影を追いかけて①
atomic runners:02;影を追いかけて①
大陸を真っ二つに分けるように天高くそびえ立つ、銀色の山脈。
そのふもとには、まるで関門の如く建っているモダンな建物がある。
まるで公民館か公共施設じみたように入りやすそうなその建物の入り口に一人、黒い汚れの目立つ白Tシャツと丈にいまいち合っていないオーバーオールを身に着けた女性が立っていた。
腰にはジャラジャラとストラップのように、爆弾やナイフ、拳銃がぶら下がっている。
彼女は上機嫌そうに口笛を吹きながら、何のためらいもなく建物内に入っていく。
建物に入ってすぐ、左手側に受付がある。軍服姿の受付嬢は、オーバーオールの彼女を見るなり眉にしわを寄せた。
「・・・探索だけで、よくもまあそんなに汚れるものですね。歩いて見回る作業だけでしょうに。また寄り道ですか?」
オーバーオールの彼女は受付嬢を見るなり、苦虫を嚙み潰したような表情に変わる。
「ゲッ、今日の受付当番アンタかよ・・・。それと“また”ってのやめろ、毎回じゃないぞ」
「私が受付当番だと何か問題でも?」
「大アリだな」
オーバーオールの彼女は人差し指をクルクル回しながらブツブツ呟いていく。
「まず神経質だな。ここのメンバーの顔なんてジューブン知ってるだろうに、未だにメンバーアカウントを提示しろだの何だのうるせーし。手間なんだわ。それに目付き悪ぃしな!おまけに不愛想ときた。そんなんだから25年生きてもずっと恋なんざ成就しねぇんだよブッハハハハハ!!それとおっぱいは滅びろ」
受付嬢はオーバーオールの奥に眠る二つの山を見つめる。いや、丘を見つめる。
「目も当てられませんね・・・。そんな貧相なものでよくもまあ殿方を引き寄せるものです。・・・あ、もしかして筋肉でしょうか。それに男勝りなその口調に性格・・・もしかして殿方だったりします?」
「アンタとはいっぺんタイマン張らねぇと気が済まねぇな」
煽り耐性ゼロにも程があるオーバーオールの彼女は、「あ、そうだ」と思い出したように呟いた。
受付嬢を他所に、正面の階段をドタドタ五月蠅く音をたてて登って行った。
受付嬢はため息をつく。
「やれやれ・・・、色々と忙しい方ですね」
その静寂は突然に破られた。
荒々しい足取りで階段を登り、ずかずかととある部屋の前まで歩いてくる。
“サラの部屋”と黒ペンで書かれた自動ドアの前で素早く足踏みをした。
少し遅れて、ようやく自動ドアは開いた。
自動ドアの開かれたその先、カーテンの隙間から覗く朝日に照らされ眠る彼を、オーバーオールの彼女―――、もといサラ=パスカシア・コットは乱暴に起こした。
「起きろ賢治ぃ!くっさいところがあるから調査の為にお前を派遣するからな!」
サラの声を聞くなり、モゾモゾとゆっくり起き上がる。
紗村賢治は、乱暴な起こされ方にイライラしていた。
「普通に起こせ年増ァ!それと人を勝手に雑用扱いしてンじゃねェ、いい迷惑だクソが!」
「うるせぇ!育て親からの言うことは素直に聞くもんだぞ賢治ぃ?将来親孝行する分を今使っておくのが賢いやり方だと思わねぇのか!」
「どうせねェ話にするのがオチだろーが年増ァ!」
サラは賢治を無視して話を続ける。
「くさいっつってもあれだ、腐乱臭だなありゃ・・・。面倒そうだし任せるわぁー」
「もう俺が請け負うこと前提かよ。まだオッケーしてねェよアホ」
サラはそのセリフを待ってましたとでも言いたげにニヤリとにやけた。
「場所は“あの”幽霊屋敷だ」
一瞬。
賢治の思考がピシリと止まる。
幽霊屋敷と呼ばれるその建物は、見るからにもう誰も住んでいないような、24時間常に生き物という生き物一匹もいないような、とにかくしんとした気味の悪いスポットとしてトンプソン王国では有名だった。
今までそれ以上の進展した話が何も無かったにも関わらず、今さらになって腐乱臭がするとサラが言っているではないか。
気味の悪さを感じながらも、賢治は首を縦に振っていた。
「・・・請け負った。見てきてやらァ・・・この目でな」
どうも、鈴が攫われた時の一件―――、奇妙な記憶が頭に流れ込んだ時のような奇妙さを感じとったからだった。
今回の一件も、姿を消した鈴へ繋がる何かだと信じて。




