される。出力された紙を手にした受付嬢は、少年がタグをしまうのを横目に出力内容を確認する。


「え~と、はい。拠点の変更は終わりました。ようこそ、アリオス第六支部へ。ユーマ=ウェヌスさん」


 受付嬢に名前を呼ばれた少年――ユーマ――はその言葉に改めて名乗るのであった。


「あ、はい。ユーマ=ウェヌス、これからお世話になります」






 拠点変更を無事に終えたユーマは、そのまま受付嬢にアリオス第六支部について説明を受ける。最も、ユーマも素人ではない為、依頼を掲示している場所や報酬受取カウンターなどの場所を聞くだけであったが。その後は、受付嬢オススメの食事処や名物など徐々にユニオン内部の説明から街の説明へとシフトしていく。受付嬢からすれば、暇つぶしなのであろうが、この街に着いたばかりのユーマにとっては役に立つ情報ばかりであった。


「で、そこの麺料理が絶品なんですよ。ウェヌスさんもお昼がまだでしたら、是非行ってみてください。本当に美味しいですから!」


「そこまで言われたら、行くしかないですね。しかし、流石はアリオスの第六都市。故郷の第十三都市とは街の規模も名物の多さも段違いですよ」


「そうなんですか? 私はずっとこの街なんであまり多いとは思いませんけど。というか、ウェヌスさんって十三都市出身なんですか?」


「そうですけど……あれ? さっきタグの内容を出力した時に書いてませんでした?」


 不思議そうに首を傾げるユーマ。冒険者登録の際に出身地を記入したが、確認時は出力されないのだろうかと疑問に思っているのである。

 そんなユーマに対し、受付嬢はユニオンタグの出力について説明する。


「タグの出力についてですが、基本的に全てを出力することはありません。今回のような変更確認の際は、変更した内容と名前だけが出力されます。普通の照会の場合は、名前とタグ番号、冒険者登録していればランクもですね。それ以外は公開設定しているものだけを出力します」


 基本的にと受付嬢がつけたのは、全て公開設定にすれば出力が可能だからである。最も、そんな奇特な人物はいないだろうと受付嬢は思っている。


「結局、皆さんほとんどの項目を非公開に設定するので、現在ではデフォルトが非公開になっています。何でも昔、非公開に設定し忘れて乙女の秘密であるスリーサイズや体重が出力されるという悲劇があったそうで」


 それは確かに悲劇だとユーマも同意する。どういう理屈か身長などの成長する項目については、自動更新されるのである。端末で更新してもすぐに現在の数値に更新されるので、詐称も不可能であり、多少の見栄もはれないのである。同年代より()()低身長であることを気にしているユーマとしては、どうにか理屈を解明し変更できるようにしてほしいところである。

 そんな風にユーマの思考が脇に逸れているとは知らず、受付嬢は説明を続ける。


「他にも、ある傭兵がステータスや神々の加護(ゴットピース)を不注意から出力してしまい、対策をとられて呆気なく討ち取られたなんて話もあります。まぁ、そんな訳でウェヌスさんの出身地は出力されませんでした。なので、私は第十三都市出身だとは知らなかった訳です。分かりましたか?」


「あ、はい」


「よろしい。っと、どうやら交代の人も来たようですし、私はこれで失礼しますね」


 そう言うと彼女は瞬く間に去っていく。そんな彼女の様子に余程お腹が空いていたのだなとユーマは一人納得すると、自分も腹を満たすためにと移動を始める。



 彼女が言っていた神々の加護(ゴットピース)――世界を創造したと言われる神々由来の力――について考えないようにしながら。

初投稿です。

最低週一更新を目指しがんばります。

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