影を追いかけて④
なんだかモチベーションが上がらなかったもので・・・。久しぶりの投稿です
atomic runners:02;影を追いかけて④
まず最初に案内されたのは、とても一家族分ではない、だいたい10人ほどは座れるであろう広い食堂があった。しかしここも随分と暗く、「入って!」と案内されたはいいが、電気が付かないのか、はたまた電気を付けようとしないのか、とにかく暗いままで辺りが見えない。なぜか得意げな少女はペラペラとこの屋敷について話しているわけだが、それを聞いている限りでは、本来なら木造のテーブルに木造のイスとレッドカーペットがあり、燭台に照らされおしゃれな空間であるらしいが、こちらの部屋も同様、まるで年単位で掃除をしていないらしく、テーブルやらイスを触ってみたが、家具が朽ち果て、おまけに埃っぽい。
ところで、灯り付けるのに燭台っていつの時代の家だよ、と突っ込みそうになったが、もしそれで変な空気になっても困るので、賢治は言わずにおいた。
「なんでこの家は掃除しねェし灯りもつけねェんだ?」と、少女に質問しても、どうにも返事を返すわけでもなくスルーされる。楽しそうに話す活発な女の子に見えるが、ゲームのコンピュータキャラのような、決められたこと以外は一切何もしないしし返さないような、どうにもそこに意識なるものがないように感じる面もある。
賢治は質問を変える。
「無駄に広いじゃねェかここ。お前の家族は何人いンだ?」
賢治は少女の方を向いて話す。暗いせいで、表情はさっぱり見えない。
「えーっと、お父さんでしょ?あとはお母さん・・・と、メイドが7人。召使いのみんなも、とても私に優しいの!もう家族のように仲が良いの!」
どうやら少女の家系は、随分な金持ちらしかった。仮にそれが本当なら、きっと少女の家族の屋敷である、というのは本当なのだろう。
そして、目の前の少女はきっと満面の笑みを浮かべながら、楽しそうに話しているのだろう。表情は見えずとも、声の調子で分かった。
いつだったか。こんな無邪気に、バカみてェに常日頃からニコニコしているヤツがいた、と、賢治は遠い記憶を思い出すかのように、見えない目の前の少女に三上鈴の姿を重ねていた。
そんなことを考えている間にも、少女は手を引っ張って次の場所へと案内しようとする。
「次はトイレと、あとお泊りするならお風呂場もね。最後に私の部屋へ案内するから、楽しみにしてて!」
「やれやれ・・・」
賢治はため息をつきながらも、少女の後についていくのだった。
数時間が経った。ようやく屋敷内の殆どを案内し終えたらしく、ずっと元気に部屋と家族紹介をしていた少女もさすがに、ふう、と一言漏らす。
「これで案内し終わったかな・・・。どう?素敵でしょ?」
「ああ、バカみてェに広いよな。お前の家族の人数じゃァ有り余るぐらい部屋あるみてェだけどよ」
賢治は聞いた。
「お前の部屋は案内しねェのか」
そう。
この洋館内に入って真っ先に気付いた、異臭の正体が未だに掴めていない。
様々な部屋を紹介してはもらった。風呂場、食堂、来賓用の部屋に書庫、パントリー、トイレ、さらには家族それぞれの部屋までも・・・少女以外の、だが。
もちろん、どこも電気などついていないうえ、窓も少ないためにとても暗い。そのせいでたしかに周囲は視認しづらいが、嗅覚までもが狂うわけではない。
今まで紹介された場所には、最初に感じた異臭・・・、もとい腐乱臭のようなものは一切なかった。部屋から出て廊下を歩くたびに、何となくどこかから異臭はするが、どこなのかが未だにわからない。
他にもまだ部屋はあるのだろうが、家族の部屋を案内されているときに気付いた違和感こそが、少女の部屋のみ案内されていないことだった。
「あ・・・」
少女は思い出したようにつぶやく。
「そうだ・・・お前の部屋はまだじゃねェか?」
賢治は、少女の顔色は見えずとも、声の調子、息のリズムを懸命に感じ取ろうとしていた。何かしら、少女が隠しているのではないかと疑う。
少女の自室のみ故意に案内しなかったのか忘れていたのか、ともかく、尋常じゃない腐乱臭の正体が今まで見つからなかった以上、明らかにその部屋が怪しかった。
すると、少女は口を開いた。
「わかった。案内してあげる」
「・・・・・」
思いのほかすんなりと案内してくれるらしかった。賢治は少し黙る。
そうして、少女の部屋へと向かうのだが、先ほど程のハイテンション加減がみられない。
やがて、「ここだよ」とだけ言われた扉の前に立つ。
他の部屋と何も変わりない、何の変哲もない木造の扉。しかし賢治の中では確信に変わる。
例の腐乱臭は、ここの部屋で間違いなかった。
鼻をひん曲げてくるような強烈な臭いは、賢治の表情を歪めさせる。
「ッ・・・、なんでこんな臭ェんだここだけ・・・」
「?」
思わず口から漏れる。しかし当の少女は何を言っているのか分からないとでも言いたげな表情だった。具体的に言えば、頭の上にハテナが浮かんでいるイメージだ。
賢治はいよいよ呆れる。
「あのなァ、お前。さっきからしらばっくれてンのか知らねェが、メチャクチャじゃねェか?ここ」
少女の頭からは未だにハテナが消えない。
「なっ、失礼じゃない!?だから、どこを見てそんなこと!」
「テンメェ・・・、バカにすンのもいい加減にしろよ」
賢治は少女のワンピースの襟を掴んでグッと引き寄せる。
「えっ!?ちょっと、な・・・なにするのっ!?」
しかし少女は驚き怖がるだけだ。
話にならねェ、と捨てるように叫び、目の前のドアを蹴飛ばして開けた。
床に積もっていた埃たちが一斉に舞い上がり、視界が悪くなる。まるで悪役の登場シーンのような演出だった。
見えはしないが、賢治は開かれたドアの向こうを指さす。
「ほらあンだろ?どーせあるンだろ?そこに死体が。隠してねェでとっとと出せば・・・」
「・・・した、い・・・?」
隣の少女はゲホゲホ言いながら、首を傾げている。
「はァ?なにしらばっくれて・・・」
舞い上がっていた埃が段々薄れてゆき、少女の部屋が露わになってゆくが――――。
「―――あなたは、私と同じ世界は見えているの?」
突如、少女がポツリと漏らした。
それと同時に、強烈な眩暈とだるさに襲われる。
あるいは、魂がすっぽり抜かれるような感覚。
視界がぐらつき、賢治はたまらずその場に膝をついた。
「いきなり・・・っ、どうなってやがる」
そして、舞い上がった埃が晴れた先―――、少女の部屋を見据える。
すると、まるでいきなりシーンが変わったように。
賢治は、石建築の古風な建物の中にいた。
時刻は深夜、誰もが寝静まっている夜中、切り抜かれたようにそこにある窓の外には、かけた月。
立っている位置は廊下のような場所、とても寒い。
ここは、パスカシアコット城。
角を持ち、人と呼ばれざる者たちの、頂点の城。




